Column/News
“ヒト”に関わるビジネスへの想い
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社 代表取締役社長 福留拓人
経営者とひざを突き合わせ議論してきたか?
コンサルタントのあるべき姿
エグゼクティブ・サーチ。その本質的な意味やサービスを理解し、実践しているコンサルタントは、HR業界の中でどれくらいいるのか――。アメリカの大学で経営学を学び、投資銀行業務を経て、HR業界に携わるようになった福留氏の言葉は厳しい。日系ヘッドハンティング企業のパイオニアである東京エグゼクティブ・サーチの社長でもある同氏が、HR業界のあるべき姿や、顧客に提供すべき価値について語った。
誰も理解していなかったエグゼクティブ・サーチの本当の役割
まず福留様が、HRビジネスに携わるようになったきっかけを教えてください。
私はアメリカの大学で経営学を学び、帰国後オリックスにジョインして、投資銀行部門業務に携わりました。M&Aなどを通じて後継問題の解決を目指し、次元の高いファイナンスサービスを仕掛けるのが主な業務でした。投資先の企業に出向して人事責任者も経験し、戦略的な観点から組織構築に携わる中で、HRの課題を強く感じるように。
それは、日本にはプロの経営者の数が圧倒的に不足しているという点です。企業の買収や統合が加速する日本のマーケットでは、これから経営者選択への戦略、コンサルティングが一層強く求められるようになるでしょう。このような課題を解決できる水準の人材を発掘、育成するという観点でのビジネスに関心を強く持つようになりました。それを具現化し、専門的なHRビジネスを提供したいと考えて、東京エグゼクティブ・サーチに参画したのです。
実際にエグゼクティブ・サーチに従事して、HR業界に対し感じたことはありましたか。
私が入社したのは、リーマンショックの最中でした。また、自社も競合他社も含めて、業界が過渡期に差し掛かって混乱しており、エグゼクティブ・サーチのモデルや哲学が確立されていなかったのです。不況時に顧客が真に期待するエグゼクティブ・サーチのあるべき姿を、原点回帰して追求し、サービスを体系立てて見つめ直す所から始めなくてはなりませんでした。
具体的には、どのような点が欠けていたのでしょう。
不況時に、企業はこの難局を乗り越えて、再び成長軌道に載せることに挑戦します。それに際して、エグゼクティブ・サーチに求められることは、経営コンサルティングの知識を抑えつつ、同分野からブレイクダウンして、人事コンサルティングのサービスを施すことです。
前述した不況の際は、人材が大量に放出されるため、有能な人材をそれほど高価ではないコストで採用することが可能となります。この不況期の人材動向をうまく活用することは、人事戦略的には優れた投資と言えるでしょう。通常であれば得難い人材を良い条件で獲得し、景気が好転した後、大きな成長曲線を描くためのサポートやコンサルティングをする。それがエグゼクティブ・サーチの真の役割です。しかし、その役割はHR業界内であまり認識されていませんでした。
経営コンサルと同じ行動特性を持つべき
コンサルティング領域には踏み込まず、ハイクラス領域の人材紹介サービスも、エグゼクティブ・サーチという認識で広まってしまったのでしょうか。
そうですね。厳しい言い方をすると、以前はHR業界のレベルがそれほど高くありませんでした。経営者と「どんな人をお探しですか」という会話以上の、深い対話が可能な関係を構築することは、難しかったと思います。
このような関係性では、人材ニーズがなければ「景気が良くなったら、よろしくお願いします」という言葉で、コミュニケーションが閉じてしまいます。紹介会社もサーチ会社も同様の行動形態を取っており、顧客の視点からは多様な選択肢があるとは写りませんでした。このような状況から、経営者と寄り添ったアドバイザリーを求められる立場に、HR業界は参加することが難しかったという過去は否定できません。
本来コンサルタントというものは、景気の好不況に限らず、経営者に寄り添い適切な助言を求められる立場にあるものです。景気に連動してしまうということは、プロフェッショナルなコンサルタントの水準に達していない。そんな実情を改めて認識し、現状の改善に尽くしています。
エグゼクティブ領域のコンサルタントは、本来どのような資質を持った方が従事すべきなのでしょう。
エグゼクティブ・サーチは元々、アメリカの大手監査法人や戦略系コンサルティングファームから分派された組織です。経営の要素として人事領域を中核のものと捉え、より専門的なサービスを提供することに特化したものです。このため、コンサルティングファームに近いコンピテンシーを持っているのは半ば自明だと言えます。
