キーワードは「顧客起点」
いかに我々を継続して選んでいただけるか

多くの紹介会社が参入する、レッドオーシャンの医療業界。限られた人材をいかに確保し、適切なマッチングを行うか。そんな命題に対し、「顧客起点」というキーワードを掲げ、向き合い続けているコンサルタントが竹村だ。求職者への向き合い方や、クライアントの人材ニーズの実例、そして紹介を通じて笑顔にしたいと思い続けている「顧客の顧客」について、真摯に語ってくれた。

求職者が望む事業所を紹介することだけが私たちの価値ではない

「人材紹介って個人的に苦手なんです。仕組みが分かっているので、もし自分が求職者だったらお願いしないかなと」

 真面目な表情を崩さず、竹村はそう言い切った。看護師に特化した人材紹介事業部で、コンサルタントとして活動している彼である。ドキリとするような一言だが、続いてその発言の意図に言及する。

「でも、そうであってはいけないんです。我々を選んで頂くためには、顧客起点を求職者と事業所の両方から、バランス良く持つ必要がある。最終的には必ず求職者へ寄り添って、一緒に考え、提案し、意思決定の手助けを行い、結果良い転職サポートをしなければなりません」

 竹村に限らず、人材紹介部門全体として「顧客起点」をキーワードに掲げ、マッチングの精度や顧客満足度向上に取り組んでいるという。同社は一気通貫型のスタイルで、コンサルタント一人につき、20~30名の求職者とやり取りしているが、まだまだ少ないと竹村。

「紹介が進んでいる方にとっては満足度が高いかもしれませんが、全体で見ると良いサービスを提供出来ていない方が多い。そして、そういう方からの評価はやはり低いのです。必然的に、良いサービスが提供できる総数を増やしていく必要があります」

 人数だけではない。仮にすぐ稼働できる方が10名、3ヶ月~半年後から働けるという方が20名いたとする。その場合、目先の10名だけでなく、後の20名にも対応しないと満足度は下がってしまうと竹村。機会損失になってしまうため、顧客起点をすぐ稼働できる方だけに向けるのも正解ではないのだ。

 竹村は一日のほとんどを、求職者とのやり取りに費やしている。お手伝いしている求職者の中にはキャリアビジョンやプランの描き方が分からないまま、転職先を選ぶ傾向の方もいる、と竹村は指摘。そのため、ジョブホッパーになってしまうケースが多いのだという。「私たちの価値は、求職者が希望する事業所を紹介することではありません。転職理由を聞いて、迷いを感じたときは、市況も伝えた上で改めて考えていただく。自己応募をお勧めすることだってあるんです。結果的に長く勤めてもらえれば、医療業界全体がよくなりますから」

 自身の勝手な成約目標として、月に15名という数字を掲げている。求職者の人数を踏まえて、何をどれだけするか考え、「登録したのにちっとも連絡が無い」という事態が起きないよう、逆算して算出した数字だ。本当は20名を目標にしたいのですが…と竹村は苦笑する。

事業所からのピンポイントのオーダーに紹介できる人材を常に持つこと

 キャンディデイト開拓は、主に自社メディアで行っている。専任チームが運用し、累積人数も直近の登録者も業界ではトップクラスだという。また、登録者のデータと検索ワードを徹底的に分析し、PDCAを回すことで、質の高い人材を集めることにも注力している。質の高い人材、すなわち医療機関から重宝される看護師は、様々な要素があると竹村。

「病院や施設の採用基準にもよりますが、経験値、年齢、転職回数、お人柄など様々です。ある病院では、現職の病床数、看護体制、救急車や手術の件数などでどの程度マッチするかを判断しています」ただし、と竹村は続ける。

「経験値だけではなく、看護師になった背景や看護観も非常に重要です。経験があったとしても、ほかの事業所で同じように活躍できるかといったら、そうとは限らない。看護体制や設備等が違うだけで、業務についていけないことがありますから。それより、スキルアップしたいというマインドや看護観をしっかりとお持ちであれば、経験が少なくてもご紹介できることが多いです」 

 一方で、医療機関の人材へのニーズもさまざまだ。看護師不足により、とにかく人手を確保したい事業所が多い。反面、人材紹介を使わなくても、ホームページ経由などで自然と応募が集まる事業所からのオーダーはとても貴重だという。ターゲットを明確に絞り、ピンポイントで1名の募集を行っていることがほとんどなので、いかにニーズに合った人材を紹介できるかが重要となる。「依頼があったとき、ご紹介できる求職者がいればいいのですが、必ずしもそうとは限らない。そのため、多くの求職者と継続的にリレーションを取っておくことが大事です。すぐに対応できないと、次回からお声がかからなくなってしまいますから」

 ただ、どのような事業所であっても、特徴や状況、編成まで把握した上で、課題を見つけ、最適な提案ができればベストだと竹村。実際、そこまで深く踏み込んで紹介すると、ミスマッチは少ないという。医療業界はまだ人材紹介を必要としています。私たちはより密度が濃く、精度も高いマッチングを生み出さないといけません。

医療業界は人材ビジネスを必要としている

 竹村は8年前にSMSキャリアに入社した。東京事業所に配属され、入社3カ月でチームリーダーに。新潟エリアでの新規出店準備を任された後、横浜事業所を経て、現在は再び東京事業所で活躍している。トップコンサルタントとして心掛けていることは、「顧客の顧客を笑顔にする」ことだと竹村は言う。

「私たちのビジネスはBtoCとBtoBどちらも兼ねており、心掛けていることとしては病院の患者様や求職者のご家族も笑顔にしないといけないということです。成約した後、本人から『足りなかったスキルや経験を身に付けられた』『希望していた診療科で働けるようになった』と感謝されるのはもちろん嬉しいですが、例えば転職を繰り返していた求職者の支援をした後、その方のお母様から感謝されたとき。待遇があまり良くなかった求職者が、転職をして年収が上がり、奥様から感謝されたときなど、ステークホルダーに喜んでもらえたときにこそ、個人的には介在価値を感じます」

竹村はトップコンサルタントとして、自社に利益をもたらすことはもちろん、業界全体を活性化させたい目標がある。看護師の数は、全国で150万~160万人。2025年には、あと50万人必要になると言われている。しかし有資格者でありながら、看護師として働いていない潜在層は約70万人と、他の職種や資格と比べて割合が高い。人材ビジネスを通じて、こういった問題の解消にも取り組んでいるのだ。

「この業界はまだ人材紹介を必要としています。私たちはより密度が濃く、精度も高いマッチングを生み出さないといけません。業界トップクラスのシェアを持つ弊社であっても、そこを目指すにはまだ時間が足りない。国の政策もあるので、業界が今後どうなるかは分かりませんが、業界を活性化させるために、ずっとこの仕事に取り組んでいきたいですね」

 入社した当時は、「病院」と「医院」の違いも分からなかったんです、と笑顔で振り返る竹村。今は医療業界のスペシャリストとして、人材紹介の価値を誰よりも信じ、求職者と事業所双方のクライアントに向き合い続けている。