建築物と人材の「未来をつくり未来に残す」
有効求人倍率が突出して高い建設業界では、どのような採用戦略が練られているのか。建設業界に特化した採用と育成をグループ会社内でうまく循環させている、株式会社アーキ・ジャパンの代表取締役、北川太氏に話を聞いた。
未経験者を採用し、グループ内教育機関で育成
――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。
株式会社アーキ・ジャパンは、持ち株会社であるJ-CEP株式会社の主要企業として、建設業界に特化したエンジニアのアウトソーシング事業を展開しています。技術社員(派遣スタッフ)の職種はほぼ施工管理技士で、未経験者を当社の正社員として採用し、教育事業を担うグループ会社の株式会社アクト・ジャパンで研修、その後スーパーゼネコンを始めとする建設業界の企業へ派遣します。採用する社員はほぼ20代の方々です。入社後は3週間を研修に費やし、社会人としてのマナー、建設業界の基礎知識、施工管理技士の業務内容などを学んでいただきます。業界の一般的な研修期間は1週間程度ですが、当社では研修を重視しており、研修期間で基本的な知識を身に付けた技術社員を派遣先の現場へ送り出しています。
――グループ会社のJAGフィールド株式会社も建設業界の派遣事業ですが、どのようなすみ分けをしていますか?
JAGフィールドは経験者が中心です。そのため、稼働する技術社員も700人と、当社に比べると少人数ですが、豊富な経験を持つJAGフィールドの技術社員の下に当社の新人社員を付けて送り出すなどのシナジーがあります。
――技術社員側、採用企業側それぞれにおける派遣サービスの主なメリットは何でしょうか。
技術社員のメリットは、さまざまな企業の仕事、建設現場に携わることができ、多くの経験を積める点や、勤務地域が選べる点、収入の安定などが挙げられます。建設業界に限定すれば、今は仕事がほぼ途切れない点もメリットと言えます。派遣先企業においては、何より人手不足の状況の中で、人員確保ができる、採用と育成の手間、費用、人手がかからなくなる点、その企業に合った人材を当社が選んでお送りする点などがあります。当社ではさらに、通年で採用と研修を実施しており、企業は4月に一括大量採用しなくても、必要なタイミングで必要な人材を確保できる点もメリットです。
採用・育成・スタッフケアの三位一体ビジネスモデル
――技術社員(派遣スタッフ)が企業に就労した後のサポートにも注力してるそうですね。
独自のCS(キャリアサポート)グループを設け技術社員一人ひとりに支援担当者が付いています。担当者は、技術社員とこまめに連絡を取り合っており、毎月1回程度の面談を実施しています。この丁寧な支援は、同業他社から移ってきた私にとっては感動的なシステムだと感じました。
本来であれば、営業職以外の人数はできるだけ抑えたいところですが、当社では約40名のCS専属担当者が、技術社員一人ひとりをケアしています。技術社員が感じている不安や悩みを聞いたり、将来を一緒に考えたり、解決案を提示したりする地道な活動により、退職者が減り、問題も抑えられ、結果として経営のプラスになっています。CSのKPIは退職率を抑えることを中心に設定しており、成績が優秀なCS担当者は毎月表彰されています。
――技術社員の退職率を抑え続けるために、今後どのような取り組みをお考えですか?
今年は、通常の昇給に加え、基本給与の大幅なベースアップをおこないました。それに伴い、派遣先企業様にはチャージアップをお願いする活動が必要だと考えています。また、就業先を確保し続けることも当社の役割の一つです。建設業界は一つの建造物が完成すれば業務も完結し、次の現場へ移る流れが一般的です。技術社員が安心して働き続けるためにも、仕事の案件数を増やし続けていきます。
また、派遣先で就業している技術社員の声を集めるために、ES(Employee Satisfaction)アンケート等を実施してより良い職場環境の構築に努めます。現状は、CSの担当者が現場をまわって話を聞いています。会って話すことはとても大切ですが、やはり一人のCS担当者が実態を把握できる件数には限界があります。システムを構築し、より多くのフィードバックを集めて調査、共有することで、より密なコミュニケーションがとれると考えています。2千人の技術社員からさまざまな視点でフィードバックされると思うと緊張しますが、実施による気付きや改善のチャンスは計り知れないと思います。
業界で長く働く人を増やすことが自社の介在価値
――派遣先企業側の未経験者に対する抵抗感はありませんか?
