~顧客満足度調査『ベストオブスタッフィング』16年連続受賞の外資系エージェンシーが語る~
日本企業の採用に今すぐ必要な3つの取り組みとは日本の人材派遣市場は、世界とどのように異なるのか。日本企業の採用は今、何に取り組むべきか。今回は、米国に本社を置き、世界8カ国、38カ所に拠点を持つグローバルカンパニー、エイクエント・エルエルシーを取材。ジャパンオフィスのカントリーマネージャーである杉本隆一郎氏に、日本特有の市場課題や、グローバル企業ならではの事業戦略などについて話を聞いた。
エージェント1人当たりの担当タレントは20~30人。その理由は…
――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。
エイクエント・エルエルシー(以下、エイクエント)は、1986年に米国のボストンで創業した人材エージェンシーで、世界8カ国、38拠点で事業展開しています。日本オフィスは97年に設立し、今年で創業40周年となります。事業領域は、マーケティング、クリエイティブ、デジタルのプロフェッショナル人材に特化しており、「グローバルワークソリューションズ」と称してサービス提供しています。現在、登録者数は2万5千人で、クリエイターの中にはUXを含むエクスペリエンスデザイン、UIリサーチャー、データアナリスト系、デジタル系も含まれます。また、広告業界のアカウントエグゼクティブやアカウントマネージャーなども一部含まれます。
グローバルワークソリューションズの事業は、大きく3種類に分かれます。1つは、人材派遣と人材紹介を行う「エイクエント・タレント」です。現在、派遣事業、紹介事業ともに10名前後の体制で運営しており、派遣事業においてエージェント1人が担当するタレントは20~30人です。当社では、クライアントが求めるスキルに合わせて、派遣や業務委託など雇用形態の垣根を超えた提案も可能です。
2つ目は、クリエイティブエージェンシー事業を展開する「エイクエント・スタジオ」です。クライアントからクリエイティブや制作関連のプロジェクトを受託し、登録タレントのチームで作業を行い納品するサービスです。
3つ目は、ソリューション提供です。自社に開発部門がありエンジニアが多数在籍していますので、日本でいうクラウドエージェントのようなプラットフォームを自社で開発しています。3事業のうち、日本ではエイクエント・タレントとエイクエント・スタジオを展開しています。
――エージェント1人当たりの担当タレントが20~30人は、かなり少ないですね。100人抱える企業もありますので、驚きです。
当社は現在、数で勝負せず、じっくりとロイヤルカスタマーを育てるフェーズにあります。タレントに関しては、キャリアプランを立てるところから併走し、本人も気付いていない長所や適正キャリアなどを引き出し、ポートフォリオ作成にも時間をかけるため、クライアントのオーダーから最初の人材提案まで8~9営業日かかります。数で勝負するエージェントは7営業日程度で提案するため、数とスピードでは競合他社に負けてしまう場合もありますが、当社は、より深く綿密なコミュニケーションで差別化しています。
クライアントに関しても、これまでは飛び込み営業で契約を結んでいる時期もありましたが、現在はフォーカスしたクライアントとのリレーションを深め、採用・人事計画の確認や、継続的なサポート体制の構築を通じた人材の提案をする営業スタイルに切り替えました。
――クライアントは外資系企業がメインでしょうか。
多くは日系企業です。日系企業は社内での人の動きが少なく、構築した関係を維持したまま取引を継続できるため、長いお付き合いのお客様が多くなります。外資系企業は、以前から関係性の深いクライアントに加えて新規開拓も含めて現在力を入れており、バイリンガル人材の就業機会創出についても、より貢献したいと考えています。
――外資系エージェンシーならではの特長はありますか?
