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2025.04.14
コラム

デジタルOJTでエンジニア採用市場を活性化

デジタルOJTでエンジニア採用市場を活性化

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エンジニアの人材不足にともない、未経験者を自社採用し育成する派遣会社が増えたため、育成の質が問われるようになった。そんな中、デジタル上で実務経験ができる『DIGITAL OJT』が登場し、すでに複数の大手人材会社が導入を始めた。 『DIGITAL OJT』誕生の経緯とエンジニア育成の課題について、『DIGITAL OJT』の生みの親、株式会社ドットライフ代表取締役の新條隼人氏と、同社を支援する株式会社グロースリンク代表取締役の日坂良氏に聞いた。


デジタルOJT導入によりメンターエンジニアが本来の仕事で活躍できる

最初に、ドットライフの事業内容と新條様のご経歴をお聞かせください。

新條ドットライフは、デジタル上で実務経験が積める『DIGITAL OJT』の運営を中心としたエンジニア育成支援企業です。2014年1月に設立し現在12期目ですが、22年末までは現在と異なる事業形態で、事業譲渡などを経て現在の事業にしましたので、感覚としては3期目です。

私は新卒で後払い決済サービスの会社に入社し1年半働いたあと、24歳のときに『another life.』という人生体験メディア事業でドットライフを設立しました。業績は伸びていたものの、同時に「このままでは社会にインパクトを与える規模にはならない。何かを変えなければ」と思っていました。そのタイミングで、VCのファンド満期(ベンチャーキャピタル運営ファンドの償還期限)で買い戻しを行い、新事業の『DIGITAL OJT』にシフトしました。

再創業の際に、市場で急速に台頭してきた「リスキリング」というテーマが、自分のビジョンと重なりました。リスキリングは社会的なニーズが自明なものの、リスキリングをして費用対効果が合うのかは曖昧なものが多いという印象も受けました。国内外で様々な業種業態を調査する中で、ITエンジニアの育成については、受給ギャップが大きく投資対効果が算出しやすいという特徴があり、エンジニア向けの育成装置として『DIGITAL OJT』を始めました。

『DIGITAL OJT』には、JavaやSalesforceなどのコース科目があり、エンジニアとしての技術だけでなく、納期管理や連絡マナーなど、ソフトスキルの評価や育成の評価もできる仕様になっています。過去のデータも蓄積され、年々ブラッシュアップしますので、データが資産にもなります。リリースして1年と3カ月(24年1月にベータ版、同年10月に有償リリース)ですが、有償受注は二桁を超え、導入企業の60%以上は従業員1,000名以上の企業です。

日坂新條さんに「いま、CADシステム系のエンジニアが砂浜で指輪を探すレベルでいない」と話したら、ネットワークを使って広島の優秀なエンジニアをメンター兼開発で採用して、すぐにCADコース作っちゃったんですよ。本当に行動力がある人です。

日坂さんと新條さんの出会いは?

日坂私が協議員として参加する生成AI活用普及協会(GUGA)を通じて知り合いました。エンジニアを育てる際、一般的に経験を積んだエンジニアがメンターとなって経験が浅い人を教育しますが、それは同時に、即戦力エンジニアの時間を育成に使ってしまうことを意味します。企業にとっては、この教育につかう時間は、見えにくいですが大きな損失となっています。デジタルで実務経験ができるなら、それはもうドストライクなサービスだと思い、協力を決めました。

未経験者を育成して派遣する事業モデルが、エンジニア派遣市場に浸透した感があります。

日坂未経験者を育てて派遣しなければ採用を継続できないのが正直なところでしょう。即戦力エンジニアはニーズが高く、採用に1人150~200万円かかるケースがざらにあります。さらに、技術は日々進化し、新たな技術が生まれるたび、それに対応できるエンジニアが必要になります。継続的な予算を考えると、未経験を育成して派遣するほうが費用を抑えられます。そこにもうまくマッチしたのが『DIGITAL OJT』です。

