人材サービス業は企業・求職者の課題解決パートナー
接客業・製造業・コールセンター領域の人材派遣事業で業績を伸ばしながら徐々に領域と業界を広げ、現在は紹介事業も展開するウィルオブ・ワーク。派遣登録者数は89万人(2024年3月現在)と業界トップクラスを誇る。その事業規模から、さぞオペレーション効率化に尽力したのだろうと想像しながら代表取締役社長の村上秀夫氏に話を聞いたところ、それ以上に徹底している戦略があると分かった。
丁寧なコミュニケーションと業界専門性で企業の課題解決をサポート
――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。
ウィルオブ・ワークは、総合人材サービス企業であるウィルグループのグループ会社として、企業の課題解決やニーズに応えるための人材派遣および紹介事業を展開しています。事業領域は、接客販売・ラウンダー、コールセンター、オフィスワーク、製造、宿泊、営業、介護、保育がメインです。また、外国人労働者の就業サポートにも注力しています。
おかげさまで、現在4,800社以上の企業にお取引いただいていますが、取引先が増えてもサポート体制への力の入れ方は変わりません。一社一社の状況に向き合い、業界の専門性を高め、丁寧にヒアリングをしてニーズを掘り下げた上で、最適なご支援を徹底しています。
――御社の事業規模ですと、オペレーションの効率化で事業拡大を進めるイメージがあります。各社と向き合い併走することにこだわり続けていらっしゃる点は、少し意外でした。
企業課題の解決や求職者のキャリア支援は、“一律のオペレーションで進める”というわけにはいきません。なぜなら、人材サービスとは、人を送り込むことが最終目的ではなく、人を紹介した先に企業課題を解決して成長を支援することであるためです。ここにこそ、我々が介在する価値があると考えています。ただ、もちろん、煩雑な手続きや営業のリスト化などAIに任せたほうが良いオペレーションについては効率化を図っています。
――丁寧なコミュニケーションと数値目標の達成を両立する方法を教えてください。
丁寧なコミュニケーションを達成するための具体的なKPIを立てるようにすることですね。
例えば、当社では「パートナーシップナンバーワン」というテーマでパートナーになりたい企業を選定し、その企業の紹介決定数や派遣総数のシェア1位になる目標を立てています。企業を選定する基準は、転職支援者や派遣スタッフを大切にしてくれるかどうかです。人を大切にしてくれる企業の取引人数を増やすことは、派遣スタッフの満足度アップや自社の信頼につながります。そして選ばせていただいた企業には、その旨をお伝えし、より密にコミュニケーションを取るようにします。その結果、当社がシェア1位になるために改善すべき点を共有してくださるなど、どの企業も非常に協力的に対応してくれるようになっていきます。
――業界ごとの専門性を高めるために実施している取り組みはありますか?
研修の実施はもちろんですが、内勤の社員も入社後6カ月~1年の間、コールセンターや製造工場などで現場を経験することが当社ならではの特長として挙がります。実際に派遣スタッフが働く現場を経験し、苦楽を感じることで、自身の経験をもとに派遣スタッフをサポートしたり課題点を改善したりできる点は、当社の強みと言えます。
トップシェア獲得フェーズから社会課題解決フェーズへ
――事業領域や業界は、どのような基準で選んでこられましたか?
創業時は業界の中でも後発組でしたので、当時大手があまり着手していない領域をあえて選び、その領域でのトップを目指しました。具体的には、接客販売、コールセンターです。今では、業界シェア1~3位を維持できるまでになりました。
創業からずっと、トップクラスのシェアを取るために尽力してきましたが、実現した今は、次のフェーズに移り、日本社会の課題解決につながる取り組みを強化しています。
――具体的な取り組み内容を教えてください。
例えば、派遣スタッフの労働環境整備が挙がります。派遣スタッフは時として給与や待遇、人間関係などで差別的に扱われることがあります。人手不足や働き方改革などの影響でかなり改善されてきましたが、私の肌感では全体の約2割が、現在も派遣スタッフを冷遇しているのが現状です。しかし、待遇や環境を改善しない限り、採用を増やすことはできないため、当該企業にとっても損でしかありません。そのため、当社が現在の派遣市場や給与水準、外国人労働者との向き合い方などについてひざを突き合わせて説明し、併走して改善に取り組んでいます。事実、改善した企業の採用数は増加することがほとんどです。
ほかにも、企業にとって外国人労働者を受け入れやすい環境づくりにも取り組んでいます。当社ではもともと留学生を受け入れていましたが、2018年から新たに、特定技能外国人を企業へ紹介する取り組みを始めました。
一般的に日本企業は、海外の人材を受け入れるまでのハードルは高いものの、一度受け入れると満足度が高く、続けて採用してくださる傾向があります。受け入れるまでのハードルが高い理由は、言語と文化の壁です。配属部署に第二言語を話せる人がいない、文化の違いで業務がうまく回らないことへの不安などが、外国人労働者の採用を思いとどまらせます。
そこで当社では、日本語能力検定のレベルN1~N2(よく使われる日常会話ができる)の外国人スタッフを通訳として配置したり、彼らが日本で暮らすための生活サポートを行ったりなど、企業が外国人労働者を採用しやすい環境づくりの整備に取り組んでいます。現在は、3,000人規模の外国人労働者の雇用支援を実施しており、今後は年間1,000人以上のサポートができるようにしていく予定です。また、当社の内勤社員にも多くの外国人社員が在籍しています。
――外国人労働者の採用には、どの段階から携わっているのですか?
