AI時代の新卒採用は「個の理解」がカギ

労働力人口不足が常態化する中、新卒採用で成長を続ける人材紹介会社、irodas(イロダス)。人材業界や採用企業が精度高く新卒を採用する方法について、同社代表取締役社長の渡辺健太氏に聞いた。

学生が「いい人生に出逢う」ための支援を

――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

irodasは、新卒に特化した人材紹介会社として2017年7月に大阪府大阪市で創業し、今年で9期目となります。現在、正社員は206人おり、2026年4月に新卒70人が加わります。

当社は『一億色を創る』をビジョンに掲げ、創業から7期目までに、就活対策コミュニティ『irodasSALON』、納得する内定まで伴走する『irodas新卒エージェント』、ITエンジニア就活に特化した『irodasTech』の3サービスを展開しました。以降、ダイレクトリクルーティングサービスや就活生向けイベントサービスも立ち上げ、事業拡張を続けています。年間2万7千人超の学生ユーザーと700社以上のクライアント企業にご利用いただいており、毎年150%以上の成長を実現しています。

――御社の創業は、大学生時代のインターンシップがきっかけだと聞きました。経緯をお聞かせいただけますか?

私は大学時代、インターンシップで携帯会社の営業チームを内製し、マネジメントしていました。営業人材を集めたり紹介したりするうち、「人材紹介の事業ができるのでは?」と思い、インターンシップで出会った仲間と共にirodasを立ち上げました。

――インターンシップの時から人材紹介でマネタイズできていたのですか?

いいえ。最初は無償で就活のコツを教える『就活塾』を運営していました。そのうち、受講生が次々と友人を連れてくるようになり、人数が増えすぎて全員を支援できなくなったことから有償化しました。ですが、有償にしても受講生は増え続け、次第に結果を出す人材が増え始めると、企業から「紹介してほしい」と依頼がくるようになったため、事業化できると確信し、会社を設立しました。現在、就活塾はirodasSALONとして運営を続けています。

――サロンでは何を教えていらっしゃいますか?

主に、「自分を知る」「社会を知る」「企業を知る」の3点を教えています。特に重視しているのが「自分を知る」ことです。キャリアアドバイザーとの面談を通して、性格、生い立ち、得意不得意、価値観などを徹底的に言語化します。新卒には、中途のようなキャリアや肩書きがありません。だからこそ、「どんな人間か」「どんな環境で力を発揮するのか」をしっかり言語化することが、自分に合った職種選択や企業選択の軸になります。転職が当たり前の時代だからこそ、短期的な内定ではなく、中長期のキャリアを見据えた意思決定が必要だと考えています。

『一億色を創る』事業が生まれた背景

――「いい人生に出逢うための支援」をモットーにした理由は何でしょうか。

私の学生時代の経験が影響しています。私は高校生時代、野球に打ち込んでいました。強豪校のレギュラーとして活躍できていたので、自分の人生に不満や疑問を感じることはありませんでした。

ところが、大学生となって自由な時間ができ、将来を考える余裕ができたとたん、急に不安になったんです。「将来どうなるんだろう、どうやって食べていくのだろう、そもそも食べていけるのだろうか……」と、毎日考えるようになりました。考えているだけでは不安が増す一方だったので、何か行動しようと、大学3年生のときに長期インターンシップに参加しました。その経験を通じて、「仕事は不安を我慢するものではなく、自分の幸せや成功をつくる手段になり得る」と気づいたんです。不安の中でも一歩踏み出すことで、未来の見え方が変わる。その原体験が、就活塾、そしてirodasの原点になっています。

「いい会社じゃなく、いい人生に出逢える場所」をモットーに、『1億色を創る』のビジョンに向かって事業を展開しています。ここで言う色は、自分の幸せや、成功に向かって頑張る姿を指します。『1億色を創る』は、そのままirodas(色出す)の社名になっています。

「自分を言語化できる学生が多い」と企業から評価

――御社のメイン事業は何でしょうか。

売上の80%は新卒の人材紹介事業です。人材紹介に付随して、ダイレクトリクルーティング事業やイベント事業を展開しています。ダイレクトリクルーティングは、すでに面談を実施した求職者に対して行っています。イベントは、企業数社と学生30~40人の小規模なマッチングイベントが主です。幅広い領域と職種を支援しています。

――事業エリアは関西が中心ですか?