またアメリカのトップクラスのエグゼクティブ・サーチでは、75%がCEO経験者であるとされています。知見や経歴はもちろん、コーチングスキルや人間的魅力など、助言を施すために様々な能力を兼ね備えることが求められます。
東京エグゼクティブ・サーチでは、通常の人材紹介サービスとは一線を画した「ピュアサーチ」を掲げていますが、その詳細について教えてください。
ピュアサーチは、転職を考えたことがない、少し大げさな表現で言い換えれば、絶対にしたくないと考えている潜在層へのヘッドハンティングです。
数十年後にそれぞれの企業をマネジメントするための、高度な教育や経験を重ね、高い成果を出し続けている方が対象となります。私たちはクライアントから依頼を受けて、最適な候補者のリストを作成し、サーチのためのプロジェクトを進めていきます。
ここで敢えて伝えたいのは、一般的な人材紹介とは対照的に、ターゲットをより狭く設定することがピュアサーチの特徴ということです。
例えば太陽電池の技術者を探す際、10のメーカーがあると仮定します。通常の人材紹介会社はその全てのメーカーを対象として、さらに近い領域のメーカーなどにも選択肢を広げる提案をする傾向があります。
これに対し、弊社は技術力が高く、よりクライアントと親和性のある上位2、3のメーカーのみサーチ対象とする提案をします。野球に例えると、単なるヒットやタイムリー安打に留まることは選択せずに、大きな得点が期待できる長打に狙いを定め、試合の鍵を握る局面を作ることに力を尽くします。
これからは紹介だけでなく戦略の提案も求められる
そのような難易度が高いサービスを、御社はなぜ実現できているのでしょう。
クライアントが特に我々に強く求めるのは、変化が速くて緊張感のあるポジションです。過去の事例に当てはまらないことも多く、人脈の活用も難しいことがあります。このようなポジションの依頼を迅速に解決するためには、柔軟な発想で候補者像の仮説設定をする必要があります。
また、ターゲットの会社に長期間コンタクトを試みることや、リストアップした数百人に電話をかけ続けることなど、泥臭いこともする必要があります。そういったことは心理的な負担も多く、高いモチベーションをマネジメントするのは常に難しい課題です。
これらの課題を解決するため、弊社ではピュアサーチのパターンの体系化と、そのアップデートを試みています。具体的な手法や理念、理想像を共有することで、近年コンサルタントの水準向上を図ることができたと自負しています。
詳しく聞かせていただきありがとうございました。では最後に、HR業界全体に対してメッセージをお願いします。
HR業界には人材紹介も派遣もあります。共存共栄で、業界全体が健全に発展していくことが望ましいですね。今の日本は大量消費の時代ではありません。人口減少に伴い、経済や会社の在り方が変わっています。紹介会社はただ求職者を紹介し、企業に不必要な支出をさせるのではなく、適切な人員配置や還元をして、体力を弱らせない戦略を提案することも必要です。
そもそも人材紹介の紹介フィーがなぜ年収の30%か、答えられるコンサルタントがどれくらいいるでしょうか。企業の人事の予算や、一人当たりの採用単価を分からないまま紹介するコンサルタントが、経営者に適切な助言をすることはできません。求められるHRのサービスレベルは、飛躍的に緻密になりつつあります。この水準に常に応えるために、謙虚に学び最適な価値提供を続け、業界全体としても成長する時期が来ているのだと思います。
企業情報
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
東京都千代田区二番町11-5 番町HYビル6階Tel.03-3230-1881
https://www.tesco.co.jp/
1975年創業、リサーチビジネスのパイオニア。長年のエグゼクティブ・サーチで培ったノウハウを駆使して、唯一無二の人材を確保し、数多くの実績を上げている。有能で経験豊かな年齢層のみならず、未来のエグゼクティブを志す人々とともに歩み、積極的にバックアップを行っている。
プロフィール
福留拓人(ふくどめ・たくと)
1979年生まれ。東京エグゼクティブ・サーチ参画以前は米系コンサルティングファームにて米国・欧州進出企業のための進出支援プロジェクトに従事。日本へ帰国後はオリックス株式会社に勤務した後、教育系企業のCHO(最高人事責任者)を歴任。顧問企業での常駐型人事コンサルティング・プロジェクトにも従事。経営会議への定例出席、HR観点からの戦略的助言や経営レベルからの採用・教育・制度設計のコンサルティングもサーチと付随して手がける。社団法人 日本人材紹介事業協会 常任委員
趣味は1年半ほど前に始めたゴルフと20年継続している声楽。