〝まなび〟が〝はたらく〟に活かされる社会へ

大卒の就職後3年以内離職率は、30年以上にわたり30%前後*を推移している。就職氷河期が終わり売り手市場となった現在も、状況は変わらない。その理由の1つに、学ぶことと働くことがつながっていないことが挙げられると、株式会社ベネッセ i-キャリア代表取締役社長の風間直樹氏は言う。

*厚生労働省『新規学卒者の離職状況』

「まなぶとはたらくをつなぐ」ために創業

――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

ベネッセ i-キャリアは、「まなぶとはたらくをつなぐ」をミッションに掲げ、大学の教育、学生の就活、企業の採用をつなげる事業を展開しています。当社は、株式会社ベネッセコーポレーション(旧:株式会社ベネッセホールディングス)とパーソルキャリア株式会社の合弁会社として2015年に設立しました。

主なサービスは、新卒向けエージェント『doda(デューダ)新卒エージェント』、新卒向け逆求人・オファー型就活支援サービス『dodaキャンパス』、思考力を測定するAI時代の新しい採用テスト『GPS-Business』などがあります。

――「まなぶとはたらくをつなぐ」をミッションに掲げた理由は何でしょうか。

「まなぶ」と「はたらく」は連動するはずなのに、実際にはつながっていないことが社会課題だと創業前から感じていました。それまでは学業に専念していた大学生が急に就活を始めても、世の中にはどんな業界や職種があり、自分には何が向いているのかがわからない、ということが大半です。当社は、学生の「わからない」を翻訳し、個々の学びに意義があることを伝え、キャリア感の醸成や納得感のある就活を支援しています。

社会課題の傍観者から当事者へ

――学生に対する御社ならではの取り組みを教えてください。

数々ありますが、例えばdodaキャンパスでは、学生が自身の努力や学び・経験などをデータベース「キャリアノート」に蓄積し、個性を可視化することができます。学生自身が就活の軸をしっかり持って言語化できるようになることを目指します。

――具体的な内容をお聞かせいただけますか?

dodaキャンパスでは、学校生活、部活動、アルバイト、研究内容などの経験や自己アピールを登録できる「キャリアノート」を提供しています。これらの情報を常に整理、アップデートし、1年生から書き溜める習慣がキャリアオーナーシップを発揮した就活につながり、社会人として働き始めた後も、学び続ける習慣につながります。

また、大学1、2年生を対象とし、4ヵ月にもわたる期間でビジネスコンテストを開催しています。大学低学年を対象としたプログラムになるので、社会課題についてのレクチャーから始めますが、今の大学生は小学生時代からSDGs教育を受けているので、それ以前の世代と比べると、社会課題に対する意識や関心は高くなっています。ただ、関心があるだけでは傍観者です。傍観者から当事者に変わること、それが社会へ出る第一歩だと思っています。

――ビジネスコンテストでは、どのような手法で傍観者から当事者に変わる意識を身に付けてもらうのでしょうか。

ビジネスコンテストでは、着目した社会課題やその理由、課題分析、アプリ案、ユーザー調査、ビジネスモデル等を発表します。当日の発表前に、本ビジネスコンテストのパートナー企業の担当者への壁打ちを経て、より良い企画案にブラッシュアップしていきます。学生が社会課題に当事者意識を持ち、企画提案にチャレンジできる取り組みは、当社ならではだと思います。

変化が求められる新卒採用のかたち

――大学側が御社に求める期待感は何でしょうか。

専門性やリソースの問題もあり、大学のみで社会意識を高める授業を実施したり専属の講師を採用したりするのは難しい現状がありますので、学生をともに育てるパートナーとして見てくださっていると思います。

当社のアセスメントを実施いただくことで、学力試験のみではわからない思考力や課題解決力などの能力が可視化でき、大学のブランディングにも活用できるという声もいただいています。

昨今の大学入試においては、年内入試(推薦入試、総合型選抜など)での入学者は全体の5割を超えています。これらの入試形態は志望理由が重視されることもあり、学生が「どの大学に入りたいか」ではなく「自分が何を学びたいか」で大学を選ぶ傾向が見て取れます。また企業が新卒採用で求める人物像も変化しており、時代は大きく変わってきています。

