採用は「相互拘束型」から「相互選択型」の時代へ
2026年3月、転職・就職のための情報プラットフォームを運営するオープンワーク株式会社が、エグゼクティブ特化型の人材紹介会社である株式会社BNGパートナーズを完全子会社化した。その意味とオープンワークが目指す次の事業展開について、同社の代表取締役社長である大澤陽樹氏に詳しく聞いた。
788万人の圧倒的ユーザー数を活かし独自の人材支援路線を展開
――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。
オープンワークは、社員クチコミや年収データを有する転職・就職のための情報プラットフォーム『OpenWork(オープンワーク)』、OpenWorkのデータを活用したダイレクトリクルーティング『OpenWorkリクルーティング』、クチコミデータを市場予測や組織課題の可視化に活用する『オルタナティブデータサービス』の3事業を展開しています。
OpenWorkは、実際に働いた人のクチコミを基に、企業情報の収集や求人の検索を行えるサービスです。2026年2月時点の累計会員数は約805万人、社員クチコミ・評価スコア累計は2150万件を突破しました。
――ユーザーや企業は、クチコミをどのように活用していますか?
まず、一般的なデータプラットフォームのサービスでは企業側に向けたサービス強化が多い中、私たちのサービスは、ユーザー個人への価値提供を大切にしています。
OpenWorkでは、年収や職歴はもちろん、ユーザーは、働いてみなければ分からない規則や社風のリアルを知ることができます。例えば、求人情報に「リモートワーク可」と書かれていても、実際はまったく許容していない社風であったり、週4回は出社が条件だったりします。育児などの理由でリモートワークを重視する人にとって、この情報が事実と異なれば入社しても長く続けられず、転職を繰り返すことになります。OpenWorkでは、求職者がキャリア選択で損をしないために、クチコミをベースとした企業検索ができる仕組みを提供しています。
また、企業やエージェントにとっては、805万人のユーザーにスカウトメールが送れる点はメリットだと思います。広告費がかからないぶん、安価に利用できます。また、クチコミをベースとしているので、価値観や文化もマッチングできますので、ミスマッチによる離職率を下げる一助になっていると思います。
――現在注力されている取り組みについて教えてください。
昨年より、スキルデータの構造化に取り組んでいます。希望する条件や職種などでは検索ができますが、一方で、スキルデータはあまり構造化されていません。例えば、プロダクトマネジャーといっても求めるスキルは多岐にわたります。計画力、UI/UXデザイン、ユーザーインタビュー……。ここからさらに、レベルが加わります。これを独自のスキルタグ(保有スキルの可視化)に変換し、スキルタグと求人をマッチングできるように、現在開発中です。完成すれば、職務経歴書や年収のクチコミデータを基に、希望年収にたどり着くために必要なスキルや、現在のスキルタグにどのようなタグを追加すれば有利かなども分かるようになり、自らのキャリア構築をすることができます。
また、OpenWorkでは、現在、個人の価値観やライフステージに合った会社を探せる仕組みを構築しています。個人のクチコミの内容や履歴書などその方々の性格や価値観、ライフステージによる志向性と、企業側の情報としては、これまでクチコミを見て判断していたカルチャーや働きやすさなどを言語化し、検索に使えるようにします。
――企業に対してのサービスの拡充はございますか?
企業もクチコミにより自社の魅力や改善点を知ることが出来ますので、働きやすさや社風などを同業他社と比較して企業ブランディングを見直すことは、採用力アップに欠かせない要素です。
現在当社では、組織改善やブランディングからマッチングまでワンストップで完結できるための総合採用サービスの提供を強化しております。例えば、評価スコアが低ければ、採用の前に人事制度や報酬水準を見直して採用競争力を上げるよう提案していきます。企業が自社の魅力を本質的に高めていけば、ユーザーも、キャリアで損をしたくない、キャリアを積極的に選びたい人材がOpenWorkに集まるようになるはずです。
私たちは、クチコミ情報と会社の発信力を高め、他社では困難なユーザ体験を作っていくことができると考えています。このサイクルでマッチングの精度を高める事で企業の売上拡大や、ひいては、日本全体の労働生産性を上げて行けると考えています。
――OpenWorkのデータベースは、人材エージェントでも使えますか?