当社の面談はすべてオンラインですので、全国のお客様と取引可能です。クライアント企業の70~80%は東京です。ユーザー(就活生、求職者)も東京が最も多く、次いで関西となります。

――最初からオンラインでしたか?

最初はリアルで実施していました。京都と大阪に拠点を設けてイベントやセミナー、面談をしていましたが、創業2年後にコロナ禍になったタイミングで、一気にオンラインへ切り替えました。経営判断といえば聞こえがいいですが、オンラインにしなければ倒産してしまう危険にさらされたことが、瞬時の切り替えにつながりました。面談をオンラインに切り替えたのは、業界の中ではトップクラスで早かったと思います。

――サービスの強みは何でしょうか。

就活塾の経験値を活かし、学生としっかり面談を行い、学生の生い立ちや人生経験を深掘りして、将来どうなりたいか、どうするのがいいかを一緒に言語化して企業へ紹介するアプローチ方法に関しては、かなり注力しています。採用企業からも、「自分のことを、自分の言葉でしっかり語る人を紹介してくださる」と評価いただくことが多いです。

――御社が70人もの新卒を採用できる理由も、そこにありそうですね。

ありがとうございます。当社は欲しい人材に対する解像度を高くしていますし、就活生がどのような悩みを持って就活をスタートし、企業の何を見て就職先を決めているかを誰よりも分かっているので、新卒採用が得意なのだと思います。市場分析も徹底しており、競合他社のリサーチはもちろん、当社とバッティングが多い人材紹介会社への対策も事細かに実施しています。

人と人との信頼関係を生み出すAI活用術

――企業が採用強化するコツを教えてください。

自社に魅力がなければ採用できないので、事業の成長率や収益性、待遇の向上などを高め、明示することが大事です。注意すべきは、その内容に食い違いがないようにすること。実際よりよく伝えてしまうと、採用しても早期離職になりかねません。反対に、素晴らしい取り組みをしているのに、採用に活かせていない企業もあります。

また、自社の中で活躍している人材の属性を言語化し、欲しい人材を明確にすることが大切だと思います。言語化すると、面接で話すこと、聞くこと、伝える事が明確になります。加えて、競合他社を分析すればさらに採用力が上がると思いますが、自社がどこと比べられているかは、企業では把握できないのが現状です。この部分を当社のデータでサポートしています。

――取引企業に対する御社の決定率をお聞きしてもよろしいでしょうか。

当社の登録ユーザーがクライアント企業に決定する確率は約7%と、数字だけを見れば決して高くはありません。これは、大学3年の早期から長期的に伴走し、納得感を重視した支援を行っているため、構造的にそうなっています。卒業が差し迫った大学4年後期の支援に注力し、短期的な決定数を追えば数字は上げられますが、私たちは「意思決定の質」を重視しています。結果として、長くお付き合いする企業ほど、採用数も満足度も高まっています。

――数よりも質、ということですね。

はい。当社では、質を担保するための独自の仕組みを構築しています。例えば、面談データを蓄積し、学生の価値観や指向性をAIで言語化しています。なぜその企業に惹かれたのか、どこで迷ったのかといったプロセスも含めて整理しています。

このように、面談にはAIを活用しますが、AIは判断を代替するためのものではありません。弊社のキャリアアドバイザーがより深くユーザーと向き合うことができるよう、補助のようなものだと考えています。

ロジックを伝えるだけであれば、面談は不要です。自己分析は、生成AIでできます。納得感や覚悟を一緒に作っていくことに、人が関わる意義があると思います。「なんでそう思ったの?」「すごいね」「いいね」など、一見無駄に聞こえる会話にも、学生との信頼関係を生み出す価値があると思います。

――面談データは、社員の評価にも反映できそうですね。

実際に定性的な評価に役立っています。ユーザーのために考える力や提案力、発言の多さなどを反映しています。

――貴重なお話をありがとうございました。最後に、今後の展望をお聞かせください。

2035年までに、新卒マーケットの売上および質の業界ナンバーワンを目指します。時代をよみながら新しい領域や事業の展開も進めますが、何よりも、面談の質とユーザーの体験価値の向上を第1に考え、実直に成長率をキープし続けて目標を達成します。