一推薦、一決定が何よりの美学。

そのトップコンサルタントは、楽な道を選ばなかった。あえて逆境に身を投じ、ハイクラスの候補者たちとハイレベルなやり取りをしながら自分を鍛えていった。仕組みや効率を捨てて、俗人的なマッチングを追求することで、人材ビジネスに関わる喜びも見出した。彼は異端児なのか、あるべきコンサルタントなのか? リクルートらしからぬスタイルにこだわり続ける杉山が、その思いやビジョンについて語った。

ターゲットはあくまで、リーチできていない候補者

「目標は15年くらい意識したことが無いし、達成のためにどんな行動をするかも考えない。会社はそこを求めてきますけどね」

トップコンサルタントは涼しい顔でそう言い放った。会社から提示されたプロセスやKPI、バリューチェーンに従い、きちんとマネジメントをすれば確かに数字は出るでしょう、と杉山。しかし目標の成約数から逆算して、テレアポ、スカウトメール、面談などのKPIを設定し、低い成約率で達成を目指すことだけを是としない。僕らは一推薦、一決定を何よりの美学にしていますから、と。

1991年、杉山は新卒でリクルートに入社した。世界中の会社の、いろいろな立場の人と仕事をしたい、という思いが志望動機だった。営業(以下RA)、キャリアアドバイザー(以下CA)、企画を経てサーチ部門へ。CA時代は年間120名もの成約を上げていた杉山だけに、同部門を担う期待を寄せられての大抜擢だった。ハイキャリアグローバルコンサルティング部は、年収800万円以上の求職者の転職サポートが役割だ。配属時に、ミッションとして「トップタレントに介在価値を感じてもらうこと」と掲げたことを杉山は明かす。 「年収800万円以上のトップタレントの中には、我々エージェントに対し、サポートしてもらってもあまり得がないと思っている人たちがいる。そこで介在価値を発揮し、エージェントの評判を向上させ、そういう人たちを見返すというか。そういうことがミッションの一つでしたね」

求職者開拓でも独自のやり方を貫いた。通常は、リクルートエージェントにエントリーしてきた求職者が、各コンサルタントに担当決めされるが、杉山たちは独自のアプローチにこだわった。

「リクルートエージェントには、転職したいと思う方がエントリーしてきます。その方たちのサポートをし転職実現に導くことはもちろんですが、一方企業に目を向けると、エントリーされた方だけでなく、我々がリーチできていない人材も含めて最適な候補者を探すべき、と考えたときからサーチに振り切りました」

あえて困難な環境に目を向けて、これまでリクルートエージェントが得意としてこなかったハイクラスの方を成約させるべく挑んでいった。選んだフィールドに旗を立て、キャラクターを作り、ブランドを築いていく。仕組化や効率化を追求していくリクルートの中で、俗人的ではあったが、「そのスタイルが尊ばれていた時代でしたね」と杉山は振り返る。

この仕事の面白さを後輩たちに伝えたい

現在もそのスタイルを変えておらず、若手たちに継承していくべきだとも杉山は考えている。「メンバーの中には、仕事の面白さを感じられないまま辞めてしまうメンバーがけっこういる。それを早めに察知して止めて、この仕事がいかに自由で楽しいかを話していますね」。

ハイキャリアグローバルコンサルティング部は、リクルートの中では珍しくRAとCAの両面を一人で担当し、スタイルに制約もない。求職者もハイクラスのため、成約までの難易度も高い。アップダウンも激しく、成果が出せなければ容赦なくグレードも下がる。しかし、杉山はクォーターごとに目標を達成し、生き残り続けてきた。そして、このような部署は社内に絶対に必要だと断言する。

「そういった環境の中で選ばれ続けて、自分がワクワクしながら仕事をすることは大変。でも、コンサルタントとして無くしてはいけない思いを持っている人たちがリクルートにはたくさんいました。そうした先輩たちの思いを、繋いでいるんです。僕らが楽しそうに仕事をする姿を見て、あんな仕事がしたいと後輩たちに思ってもらうためにも、今の部署の地位を上げながら、存続を図っていくことが大事です」

また杉山は、他のサーチファームと比べると、同社の給与における歩合の割合が相対的に少ないことをもって「その分、候補者や企業様のオーダーにど真ん中から応えられる」ことがメリットだと語る。

「企業や求職者とも3~5年の付き合いを前提に接するようになります。そういう姿勢で、最高の人材を探して企業の課題を解決したい、というエージェントを私たちは目指していますね」

現在、両面で一推薦・一決定を目指すエージェントの割合はまだまだ低いですが、これから比率を高めていきたいですね。

自分を変えてくれた、冷や汗をかきながらの面談

このように杉山が高い意識を持って、エージェント業を追求し続けるようになったのには、ほかにも理由がある。2000年から2001年ごろ、外資系の通信機器ベンダーで働いていた候補者と、霞が関ビルで面談したときのことです、と杉山は回想する。「そこで初めてトップタレントに触れたんです。まったく歯が立ちませんでしたね。面談が始まってから3分で、高いレベルの会話についていけず、対等に話ができないことを見下されているような感覚を覚えました。冷や汗をかきながら面談をして、終わったら這う這うの体で帰ってきました」

リクルートという看板や競争優位性があったため、地力が無いのに調子に乗っていたのでしょう、と杉山。それからはトップタレントとも対等に対峙していくために、徹底的に勉強していった。候補者のプロフィールも全暗記が基本。忙しい相手とやり取りするのに、キャリアの確認など時間の無駄でしかないからだ。今では面談相手に、「何でそこまで知ってるの?」と驚かれることもあるという。その度に、杉山は「これがリクルートの標準ですよ」と答えているのだそう。

「周りのコンサルタントにも、準備を完璧にしてから挑むように伝えています。そうすれば面談のときの先方の反応で、『エージェントの介在価値とはこういうことなんだ』と分かるはずですから。そこから正のスパイラルに入って、仕事が楽しくなっていくはずです」

ハイキャリアグローバルコンサルティング部では、ほかのエージェントが扱えないような案件を受けることが多い。機密の求人も多いため、一推薦・一決定で確実に成約させる必要がある。トップタレントが心から満足し、ワクワクできる新天地を紹介するのは非常に困難だ。でも、そういった環境を、「ものすごく充実していますよ」と杉山は目を細めた。

トップコンサルタントにも、もちろん休息の時間はある。休日の過ごし方については、「本当に何もしていないんです」と杉山は苦笑する。平日はなかなか家族との時間を取れない分、一日中自宅で過ごすことが多いのだそう。平日は仕事前に、八重洲地下街のカフェで、コーヒーとタバコを前にぼけーっと過ごすことが、何よりリラックスできるのだとか。

そんな杉山は、紹介ビジネスの本質について「求人・求職者をそれぞれ増やしてこそ決定が生まれます。ですがそこで成約しない案件は、一推薦・一決定で決めるしかありません」と説明する。求人企業の傾向としても、替えの利かない人材を求めることが多くなっているのだそう。

「これからは私たちの領域を担えるエージェントのニーズが高まっていくでしょう。当社でも現在、両面で一推薦・一決定を目指すエージェントの割合はまだまだ低いですが、これから比率を高めていきたいですね」

杉山は時代に逆行し、我が道を進み続けていることから、異端児のように思われることもあるだろう。しかしAIなどのテクノロジーが広まり、エージェントの介在価値が見直されている現代において、人材ビジネスのあるべき姿を追求し続けている稀有な存在なのだ。