AI社会だからこそコンサルタントの介在に価値がある
1980年に求人広告代理店として創業し、現在は特定分野への人材紹介を軸に幅広い事業を展開する株式会社クイック。同社は、AIを超えた人材サービス業の価値創造にこだわり、業務改善を繰り返しながら成長し続けている。価値創造のための具体的な手法について、同社取締役執行役員で人材紹介事業本部長の柴崎雄貴氏に詳しく聞いた。
AIで提供しきれない介在価値を提供
――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。
クイックグループは、「人材と情報ビジネスを通じて社会に貢献する」という事業理念のもと、人材紹介事業・採用コンサルティング事業・広告代理店事業・HR領域のプラットフォーム事業等を展開しています。人材紹介事業で支援する業界は、自動車・半導体・機械・電気メーカーから、建設・不動産・化学・エネルギー・製薬・化粧品・アパレル・コンサルティング・SIer・医療業界などで、各業界のなかでも特にハイキャリアエグゼクティブ層の人材や、エンジニア・技術者、専門職、有資格者の方の支援を中心に事業を展開しています。
――ITや製造業のエンジニアや建設業界でも施工管理技士は、採用の難易度が特に高い職種ですね。
だからこそ、人材紹介会社の介在が必要です。求職者側から見ても、優秀なエンジニアのもとには、日によっては100件単位のスカウトメールが届き、情報が多くなりすぎて、どの企業が自分に合うのかが分からなくなっている現状があるので、我々が決断を支援することで、三方がプラスに働きます。このように、AIでは価値を提供しきれない、人の介入が必要な支援をすることが、エージェントの役割だと考えています。
――御社は、CA(キャリアアドバイザー)とRA(リクルーティングアドバイザー)の担当者を分けていますか?
当社では、各自がCA(キャリアアドバイザー)とRA(リクルーティングアドバイザー)の両方を担当する一気通貫型を採用しています。また、自分以外が担当するクライアント企業や求職者でも、条件に合う場合はマッチングし、コンサルタント同士がコラボレーションできる仕組みにしています。これにより業務は複雑になりますが、より高精度のマッチングのための最適解だと考えています。複雑化した事務作業やデータ化など人でなくてもできる仕事はできるだけ内製のシステムに任せて、営業担当者はお客様と向き合うことに注力しています。
――一気通貫型にした理由は?
求職者や企業が価値を感じられるサービスの提供を考えたとき、コンサルタントが双方について高い専門性を持っている状態がベストです。片方だけでも業務は成り立ちますが、双方から生まれる新たな可能性を想像するためには、双方起点での考えが欠かせません。双方起点で考えるためには経験と育成が必要なので時間はかかりますが、実践できるようになれば、コンサルタントは仕事のやりがいや面白みが高まり、より意欲的な仕事ができます。人材ビジネスは、人の思いや意欲があって初めて機能すると思っていますので、双方起点の育成は大変であったとしても、重要度高くおこなっています。さすがに業種や職種の担当は分けていますが、あえて業務フローに複雑さを残すことで、人の考えや想像が生み出される余白を残し、他社ではなかなか生まれない発想で、RA・CAの活動ができるようにしています。
また、コンサルタントが求職者や企業とのコミュニケーションに多くの時間を使えるようにするため、アシスタント(業務サポートスタッフ)職の組織づくりにも注力をしています。資料作成や履歴書・職務経歴書の添削などをアシスタントが担っています。皆、自社事業への貢献意識が高く、どうすればお客様の満足につながるか、どうすればオペレーションが効率的になるかなどを、よく考えてくれます。システムが効率化したオペレーションに、アシスタントが人ならではのアイデアを加えてくれることもあり、これが当社ならではのサービス向上につながっています。その存在価値は、アシスタントという呼び名でいいのか考えてしまうほどです。
――アシスタント制を導入されたのはいつ頃でしょうか。
もともとアシスタントは存在していましたが、強化したのは2016年からです。単にコンサルタントの労働時間を削減するだけでなく、アシスタントがいることで企業や求職者のサービス体験にプラスになる改革をしようと考え、より強化を行ってきました。コンサルタントとアシスタントの組み合わせの組織的なサポートで、きめ細かく企業や求職者のニーズに対応できる体制を整えてきました。
感謝を積み重ねた結果が成長につながる
――御社は、システムと人の役割分担をかなり明確にしていらっしゃる印象を受けました。一方で、誰の担当のお客様でもマッチングできるシステムは、成績の配分が難しそうです。
売上は各企業、求職者の担当者につきます。あまり難しさは感じておらず、より高い成果を残すためには、担当企業と担当求職者を自己完結でマッチングするよりも、コンサルタント同士が協力したほうが、多くの可能性からマッチングをすることができ、より採用成功・転職成功、すなわち成果に至る確率が高まります。また、当社では、売上を立てること以上に、お客様に感謝される行動への評価に重きを置いています。「売り上げて感謝される」ではなく、「感謝の積み重ねが売上になる」ことにこだわりがあり、自社の社員採用でも、そこに共感できるかは重要視する指標の一つです。
――数字と行動の評価バランスは?
