人事部大変革時代に突入!転職エージェントに求められる役割とは

 関西を中心に大手メーカーの転職支援事業を展開する株式会社タイズを取材。メーカー市場の現在や転職エージェントの介在価値、今後の事業展開などについて、代表取締役社長、今井氏に聞いた。

縦・横・斜めの事業拡大戦略

――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

タイズは、メーカー特化型の転職エージェントです。2005年の創業時より、関西を中心に、製造業×大手企業×技術職×CA(キャリアアドバイザー)RA(リクルーティングアドバイザー)両面型に集中した事業展開にこだわり続け、現在は「大手メーカー向け転職エージェントと言えばタイズ」と称されるまでになりました。

――今後もメーカー特化の事業展開を継続される予定でしょうか。

タイズは、関西の大手メーカーのご支援からスタートしましたが、今後は縦・横・斜めの事業拡大を計画しています。縦は、エリアと求人企業の規模 に広がりを持たせる戦略です。実際に、22年は関東、25年は東海に営業所を立ち上げました。エリア展開については、22年にライフメディアプラットフォーム事業を提供する株式会社じげんのグループにジョインしたことがきっかけになりました。また、関東営業所の立ち上げに合わせて、中小企業をカバーするためのSMB(Small and Medium-sized Business/中小企業)ユニットを新設しました。横は、メーカーの他に、ITやコンサルなどの業界もカバーする戦略、斜めは、代表就任後に当社のビジョンを「メーカーの人事部」と定義し直しており、中途採用に限らず、幅広いソリューションを提供する戦略です。

――貴社が進めているM&A(企業合併・買収)は事業拡大に大きく影響しますか。

はい、M&Aによる変化は大きいです。直近では、25年の5月にアルティメイトリソーシズグループ株式会社を子会社にしたことで、事業拡大につながりました。アルティメイトリソーシズグループはコンサルタント業界やメーカーのRPO(採用代行)事業からスタートした会社で、顧客の採用戦略への伴走支援が強みです。これは我々の斜めの戦略である「メーカーの人事部」になるための一つの事業展開です。今後は、HR Tech領域にも注力したいと考えています。

エリア拡大については、0→1の進出だけではなく、M&Aによる進出も検討しています。 拠点を持たないエリアへの事業拡大は、地域のお客様とコミュニケーションが取れている地場企業と協業することで双方の成長加速を作れると考えています。自社で10年単位の時間をかけて事業を構築するよりも、すでに構築した他社と協業し、当社の強みと掛け合わせて事業展開したほうが、お互いにスピード感を持って成長できると思います。

――「アナログマッチング®」という言葉を商標登録されたそうですね。

はい。求人票に記す条件には無い、個々人にマッチした会社を見つけることを「アナログマッチング®」と定義し、実践しています。求人企業のビジョン達成や事業成長につながっていくか? 求職者の仕事および生活が豊かになるか? を重要な要素とし、中長期的に活躍できるか否かを基準に、アナログ情報を活用して求職者が5年後、10年後も活躍してもらうマッチングに努めています。この定性情報はデータでは分かりにくい部分ですので、アナログ情報の取得については全社員が意識して営業に努めています。

また、アナログ情報は秘伝のタレのように次々と注ぎ足していくことが大事です。アナログ情報を取得しつづける大切さをメンバーに意識してもらう取り組みの一つとして、法人へのアポイント数を重要KPIに設定しています。人事部長に何回会えたかなど、アナログ情報を得るための動きをどれだけ実行したかを評価基準にしています。これからWEB上にある情報はすべてAIで簡単に誰でも取得可能で、AIで得た情報では差別化になりませんし、情報収集やマッチングではコンサルタントの介在価値はありません。AIでは手に入れられないアナログ情報をいかに集め、使いこなしているかがこれからの人材紹介会社には特に強く求められます。ただし、そもそも元から求人企業や求職者が得られない情報を元にベストマッチングをすることが人材紹介であるので、本質的には変化はないのかなと考えています。

労働力不足とAIの台頭は人事部の役割を大きく変える

――メーカーの市況感について、お考えをお聞かせください。

一部の業界で局所的な低迷はあるものの、メーカー全体の平均的な市況感は、10~20年のロングスパンでみれば悪くないと思います。メーカーの多くが輸出企業ですので、円安の影響で売上利益は好調です。AIの台頭により、データセンター事業やAI向け半導体事業などは成長していますし、それに応じて電力が必要になりますので、グリーンエネルギーなどのインフラ系も業績が伸びています。また、地政学的なリスクが上がっているため、軍事産業も好調で、重工業系企業の株価は、最高値を連発しています。自動車産業は変化が激しく、現在はBEV市場は厳しいですが、PHV(プラグインハイブリッド車)など広義のEV市場で言えば市況としては悪くはないです。

