新型コロナ感染症の収束はいまだ見えないままだ。経済全体が大打撃を受けているが、人材ビジネスも例外ではない。苦境に陥っている人材紹介会社は、どのようにコロナを乗り越え、成長していけばいいのか。人材紹介会社を支えるべく、コンサルティング型ワークショップサービスを開始した株式会社EHRの中野氏、高梨氏に聞いた。

紹介会社が不況時にしてはいけないこと

まず御社の事業概要について教えてください。

中野弊社は人事領域の社労士が行う専門業務以外のすべてにおいて、企業様をサポートしている会社です。具体的には等級制度・評価制度・報酬制度の構築やトレーニング全般、人材紹介やRPO、採用コンサルティングなどです。採用領域では、新卒や中途、外国籍人材まで幅広く対応しています。基本的には企業様のニーズに合わせ、オーダーメイドのサービスをワンストップで提供しています。

貴社は今回、人材紹介事業社向け支援サービス「Co-agent」を始められました。どのようなサービスなのでしょうか?

中野新型コロナウイルスの影響により、人材紹介会社への発注求人は、この1ヶ月で10%以上減少し面接通過率も下がり、今後売上の減少が見込まれます。このような状況でも、紹介会社が利益を最大限維持し、そして景気が戻ったときに、再成長していくためのコンテンツをワークショップセミナー形式でお届けするのが「Co-agent」です。

リーマンショック時にも起こりましたが、不況時に、紹介会社がしてしまいがちなことがあります。具体的には、「全員で全方位での新規企業開拓をする」「スカウト数・面談数・紹介数を増やす」「業界を広げレイヤーを上げる」「コンサルタントの人数を大きく減らす」など。「Co-agent」は、自社の置かれた状況を見つめ、的確な行動を行うことで、不況を乗り越えよう、という骨子です。

不況時にしてしまいがちなことをすると、どのようなことになってしまうのですか。

中野ベテランコンサルタントのモチベーションが下がって辞めてしまう、景気が戻ったときに即活躍できるコンサルタントがいなくなる、などの弊害があります。中小の人材紹介会社は、好況期においては、業界経験のあるコンサルタントはもちろん、業界未経験者を採用するのも大変です。もしこの時期に退職者が増えたり、リストラをするとすると、不況が終わったときに戦力がいなくなる。景気が回復してから慌てて新人の採用をしても、育成時間も取りにくく、活躍させられるか分からない。であれば、退職者が出ないようにして不景気を乗り越え、景気が戻ったときに活躍してもらえるよう、育成しておくことが大事です。

高梨不景気で時間ができたときに、投資だと考えて、未経験で採用した人を育成すべきだと考えています。景気が戻ってから採用、育成しようとしても、追いつきません。それに、新たに採用するコストもかかりません。そこを忘れがちなんです。

コロナ終息後の市場はこう変わる

「Co-agent」を始めたきっかけを教えてください。

高梨3年ほど前から、有料人材紹介マーケットの景気が良くなっていました。ただ、中小の紹介会社の多くは、やり方が危うく見えました。拡大路線に走り、新人コンサルタントをどんどん採用して、領域も得意・不得意に関係なく全て網羅する。大手との差別化もなく、特色も見えづらい。あるいは特定の業界・職種に強いわけでなく、経営者と求人企業にパイプがあり、そこに紹介することで成立しているに過ぎない、など。これでは不景気になったときに危険だなと見ていました。中堅、中小のエージェントは特色を生かし、企業や転職希望者を適切に支援することが大事。そういった方向に紹介会社が舵を切って頂きたい、という発想です。

一連の新型コロナ禍が1~2年続いた場合、人材紹介マーケットはどう変化すると思われますか。

中野人材紹介市場はここ数年間バブルすぎたと感じています。その要因は三つあると思っています。一つ目はユニコーンのブーム。IT系のスタートアップを中心としたユニコーン企業は、お金が集まり、規模拡大し、人もどんどん採用していきました。

二つ目は、主に製造業が多いですが大企業での採用需要。リーマンショック時、国内の製造業は新卒・中途採用を減らしたり止めたりしたため、社員年齢構成ばらつきが生じました。景気が戻ったとき、人手不足解消のためと、減らした分を埋めていくための採用が必要になった。また、働き方改革で長時間労働が規制され、労働力を補うための採用もありました。

三つ目は、全業界での慢性的な労働力不足。定年延長、女性活躍、外国人人材の採用などで補ってきましたが、それでも不足感がありました。

これらの要因で景況感以上に売り手市場となり続け、バブルにつながっていたように思います。今回のコロナ禍が収束すればまた一定の売り手市場になり得ますが、この数年間のバブル状態にまで戻るかはやや疑問視しています。

高梨新型コロナの終息後、外食産業など人手不足が顕著だった業界では、求人が戻るでしょう。すると、外国人人材へのニーズも高まっていきます。加えて、労働人口の減少と、ITエンジニア、AI人材など一部の領域では絶対的に慢性的な人材不足であることは、コロナ前と変わらず続いていくと予測しています。

