結婚や育児によるキャリア断絶がない社会の実現を

働く女性の労働力率がM字カーブすることにいち早く着目し、時短派遣などの取り組みで育児中のキャリア継続を支援してきた株式会社ビースタイルスマートキャリア(旧ビースタイル)。 創業23年となった現在の取り組みや課題について、2024年6月に代表取締役社長へ就任した中島健治氏に聞いた。

働き方に条件があるすべての人たちを支援

――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

ビースタイルスマートキャリアは、2002年にビースタイルの名称で設立し、出産や育児などでキャリアを中断した人がキャリアを活かして時短労働できる場所を提供するパートタイム型派遣事業(現・しゅふJOBスタッフィング)を軸に展開してきました。続けて12年には時短×ハイキャリア向けの派遣事業(現・スマートキャリア)、18年に人材紹介事業(現・スマートキャリアAGENT)、19年にハイグレード副業(現・BIZ-directors)を、それぞれ開始しました。派遣領域は、一般事務や経営管理部門、マーケティングなどのバックオフィスが主です。

当社が設立した頃のパートタイム派遣の仕事は、扶養の範囲内で誰でもできる簡単な作業がほとんどで、高度なスキルを持ちながらも、出産や育児などでキャリアを断絶した人が、そのキャリアを活かして働ける場所がありませんでした。その点に着目した創業者の三原邦彦が、女性のキャリア継続を支援する人材サービス会社として当社を立ち上げました。

設立当初は女性や主婦の派遣をうたっていましたが、現在は性別問わずにキャリア継続の支援をしています。とはいえ、日本の労働市場において男性の就業率は80%以上に対し女性は66%ですので、より女性が社会に参加しやすい環境づくりは、当社の使命と考えます。

――女性特化のサービスから性別問わずに変えた理由は、働き方や生き方の変化に伴うものですか?

おっしゃる通りです。創業時は「主婦=ほぼ女性」という認識でしたが、現在は「主夫」も増加するなど、性別問わずに家事や育児をする時代になりましたので、ひらがなの「しゅふ」に表記を変えました。当社のスタンスは、「家庭の都合で働き方に条件面の制約がある人と、同様の課題を抱えているすべての人たち」としています。性別はもちろん、未既婚区分や、子どもの有無による区別はしません。また、自身が「しゅふ」かどうかは、その人次第ですので、あえて定義していません。

フォロー専門の担当者を置きスタッフ満足度82.8%に

――御社で働く従業員も女性比率は高いですか?

ビースタイルグループとしての24年11月末時点の女性管理職比率は53.7%です。厚生労働省が発表した令和5年度の女性管理職を有する企業割合では、部長相当職で12.1%、課長相当職で21.5%ですので、当グループの女性管理職比率は高いと言えます。当グループでは、育児や介護などと両立したい従業員を対象に勤務時間を5~22時の中から自由に組み合わせて働ける制度「オクトワーク」制度を導入して、柔軟な働き方ができる環境を整備しています。これによる女性活躍の機会は大きく増えたと実感しています。

――取引先企業はどのような業界が多いでしょうか?

業界問わずお受けしていますが、多い領域は人材サービスやIT系です。人材サービス会社やIT系企業は、採用企業を率先する形で柔軟な働き方を導入していることが多く、パートタイム派遣の働き方にマッチしているからではないかと想像します。また、さまざまな条件の変化が激しいスタートアップ企業が多い領域でもありますので、その点も柔軟な働き方ができる業界になっている理由かもしれません。

おかげさまで、24年5月に自社で実施したフェロー(派遣スタッフ)満足度調査では、5段階評価で「満足」「おおむね満足」の合計が82.8%の結果になりました。また、周りの友人や知人に勧めたいか? という質問に対するNPS®(ネットプロモータースコア/商品やサービスへの信頼・愛着度)の満足度も高く評価されています。

――高い満足度を維持するための取り組みを教えてください。

営業担当者とは別にフォロー担当者がおり、月に1度は電話などでコミュニケーションをとっています。また、フェローごとに、どのタイミングで、どの担当者が、どのようなサポートをするか管理し、漏れがないよう情報共有しています。これらが、フェローの安心と信頼につながり、働きやすさとして評価されていると思います。

より早く正確なマッチングを目指した仕組み化が急務

――続けて、中島様のご経歴をお聞かせください。

私は、2007年にリクルートHRマーケティング(当時)へ入社し、12年にリクルートジョブズ(当時)営業課長、18年には同社の営業部長に就任後、21年にビースタイルホールディングスへ入社し、経営企画部長となりました。その後、22年に当社の取締役に就任し、24年6月から現職です。

――中島様が社長に抜擢された要因は、三原様からお聞きになられましたか?