可能です。当社は、ユーザー体験を重視しておりますので、ユーザーからの評価が高いエージェントのみ利用可能になっており、評価が下がると使えなくなります。そのため、ご利用いただく前段階で、長く利用できる要素をお持ちかヒアリングし、課題点があれば正直にお伝えしています。これにより、必然的にデータベースへアクセスするのは優良エージェントのみになりますので、当社が企業にエージェントを紹介する際も、自信をもってお勧めできます。
目指すは「企業と働く人がお互いを選び合う『相互選択型』社会」
――御社が目指すゴールはどこでしょうか?
ゴールは「企業と働く人がお互いを選び合う社会」です。当社では「相互選択型」と呼びます。ですが、道のりはとても遠いと思っています。
労働はかつて、罰として与えられていました。資本主義社会になり、資本家と労働者の構図ができ、労働者が資本主義社会の中で貨幣を獲得するために自分の労働時間を切り売りして対価を得る「ライスワーク」が、今日まで長く続いてきました。
AIが進化する現代は、ルーティン業務はAIに代替されていきます。その中で、労働は罰や対価を得るためだけでなく、労働を通じて生きる意味を感じたり、感謝されたり、子どもから「すごいね」と言ってもらえるためのライフワークになれば、未来はもっと生きやすい社会になると思います。
現状を見ると、大手企業に長年勤めた後、早期退職制度を利用して40代で退職したら転職先が1社もない、という人も少なくありません。これでは、「いま辞めたら年収が下がってしまう」と考え、転職を躊躇してしまうなど、いわゆるキャリアを会社に預けてしまっている状態が多くみられます。これでは、働きがいどころではありません。企業側も、採用後のミスマッチとわかっても簡単には解雇できない。これを当社では「相互拘束型」と呼びます。
私は近い将来、お互いが選び合う「相互選択型」にしたいと思っています。OpenWork上の情報を見ることで、自分が希望する報酬や働き方、社風などを維持したまま転職できる社会になれば、勇気を出して踏み出せると思います。企業側も、将来的に活躍してくれそうな方を採用し続ける必要がなくなり、その時々の事業環境に合う人を採用できるようになります。
――お互いが、選び選ばれる関係になるということでしょうか。
その通りです。個人は選ばれるために自分を磨き、交渉できる立場になっていく。「自分が実現したい生き方や働き方を実現するためには、自分を磨き続けなければ」という考えになります。これから情報がオープンになればなるほど、自分のキャリアは自分で作っていく必要性を実感するでしょう。
企業も、新卒の年収だけ上げて既存社員の給与は上げないような小手先の採用をしていると、誰からも選ばれなくなります。限られた資源の中で、いかに自社を魅力ある企業にしていくかに取り組むでしょう。そのために必要な情報を、当社はこれからもオープンにしていきます。一方で、情報が増えれば増えるほど選択は難しくなるので、AIの力も使いながらパーソナライズして届け、人が流動する「相互選択型」の社会をつくります。
――今後、相互に選択できる社会において、人材紹介会社はどう舵を切っていくべきでしょうか。
私は、人材紹介の介在価値は、求職者や企業が自らでは得られない情報提供か、採用までの工数削減に貢献することだと思っています。今年、人材紹介会社が弊社にグループインしました。現場理解の一環として、現在私自身がRA(リクルーティングアドバイザー)やCA(キャリアアドバイザー)業務を実践していますが、その中で改めて、人材紹介会社がなくなることはないと確信しました。
AIの発展により、たしかにルーティンワークはなくなります。その一方で、マッチングの生産性と精度が向上し、コンサルタントは勘や経験の長さに関わらず、量が増えても人材に寄り添った案件を届けられるようになるでしょう。その際に、OpenWorkのデータを活用いただくことで、より客観的なデータに基づいた提案が可能になります。例えば、求職者から「同業三社の福利厚生の違いを知りたい」と言われたとき、経験や勘がない入社数カ月の新人でも説明できるような環境が実現すると考えます。
