製造業領域の採用に求められる変革とは
政治・経済・技術革新の影響を大きく受ける製造業領域。製造業領域の採用動向や、企業に求められる採用の変化について、製造業領域に特化した人材紹介会社であるメイテックネクストの代表取締役社長、梅津太一氏に聞いた。
変わる製造業の事業領域
――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。
メイテックネクストは、製造業領域を中心としたエンジニア専門の人材紹介会社です。支援職種は、機械設計、電気設計、ソフトウェア開発が中心です。求人票に記載された条件だけではなく、仕事内容や技術背景を深く理解し、企業が本当に求めている役割と、求職者が持つ技術・経験・志向性を重ね合わせることが、当社の役割だと考えています。
私たちは、変化の激しい製造業領域に特化し、専門性をさらに高めていく方針です。メイテックグループが製造業・技術領域で培ってきた知見も踏まえ、当社としてより良いマッチングを追求していきます。
――製造業領域に特化するうえで、特に大切にしている視点は何でしょうか。
製造業領域では、職種名や技術単語をそのまま受け取らないことが重要です。
例えば設計職ひとつをとっても、単に図面を描く仕事ではありません。強度、重量、コスト、加工性、組立性、熱、振動、安全性、量産性など、複数の制約条件をどう成立させるかを考える仕事です。そのため、求人票に「機械設計経験」と書かれていても、どの制約条件の中で、何を判断してきたのかを見なければ、マッチする人材は見えてきません。
これは機械領域に限りません。職務経歴書に「信号処理」と書かれていても、それがFPGAを用いた高速処理なのか、画像処理なのか、通信なのか、制御やセンシングの文脈なのかによって、活かせる求人は変わります。技術がどの製品、どの制約条件、どの開発フェーズで使われてきたのかを読み解くことが重要です。
さらに、職務経歴書に書かれた事実だけでなく、その裏側にある本人のこだわりや葛藤、仕事に向き合ってきた理由まで丁寧に聞くことも大切です。少し感覚的な表現ですが、職務経歴書の文字情報の奥にある「心臓の音」を聴きにいくような感覚です。
AIやシミュレーション技術の進化により、図面作成や仕様検討の一部はさらに効率化されていくと思います。一方で、何を優先し、どの制約をどうトレードオフし、最終的にどの仕様に落とし込むのかという判断の重要性は、むしろ高まっています。だからこそ、求人票に書かれた条件だけを見ていては、高精度なマッチングは難しくなっています。
――現在、特に注力している領域を教えてください。
一つは、防衛・宇宙・航空・半導体・AIなど、国家的な投資や産業政策と連動しやすい技術領域の採用動向です。従来にはなかった求人や、既存の職種定義だけでは捉えにくい求人も増えています。当社では、求人票の行間にある技術要件や事業背景を読み解き、自動車、電機、機械などで経験を積んだエンジニアの方に対して、隣接する技術領域への可能性を提案することもあります。
もう一つは、ディープテック領域です。科学的な発見や革新的な技術をもとに、社会課題の解決を目指す企業が増えています。核融合、ドローン、手術支援ロボット、宇宙関連技術など、事業化の難易度は高い一方で、核融合であれば材料、機械、電気、制御、解析。手術支援ロボットであれば機械設計、制御、ソフトウェア、画像処理など、製造業で培われた技術が応用されます。宇宙関連でも、ロケット、小型衛星、観測技術など多様なアプローチが生まれています。技術の社会実装に向けて、人材確保や事業フェーズに応じた採用支援が重要になっています。
――スタートアップ企業の開拓方法は?
新聞、雑誌、Webメディア、展示会、業界イベントなどを通じて、技術系スタートアップや成長企業の動向を継続的に見ています。また、VCや支援機関との接点を通じて、採用課題を抱える企業をご紹介いただくこともあります。少人数の技術系スタートアップが採用を進める際には、どの人材像を優先すべきか、どの職種から採用すべきか、どのように魅力を伝えるべきかを一緒に整理することも重要です。
採用成果に差が出る企業の共通点
――採用が上手くいく企業・いかない企業の特徴はありますか?近年は、人事部門が現場に入り込み、採用ニーズを丁寧に引き出したうえで、より魅力的な求人票や採用メッセージを作る会社が増えています。現在の人事部門は、単に応募者を管理する部門ではなく、自社の魅力を社外に伝える広報的な役割も担っています。求人票は、もはや条件を並べる書類ではなく、自社の魅力を伝える広告に近いものになっています。
採用成果を出している企業では、人事担当者が採用をリードし、現場の本音や仕事の魅力を引き出しています。人事と現場が対等に議論し、求職者に伝えるべき魅力を一緒に言語化できている企業は、採用においても強いと感じます。
一方で、なぜ自社に応募や紹介が集まりにくいのか、その理由に向き合えていない場合や、自社の魅力・課題を客観視できていない場合、求職者に魅力が伝わりにくくなります。例えば、リモートワーク可という条件を前面に出しても、それが求める人材像と合っていなければ、採用成果につながるとは限りません。やみくもに人数やスペックにこだわるのではなく、自社の技術、事業、職場環境、成長機会を整理したうえで、採用計画を組み立てることが重要だと思います。
――長くキャリアコンサルタントに従事されている梅津さんから見て、人材紹介業界の変化についてもご意見をお聞かせください。これまでは、情報量や求人の多さが人材紹介会社の競争力になっていた面があります。しかし今後は、それだけでは十分ではありません。企業自身が気づいていない魅力や、求職者自身が言語化できていない可能性を引き出し、それをロジカルかつ解像度高く説明して、企業と求職者をつなげられるかどうかが問われると思います。