――メーカーの人材不足感については、どうとらえられていますか。

2030年前後まではどうにか充足はするのだと思いますが、その先は労働者人口の需給バランスが完全に崩れる時代に入ります。現在も人手不足と言われますが、当社の顧客である大手企業に関して言えば、採用目標を達成している企業も多く、上半期中に100%近く達成する企業もあります。SMB企業に関しては、採用目標が未達に終わる企業が多い傾向にあります。ただそれも、2030年を超えると状況が変わり、大手企業も採用できなくなる未来が待っているのでは? と予測しています。

また、少し前の時代では、メーカー業界で働く人はメーカー業界内で転職するものでしたが、現在はどの業界でも働ける社内SEやITエンジニア職種が増えていることもあり、幅広い業界に転職するようになりました。より給与条件が良かったり、フルリモートワークが可能だったり、とデジタルな条件がよい会社への転職する人が増えたため、メーカーに留まる人は減少していく可能性はあります。また、採用する際の採用競合企業についてもメーカー内での争いだけではなく、異業種を巻き込んだ採用競争が激化します。

今後は、採用数自体を減らす工夫が必要です。「1,000人採用したいです」とご依頼いただけることは転職エージェントとしてありがたい限りです。ですが、正しいアクションとしては、「本当に実現したいことは何か?」を問いかけ、役割の変更や、社内異動などの手段を当社からも提案して、300人の採用で充足する仕組みを一緒に作り上げる必要があるのではないかと考えています。

――人事部の在り方も変わっていきそうですね。

おっしゃる通りです。これまで企業の人事部、特に採用部門は人を採用する部署でしたが、今後はAIエージェントを活用する(採用する)などして経営を推進する機能になっていきます。実際に、ソフトバンクグループでは10億のAIエージェントが働く会社になると公言しています。今後は、「社員数は1万人ですが、10億人のAIエージェントが稼働しています」という企業が増えていくと思います。転職エージェントには、経営戦略を支援して生産性を10倍にするようなサービスや人材マッチングが求められるでしょう。例えば、企業から「このポジションの人材が欲しい」と言われたとき、単にそのポジションを揃えるのではなく、採用して何がしたいかを確認することから始めたり、その実現のために、本当に人である必要があるかを考え、提案することも必要です。

人の採用は、数カ月から年単位でかかり、この間に成長が鈍化し、事業の機会損失となります。転職エージェントは、よりスピード感を持って企業の成長を支援することが使命であり、本質的な価値だと思います。

わくわくする仕事環境が利益を生む

――御社の売上の約80%は大手企業とのことですが、大手企業に選ばれる理由は何でしょう。

マッチング精度の高さだと思います。企業にとってベストマッチな人材を紹介でき、離職率も低い点が1番の評価ポイントだと思います。特に注力するポイントは、企業目線での被推薦から入社への決定率です。一般的な決定率は3%程度ですが、当社は7~8%、高い企業では10%を超えています。

――業界平均の3倍の決定率を出せる秘訣をお聞きしたいです。

当社は、やみくもに推薦を出しません。意味のない推薦は自社の生産性を下げるばかりか、顧客企業にいらっしゃる人事の方や応募された求職者など全員の時間を無駄にします。極端な例ですが、ハードワークで結果重視の企業に、それを望まない求職者が応募したいと言われた場合は、ポジティブな表現にしながら「合わないから受けないほうがいい」と素直に伝えます。

――御社は給与水準も高いですね。

当社は生産性が高く、営業利益率は30%以上あります。入社3年~4年目の両面コンサルタントで年間売上5,000万円以上になっており、年収では1,000万円を超えます。入社1年目で成長できたコンサルタントはほぼ定着しており、最初の1年で成果を残せる仕組みづくりが課題です。

――今井様が仕事をするなかで大事にしていることは何でしょうか。

仕事をいかに面白くできるか、仕事をして成果を残し、顧客から「ありがとう」と言われてうれしい環境にいることが大事だと思います。仕事はつらいですし、しんどいですし、大変ですが、そのぶん、面白い。その面白さの要素は何かを分析して、いかに面白くする瞬間を作るか。この点は、組織文化としてすごく大事にしていきたいと思います。

社員には「仕事にわくわくできていますか」といつも問いかけます。責任の重圧でさえもわくわくに変えて、結果が出たら気持ちがいい。そんなふうに仕事をしている組織であり続けたいと思います。

もちろん、人それぞれわくわくのポイントは異なりますので、それぞれのポイントで責任を果たしてもらえればよく、それを適材適所というのだと思います。キャスティングは、経営や人事においてとても重要ですので、それぞれの面白さを追求できる場所に配置していく経営は大事です。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

人がより活躍できる場所に流動化し、人の生産性を上げることで、日本のGDPを引き上げる一助になりたいと考えています。

大手企業から強くしていく流れには賛否ありますが、私は、大手企業が強くならなければ全体が強くならないと思います。当社はものづくり企業ではないので、有形資産を作っている企業の生産性を上げる形で、日本の未来に貢献していきたいと思います。