まったくないわけではないと思いますが、建設業界全体が人手不足に悩んでおり、未経験採用に積極的な企業は年々増えています。また、当社は基本知識と仕事のマナーを研修してから送り出していますので、その点も抵抗感の払拭につながっていると思います。研修を当社で行うため、企業側の手間とコストが抑えられる点も好評で、派遣先企業様の自社の新卒研修を依頼されることも多々あります。
誰でも最初は未経験です。時間とともに経験を重ねていく過程で、企業様と連絡を取り合いながら課題点を改善していき、協働で人材育成をおこなっています。3年ほど当社で就業したあとに企業様と技術社員のリクエストで人材紹介に切り替わることもあります。その半面、どんどん紹介に切り替わってしまう場合、それは当社に魅力がないことを意味しますので、今後もより昇給やフォローアップ、スキルアップの機会を増やすなどして、自社スタッフの定着率も更に上げていきます。建設業界は、性別や年齢に関係なく、どなたでも経験次第で大きな収入を得る事が出来ます。当社に在籍する2千人の技術社員のうち、女性の施工管理者は3割強の約600人いらっしゃいます。より多くの方々に建設業界へ来ていただけるよう、今後もさまざまな工夫をしていきます。
――AIによる人材と企業のマッチング精度が高まる中、御社の介在価値をどのようにお考えでしょうか。
業界問わず、現代の若手人材は仕事に魅力がないとすぐに離職する傾向が高いです。ステップアップを目的とした退職や転職であればいいですが、仕事内容や人間関係の悩みを払拭しきれずに、仕事を諦めてしまう方もいるでしょう。そんな中、当社が介在することで、未経験者から資格保有者となって働いたり、就業についての悩みをCSに相談したりしながら、納得して長く働き続けられる人が増えると考えています。当社のCSグループは、丁寧に一人ひとりの技術社員に寄り添っています。技術社員の悩みを聞くだけに収まらず、キャリアのグランドデザインを一緒に考えるところまで伴走します。また、研修を終えて仕事に就いた多くの技術社員たちは、年1回のペースで開催している同窓会でコミュニケーションをとっていますので、同じ努力をした同期との連帯感は、他の企業へ就職した場合と同じように感じられると思います。
また、介在価値を高める一環として、2025年2月の本社移転に伴い、会社の中心に自社の教育機関を置くことにしました。学校の周りにCSや採用の部署を置き、常に新入社員である研修生とコミュニケーションがとれる状態にしたいと考えています。
――最後に、業界全体の課題と見通しについてお聞かせください。
今は建設業界全体が人手不足で、国家規模のプロジェクトや大きなインフラ設備事業など、人手不足で着工自体が中断してしまう状態が多々見受けられます。当社が派遣する技術社員の稼働率はほぼ100%ですが、この要因の一つには、慢性的な人手不足があります。建設業界の需給動向を見ると、2024年は、13万人の人材需要に対し、正社員が約5・9万人、派遣社員が3・8万人と、人材が3・3万人も不足しています。国内の建設市場規模も、人手不足の影響で、2016年~2024年まで約60兆円の横ばいです。
加えて、2024年4月からは建設業にも時間外労働の上限規制がかかり、他の業界同様月45時間、年360時間までの残業が原則となりました。規制自体は、働き方改革として歓迎すべきことですが、これまで納期厳守のためには残業や土日出勤をいとわなかった業界ですので、規制に合った事業に移行するためには、多方向からの改革が必要になります。
一方で、働き方改革が促進したり、施工管理技士資格の受験条件が緩和され専門学部卒業でなくても資格取得が可能になったりするなど、業界へ足を踏み入れる間口は広がっています。当社も、建設業界への人材獲得の間口を広げる一助となり、未経験者の方々を育成し、この仕事を通じて人材の未来を創り、残していきたいと考えています。
企業は、人を大事にしなければ生き残れません。働く皆さんには、どんどん当社を利用して、より豊かな人生を歩んでいただければ本望ですし、当社もそうなる未来を想定しながら事業を展開して参ります。