未経験人材をプロに育てあげて、日本をプロ人材不足解消の先進国に

建設領域を対象に技術者を派遣する建設ソリューション事業とIT領域にエンジニアを派遣するITソリューション事業を手掛ける株式会社ナレルグループ。 特筆すべきは、早くから未経験者採用をコンセプトにしている点だ。 高度な専門技術を要する建設業界において、どのように未経験者をプロ人材へ育てあげ、企業へ送り出しているのか。同社の代表取締役 小林良氏に聞いた。

経験ありきの採用から未経験育成に舵を切り戦略が波に乗った

――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

株式会社ナレルグループは、建設領域とIT領域に対してソリューション事業を展開しており、未経験者を積極的に採用しプロ人材に育て、企業に送り出すことをミッションとしています。

グループは事業ごとに会社が分かれており、建設業界への技術者派遣や施工図作成の請負を株式会社ワールドコーポレーション、人材プラットフォーム事業を株式会社コントラフト、エンジニア派遣やSESなどIT関連事業を株式会社ATJCが担っています。これに、一般社団法人 全国建設人材協会が加わり、3社1協会でグループを形成しています。

全国建設人材協会では、職人の紹介を行っています。建設業では、建設、改修、保全、解体、またはこれらの準備の作業に係る職人の派遣が労働者派遣法で禁止されています。また、職人の有料職業紹介をおこなうには、建設業務有料職業紹介事業許可が必要となります。同事業許可は簡単に得られるものではなく、現在のところ3団体しか取得できていません。そのうち2団体は当社が把握する限り当該サービスの提供は行っておりませんので、実質、日本で職人の有料職業紹介を実施しているのは当協会のみとなります。ナレルグループの売上構成は、ワールドコーポレーションがほぼ9割を占めています。

――専門技術を要する建設業界において、未経験者採用に特化した理由は何でしょうか。

加速度的に深刻さを増している人手不足への対策です。特に建設業界は、有効求人倍率が突出して高い現状があります。ほとんどの業界は0倍台から多くても4倍台ですが、建設業界はいずれの職種も3倍以上あり、令和6年9月時点での建築・土木・測量技術者の有効求人倍率は5.64倍、建設躯体工事従事者においては8.84倍に上りました。

当社が未経験者に特化し始めたきっかけは、人手不足の課題解決策を検討する中で、それまで経験ありきだった採用に疑問を感じ、未経験者を育てる方向を模索し始めたことにあります。当時の建設業界では、未経験者の育成に着目している人材サービスが少なかったこともあり、パイオニア的なビジネスモデルがうまくいったことから、未経験者特化型の流れになりました。この取り組みを始めたのは2012年からで、以降はお客様とともに試行錯誤しながらブラッシュアップしてきました。 他社が未経験者に注力し始めたのは15年頃からですので、我々は少し先を走っている状態です。

建設業界に人が集まらない理由の一つに、昔から言われる3K(危険・汚い・きつい)の印象があると思います。現在は、法改正や企業努力などでかなり改善し、残業時間も他業界と変わらない状態になっています。それにも関わらず、ついてしまった印象はなかなか変わりませんが、私どもが先頭に立って、建設業界は「生活する上で必要かつ身近な建物を作る素晴らしい仕事」だと伝え続けます。内閣府が発表した2022年度の国民経済計算確報では、建設業の生産額は国全体のGDPの5.2%を占めるほど社会的な役割が大きい仕事です。私自身、東日本大震災のときに活動された建設業界の皆さんを見て、本当に尊い仕事だと思いました。

――求職者はどうやって集めていますか?