日坂さんはエンジニア出身なので、より一層『DIGITAL OJT』の魅力にいち早く気付かれたのですね。

日坂そうかもしれません。私はエンジニアだった当時から所属会社の事業拡大に務めていたので、前職のジャパニアス創業時にお声がけいただき、その経験と実績がグロースリンク設立につながっています。グロースリンクは、エンジニア領域の総合人材サービス会社として、21年に創業しました。事業は大きく5つに分かれ、エンジニアリングソリューション事業、コンサルティング事業、コラボレーション事業、ベトナム・オフショア開発事業、生成AI活用支援事業です。

エンジニアリングソリューション事業部は、エンジニアが取引企業に常駐して業務を協働します。コンサルティング事業は、SaaS(Service as a Software)を始めとするテクノロジー領域やIPO、人材などのコンサルティングを行うほか、アスリートをSEにする取り組みも実施しています。コラボレーション事業は、先端技術を持つ若手と企業をつなぐ取り組みです。ベトナム・オフショア開発事業では、パソナ子会社のサークレイスと、約700人のエンジニアが在籍するハイブリッドテクノロジーズと当社の合弁会社をベトナムに作りました。生成AI活用支援事業は、生成AIの普及推進、企業や団体向け研修などを行っており、23年には一般社団法人生成AI活用普及協会に加盟しました。

『DIGITAL OJT』を活用した三方よしの社会をつくる

派遣会社が『DIGITAL OJT』を活用するメリットを教えてください。

日坂例えば、これから需要が減る一般事務職の人材に『DIGITAL OJT』でリスキリングしてもらうといいと思います。スキルシートに「エンジニア実務研修者」と書けますし、疑似プログラムを使用しているので、ソースを開示してスキルを見せることができます。加えて、『DIGITAL OJT』は一方通行のレクチャーではなく、チャットでコミュニケーションを取るため、ビジネスマナーも教えることができるので、一石二鳥です。

新條いま派遣市場が課題として抱える単価アップのタイミングとしても、リスキリングによる職種転換は有効です。同じ職種、同じスキルのまま単価だけ上げるお願いはしづらいですが、職種や現場が変われば、時給を上げやすくなります。

ちなみに、OJTのフィードバックはチャットボットですか?

新條基本は人です。ただ、AIのほうが優れている点もあるので、人とAIの強みを生かした体制を作っていこうとしています。

派遣法改正により教育訓練が義務化されたことで、教育システムを受け身で導入した派遣企業もあると思います。『DIGITAL OJT』のように、企業のエンジニア不足、スタッフの時給上昇、派遣会社の稼働率の向上といった諸問題の解決を見据えたサービスの登場は、企業、スタッフ、そして派遣会社にとってもありがたいですね。

新條ありがとうございます。 『DIGITAL OJT』は、「よい研修だったかどうか」の曖昧な評価に終わらず、費用対効果までを考えたサービスです。エンジニアのスキルやキャリアに対して真剣に投資をしない派遣会社は企業から選ばれにくくなります。一方で、投資をしてもその成果が曖昧であれば同じことです。今後は教育の費用対効果、成果の可視化がより一層重要になっていくと考えています。

日坂今はエンジニアが働く場所を選ぶ時代なので、派遣会社も採用企業も、どんな成長ができる会社か、どんな教育を提供できるのかを明確にすることが重要です。

新條隼人 Hayato Sinjo


株式会社ドットライフ  代表取締役 

一橋大学卒業後、新卒で決済系ベンチャーを経て、2014年1月に株式会社ドットライフを創業。コンテンツマーケティング事業を展開。事業売却を経験し、2024年より仮想環境のOJTでエンジニアの戦力化を支援する「DIGITAL OJT」を運営。

日坂 良 Makoto Nissaka


株式会社グロースリンク  代表取締役(元ジャパニアス代表取締役社長) 

ジャパニアス株式会社の創業時に入社。代表取締役社長に就任後、先端エンジニアリング事業を立ち上げ1,200名規模のエンジニア集団を構築。2021年に株式会社グロースリンクを創業。2023年には一般社団法人AI活用普及協会の協議員に就任。SES企業や生成AI企業8社の顧問を務める。