リーマン後に成長した紹介会社の事例

ではコロナ終息後、どのような紹介会社が生き残れるのでしょう。

中野Indeedなどのジョブアグリゲーターや、ダイレクトリクルーティング、リファーラル採用などの活用はこの数年間でかなり進みました。管理職クラスの採用すら、これらの手段で既に可能であり、コロナでこの流れが更に加速します。ある企業は、自然と応募が集まるからと、紹介会社の利用を全て止めたほどです。

人材紹介以外の活用を面倒に思っていた企業でもコスト削減圧力は高まるでしょうし、苦境になった人材紹介のコンサルタントが企業側のリクルーターや採用アウトソーサーになることも転じることも増えるので、企業側でこれらの手段の活用が面倒ではなくなる可能性もあり、人材紹介会社から脱却する流れは如実になるでしょう。ただ、それでも難しい求人、機密性の高い非公開求人は残るので本当に大事なところにだけ紹介会社を使うようになる。そのため、特色を持ち、企業の需要に応えられる紹介会社しか生き残れないのではないでしょうか。

高梨リーマンショックのときもそうでしたが、不景気が終わった後、人材業界の構造は必ず変わり、リプレイスがおきます。リーマンショックの時で言えば、求人広告から人材紹介へ転換が一気におきました。今回も同じことが起きると思っています。これまでは、強みや特徴がなく、成約率が低くても、量を決められる紹介会社が重宝されていました。しかしコロナ後は、そうでなくなる。ではそういった紹介会社はどのように生き残ればいいのか。いきなりエグゼクティブ領域などにシフトしようとしても、簡単にできませんよね。だからこそ、自社の特色を再定義して、磨いていく必要があるのです。

リーマンショックなどで人材紹介市場が変化してきたなか、自社の特色を生かして成長した紹介会社の事例を教えてください。

中野実はリーマンショック直後に起業されたり、領域を拡大して成功している会社は多々あります。例えば、業界内では有名な話ですが、ある人材紹介会社は、もともと若手の営業職に強く、たくさん紹介するというスタイルの人材紹介でした。しかしリーマンショックを機に、ヘルスケア分野に進出。いきなり研究職や専門職は難しいため、まずは自社のノウハウを生かせるMRの紹介から始めて、少しずつ知見を蓄えていきました。現在は専門職も含め、ヘルスケア分野で強い紹介会社になっています。自社の得意領域や顧客構成、メンバーなどを見て、領域を広げていける事例かと思います。

どんな紹介会社にも強みがある

具体的に、紹介会社はどのように自社の強みや特性を見つければいいのでしょうか。

中野自社のコア・コンピタンスを活かしたセグメントを決め、その一点突破が大切だと思います。得意な業種や職種、ポジションや年収レンジもそう。若い求職者を集めるのが得意、面接のアドバイスが上手、といったこともそうです。どの人材紹介会社にも、ここまでに培われた何かしらの強みが絶対にあるので、それを見つけ、新たな領域に転用していく。当事者では発見が難しいかもしれませんが、このサービスを通じて、第三者として一緒に強み発見のお手伝いができればと思います。

高梨「アグレッシブ運用」と「ディフェンシブ運用」も意識すべきです。業種を問わず、求人企業は2種類あります。好景気になると採用をし、悪くなるとストップする「アグレッシブ」と、景気にかかわらず一定のペースで採用を続ける「ディフェンシブ」です。顧客が前者ばかりだと、不況のときに大きなダメージを受けます。後者だと影響は少ない。そのため、セグメントをする際、現在の顧客の動きはどちらかを考え、顧客構成や新規開拓をしていくのも大事です。ただ、これらを自社で行うと無意識にバイアスがかかってしまうため、弊社のような他社によるフラットな目線でひも解くのも効果的です。

中野あとは言うまでもなく、採用企業の目線を大事にすることです。求人企業が、紹介会社を何社か使っている場合、成約数が上位3位くらいであれば、切られることはありません。一方で、成約するのは年に一人だけど、非常に困っているポジションだった、入社後にすごく活躍した方をご紹介してもらえたと言う人材紹介会社は、採用企業目線で見ると印象に残り、またお願いしようと思ってもらえます。

不況時でも利益を創出するためには、どのようなことをするべきですか。

高梨まずは管理会計の視点から、効率性を見直すことです。これまで量を追っていた紹介会社は、どんぶり勘定になっているケースが多くあります。人件費にしても、効率性を考えないと、不況期に弱い財務体質になってしまう。そのため、外部公開のための財務会計ではなく、内部に向けた管理会計で考えていきます。

あとは業務標準化です。中小の紹介会社は、スターのようなコンサルタントを採用するのが難しい。また個々のベテラン社員に頼ってばかりでは成長性もありません。なので、未経験や若手のメンバーでも、書類通過率や面接通過率、内定承諾率を上げていけるよう、高いレベルで業務を標準化していく必要があります。

中野これまでの話をまとめると、すべきことは「損益把握・シミュレーション」 「アセット(※)最適化」「予備戦力の創出」の3つです。自社の強み・得意な領域をセグメントして、限られた現有戦力で特定行動をし、率指標で収益を上げる。それを可視化するために管理会計をする。そうすることで、不況時でも生き残り、景気が戻ったときに再成長していける人材紹介会社になれると思っています。

※顧客、求人、求職者、社員など保有する全ての資産のこと

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●6月18日(木)  18:00~19:30
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