「彼に頼めば絶対決まる」
その男にはなぜリファーラルが殺到するのか

自分は売り上げ専門、数字に徹底的にこだわっていく。淡々とそう口にするのは、前人未到のレコードを持ち、常にトップを独走し続けているアレクサンダー(以下、アレックス)だ。堂々たる佇まいと、ストレートな言動、ときに相手を急かすほどのスピード感。慣れないと圧倒されてしまいそうだが、それでも彼の元には、企業からも求職者からも指名が絶えない。どのような仕事術と信念を持っているのか、迫った。

入社3年目にいまだ破られないレコードを達成

「結構笑われましたよ、みんなに。だから、やってやろうと思って」

アレックスは涼しい顔でそう話す。コンサルタントに転身して3年目に、アジアにおけるヘイズの最高売上を達成したときのエピソードだ。

「最初の1~2年は(コンサルタントの)ベースをつくっている状態でした。そこでの構築をもとにリバースエンジニアリングし、目標を立て、月次、週次、日次で何をするかを決めた。それをすべて行えば、達成するとわかっていました」

エキスパート揃いのヘイズ・ジャパンのなかでも、平均と比べ2.5倍の売り上げを出し続けている、正真正銘のトップコンサルタントはそう続ける。

米国ロサンゼルスで生まれたアレックスは、8歳で来日。15歳まで東京で過ごし、その後、カナダのバンクーバーへ留学・就職した。ファイナンシャルアドバイザーとして働き、28歳で日本へ戻ることに。就職先を探すため、ヘイズへ面談に訪れたところ、同社から誘われてそのまま入社した。2010年5月だった。担当領域は、外資系金融企業のミドルオフィスオペレーション(営業サポート)。一気通貫で、候補者とクライアントの両方に接している。

入社して間もなく、大きな逆風が吹いた。欧州財務危機だ。アレックスの担当領域もその影響を受け、もらえる案件は月に一つ程度と激減。同僚のコンサルタントは、金融からほかの業界へシフトしていった。

だがアレックスだけは、成果を出し続けた。顧客を失うこともなかった。その秘訣を、「とことん人に会って、紹介してもらいました」と振り返る。

「ミドルオフィスオペレーションのヘッドは、ほとんど日本人です。競合の紹介会社は、外国人コンサルタントが多い。僕の場合、同じ日本人ということで、企業の担当者もやり取りしやすかったのかもしれません」

候補者・求職者はほぼ100%リファーラル

そんな環境にも後押しされ、紹介を通じて案件や人材を獲得し、世界的な金融危機も乗り越えることができた。実は現在も、クライアント・候補者ともに、ほぼ100%がリファーラル。媒体はほぼ使っていないという。双方から圧倒的な信頼を寄せられていることがうかがえる。では、どのようなコミュニケーションを心がけているのだろう。

「まず、フィードバックのスピードです。採用担当者からは、素早く返事をすると信頼されます。候補者もそうです。僕がメールを送ったら12時間以内に返事ください、と言ったりします。なかなか返事が来ないと、こっちの動きも遅くなってしまう。だったら転職する意味はないから、と単刀直入に伝えます」

言うべきことははっきり言うが、結果もきちんと出す。だからこそ、新しい候補者が「アレックスさんに頼めば絶対決まるし、給料も上がるから」と紹介されてくるのだという。一方で、クライアントにも物申すことが多々ある。例えば昔ながらの、遅くまで働くことを是とする社風の企業には、「これじゃ若手は来ないですよ。もっとフレキシブルに考えて、社員のワークライフバランスも大事にしないと」と助言。

また、担当領域の特性として、候補者は女性が80%と多い。結婚や出産後の女性社員へ配慮が少ない企業へは、働きやすい環境や制度の提案をする。耳が痛いようなことでも指摘し、改善につなげ、マッチングの精度を高めていくのだ。実際、アレックスが担当した候補者は、入社後に辞める人がほとんどいないという。

目標達成にはKPIが欠かせないが、アレックスのそれは極めてシンプルだ。一つの案件に対し、5人を紹介すれば、一人は決まるというもの。目標数字から逆算し、いくつの案件があればいいのか、では候補者は何人必要か、と考え進めていく。前述したように、アレックスは媒体をほぼ使わない。候補者のほぼすべてがリファーラルだ。それをもとに、自分専用のデータベースをつくり、案件とマッチングを図っている。

「(データベースといっても)名前と履歴書の内容を、大体記憶しちゃっています。案件が来たら、この人かなとすぐ思い浮かべて、LINEや電話で連絡しています」

とはいえ、金融業界には、20~30代の候補者が圧倒的に不足している現状がある。欧州危機の際、金融業界が打撃を受け、多くがIT業界などに移ってしまったからだ。クライアントからその層が欲しいと言われたとき、「いません」と現実を正直に伝えるのもアレックスの流儀。その代わり、40~50代の層が厚いことを説明し、プロフェッショナル人材という形で採用することを提案して、成約につなげている。

数字度外視だからこそ数字がついてくる

僕は売り上げ専門、だから売り上げを重視していく、とアレックス。マネージャーではなく、あくまでプレイヤーとして、今後も数字にこだわり続けていくという。領域を広げるつもりも、ない。今の売り上げを出せているのは、ミドルオフィスに特化しているから。幅を広げても、すぐに成果は出ないでしょう、と冷静に分析する。続いて、今後の人材ビジネスの在り方についても言及。

「AIの進化やLinkedInの出現によって、僕らの仕事が奪われると言われてきました。けれど、コンサルタントは対人の仕事なので、無くなることはないかなと。AIがマッチングしても、最終的には人がスクリーニングして紹介していますから」

アレックスは、企業と候補者はそれぞれ、直接交渉をしたくない、という思いを持っているとも話す。たとえば面接で候補者が、希望の給料額を提示したとき、企業の予算を超えていたら、その時点で決裂する恐れがある。そのため、思ったことを強く言えない。間にコンサルタントが入り、調整することで、双方の希望が反映された結果になるのだ。実際にクライアントから、同社に入社予定の候補者を紹介され、間に入ってほしいとお願いされることもあるという。人材ビジネスが世の中に必要で、コンサルタントがいかに重要な仕事であるか、アレックスはさらに説く。

「コンサルタントの仕事は難しい。候補者の生活や人生がかかっていますから。合わない仕事を紹介すれば、家族関係が悪くなることもある。企業や自分たちにも悪い影響がでる。けれどコミッション欲しさに、望まない案件でも紹介する人がこの業界に多いと思います」

企業と候補者の相性が良いと思えず、入社しても長続きしないだろう、と感じたらすぐ手を引く。どうしても入社したいと候補者が言っても、「では、ほかのエージェントを通してください」と関与しない。ある意味では数字を度外視し、双方がハッピーになることに、アレックスはこだわり続けている。その姿勢のまま進み続ける限り、彼はいつまでもトップを走り続けるのだろう。そしていつか、自らが打ち立てたレコードを塗り替えるのかもしれない。また周囲が笑ったとしても、どこ吹く風で、すべきことをし続け、真のコンサルタント像を示すに違いない。