PORTERS MAGAZINE編集長の渡邊智美が、先進的な取り組みを行う企業や人にインタビューする『編集長が訊く!』のコーナー。今回は、2026年9月で設立10周年を迎えるフォースタートアップス株式会社の代表取締役 CEO、志水雄一郎氏を取材、日本の経済成長におけるスタートアップ企業支援の重要性について聞いた。

成長産業支援に注力し続ける理由

渡邊智美(以下、渡邊) 設立10周年、おめでとうございます。改めて、御社の事業内容からお聞かせください。

志水雄一郎氏(以下、志水) ありがとうございます。フォースタートアップスは、世界で勝負できる産業、企業、サービス、人を創出し、日本の成⻑を支えていくことを目指しています。成長産業企業への人材と資金の支援、出口支援としてのM&A仲介など、成長産業を包括的に支援する成長産業支援事業を展開しています。

渡邊 設立時から一貫して「成長産業支援」に注力してこられた理由は何でしょうか。

志水 創業当時である2010年代のTOPIXとS&Pの騰落率を比べると、S&P500からGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)を除いたS&P495とTOPIXは、10年間にわたりほぼ横ばい状態です。それに対し、新産業であるS&P5(GAFAM)はその約5倍も上昇しました。それは、GAFAMを中心とした新産業が、日本と米国における経済成長差をもたらしていることを意味します。加えて直近では、エヌビディアやテスラなどの新興企業への投資が、更なる経済成長を後押ししています。新産業は、莫大な雇用と賃金上昇を牽引する存在であり、日本発のイノベーションが必要なのはまさにこの点です。2025年時点で、日本の賃金水準はOECD加盟国38か国中25位と、先進国の中でも低い水準にあります。それにもかかわらず、日本の教育機関やメディア、政府は「日本の賃金は世界的に見て低い」という現実を、十分に伝えてこなかったのではないでしょうか。

また、HR業界は、未来を創る可能性を秘めた孫正義氏のような優秀な若者が現れても、キャリアアドバイザーが「あなたは優秀だから大企業や、コンサルティングファームが向いています」とアドバイスし、起業という選択肢を提示してきませんでした。その背景には、HR業界のビジネスモデルもあります。「起業して雇用を生み出す側になりなさい」と勧めても、採用が発生しなければ手数料収入にはつながりません。また、そもそも「起業家がブライトキャリアである」という認識もないからです。結果として、日本のHR業界は、どこに採用予算があるかというシェア争いをすることばかり考え、「どの産業で日本が国際競争力を持つべきか」という視点を欠いたまま、今日に至ってしまったのです。こうした現状に違和感を覚え、人の可能性を信じ、新産業を創る側にフォーカスしたビジネスが必要だと思ったことが、成長産業支援に注力し始めた理由です。

渡邊 どのような取り組みから着手しましたか?

志水 誰も手を付けていなかったスタートアップ企業の経営陣組閣の支援から始め、国内の成長産業やスタートアップ・ベンチャー企業の情報プラットフォーム『STARTUP DB』を構築しました。また、官民連携、オープンイノベーションを通じて、スタートアップ産業市場そのものの認知向上と基盤づくりに努めました。さらに、設立時に打ち立てた「ハイブリッドキャピタル」構想に基づき、10億円規模のファンドを運用し、宇宙系などディープテック(社会課題を解決する発見及び技術)領域への投資を通じて、技術やバリュエーションに対する眼力を得ました。

渡邊 取り組みの成果を教えてください。

志水 当社はこれまで、例えばD2C(メーカー直販)からWeb3(分散型インターネット)、SaaS(インターネット経由のソフトウェアサービス)、ディープテックといった技術トレンドの変化を柔軟に捉えながら、起業家やベンチャーキャピタル(以下、VC)と接してきました。その結果、圧倒的なネットワークと信頼関係を築くことに成功し、スタートアップの勝敗ポイントと人的要件を知り尽くしたナレッジとデータを獲得できました。

渡邊 志水様は常に幅広い業界の方々と新しい関係を築いていらっしゃると、SNSを拝見して思っていました。今日のお話を聞いて、その理由が分かりました。

志水 もちろん、HR業界にも優秀なリーダーは数多くいます。しかし、一番大事なことは、日本の未来はどこへ進むか、世界はどこに未来を見出しているのか、人類の未来はどこへ向かうのかを誰よりも早く知り、統合し、自分の見解を示すことだと思います。そのためには、自らをアップデートし続けなければいけません。

成長産業に立ちはだかる「2つの壁」を超える事業戦略とは

渡邊 志水様が設立するに至った経緯もお聞かせください。

志水 前職のインテリジェンス(現パーソルキャリア)時代、40歳前後で自らのキャリアに迷う経験をしました。その再出発の場所として辿り着いたのが、ウィルグループの子会社であるセントメディア(現ウィルオブ・ワーク)でした。ウィルグループのメンバーは、みな非常に前向きで、カテゴリーNo.1のブランドや事業を創ろうとする強い思想があり、それは私自身が挑戦したいテーマと完全に合致したため、私もテクノロジー領域で新規事業を立ち上げることになりました。その背景には、日本の失われた30年と賃金水準の低さに対する強烈な危機感があったからです。

渡邊 設立から10年、日本の成長産業を取り巻く環境はどのように変化していると感じますか?