一方で、企業が採用する学生の評価指標の1つである「学歴」を重視するケースはいまだ多く、社会に出てから活躍できる人材を見極める思考力や課題解決力などの「はたらく上で求められる能力」を測る指標は長く存在していませんでした。学生が大学生活で培った学びや経験、はたらく上で求められる能力を可視化するなど、当社が介在することで学生がこれまで以上に正しく評価される社会をつくりたいと考えています。

AI時代に必要な能力を『GPS-Business』で評価

――学びの場や求められる人物像は大きく様変わりしているのに、採用スタイルにはこれまでの慣習も残っているということですね。

大手企業などでは新卒採用人数も多く、大量の母集団を形成するという採用スタイルが主流の時代もありましたが、近年は職種別採用なども増え、学生の資質や保有する具体的なスキルベースで選考する企業が増えています。これらのポテンシャル採用が今後も加速すると考えられる中で、学歴だけでは見抜くことは難しくなるでしょう。また、これからはAIを活用する時代に入っており、常に新しい技術などにアンテナを立てながら、学び続ける力、問いを立てる力、他者と協働してチームで目標を成し遂げる力がこれまで以上に求められるようになると考えます。

――思考力とチーム力とは?

例えば、AIが情報を導き出した答えは正しいとは限りません。それらを見抜く判断力、想像力を働かせながら深堀する思考力、チームで協働する力は、これから重要視される能力です。当社は「協働的な思考、批判的な思考、創造的な思考」と定義しており、これらはOECD(経済協力開発機構)の『Future of Education and Skills 2030(教育と技能の未来2030)』で2015年に定義されたものです。

21世紀に必要な4つの能力(4C)である、クリティカルシンキング・クリエイティブ・コラボレーション・コミュニケーションを評価できるアセスメントが『GPS-Business』です。これにより、企業が大学偏差値だけでは測れない、社会人として活躍できる思考力を持つ学生と出会える機会も増えると考えます。

――どのような企業が「GPS-Business」を導入していますか?

ご利用いただいている業界は多岐にわたりますが、コンサルタント会社など、特に思考力を重視する企業から高い評価をいただいています。『GPS-Business』で一定の能力見極めができることにより、面接では意向のヒアリングなどに注力できるため、内定承諾率の向上やその後の辞退率減少にも大きく貢献できています。

また、面接官が数十人から数百人となる規模の大きい企業の導入も増加しています。採用評価基準を設けても、面接官が増えるほど面接における評価のブレは生じてしまいます。また、多くの適正検査は対策情報が増えていることもあり、個々の能力に合わせて異なる問題が出される『GPS-Business』は、学生が持つ真の実力や素質を見極めができているとの評価もいただいています。

――企業が思考を変えるためにはどうすればいいとお考えでしょうか。

100人採用するために、一万人をエントリー目標にするような母集団形成を目指すのではなく、1000人の中から100人を採用できるような高度なマッチングが今後ますます求められると考えます。

これは、書類選考から2次面接までのフローを既存の方法から代替できる仕組みを使うことで実現可能だと思います。今後は、定型化できる採用プロセスはAIが、カルチャーフィットや配属部署との相性、動機付けなどの重要なものを人が担うようになるでしょう。

社会に出ることを楽しみにできる学生を増やしたい

――近年は、インターンシップを実施する企業が増えました。企業はどのように学生と向き合うべきでしょうか。

現代の学生はSNSなどの口コミを重視しますが、口コミの意見は企業の側面の一部であるにも関わらず、それがすべてだと思われがちです。だからこそ、企業のリアルな姿を見せ、学生に知ってもらう機会であるインターンシップは有益だと思います。いい事も悪いこともオープンになっている会社のほうが、学生の信頼度や入社意思も高まります。また、企業公式アカウントから、社員インタビュー記事や、はたらいている様子を定期的に発信することも、学生にとっては安心材料になります。

――学生のリアルな今をご教示いただき、とても参考になりました。最後に、今後の展望をお聞かせください。

「ベネッセ i-キャリアはどんな会社ですか?」と問われたとき、当社は「教育HRの会社です」と答えます。社会で活躍する人材を育て、企業や社会に送り出していく教育・HRのプロ集団としてさらに進化してまいります。自分の経験が評価されて、社会に出るのが楽しみになる。そんな学生を増やしたいと思います。