上質な全業界マルチナショナル支援へのこだわり

2004年に設立し、バンコクとイースタンシーボード(チョンブリー)の2拠点で人材紹介サービスを提供する、ジェイ エイ シー リクルートメント タイ。 設立から20年の間に大きく変わった日系企業のプレゼンスについて何を思い、どう対策しているのか。同社シニアマネジャーの石渡諒氏に聞いた。

全業界マルチナショナルの人材サービスを提供

――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

ジェイ エイ シー リクルートメントは1975年に英国で設立した人材紹介会社で、11カ国に34の拠点があります。ジェイ エイ シー リクルートメント タイは、2004年に設立し、バンコクとイースタンシーボード(チョンブリー)で人材紹介サービスを提供しています。幅広い業界の人材を支援していますが、特に製造業のエンジニアや、ミドル・ハイクラスのマネジメント層、業界スペシャリスト、グローバル人材などに強みがあります。

採用サポートの体制は、私が所属する日本人候補者の採用サポート部署と、タイ人候補者の採用サポート部署に分かれています。日本人の採用数は2割程度と少ないですが、日本人は成約単価が高く、売上金額の比率は当社全体の約4割を占めます。

――グループであることのシナジー効果はありますか?

はい。当社はジャパンデスクを設けており、日本で登録された海外転職希望の候補者情報を共有しています。また、当社からも、タイで候補者が見つからないときに、ジャパンデスクに連絡をして日本で探してもらうこともあります。ジャパンデスクとは頻繁にミーティングを実施して、候補者の進捗情報をアップデートしています。

――チョンブリーとバンコクのマーケットの違いを教えてください。

採用企業でいうと、チョンブリーには製造業者やファミリービジネスの会社が多く、アットホームで人情味がある雰囲気です。バンコクは商社やメーカーが多く、ビジネスライクでスマートな取引を好む印象です。それぞれのエリアの特徴を踏まえた営業活動を心掛けています。

候補者でいうと、チョンブリーは工業団地が多く、ポジションもエンジニア系の工場長、QC(品質管理)QA(品質保証)、技術職などになり、40歳以上がメインです。60代で業界キャリアが長い人も多数います。バンコクは比較的20代~30代で、キャリアが5年未満の人が多い傾向にあります。

――タイの就労ビザは取りやすいですか?

タイの就労ビザは、比較的取得しやすいほうだと思います。国によってはビザの取得に年齢や職歴が関わる場合もあり、その場合は若手のビザ取得が困難です。その点、タイは20代や社会人歴が浅い人でも、さほどハードルは高くありません。タイには日系企業が多く、衣食住の環境が日本と近いので、日本人にとって、仕事や生活をしやすい国だと感じます。

手広く事業展開せず質向上を最優先に

――石渡さんが入社されたのは23年10月とのこと。それまでのご経歴を教えてください。

私は大学時代、タイのアサンプション大学で1年間の交換留学を経験しました。帰国後に社会人となり、1年半ほど日本で働いた後、13年にタイのリース会社であるオリックスリーシングに現地採用され、法人営業として20年まで在籍しました。社会人になった当初は、海外で働くことはさほど考えていませんでしたが、交換留学を通じてグローバルビジネスに興味が湧いたことと、妻の家族がタイでファミリービジネスをしていたことが縁となり、渡泰しました。

20年にはタイにある日系銀行へ転職し、その後、オリックスリーシングへ戻った後、23年10年にジェイ エイ シー リクルートメントへ入社しました。入社時はマネジャー職としてチームをマネジメントしながら、自身は新規開発も担当しました。その後、バンコク全体を視野に入れた大きな組織になったことを機に、24年9月にシニアマネジャーとなりました。現在は、タイ全土の日系マーケットの責任者です。

――20年から23年の間に2回転職された理由をお聞きしてもいいですか?

社会人になってからずっと「上を目指したい。いつかはマネジメントに携わりたい」という気持ちを持ち続けてキャリアを積み上げてきました。法人営業を軸に、常に上のステージへチャレンジする心を持ち続けて仕事にまい進するうち、20年からの3年間は転職を繰り返す結果になりましたが、23年に、その目標を形にできる当社に出合いました。

――石渡さんが入社後に取り組まれた営業戦略があれば教えてください。

営業の攻め方、戦略の立て方を見直し、ブラッシュアップしました。具体的には、顧客リストをセグメントしてターゲットを整備した上で、依頼件数や求人数を定量的に見ながら需要度の高い顧客をランク分けし、ランクごとにアプローチの方法を変えました。

――最近は、給与調査や人事制度をフックに新規顧客を開拓する人材サービス会社が増えました。御社も別の角度からのアプローチをしていますか?

定期的に給与調査レポートを企業へ提供していますが、それを専門事業部やプロジェクトにするほどではありません。企業ごとの経営戦略があると思いますが、全業界マルチナショナルに支援する当社としては、今は事業の幅をこれ以上広げることよりも、すべてのお客様に最適なサービスを届けるための品質アップに集中したいと考えています。

――人材サービス会社は、担当者を企業と候補者に分けるパターンと、どちらも担当するパターンに分かれていますが、御社はどちらを採用していますか?

当社は、採用企業と候補者のどちらも担当する360度型です。候補者にとっての360度型のメリットは、コンサルタントが採用企業の事業内容や企業理念、社風などを熟知した上で勧める点が挙げられます。コンサルタントは採用企業側ともやり取りをしていますので「なぜ候補者がその企業に必要か」について、企業との親和性をより具体的に説明することができます。候補者からも、「ここまで丁寧に企業を調べて説明してくれたのは当社が初めて」というお褒めの言葉をよく頂きます。採用企業にとっても、コンサルタントが企業を熟知した上で紹介しますので、ミスマッチ率が極めて起きにくくなります。

人材確保には賞与・福利厚生より給与のベースアップが必須

――タイにおける日系企業のプレゼンスをお聞かせください。

タイ、特にチョンブリーは、日系企業の進出が減少傾向にあります。今は業界問わず、中国系企業の進出が目立ちます。

日系企業は給与のベースが低く、賞与や福利厚生でそれを補う傾向がありますが、タイや中国の企業は給与ベースそのものが高く、働き手もそれを望みます。給与ベースが高いほうが、転職時にハイスキルだとみなされたり、ハウスローンが通りやすくなったりするからです。日系企業も、タイのニーズに対応できる採用戦略は必要だと思います。

そもそも、タイは高齢化が進んでおり、今後は生産人口が減少していきます。その中でタイ人の20代、30代を採用するには、どんなに大手の日系企業であっても、現地のニーズに見合う評価体制を整えなければいけません。

また、意思決定や稟議を通すスピード感も日系企業の課題です。日系企業は、稟議ひとつ通すにも現地と本社の確認が必要で、かなりの時間がかかります。一方、タイの企業は、大手であっても意思決定が早く、多くは現地に任せています。この点も、日系企業と異なる特徴です。それはつまり、権限移譲するにふさわしい優秀な人材ほど、権限移譲しない日系企業への入社を選ばない、ということになります。

採用企業は、選ぶ立場でも選ばれる立場でもあります。採用を始める前に、現地にとって魅力的な給与体系か、企業文化を明確にできているかをしっかり考え、候補者の入社後のキャリアビジョンにまで寄り添える状態を整えておかなければ、優秀な人材を獲得するチャンスはなくなっていくと思います。半面、ここに当社の介在価値があると考えています。当社のコンサルタントが、採用企業の魅力を伝えるためのアドバイスをしながら求人票を作成し、その思いを候補者に伝えます。