徹底的な業務の仕組み化で事業を拡大。「働く人が自慢できる会社」を目指して
愛知県名古屋市で建設業界の施工管理者を派遣する企業といえば、株式会社コプロコンストラクションの名は外せない。施工管理経験者の高齢化と慢性的な人材不足の現在、同社はどのように対策をしているのか。代表取締役社長の越川裕介氏に聞いた。
未経験者を即戦力へ育成する時間と労力は惜しまない
――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。
当社は、建設およびプラント業界向けのエンジニア派遣事業を展開しています。愛知県名古屋市に本社があり、全国9拠点で4,100人のエンジニアが稼働しています。職種は施工管理者がメインで、施工図担当、CADオペレーターなど各エンジニアもプロジェクト先で働いています。
2025年4月には機能を名古屋から東京へ移転し、今後は関東のマーケットシェアを広げ、全国区でのナンバーワンを目指します。
――建設業界は、改正労働基準法による「月45時間、年間360時間を超える時間外労働に対する罰則規定」の対象の一つです。事業に何か影響はありましたか?
この法改正は事業者にとってネガティブに捉えられがちですが、当社はポジティブに作用しました。一人当たりの残業時間数を減らすために、企業は人を増やして分業するかシステム化するかの選択が多かったように見受けられますが、当社の取引先様は増員のオーダーが非常に多かったため、追い風になりました。一方で、技術社員(エンジニア)にとっては、残業が減ったぶん手取りも少なくなりますので、当社では、技術社員のベースアップを実施し、クライアント企業様にもご理解いただけるよう務めています。
――労働力人口が減少する中、技術社員の人数をどうやって確保していますか?
かつては経験者を採用して即戦力として派遣していましたが、経験者の高齢化と若手の人手不足が進んでいますので、未経験者を採用して、自社で戦力に育て上げる方法が主になりました。当社では、採用の約80%が未経験者です。現在は、建設業界の魅力を伝えて、業界に興味を持っていただき、後に戦力化として定着していただくまでのプロセスに、かなり注力しています。
最近は、施工管理職の業務内容も変化してきました。かつては、幅広い業務を施工管理者が一人で担っていましたが、今はノンコア業務や事務的作業を別の人材がサポートするなど、分業化が進みました。
――施工管理者の教育にはどのくらい時間がかかりますか?
入社時に1週間の研修を実施し、その後は現場に入りますが、入社から3年間は定期的に研修・教育を繰り返しながら、徐々に慣れてもらうようにしています。短期間にとりあえず知識を詰め込んで即戦力として送り出すことは考えておらず、時間をかけて育てています。
事業拡大しても業務が回る「仕組み化」が強み
――派遣事業において御社が大切にしているマインドは何でしょうか。
もっとも大切にしているマインドは「働く人が長く安心して働ける会社」であり、そのために企業選定やフォローアップ、教育をしています。技術社員が定着する環境をつくることが当社の務めだと思います。
――定着するための具体的な取り組みを教えてください。
例えば、技術社員を派遣する企業は、単価基準ではなく定着しやすい企業を優先しています。派遣スタッフを積極的に採用していて、教育に理解があり、自社の社員と派遣社員を分け隔てなく接してくれるような、技術社員が働きやすい企業です。また、働きやすい環境づくりを企業と協働できるよう、契約時から就労期間中まで、同じ担当者がワンストップでフォローアップする体制を、2021年から始めました。
建設業界の定着率は平均70%程度ですが、当社は80~90%を目指しています。理想は、引退する人を除く100%です。そのために、就労中のフォローアップはもちろん行いますが、むしろその前のマッチング精度の向上や、未経験者に業界を理解してもらう工夫などに注力しています。派遣する側が、業界理解をしていない求職者を送り込むことがあれば、採用企業、求職者、派遣会社の三方にとってのミスマッチになってしまいますので、質を担保するよう心掛けています。
――御社の強みを一つ挙げるとしたら、何でしょうか。