志水 2つの変化による新たな壁に直面していると感じています。1つ目は、市場の構造変化です。2030年3月以降に実施される東証グロース市場の改革(*)に伴い、従来のIPO一辺倒からM&Aによる適切なエコシステム循環への変化が不可欠になりました。2つ目は、世界情勢や地政学リスクの変化です。現在、日本は世界で最も地政学リスクが高い地域の1つに位置しています。ウクライナの事例を見ても分かるように、イノベーションや日々のビジネスは「安心安全」の基盤の上にしか成り立ちません。国策の至上命題として、ディープテックや宇宙、デュアルユース(軍民両用)を含む「戦略17分野」(国の成長戦略における重点投資分野)への人的資本と資金の集中が求められています。そのため、これからはスタートアップだけでなく、大手企業のカーブアウト(自社事業の一部を切り出し新会社として独立させる)やポストIPOも含めたイノベーション全体の支援へとフェーズへと移行していきます。
* 東京証券取引所は2030年3月1日以降、グロース市場の上場維持基準を「上場10年経過後に時価総額40億円以上」から「上場5年経過後に時価総額100億円以上」に引き上げ、「高い成長を目指す企業が集う市場」に再定義する。

渡邊 新たな壁を越えるための事業戦略について、詳しく教えてください。

志水 具体的には、3つの柱となる事業を循環させます。第1の柱は、成長産業領域への人材支援である「ヒューマンキャピタル事業」です。当社が運営する成長産業領域に特化したデータベース「STARTUP DB」を活かし、国家戦略17分野をはじめとする国策上重要な成長領域を見据えながら、スタートアップの成長を人材・組織面から支援します。第2の柱は、ヒューマンキャピタル事業で得た起業家やVCとの圧倒的な信頼関係を活かした出口支援「スタートアップM&A仲介事業」です。第3の柱は、手元に貯蓄したキャッシュを活用した、自社グループ資金での機動的な投資です。出資した企業に対してヒューマンキャピタル事業でバリューアップを行い、M&A仲介事業でEXITソリューションまで支援するモデルです。これらを実現させるために活躍するのが、経営視点で人材支援を行う「ヒューマンキャピタリスト」、あるいは「ハイブリッドキャピタリスト」と言うほうが正しいかもしれません。彼らはVCと直接対話するだけでなく、「この技術とこの企業を掛け合わせればイノベーションが起きる」という国策と連動した未来を描くことができるのです。設立の志である「日本経済の再成長」という目的は変わりませんが、我々が向き合う「解決すべき社会課題」のフェーズを進化させます。これまでの「認知拡大・場の提供」という初期の役割を果たした自社カンファレンス等に一区切りをつけ、リソースを新たな構造課題の解決へと集中させます。

現在、私たちは高い収益を上げられる体制が整ったことで、自己勘定投資を行えるステージに来ました。2031年3月期のプライム市場への市場変更を見据え、日本経済の一丁目一番地で社会を動かし、国際競争力を取り戻す一端を担って行きたいと考えています。

ビジネスにおける最たる挑戦が日本の未来を変える

渡邊 目標の実現には、経営層だけでなくメンバー全員の高い志が不可欠だと思います。どのように社内の熱量を高めていますか?

志水 当社では、社内勉強会を年間約200回実施しています。例えば、VCが見立てた「勝つスタートアップ」の起業家に登壇いただき、自らのミッションや未来の世界観を直接語っていただきます。メンバーは日々、熱量の高いシャワーを浴びることで情熱を共有し、自分が誰のために人生や仕事の時間を使うのかを考えています。

渡邊 常に優れたアントレプレナーの熱量を感じる機会を作っているのですね。メンバーも、支援や創意工夫への意欲が高まると思います。その点もメンバーの評価基準に反映されますか?

志水 はい。当社では、単なる売上高1位ではなく3つのバリュー(Startups First/Be a Talent/The Team)の体現者を高く評価しています。 Startups Firstは、日本の成長と、進化し続ける挑戦者のために。Be a Talentは、自ら学び、起業家から選ばれる存在になるためにアップデートし続けること。The Teamは、個人の売上だけでなく、仲間のプロデュースができるマネジメント力です。

渡邊 ありがとうございます。当社もPORTERSというシステムを通じて日本と世界の雇用創出、経済成長に貢献したいと思います。最後に、今後の展望を教えてください。

志水 人が選択できる行動の中で最も尊く美しいのは、「挑戦すること」だと思います。そして、ビジネスにおける最たる挑戦は「起業」です。日本の労働人口が減少し、国際競争力が低迷し続ける中、人の可能性の最大化と適切な人材配置を行わなければ、国力はさらに落ち込んでしまうでしょう。私たちが目指すのは、未来の課題解決に挑むリーダーや、挑戦する人を支えるインフラ。その先にあるのは、新産業によって日本がもう一度息を吹き返し、世界から認められる国になる未来です。その実現に向けて、圧倒的な当事者意識を持ち、日本の未来を変えるナビゲーションを果たし続けます。