キャリアとは仕事だけでない
人生において“自分らしさ”を支援したい
その社名には、土屋のキャリアに対する思いが全て込められている。クライアントや求職者への接し方、マネジメント方針、そしてお酒の場から生まれる新たな繋がりなども含め、全てに共通しているのは“自分らしさ”というキーワードだ。仕事だけでなく、人生におけるベストなキャリア支援を行っている同社。社長であり、コンサルタントでもある土屋の、人材ビジネスに対する思いに迫った。
仕事内容や募集要件よりもその会社の存在意義を知りたい
自分らしく—。人が仕事をする上で、あるいは生きる上で。この“らしさ”を発揮できるかどうかによって、豊かさや幸福度は大きく変わる。だからこそ、多様な選択肢の中から、自分らしい最適なキャリアを歩んでほしい。
そんな思いで、女性を中心とした求職者に対し、キャリア支援を行っているのがエスキャリアだ。主な事業領域は転職支援、フリーランス支援、キャリアカウンセリング。土屋はCEOでありながら、キャリアカウンセラー兼営業として、日々求職者や企業に向き合っている。
現在、エスキャリアのメンバーは、女性ばかり12名。「まだ人数が少ない会社なので、“やらない”ことも大事です」と土屋が話す通り、どんな企業の案件でも受けるとは限らない。決まりやすい、お金になりやすい、という案件でも断ることがあるという。
「例えば、経営者と仲良くなりたいか。その会社にもっと成功してほしいと思うか。求職者にその会社で働いてもらいたいか。この会社が発展することで、私たちの子供たちにとっていい社会になるか。私たちはそういった軸でお取引先を決めています」
そもそも同社は、会社の成長や、利益の追求を目標にしていない。だからこそ、自分たちの存在価値や理念を最優先し、事業展開を行っている。
「細くても尖っている方が、深く穴が開くじゃないですか。広く浅くではなく、私たちは勝負したいですね」 企業にヒアリングをする際も、その姿勢は如実に表れている。仕事内容や募集要件よりも、「経営者はなぜこの会社を作ったか?」「この会社が存在する意義は?」など、根本的な部分をヒアリングする。そこを理解し、共感した上で初めて、企業が抱えている課題を掘り下げていくのだ。そして、自分たちには何ができるのか、どのような人材が相応しいかを提案していく。それこそがRA(リクルーティングアドバイザー)の役割なんです、と土屋は断言する。
貯金ゼロ、借金からのスタート…道しるべとなる旗を立てるために起業
大学卒業後、土屋はリクルートエージェントに入社した。RAとしてスタートし、2年目からはリクルート本社の新卒採用も兼務する。転機が訪れたのはリーマンショックの後。人材の需要が無いにも関わらず、求人を取ってこないといけない状況に違和感を覚え、自分を見つめなおすべく退職した。フリーランスとして、個人向けのキャリアカウンセリングやコーチングを始めたが、決して順風満帆ではなかったという。
「ほぼボランティアで仕事を受けていたので、収入が不安定でした。また、自分は何者なのだろう、と迷いそうになる経験をしたことで、法人化を決めました。エスキャリアという旗を立て、そこを目指して進んでいこうと考えたのです」
だが当時、貯金はゼロに近い状態。親に頭を下げて資金を借り、何とか資本金を工面して、2011年にエスキャリアを設立した。同時期、私生活でも離婚という生活の変化があった。「結婚してリクルートキャリアを辞め、離婚してエスキャリアを作ったんです」と土屋は笑う。事業をする上で心がけたのは、理念を明確にすること。そしてクライアントと誠実に向き合い、きちんと成果を出すことだった。
「すると継続して仕事をいただけて、毎年1.5倍~2倍は成長できるようになりました。仲間たちも自然と集まってきましたね」大事なのは“Can”と“Will”です。Canは過去、これまでしてきた経験の中で、会社で活かせること。Willはこれからしたいことや目指す未来。
求職者の“Can”と“Will”から企業との接点を見つけていく
コンサルタントとしての基礎は、リクルートキャリアで培ったという。周囲にいたのはプロフェッショナルのCA(キャリアアドバイザー)たち。当時は今と同じく、売り手市場の市況。土屋達新人営業の取ってきた案件は、コンサルタントに相手をされないことが多かった。そんな中でも、企業の魅力を必死にCAに伝える中で、自然とスキルが磨かれていった。