デジタルトレンドは日本よりも欧米のほうが早いので、いちはやく先端の動きや世界の動向をキャッチして啓蒙活動できる点が特長です。エイクエントでは、毎年サラリーガイドを各国で発行し、給与が上昇傾向にある職種や今後の予測などについて情報提供しています。他に、働き方やハイパフォーマーの見分け方などの情報ガイドも発行しています。
日本のプレゼンス低下が叫ばれる中、日本企業が取り組むべき3つの策とは
――人材業界における日本と海外のマーケットの違いを教えてください。
日本と海外では、「日本と、その他諸国」と言ってもいいほどマーケットに違いがあります。現在でいえば、海外は働き手がいるけれど採用ニーズが少なく、日本は採用ニーズがあるけれど働き手が不足しています。海外エージェントから見ると日本は求人オーダーが多く、よく「どうやったら求人オーダーを取れるのか」と聞かれます。一方の日本は人材確保が課題ですが、海外では働き手には困っていません。このように真逆の市場環境のため、当社は日本独自の戦略をとっています。
他に、経歴書の書き方も日米で異なります。米国では、経歴書にかなり詳しく情報を記載するのでAIマッチングしやすいですが、日本は求人票が抽象的なので、マッチングが限定的になりがちです。タレントがこれまで在籍した企業の規模や転職回数などをいかにデータに落とし込むかは、課題の1つです。
――日本のプレゼンス低下が叫ばれる中、日本企業が取り組むべき策があれば教えてください。
人事部がマーケットをよく見て世界の水準を知り、現場の声を聞き、採用の在り方を変える。この3点に取り組む必要があると考えます。何のために採用するのか、経営目線を持ち、自社の水準ではなくマーケットにおける自社のポジションを把握しながら採用戦略を立てることで、自社の成長に貢献する人材の採用は可能になります。
例えば、世界のサラリーを見ると、日系企業よりも外資系企業、グローバル展開する日系企業よりも外資系企業の日本支社のほうがサラリーは高い傾向にあります。タレントが外資系企業に入れば専門性をどんどん伸ばせて役職も上がりますが、日系企業では専門外の部署へジョブローテーションされ、なかなかキャリアアップできない現状があります。
採用時に日本企業が重視するカルチャーフィットも大切ですが、そう言っている間に外資系企業がスキルベース採用を進め、優秀な人材を獲得しています。仮に、自社サービスにAIを組み込む人材を採用したとして、日本企業でカルチャーフィット採用した人材が1人前に作業ができるスキルになるまで待つ間に、外資系企業は作業に適したスキルを持つ人材を採用してプロジェクトを完成させるでしょう。日本企業は、事業やプロジェクトに合わせて採用の方法や期間を変えていく必要があると思います。
――働き方についてはいかがでしょうか。最近、リモートワークから出社に切り替える企業が増えましたが。
日系、外資問わず、成長している企業ほどリモートワークから出社への回帰を進めています。そこで働く成長志向が強い人材は、「2~3年は出社してスキルを身につけた後、リモートワーク可能な別の会社へ行けばいい」と考えます。一方で、ミドル(中間管理職)からメンバー(一般社員)クラスの人材は選択肢が多いため、「リモートできる会社は他にいくらでもある」と考えることができます。階層によって考え方は異なると思います。
大切なことは、エージェント側が「リモートがいい条件で出社は残念」という、偏った思い込みを捨てることです。たしかに、リモートワークの会社なら給与も職種もこだわらないという求職者はいるでしょう。一方で、キャリアグロースのためなら出社も厭わない人、出社のほうが働きやすい人など、働き方のニーズはさまざまです。我々は、求職者に合わせた提案ができるよう、備える必要があります。
リクルーター不介入のマッチングプラットフォーム開発で企業成長に貢献
――御社では、どのような方法で集客していますか?
求人媒体も活用しますが、最も重視しているのはリファラルです。当社から多くのタレントがクライアント企業で活躍しているため、リファラルは一定数あります。また、過去の就業者への連絡も実施しています。さらに、クリエイターやマーケティング職のためのコミュニティ運営も始めました。
現在、『DIGITALKS(デジトーク)』というオンラインセミナーを4半期に1度のペースで開催しており、1回あたり150~200人が参加します。参加者は、登録タレント、初見の方など幅広く、クライアントも参加しています。我々は、広告代理店から事業会社まで幅広くよい関係性を構築できていますので、その中から尖った取り組みをしている企業やスピーカーなどと一緒に、企画を組んでイベントを開催しています。
ここで我々が提供する価値は、営業やマッチングの場ではなく、スキルを持った人たちが「こういうキャリアを築ける」という指標を求職者に提供したり、スピーカーに自身の取り組みやAIを活用したトレンドについて話していただいたりする場の提供です。これにより、クライアントは採用の選択肢を広げることができ、新しいビジネスアイデアや新しい人材を取り入れる際、当社に相談してくださいます。
――さまざまな取り組みの結果、人材派遣会社を評価する『ClearlyRated(クリアリーレーテッド)』で長期にわたり好評価を得ているのですね。
ClearlyRatedは、NPS®(Net Promoter Score)という指標を用いて、クライアント、タレントの満足度を数値化・可視化する組織で、エイクエントは『ベストオブスタッフィング』という賞を、タレント部門は16年、クライアント部門は14年連続で受賞しています。エイクエント全社としても、この名誉にふさわしい企業であり続けるべく、タレントやクライアントからフィードバックをもらい、日々改良に努めています。
――最後に、今後の展望をお聞かせください。
現在、『Skill(スキル)』というリクルーター不介在のマッチングプラットフォームを米国主導で進めています。デジタル人材やマーケターはもちろん、看護師など幅広い職種のタレントと企業を繋いでいます。これは、リクルーターがスカウトに割く時間を減らし、人が介入すべきところに注力してもらうためのサービスです。マッチングのリードタイムが短縮され採用がスピードアップすると、企業の業績が向上し、個人のキャリアアップや就業機会の獲得も劇的に改善していくと思います。

