だから、彼女はパラレルワークを選んだ
花に触れ、人に触れ、喜びをつくりたい
仕事の成果は労働時間に比例しない。そんな事実を証明し、体現し続けているのが、吉住順子だ。ヘッドハンターという仕事に加え、プロの園芸療法士としても活動している彼女は、なぜパラレルワークを選択し、継続しているのか。アジアトップクラスのエグゼクティブサーチファームであり、社員のワークライフバランスを重視するCDSは、彼女をどのようなコンサルタントに育てたのか。吉住は終始明るく、自然体のまま語った。
フラワーデザイナーからヘッドハンターへ
「花をもらって嬉しくない人って、いませんよね? ひっそりとたたずんでいるけれど、花には隠されたパワーがある。だから、花に関わる仕事がしたかったんです」
毎朝、仕事のメールをチェックするよりも、優先順位が高いのは花に水をあげること。大の花好きである吉住は、そう続けて笑顔を見せる。そんな彼女らしく、キャリアのスタートも花に関わる仕事だった。大手フラワーショップの勤務を経て、フラワーデザイナーとして独立。花束や結婚式のブーケをつくりつつ、ボランティアで園芸療法士(※園芸活動を通じ、心身のリハビリを行う専門家)としても活動する。しかし、収入面での安定を考えて、新たなキャリアを歩むことに。外資系製造業の企業でのマーケティング職を経て、2000年1月にCDSに入社。ヘッドハンターに転身した。
「ヘッドハンターの仕事で重要なのは、企業のトップといかにコミュニケーションを取るかです。マーケティングでも全国にある代理店を回り、社長に営業活動を行っていましたし、自分の性格に合っていると思いましたね」
数社のエージェント企業と面談をした中で、CDSを選んだ理由は大きく二つ。創業者であるサイモン・チャイルズ氏とジェイソン・ダカレット氏の人柄に引かれたこと。また、CDSで働くのと同時に、園芸療法士としての活動も継続することを認めてくれたことだ。
しかし、1998年に設立したばかりの同社は当時、売上も利益も現在には遠く及ばない。サイモン氏とジェイソン氏がヘッドハンティングを行い、その売上を社員の給料にあてて回している状態だった。またCDSは、日本人の女性コンサルタントを採用した前例がなかったため、採用に懸念を示す声もあったが、吉住の強い希望もあり入社が実現した。
「そんな状況ですから、私もエージェントサーチの仕事だけでなく、会社を大きくするにはどうすればいいかにも関わっていました。コンペティターからヘッドハンティングされたとき、会いに行って話を聞いて、サイモンとジェイソンに情報共有したこともありましたね」
世界トップのコンサルタントから学んだ仕事術
そんな中で、二人の創業者からノウハウを学び、吉住は着実にコンサルタントとしての力をつけていった。現在、CEOジョン・タッカー率いる同社は優秀なコンサルタントが集っているが、その礎を築いたサイモン氏は2009年にはBusiness Weekによる「世界のTop100ヘッドハンター」に選出されたほどの、まぎれもないトップコンサルタントである。
「サイモンは、とにかく仕事のスピードが速いんです。例えばメールを返すとき、相手によってプライオリティをつけがちですよね。でも彼は、どんな方にも早く対応するんです。あと先日、CDSでリテーナーに関する勉強会をお願いしたのですが、初めて会う社員の名前と顔を事前に調べていて、驚かせていました。そうされると、誰でも嬉しくなりますよね」
プロフェッショナルが揃っている同社は、クライアントと永続的な信頼関係を築くことを最重視している。そのために、コンサルタントは担当する業界のことを熟知し、クライアントに寄り添い深く接する。成約もただ決めるだけでなく、クライアントに満足していただかなくてはならない。そうして年月を経て、構築された絆の強固さは計り知れない。
例えば、クライアントに送る候補者のプロフィールには、「パーソナリティ」「CDSコメント」という欄があり、レジュメや経歴よりも重視されているという。また、募集ポジションがなかったり、求められる条件や経歴とは違ったりする候補者でも、CDSのコンサルタントが推薦すれば、「君がそんなに言うなら一度会うよ」と言われることが多いという。「ミーティングをすると、ほかの紹介会社はおろか、社内でもコンフィデンシャルな情報をもらえることも少なくないですね」と吉住は話す。
園芸療法とヘッドハンティングの共通点
吉住が所属しているのは消費財チームで、ラグジュアリーファッションを担当している。業界の近年の傾向として、“Eコマース”を挙げる。
「EC業界の大手企業で働いていた方が、ラグジュアリーブランドのEコマース部門に入社するなど、どのブランドもデジタルマーケティングを強化しています。SNSやブログに商品が取り上げられただけで、売上げが昨日と全く変わることもある。だからこそ、WEBマーケターはホットですね」
コンサルタント業務以外にも、吉住はフル回転の活躍をしている。部下へのコーチングもそのひとつ。仕事やプライベートで悩みを抱える社員に対し、アドバイスを送っているのだ。またCDSもその一員であるリクルートグループのコンシューマーサービスチームの担当者らとやり取りし、それぞれの売上げ向上にも貢献している。グループ会社はジュニアからミドルクラスが、CDSはエグゼクティブクラスが専門領域なので、それぞれに依頼のあった案件を適切なコンサルタントが担当できるよう、会社間をまたがって振り分ける仕組みができている。
「ヘッドハンターか園芸療法士、どちらかひとつを選べと言われても難しいですね。パラレルワークが自分に合っていて、エネルギーのもとになっています。それに園芸療法は、ヘッドハンティングと全然違うと思われがちですが、実はとても近いんです。患者さんが園芸療法に参加したことで、社会復帰のきっかけになったという声を聞くことも。ドクターや看護師さんから患者さんの社会復帰プログラムについて相談を受け、アドバイスすることもあります」
そうして喜んでもらえることが、自分のモチベーションになっている。お金だけでは続きません、だって人間ですから。吉住はそう言ってほほ笑む。
目指すはグローバル エグゼクティブサーチファーム
花が好きな吉住は、パートナーと一緒にハイキングをしたり、公園でバトミントンをしたり、バーベキューをしたりと、オフでも自然に囲まれて過ごす。自宅に友人たちを招いて、料理でもてなすことも好きなのだそう。人が喜ぶことが好き、という吉住にとって、何より充実したひと時なのだろう。実はプライベートを楽しむことも、CDSのコアバリューなのだと吉住。
「CDSは、ワークライフバランスを重要視しています。仕事もプライベートも大事にするのがミッション。社員はそこに賛同しているので、離職率はとても低いですね。社員同士の争いやいがみ合いなど、不健康な関係もない。本当に働きやすい会社です」
そんな同社は、グローバルサーチファームの一社に成長することを目指している。リクルートグループのソリューションを活用すると同時に、世界各国のパートナーと連携し、すでにアジアではトップクラスに位置する同社。今後は欧米にも積極的に進出して、世界ナンバーワンを目指すのだと、吉住は力強く宣言した。
コンサルタント一筋ではなく、そのキャリアを活かしながら社会に貢献し、CDSを設立間もない頃から支えともに成長してきた。今後も吉住は、自らが花となり、養分となり、CDSに根を張って、広く大きな花畑を咲かせるのだろう。