使命は「企業のIT国際競争力向上」

2025年4月、IT領域のフリーランスエンジニアエージェントを展開するレバテックの執行役社長が交代した。 その背景には、企業の採用課題のみならず、事業成長に対応するための事業改革が関わっている。 新社長となった泉澤匡寛氏に詳しく聞いた。

採用は手段、目的は課題解決

――社長就任おめでとうございます。就任の背景を教えていただけますか。

ありがとうございます。前任の髙橋が次の挑戦へ進むタイミングであったことと、レバテックが事業改革期に入ったことが背景にあります。当社はこれまで、人材紹介やフリーランスの案件参画支援など人材支援を中心に事業展開してきましたが、採用の背景にある本質的な課題解決を支援する企業へ進化させるフェーズに入ったため、事業開発経験者の私が指揮を執ることになりました。

私は2017年に新卒で入社し、これまでIT特化型就職支援サービス『レバテックルーキー』や、プログラミングスクール『レバテックカレッジ』といった事業開発に携わってきました。その後、21年にレバテックITリクルーティング事業部部長、23年にレバテック執行役員を経て、今回の就任となりました。

――「顧客の本質的な課題」とは?

人材サービス事業は基本的に、取引先企業の要望に合わせて正社員やフリーランスの方を紹介しますが、企業にとって、IT人材の採用は目的ではなく手段です。では、目的とは何かといえば、ほとんどがDXやプロダクト開発です。IT環境を整備して、よりよい成果を生み出すためには、どのような採用をすればもっとも効果的か。その計画から携わり併走するため、24年にIT領域の業務改善・DXコンサルティング企業にグループインいただき、戦略構想から品質保証まで、一連の内製化支援を強化しました。

――業務委託ではなく内製化を支援するのですね。

はい。日本ではいま、ITシステムの構築・運用を特定のベンダーに強く依存してしまう 〝ベンダーロックイン〟が、企業の成長を妨げる要因として問題視されています。ベンダーやコンサルティング会社に戦略の段階から依頼し続けた結果、自社内にノウハウや判断力が蓄積されず、継続的に同じ会社に頼らざるを得なくなるような状態を指します。

当社では、プロジェクトを丸ごと受けるのではなく、内製化を支援します。企業がITリテラシーを持ってベンダーをコントロールできないと、いつまでも国際競争力は上がりません。ベンダーロックインは日本特有の状態で、他国ではあまり見られません。日本発で世界に通用するITメーカーが出てこない理由の一つは、ここにあります。

レバテック全ブランドを活用した内製化支援

――内製化支援の具体的な方法を教えてください。

企画構想段階からコンサルティングとしてプロジェクトに参画し、要件・要件定義、設計・開発、テスト、運用保守、採用、組織開発、教育までを一気通貫で支援します。

コンサルティングで上流工程をしっかり要件定義し、不足したエンジニアはフリーランスや正社員の紹介をして補填します。さらに、品質保証も当社が併走します。

――開発終了後の組織開発や教育はどのようなサービスでしょうか。

『NALYSYS(ナリシス)』はモチベーション管理プラットフォームです。採用後、どの部署のどの上司のもとに配属すれば1番パフォーマンスが最大化されるかをアルゴリズムで分析します。設計時には業務効率化支援ツール『Agile Effect(アジャイルエフェクト)』を使用し、エンジニアの生産性を高めます。『remopia(リモピア)』は、在宅勤務者の生産性を向上させるサービスです。これらのSaaSは、レバレジーズが開発したものです。採用後の適切な配置や生産性向上、離職アラートまで管理できるようになりますので、当社を長く使っていただくほどデータが蓄積され、より高精度の分析が可能になり、効果的に活用することができます。

――現状エンゲージメントツールは多いかと思いますが、貴社の強みはどこでしょうか。

確かに、世の中には多種多様なエンゲージメントのサーベイがありますが、多くは、ただアンケートの回答を集計し、モチベーションの高低を示すにとどまっています。当社では、求職者に適性検査を受けていただき、パーソナルデータを作成しています。スコア化した強みやストレス耐性などとエンゲージメントを掛け合わせて紹介するので精度が高く、実際に当社も同SaaSを導入したところ、離職率が半減しました。離職率が業界標準の半分となると、採用費を考えても企業のメリットは大きいと思います。

米国では高学歴労働者の50%以上がフリーランス

――御社の強みであるフリーランス支援は今後も注力されますか?