AI時代のコンサルタントには、素直さと聞く力が重要だと感じています。世の中の変化を素直に受け止め、自分の過去の成功体験に固執せず、新しいやり方を取り入れられるかどうかは、大きな差になります。キャリアが長いコンサルタントほど自分の型ができています。その型が強みになる一方で、変化への対応を遅らせることもあります。だからこそ、常識を疑い、企業や求職者の声を丁寧に聞き直す姿勢が重要です。
――エンジニア人材の転職動向にも変化はありますか?転職関連の広告やスカウトが増えたこともあり、転職に関する情報に触れるエンジニアの方は増えています。一方で、実際に転職を決断する方の数が急激に増えているわけではありません。その中で、エージェント間での接点獲得競争は激しくなっています。接点を持つスピードは重要ですが、現在は早さだけではなく、相手に届く内容かどうかがより重要になっています。
――御社もスカウトのスピード対応をしていますか?もちろんスピードは大切ですが、それ以上に、相手の心に届く内容であるかを重視しています。以前は、まず接点を持つことを優先し、比較的汎用的なメールを送っていた時期もありました。しかし現在は、求職者の経験、志向、今後の可能性を踏まえ、その方にとって意味のある提案になっているかを重視しています。
一斉配信のようなメールでは、返信率はなかなか上がりません。求職者の希望や経歴から、その方が今後どのようなキャリアを描けるのかを考え、具体的な可能性として伝えることが重要です。タイトルや冒頭の数行も含め、読まれるための工夫を続けています。
――メール文はAIで作りますか? 人ですか?AIも活用していますが、最終的には人が見て、表現の温度感や相手に届く内容になっているかを確認しています。AIは情報整理や文章のたたき台作成に有効ですが、定型化しすぎると、かえって伝わりにくくなることもあります。
コンサルティングの質を高める取り組み
――AI時代における人材紹介会社の介在価値とは何でしょうか。
企業も人も、自分自身を完全に客観視することは難しいと思います。そこに、人材紹介会社の介在価値があります。
これからの人材紹介会社に求められるのは、単に情報を多く持っていることではなく、キャリアや仕事の内容を構造的に捉え、企業が求めていることと、求職者の経験・志向・可能性を掛け合わせて説明できる力です。
AIは、情報整理や比較、説明の補助には非常に有効です。一方で、どの情報を重く見るべきか、企業と求職者の間にどのような可能性があるのかを判断するには、人の解釈力や対話力が必要です。
大切なのは、お客様と向き合う、逃げないといった抽象的な精神論にとどめるのではなく、具体的に何をどう見て、どの論点に向き合うのかを明確にすることです。登録後の情報提供や進捗管理など、一定の定型業務はAIで支援できる領域が広がっています。一方で、人の介在価値は、求職者や企業が言語化しきれていない判断軸を整理し、手元にある情報から期待以上の提案ができるかにかかってくると思います。
――最適な提案活動のための御社の取り組みを教えてください。
現在、当社では、組織として提供価値を高めるために、複数の取り組みを進めています。
一つ目は、NPSなどを活用した顧客満足度の可視化です。二つ目は、サービス工程の分解とAI活用の検証です。AIに任せる部分を増やすことが目的ではなく、人が本来向き合うべき判断や提案の質を高めることが目的です。三つ目は、リファラルの仕組みづくり。四つ目は、LinkedInなどを活用した、求職者向けのコンサルタント個々のブランディングです。
いずれも、コンサルティングの質や集客力を高めるための取り組みです。現場のコンサルタントも参加し、自分たちのサービスをどう高めるかを考え、動かせる組織になっていくことを期待しています。
――御社のコンサルタントは製造業領域のエンジニア経験者でしょうか。
エンジニア経験者はもちろん歓迎していますが、未経験者も採用しています。経験者は、自身の経験に基づく技術領域に強みを持っています。一方で、未経験者であっても、技術情報を学び続けることで、製造業領域における支援力を高めることは可能です。
当社には、製造業領域に特化して蓄積してきた知見があります。その知見を活かしながら、未経験者であっても、技術や仕事の構造を学び、企業や求職者に価値を提供できるよう育成しています。ちなみに、私自身も文系出身です。
――文系では学ばない知識の習得には、ご苦労されたとお察しします。
最初は本当に苦労しました。半導体の本を読んでも、まったく頭に入りませんでした。
そこで私は、専門知識がある人に聞く習慣をつけました。説明が上手な人は、難しい技術を身近なものに例えて分かりやすく説明してくださいます。その説明を聞きながら、自分なりに理解し、企業や求職者に説明できるようにしていきました。自分が聞いて分かりやすかった説明を、お客様や後輩に伝えることもあります。
大切なのは、最初からすべてを知っていることではなく、分からないことを分からないままにせず、聞き、調べ、理解しようとし続ける姿勢だと思います。
――ありがとうございます。最後に、今後の展望をお聞かせください。
これからも、時代とともに変わる仕事の行間を読み、製造業領域における採用支援の専門性を高めていきたいと考えています。
製造業領域の仕事は、AI、半導体、宇宙、防衛、エネルギー、ロボットなど、多くの成長領域とつながっています。その変化を捉え、求人票の行間にある技術課題と、エンジニアの職務経歴の奥にある可能性を結びつけることが、当社の役割です。製造業領域の採用支援と言えばメイテックネクストと想起いただける存在を目指し、企業の競争力向上とエンジニアの成長、ひいては日本の産業基盤強化に貢献していきたいと思います。