僭越ながら、リクルートで培ったマネジメントとリーダーシップスキルだと聞いています。リクルートは仕組み化が得意な組織で、私も営業部長として長く営業の仕組み化に努めてきましたので、その経験を活かして、より大きく動ける組織に成長させていきたいと考えています。

――具体的には、どのような研修がありますか?

研修は、テクニカルスキルとポータブルスキルに分けて考えます。テクニカルスキルは、専門的な知識や技術です。ポータブルスキルは、どの会社、どの業界へ行っても使えるスキルで、クリティカルシンキング、エクセル、パワーポイントなどの研修がこれに当たります。ポータブルスキル研修によって個が成長し、社内での活躍はもちろん、市場価値を高めていける環境を提供したいと考えています。

――現在お考えの課題を教えていただけますか?

創業時よりキャリアを断絶した人材への支援をミッションとしてきましたので、中断前の若年層に対する支援は、正直なところ積極的ではありませんでした。キャリア断絶をなくすには、結婚や出産をする前段階から支援し、パートタイム派遣の期間があっても市場価値が下がらない仕組みづくりが必要だと考えています。

現状、職務経歴に派遣の期間が入るだけで、正社員よりもスキルやキャリアが劣ると見られるケースは少なくありません。派遣された職場では「派遣さん」と呼ばれ、正社員と区別されます。しかしながら、多くの派遣スタッフは仕事にきちんとコミットしています。この点を社会が認識し市場価値として反映されることが、優れた労働力の確保につながると思います。そのためには、職務経歴書から、どのようなスキルを持つ人材かを見極めて、よりパーソナルな特長を企業へ伝えるためのシステム構築が必要だと考えています。

――職務経歴書から求職者の長所を読み解く作業は、これまでもキャリアアドバイザーが実践されていらっしゃるように思います。

もちろんそうですが、これまでは担当者ごとに任せていたものを、今後はより仕組み化していきたいと考えています。例えば、エクセルが使えると一口に言っても、関数や表計算がひと通りできるのか、ファイル作成が得意なのかなど、人によってスキルが異なります。個々人のスキルをより詳細に可視化する作業は、今後必要でしょう。また、求職者が求める「働きやすさ」の定義は、報酬制度や福利厚生などが整っていることなのか、ゆったりした社風なのか、実力主義なのかなど、人それぞれです。現状は、求職者が企業ホームページなどで調べていますが、この点も、当社の創業時からの実績データをもとにマッチングできるようになるのではないかと考えています。

当社はスキルや条件と同様に、人柄や社風とのマッチングも重要視しています。当社では、求職者データを基に面談をし、企業と合う人材を見極めてから送り出すようにしています。いずれは、これらの情報をデータ化し、スピード感ある提案ができる仕組みを作り上げていきたいと考えています。

どこでも活躍できるスタッフを育成し派遣の価値向上を目指す

――他に、今後注力されるご予定の取り組みがあれば教えてください。

私個人としては、将来的に高卒採用に力を入れることに興味を持っています。若年層の人口減少とは裏腹に大卒者は増加していますが、キャリアの構築がうまくいっていない転職者を多く目にしてきました。賃金格差が広がる中で、大卒でも期待通りのキャリアやサラリーが得られないのであれば、高卒で働く人が増える可能性があります。また、大卒者が増えているといえども、30%前後が高卒者の県も実在します。その人材を直接雇用し、社会の仕組みから教えて企業へ送り出す事業は個人的には具現化したい取り組みだと考えています。その後、無期雇用派遣を経て正社員としてご紹介することもできそうです。その人材が転職するとき、また当社に戻ってきてくれたらうれしいですね。