自社サイトや転職・就活サイトなど使って集客しています。現在の採用は売り手市場ですから、簡単に入って簡単に辞める風潮が強くなっています。その中で長く業界で働いてもらうためには、採用時に、いい話ばかりだけでなく、大変な部分も包み隠さず伝え、それでも働いてみたいという意思がある人に来てもらうようにしています。採用手法は、自社サイトや転職サイト、SNSなどを積極的に活用しています。

建設の領域は、高齢人材が非常に多い業界でもあります。2008年の創業時から、3分の1が55歳以上といわれてきました。今もその人口ピラミッドは変わっておらず、2023年の建設業就業者は、55歳以上が約36%に対し29歳以下が約12%と、高齢化が続いています。2000年から業界に入った方も今は40代ですから、それは高齢化するわけです。

資格取得制度と業界最高水準の手当で業界の魅力を底上げ

――建設業界に魅力を感じてもらうための、御社独自の取り組みを教えてください。

未経験の技術社員が安心してプロ人材として働けるようになるために、専門部署を立ち上げました。おかげさまで採用企業様からは「優れた人材が多い」と評価いただいています。さらに、技術社員の成長を促進させるため、新たに「ゼロプロ成長サイクル」という新しい取り組みを開始しました。「ゼロプロ成長サイクル」は、知識やキャリアが乏しい経験「ゼロ」の状態からでも、いずれ日本の建設業界を支える「プロ」人材になれるというメッセージを込めた名称です。

具体的な取り組みは、「業界最高水準の資格手当」と「オリジナルの試験対策講座の新設」です。業界最高水準の資格手当は、2024年11月より実施しています。例えば、1級施工管理技士の資格手当は、1万円から4万円アップし、業界最高水準の5万円に上げました。これにより、技術社員の士気が高まったり、業界で働く魅力の一つとなったりすることを期待しています。合わせて、技術社員の支援を専門とする部署において、担当者と技術社員の接触頻度を増やしました。これにより、退職率が約1%ダウンしました。

同時に、資格取得を目指す技術社員に向けた勉強機会を提供するため、30 年以上の経験を持つ施工管理技士資格の講師による、当社オリジナルの対面での試験対策講座や、eラーニング形式の資格試験対策を新たに開設しました。これにより、技術社員一人ひとりのライフスタイルや配属先の状況に合わせた試験対策が可能になります。

――現在の技術社員の稼働率を教えてください。

月平均で約95%です。この数字には産育休中で働けない社員の人数も含まれているため、実質は97%以上の稼働率です。出産や育児を経て復職する際に、施工管理などの現場作業が難しい場合は、CADオペレーターなどへの職種変更ができますので、培った経験を活かして、建設業界で働き続けられます。

――97%以上はすごいですね。秘訣は何でしょうか。

なにか特別なことをやっているとは思わないですが、技術社員を担当している採用・営業・フォロー担当者の社歴が長く、建設業の魅力を知り尽くしており、それを上手に伝えてくれているからだと思います。担当者自身も、未経験からスタートした人材が多数います。当社が小規模事業者だったころから苦楽を共にした仲間が、ミッションを共有し、辞めずに働いてくれる点は、本当にありがたいことです。

企業と協働で建設業界のDX化を促進

――IT領域の取り組みも教えてください。

建設業界は、まだまだDX化が進んでいる業界ではありません。DXを加速するために、当グループでは3年前に建設DX推進事業部を新設し、現場管理ツールを使える技術社員を育成してから企業に送り出しています。またICT人材のチーム派遣体制を構築する取り組みも実施しています。

――ICT人材のチーム派遣について、事例をお聞かせください。

空調衛生設備工事を手掛ける朝日工業社様とワールドコーポレーションの協働で、設備工事現場の工程内検査に特化したICT支援人材チームを構築し、運用しています。目的は、建設現場で働く職員の残業の原因になりがちな工程内検査を当社のICT人材が分業化し、検査業務のデジタライズにより、配属先社員の煩雑な作業を減らし、労働削減につなげることです。

今後はICTを活用し、新たなワークフローを構築することで、配属先社員及びICT支援人材の技術力アップ、生産性向上を目指して取り組んで参ります。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

これからの建設業界にIT技術は欠かせませんが、どんなにロボティクスが進化しても、建築物は人が携わらなければ造れません。働く人の労働環境に当社が介在することで優秀な人材が増え、賃金を確約でき、魅力的な業界となれば、建設業界の人材不足も解消されるのではないでしょうか。日本がプロ人材不足解消の先進国となれるように、今後も積極的に採用と育成に力を入れ、未来を担う人材を数多く輩出してまいります。