「会社の歴史や経営者の人柄・思いなど、いろいろな側面から魅力を引き出し、提示していきます。また、企業側と求職者のニーズを繋ぐことも意識しています。例えば個人は、PRポイントを1~10まで説明したがりますが、企業からすると不要な情報が多い。大事なのは“Can”と“Will”です。Canは過去、これまでしてきた経験の中で、会社で活かせること。Willはこれからしたいことや目指す未来です」
“Can”と“Will”、つまり過去の分析と未来への展望から、個人がその会社で活かせることやできることを見つけてもらう。企業側も同様で、個人にとって「この会社であればスキルを活かせそう」「なりたい自分を実現できそう」というポイントを見つけ、それぞれ提示していく。どちらから高すぎる希望を要求されたら、事実を伝えるなどして期待値の調整をする。面談が終わった後は、それぞれの評価をフィードバックし、モチベートする。そして、企業と個人の接点となるポイントが、きちんと伝わるようにサポートしていくのだ。
会社からの押し付け目標やKPIはなし一人ひとりに合わせたタレントマネジメント
エスキャリアは一人ひとり雇用形態が違う。経営者、社員、フリーランスなど様々で、勤務時間も異なるのが特徴だ。そんな多様な中でも、土屋がマネジメントにおいて全員に心掛けている点がある。それは、トップダウンの目標設定をせず、一人ひとり異なる自発的な目標に応じ、個別に評価するということだ。
「うちは会社で決めた必達数字目標というものはありません。メンバー一人ひとりから自発的に『何人面談します』『何件求人をとります』と報告を受けるくらいですね。そもそも女性は『目標達成』という言葉を嫌がる人も多いです(笑)。なので、できるだけ『ビジョンの実現』という言葉に置き換えています。
これからの時代は、お客様も一社一社、一人ひとりへの個別対応が求められています。同時に企業内でも、メンバー一人ひとりへの個別対応がいかにできるかがこれからの会社には求められてくると思います。
また、単に売上を上げ続けていくことだけが企業の正しい在り方ではないと感じています。そこにいる一人ひとりが自分らしさを発揮し、仕事にやりがいを感じ、幸せに生きている事がたいせつで、そのために得意なことを活かしあい、助け合い、役割分担をするチーム、という会社でありたい」
エスキャリアには、共同代表である岡本氏を始め、子育てをしながら働く女性が多い。子どもの体調不良や学校行事などの不確定要素がある中、限られた時間で高い成果を出すために、個別の目標設定や時間の使い方などは、本人達に委ねられている。 そんな一人ひとりに合わせたマネジメントを行うことで、個々人の力が最大限に発揮され、業績向上にも繋がっていくのだそう。また、役割が人を育てることもある。今年立ち上げた「エスキャリア・ライフエージェンシー」の社長に抜擢した城氏は、仕事への気構えが一変したという。
「働き方と同様に、組織やリーダーシップのあり方も変わっています。同じことをさせて大量生産をするのではなく、一人ひとりが自発的に考えて、クライアントのために提案できる組織にならないと、これからの成長は難しいでしょう」
そんな土屋の休日の過ごし方は、ヨガやゴルフや映画鑑賞など。そして、欠かせないのはお酒だという。「本当にお酒が大好きなんですよ。お店でも、ここでもよく飲みます」と、オフィスにあるお酒の瓶を取り出してはしゃいでみせる。週末には講師を招き、オフィスでワイン教室や日本酒教室、料理教室などを開催することも。そういった場所での出会いも、求職者開拓に繋がっているという。ちなみにエスキャリアは、予算を使っての広告は一切出していないそうだ。自分たちが楽しみながら、仕事での成果も生み出す。これも、自分らしい働き方の一つだろう。
最後に土屋は、今後のビジョンを語った。それは、「エスキャリアのアンバサダー(大使)を増やし、アルムナイ(卒業生)組織を作ること」とだという。
「うちを介在して転職した方、うちで一緒に働いた方が、社会に出た後も自走し、自分らしいキャリアを実現する。そして、“エスキャリアと出会えて良かったです”と広めてもらえると嬉しいですね」