人材紹介会社は、自社の提供価値を磨いてアップデートし続けて行くことが求められますし、弊社は引き続き人材エージェント様との協業を強化していきますので、相互に良いマッチングを増やすことができれば、より社会に貢献できると思います。
人材紹介会社とのタッグで目指す〝非連続的〟成長
――2026年3月にBNGパートナーズがグループインしました。どのようなシナジーを期待してのアクションでしょうか。
これまで当社は、自社のダイレクトリクルーティングサービスだけでは提案できないCxO人材などは、他のエージェントをご紹介していました。また、OpenWorkでマッチングした方々のラストワンマイル、つまり最後の一押しは企業様にお任せしている状況でした。今回、株式会社BNGパートナーズ(以下、BNG)をグループインしたことで、今後はBNGの人材紹介部門からの提案や、採用に向けた伴走など、グループとしての採用支援の幅と、質を高められます。
BNGにとっては、OpenWorkの圧倒的なデータベース活用することで広告費をかけずにユーザーへアクセスできます。広告費を抑えて利益率が改善すれば、BNGパートナーズのRAやCAの待遇が上がるので、採用力や組織力の向上にも寄与します。
この先も、グループインしていただける企業様がいれば手を組み、延長線上にはない非連続的な成長を続けたいと考えています。
――数多ある人材紹介会社からBNGをグループインさせた理由は何でしょうか。
ターゲット層が近いことが大きな理由の1つです。BNGが得意とするベンチャー企業のハイクラス領域が、当社が持つミドル、ハイクラス領域のデータと相性がよく、より高精度に活用できると考えました。また、BNGはこれまで長きにわたりハイクラス人材のご紹介において多くの実績を持っていたことと、その豊富なナレッジが既存のビジネスとシナジーを生み出すことが期待されたからです。
人が集まる企業になるための「たった1つの心がけ」とは
――情報がオープンになっていく中、企業は採用にどう取り組むべきでしょうか。
これからの時代は、従業員が長く居続けるのは当たり前ではなくなります。選ばれ続ける会社にならなければ人は集まりません。ところが今でも、昔から同じ業務ツールを使い続け、商慣習や社風を変えない企業は存在します。そこへ若い人材が入社すれば「未だにこんな古い開発言語を使っているの?」「今どきExcelだけで業務管理するなんて」と驚き、その会社へ居続けても発展性がないと考えてしまいます。昭和時代には憧れの就職先だったとしても、20代にその感覚はありません。現代は売り手市場ですから、少しでも違和感を覚えたら、すぐに転職するでしょう。
――最近、「自分の使うAIツールが使えない会社だったから辞めた」という退職者の声を耳にしました。
はい。わがままだと感じる人もいるかもしれませんが、これが現代の働き手の本質だと思います。時代はもう、人生を捧げる会社を選ぶのではなく、いかに自分の人生やキャリアをよくするかで選ぶようになっています。企業は、自社のサービスの市場だけでなく、労働市場に適応していく意識が必要になっています。
――ありがとうございます。最後に、御社の中長期的な目標をお聞かせください。
OpenWorkリクルーティングの連続的成長と、ワーキングデータを活用した事業拡大、M&Aによる非連続的成長を基本戦略とし、2030年までに営業収益150億円、営業利益30億円を数値目標にしています。
もちろん、この数字が目指すゴールは「相互選択型」社会の実現ですし、その先には、働きがいを上げていきたいと考えています。
日本の働きがいが世界では最低水準と言われて久しいですが、労働人口が減る中、労働生産性を上げる一つの要素として、自ら選び、熱意をもって、働く意味を感じる世界がつくれれば、もう少し幸せな国になっていくのではないか、と考えています。