仕組み化ができている点だと思います。現在、当社の技術社員は4,000人ですが、今後5,000人、6,000人、1万人と増員しても、これまでの方法で会社が回る仕組みができている点が、当社の強みです。
規模が大きくなるほど、社員一人ひとりがヴィジョンや戦略を理解して行動する組織を作ることが難しくなります。当社では、トライアンドエラーを繰り返しながら3~4年かけて仕組み化し、浸透させました。全員が考え方を理解して、行動し、フォローして、定着していくための戦略を1年かけて作り、徹底的に実行し続けた結果が今だと思います。おかげさまで、周囲から「営業力が高い」と評価いただく機会が増えましたが、競合他社もさまざまな戦略を実行していますので、当社が突出して素晴らしいわけではなく、まだまだ改善の余地があると思っています。
派遣で働きたい人を増やすには業界ナンバーワンの影響力が必要
――競合他社との差別化ポイントを教えてください。
人材紹介会社に依存しすぎず、自前採用にこだわっています。求人媒体で自社の魅力を訴求して、自分たちで採用し続ければ必ず競争力になり、ノウハウとして蓄積されます。人材紹介会社に依存すれば楽になる面はありますが、単価のコントロールがきかず、ノウハウも蓄積しないので、バランスは大切だと考えています。
現在は、求人媒体へ出稿してからターゲット層を目標数まで集めるところまでを、費用を見ながら実施し、面接での説明、ヒアリング、クロージングまでを仕組み化し、徹底的に磨き続けています。
――建設業界のマーケットは今後も拡大し続けるのでしょうか。
人材の需要は維持できると予想しています。当社の場合、1年前の新規オーダーは約3,000件でしたが、24年度は毎月4,000件以上の新規オーダーがあります。うち契約に至る確率が10%なので、むしろニーズに応えられていない課題があります。
採用は、オーダー件数に関係なく、毎月約200人、年間2,300人を目標に実施しています。今後、年間3,000人、4,000人と増やす予定です。ただ、闇雲に数を増やしたいわけではありません。建設業界で活躍する人を増やす目的が主であり、そこに当社の存在意義があると思います。
――女性活躍社会についての取り組みがあれば教えてください。
業界的に、まだまだ男性ニーズが高い傾向にありますが、ここ数年で、女性の現場監督は当たり前になり、女性スタッフの受け入れ環境はかなり整ってきました。当社では、性別関係なく採用しており、男女比も半々くらいです。
――最後に、今後の展望をお聞かせください。
売上・人数ともに業界ナンバーワンになります。ですが、それは最終ゴールではありません。「技術社員が自慢できる会社になる」ことで、建設業界にとって必要な会社になれると信じています。派遣人材は、非正規雇用と言われ正社員より格下に見られがちですが、スキルを活かして働くプロフェッショナルであることにかわりありません。技術社員の皆さんが、当社で働くことを自慢できる会社でありたい、そう思いながら日々尽力しています。
私が派遣業界に入った16年前は、派遣に対する風当たりが強く、リーマンショックもあり、「派遣切り」がトレンドワードになる時代でした。派遣というだけで正社員に比べて仕事ができないと思われるわけです。この理不尽で悔しい思いは、今も心に残っています。派遣で働くには何かしらの理由があり、けっして能力が劣っているわけではありません。派遣で働く人が正しく評価される社会にするためには、当社が業界に影響力を持つ必要があります。「業界ナンバーワンのコプロの技術社員はみんな優秀」だと認められる雰囲気をつくり、かつ当社で働く人がそれを自発的に広げてくだされば、それが本当にいい会社の証だと思います。
――たどり着けそうですか?
たどり着きます。世の中の派遣への印象は少しずつ変化しており、近年は派遣という働き方を自ら選ぶ人も増えました。以前より給与が高くなり、プロフェッショナルとして見ていただける環境に進化したと思います。低賃金イメージがあると、派遣の働き方を選ぶ人は増えません。当社は、働く人へ還元することに重きを置いています。これはけっして、きれいごとではありません。還元し続けて派遣業界のイメージが上がれば、結果として自社の業績アップにつながるはずです。