一般的に外国人の人材を支援する場合は、大きく2つのパターンがあります。1つがベトナム、インドネシア、ミャンマー、ネパールなどから、日本で働きたい人に来ていただくパターン。もう1つが日本国内での転職をお手伝いするパターンです。当社の場合、海外から来ていただく転職が30%で、日本国内での転職は70%の比率です。
雇用形態を超えた求職者ファーストなキャリア形成を支援
――御社が紹介事業で支援する業界は、派遣事業のものとは異なりますか?
そうですね。当社における紹介事業の領域は、エンジニア、介護、保育がメインになっています。派遣に比べると事業規模は小さく、今後拡大を目指し注力していくところです。また、先述の外国人雇用支援も紹介事業の領域に含まれます。現在は、特定技能外国人を製造業、介護、外食産業などに紹介することがメインですが、今後は、宿泊、運送業(トラック、バス、タクシー)、航空、鉄道などへ領域を広げていきたいと考えています。
――派遣事業との連携はしていますか?
派遣スタッフのキャリアチェンジの決定数の年間目標を設定し、積極的に行っていますね。現在、当社では、就業中の派遣スタッフは約1万7,000人いるのですが、その中でキャリアアップや転職の意向がある人に関しては、第三者機関の国家資格を持ったキャリアコンサルタントが面談し、当グループ内に見合う配属先があれば紹介するようにしています。中には、コールセンターの派遣スタッフから建設の施工管理技士の正社員派遣スタッフになったり、製造の派遣スタッフから営業職へ転職したりするなど、クロス紹介が可能なオペレーションを構築しています。
――事業部を超えたキャリアチェンジの機会提供は業務や業績が混乱しませんか?
確かに、クロス紹介を促進することで、当社社員の業務負担は増加することもあります。しかし、当社の都合で求職者を囲い込むことは、求職者のキャリア視点で考えると得策とは言えません。働く人がより良いキャリアの形成を支援することが、日本の労働社会への貢献になりますし、それをより早く正確に実現させるために、AIなどを活用したDX化を進める必要があるのだと思います。
――御社は常に顧客ファーストで事業戦略を立てられるのだと、お話を聞いて感じました。顧客満足の達成度はどのような基準で決めていますか?
求職者と取引先企業に対し、半年に1回ペースで第三者機関によるNPS(Net Promoter Score/顧客満足度)調査を実施することで達成度を確認しています。それ以外にも、求職者が就業してから数カ月間は、「仕事に満足しているか」や「不安がないか」などの調査を第三者機関に実施してもらうことで、顧客満足度の改善に取り組んでいます。
日本の労働社会の発展に向け、若手のキャリア支援を強化
――直近の新しい取り組みがありましたら、教えてください。
2025年4月1日付で、グループ会社であるリファラル採用支援会社のリフカムの社名をウィルオブ・パートナーに変更し、リファラル採用のさらなる強化に取り組んでいます。手間と工数がかかりがちなリファラル採用の強化を25年以上人材業界に携わってきた当社のノウハウをフルに活用し、皆様の効果的な採用活動をサポートしていきたいと思います。
――最後に、中長期的な展望をお聞かせください。
日本の人手不足は、出生数が減少し続ける以上止まりません。減少する理由の一つに、子どもがほしくても、将来の不安から結婚や出産をためらうケースがあります。つまり、日本の労働社会を維持発展させるには若手のキャリア支援を強化し、将来への不安をなくすことが必須であると考えています。このメッセージを広く伝える影響力を持つためにも、これからも当社は業界ナンバーワンシェアでありつづけ、社会課題を解決していきたいと思います。