数字と行動の評価バランスは5対5です。数字の成果も個人の成果だけでなく、チームの成果も評価に組み込んでいることに加えて、お客様に価値を提供できた企画やアクションなども高く評価しています。また、社内のWEBサイトで企業や求職者にできた創造的な仕事の事例が都度発信をされていたり、自社のビジョン・ミッション・バリュー達成のためのミーティングを開催する頻度が高いこともあり、お客様への価値提供が最優先という考え方は社風として根付いていると思います。
その半面、評価基準を数字で表しにくい部分もあり、シンプルなKPI設定が難しい点は否定できません。ただ、それが故、現場のマネージャークラスの管理職も、KPI管理をするだけでなく、企業や求職者から真に評価される人材紹介とはどんな人材紹介なのかや、AIが台頭するなかで人の介在価値をどう発揮していくのか、それをチームに根付かせるためどのようにして風土文化醸成をしていくのかといったことを、常に考えてマネジメントをしています。他社では部長クラスが議論していることを、当社では現場に近いマネージャークラスも考え実行していることも、戦略戦術の実行度が高まるポイントになっているのではないかと思います。
リーマンショックでの危機感が事業刷新のきっかけに
――柴崎さんは、新卒から一貫してクイックにいらっしゃるそうですね。
おっしゃる通りです。私は大学卒業した2008年に当社へ入社し、2年目にMR紹介サービスのブランディングに関わり、4年目には医薬品業界チームのマネージャーを務めました。その後、建設業界や製造業界チームの立ち上げをし、20年に執行役員に就任、23年に取締役執行役員に就任しました。
――2008年といえば、リーマンショックが起きた年です。社会人一年目からご苦労されたと想像します。
入社して数カ月後にリーマンショックが起き、当社も類に漏れず難しい局面に立たされ、社内は緊迫した雰囲気でした。社員一同、なんとかして事業を継続しなければいけない思いにかられ、どうすれば何が起きても介在価値を提供し続けられる企業になれるかを話し合いました。そこで立ち止まって事業の在り方を振り返って刷新したことが、現在の事業拡大につながったと思います。
――どのように刷新されましたか?
企業にとって採用の重要度と難易度が高い領域・職種、求職者にとって選択肢が多く最適な企業・職場選択が難しい領域・職種、すなわち人材紹介・エージェントの価値がより発揮される領域・職種に事業の選択と集中を行いました。まずは医療業界の強化に取り組み、製薬、建設業界へと広げていきました。おかげさまで、コロナ禍でも人材紹介の売上が落ちることはありませんでした。
強みを引き出し転職後の未来をも見据えた支援を
――グループ他社とのシナジーはありますか?
例えば、北陸地区で情報出版や人材紹介を手掛けるカラフルカンパニーとは、Uターン・Iターン支援などで連携し、地方創生に取り組むことや、採用コンサルティング事業を手掛けるジャンプやリクルーティング事業と協業し、企業の採用ブランディング、採用プロセスやペルソナ設計などを支援し、企業の採用力そのものを高めることにも取り組んでいます。元々、一気通貫型の人材紹介のやり方で、深く企業を知ることができ、おかげさまでクライアント企業から「推薦からの決定率が高い」とたびたびお褒めいただいていますが、今後は、顧客からの信頼とグループのパワーを活かし、より採用の上流のコンサルティングや、社会課題の解決にも更に取り組んでいきたいと考えています。
――推薦からの決定率を高める秘策は?
現代の採用市場は、AIによってマッチングボリュームが増加し、求職者一人当たりの求人数も多くなったため、応募の難易度や面接の価値が下がっています。求職者が面接に来ないケースも少なくありません。当社が入ることで、求職者の受験する理由や動機付け、入社後の活躍イメージなどを明確にしてから推薦することができるため、決定率が上がります。
――AIで効率化し情報過多になるほど、人の介在は必要になっていくのですね。
そう思います。例えば、求職者や企業自身では分からない強みを引き出すことは、コンサルタントの役目であり、介在価値の一つだと思います。加えて、ただ転職を流動させるだけでなく、入社後に活躍でき、次の転職がさらなるキャリアアップにつながる提案ができる点も、人の介在価値です。求職者は、転職活動中に考え方や価値観が変わるので、活動を点ではなく、線でサポートする姿勢を心掛けています。
――最後に、日本の労働人口不足に対する柴崎様のお考えを聞かせてください。
人手不足を補うために、女性、子育て世代、シニア、外国人の活躍支援はもちろん大切ですが、合わせて既存の人材の生産性を高める工夫も必要だと考えます。ただ転職回数を増やして流動させれば生産性が上がるわけでも、スキルマッチングだけで最適な配置ができて生産性が最大化するわけでもありません。AIによるマッチングの機会増加はとても素晴らしい機能ですが、採用企業と求職者の相性までを見極めることは現段階では難しい。せっかくの文明の利器が数だけ増やす不幸なマッチングにならないよう、コンサルタントが介在し、転職の点を線にして生産性を高め、関わる人すべてがハッピーになるよう、これからも努力し続けます。