もちろん注力します。一つの組織に属さないフリーランスエンジニアのプールは、社会にとって大きな意義があると考えているからです。例えば、1年かけた新規事業開発プロジェクトが立ち上がったとして、その中で開発エンジニアが必要な時期は3カ月程度にとどまることも多いので、そのために正社員を採用するよりも、フリーランスの方に短期で依頼するほうが得策であるケースも考えられます。IT人材が不足する現状がある中で、フリーランスというどこにも属さない人たちのリソースをプールし本当に必要なところに再配置できるということは日本社会にとって意義のあることだということが改めて分かってきています。

――エンジニアが特にフリーランスで活躍しやすい理由があるのでしょうか。

特にエンジニア職は他の職種に比べると働き方が多様化していて、フリーランスが多く活躍しています。

日本では未だに「フリーランスは少数派の働き方」というイメージが根強いです。長く続いた終身雇用制度が影響していると考えられますが、米国では労働者におけるフリーランスの割合が30%以上あり、大学院卒以上の高学歴限定の割合では50%を超えます。優秀な人ほど自立して、フリーランスとして複数の企業で価値を創出しているのです。

エンジニア領域でフリーランスの働き方が増えることで、他領域でもフリーランスが活躍しやすくなると思います。エンジニア市場にフリーランスを増やし、働きやすい環境にしていく取り組みは、当社の社会的役割のひとつです。

また近年は、生成AIの台頭により、開発の実装工程が効率化しています。実装工程の求人倍率は、今後は落ち着くでしょう。一方で、上流工程の求人倍率はかなり高くなっています。今後は、エンジニアの定義が実装作業から設計や上流の方に変わっていく可能性があります。実際に、DX戦略や事業戦略の企画・構想~要件定義を担うコンサル職の有効求人倍率は約42倍です。(レバレジーズによる2024年12月時点のデータ)企業は今後、業務を切り分けて、正社員とフリーランスをうまく配置する意識を持つことが大切だと思います。

――フリーランスが活躍しやすい環境にするための具体的な取り組み例を教えてください。

フリーランスのエンジニアはプロジェクト単位の仕事が多く、案件が途切れると生活に支障をきたすので、案件が途切れないように気を配っています。また、企業との調整や書類提出を一括管理できるフリーランス用のプラットフォームを提供しています。事務作業をプラットフォームで一括管理できるため、当社のみで仕事を受けているフリーランサーも多いです。

国際競争力がある企業を生み出しエンジニアを憧れの職業に

――コンサルティング事業も加わり、事業成長に合わせた人材育成も急がれていると想像します。

レバレジーズ全体で毎年130%以上の成長はしていきたいと考えていますので、従業員数も130%を目指します。

その人材育成のために、さまざまな研修を実施しています。入社後の研修はもちろん、1年後のフォロー研修や、リーダーになる時のリーダー研修もあります。リーダー研修では、マインドの育成からハード面を鍛える複雑な問題解決の手法まで、半年ほどかけてしっかりと実施します。さらに、外部のコーチング研修やグロービスの研修を導入するなど、人材開発には積極的に投資しています。

人材開発に注力する理由は、創業当初からの方針である『人の優位性が会社の優位性』を実践するためです。当社は特に若手のリーダー抜てきを重要視していますが、その点で他社に勝つには、他社よりも早い段階で大きい仕事を任せるしかありません。ですが、現実問題として、若手は経験やスキルの不足が課題となります。そこに対して費用をかけてサポートしていき、若手が大きな仕事をクリアし、自信につなげてもらうことが大切な取り組みだと考えています。

――最後に御社の展望をお聞かせください。

IT領域の国際競争力を高めるため、まずは当社の社会的な影響度を上げ、日本のIT企業のプレゼンス向上に貢献することが、当社の使命です。日本のラグビーチームが世界で活躍すればラグビー選手になりたい子どもが一気に増えるのと同じように、国際競争力があるIT企業を生み出して、エンジニアに憧れる子どもたちを増やすことに寄与したいと考えています。