業界のプラットフォームとなり派遣の働き方にさらなる自由を

製造領域に特化した人材支援事業を展開するUTグループ株式会社。30年前の創業時から無期雇用制度を導入するなど時代をリードしてきた同社だが、ここ一年の間に大きな方針転換を進めている。どのような変化を目指すのか。また、その背景とは。代表取締役社長の外村学氏に聞いた。

創業時から30年続く無期雇用派遣のパイオニア

――UTグループ創業30周年、おめでとうございます。改めて、御社の事業内容を沿革も含めてお聞かせください。

ありがとうございます。当社は、1995年にエイムシーアイシー有限会社の名称で、製造領域の構内作業業務請負事業者として設立し、同時に「正社員雇用」「社会保険100%加入」を始めました。後に半導体領域にシフトし、2003年に当時のジャスダック市場(現、東証プライム市場)へ上場しましたが、当時は、雲の上の存在というべき同業他社がいくつも存在していました。加えて、半導体領域の商社事業を始めたものの、手法の違いから事業がなかなか上向かず、ふたたび製造領域特化に戻して製造業内で事業の幅を広げる方向へシフトするなど、揺れている時期でもありました。

ところが、08年のリーマンショックで雲行きが変わりました。派遣業界全体の業績が低迷する中、早くから無期雇用制度を採用していた戦略が幸いして事業が上向き、雲の上だった同業トップ企業の背中が見えてきたのです。さらに、社名をUTグループに変更した15年から始めたキャリア支援の仕組み「One UT」と「Next UT」が、同年に改正された労働者派遣法の「3年ルール*」やキャリア形成支援を派遣会社に義務化された流れの対策として合致していたため、事業成長が加速しました。現在は、製造領域の人材派遣、人材紹介、業務請負、企業の構造改革の支援事業を展開しています。

当社は売上構成の90%が製造派遣で、グループ企業によっては、一度の派遣人数は数百人が標準です。そのため常に大規模募集をかけますが、1万人の応募があっても、採用に至るのは1,000人程度です。理由の多くは、ほとんどの案件が地方の大規模工場への転勤が条件になるため、転勤を希望しない人材が辞退してしまうからです。せっかく応募してくださった人材を、なんとか働きたい環境へ送り出す方法はないか――。策を検討していた時期に労働者派遣法の3年ルールが制定され、地域密着型の派遣事業や大手メーカー運営の派遣事業会社の一部が、事業継続の見直しを始めました。当社は、全国のこれらの派遣事業会社を統合する形で、転勤なしで働ける勤務地を拡大し、エリア戦略事業と称して本格的な事業部としました。現在の派遣領域は、大きくモーター、エナジー、セミコンダクター(半導体)とエリアに密着した領域に分かれています。

*同一の派遣先の事業所に対して派遣できる期間は原則3年が限度

――「One UT」と「Next UT」について、詳しく教えていただけますか。

「One UT」は、グループ企業のエンジニア職へのキャリアチェンジを支援する仕組みです。UTグループ全体で、過去3年間で1,000人以上がキャリアチェンジしました。

「Next UT」は、現場で実績を積んだ当社の技術職社員を、取引先企業様の正社員としての転籍を支援する仕組みです。派遣先企業様は能力や勤務態度が確かな人材を採用する機会となり、社員はキャリアパスの選択肢をひろげることができます。

――派遣業界における御社の強みは何でしょうか。

全国から求職者を集められる採用力が強みです。全事業会社をあわせ、月間で約1,500人を採用することができます。取引先は大規模工場が多いので、期限までに揃えられるよう、コストをかけて常に採用をしています。今後、技術職社員を5万人以上に増やす計画を立てており、月間2,000人は採用しなければ達成できませんので、現在その仕組みを構築中です。

求職者目線の改善が採用力アップのカギ

――2024年4月に外村様がUTグループの代表取締役社長に就任されて、間もなく1年になります。代表に抜擢された理由は何でしょうか。

グループの中長期計画を、会長、そして全従業員とともに実現するために就任しました。当グループが10年前に立てた中期計画では、前半5年で製造派遣事業を完成形にし、後半5年は製造派遣領域のトップ企業となり、製造派遣のプラットフォームを目指すとしました。前半5年が経ち、製造領域に特化した派遣事業は我々が目指す形に近づいてきました。ここから先、私が製造派遣のプラットフォームを完成形まで導き、前社長は会長職として次の未来を目指す。この役割分担のために、私が代表に就任しました。

――具体的な数値目標はありますか?

プラットフォーマーになれば業界への影響力が強くなり、社会全体に新しい働き方の提案もできるようになりますが、そのためには、最低でも10%以上のシェアが必要です。製造工程で働く技術職社員は、日本全国に40万人と言われています。その10%は4万人です。当社は技術職社員の在籍目標を13.5%増の5万4,000人とし、派遣の新たな価値やサービスを提供できる存在になります。

――派遣事業を完成形にするための課題はありますか?

派遣ビジネスは、派遣先企業様と求職者のマッチングビジネスですが、ともすると我々は、派遣先企業様のニーズに偏りがちです。もちろん派遣先企業様の声は重要ですが、これからますます働き手が企業を選ぶ時代に加速すると考えられますので、今後は企業目線と同じくらい、求職者目線のビジネス展開が必要になります。求人メディアで例えると分かりやすいかもしれません。求職者は、企業の使い勝手に合わせて作られたサイトより、求職者が使いやすいサイトを利用したくなりますよね。この求職者目線が、ビジネスのいたるところに普及していくはずです。

我々が求職者目線のサービス提供に注力し、高精度のマッチングが増えれば、派遣先企業様にとってもメリットです。求職者目線の考え方を取り入れ始めたのは、私が社長に就任した24年4月からですので、目に見える結果がでるにはもう少し時間がかかりますが、すでにいくつかの改善を実施しました。

――具体的な改善事例を教えてください。

当グループでは、執行役員が定期的に工場へ出向き、現場見学をします。現場に出向くことで、改善点が見つかるからです。現場から見えてきた課題を解決するべく、社内の組織階層をシンプルにし、顧客と直接の接点を持つ現場マネジャーに権限をゆだね、顧客目線の改善やアイデアがスピーディーに上がってくるように改善しました。

――求職者目線での改善を派遣先企業様にご理解いただくのは難しそうな印象があります。

実際のところ、採用の数と質を上げるためには、当社の努力だけでは成功しません。派遣先企業様と一緒に検討していくことで成功に近づきます。例えば、業務習熟度に応じて賃金が上がるジョブグレード制度などを企業様に合わせてアレンジして導入したり、転勤を希望しない人材を同じ企業内で職種転換をして送り出したりするなどの工夫を協働している中で、理解が深まっていると感じています。

無期雇用だけが価値ではない。派遣に幅広い働き方の提案を

――最後に、派遣市場の今後について、外村様の所感を聞かせてください。

これは私の肌感ですが、派遣の働き方に魅力を感じている方は増えており、無期雇用や正社員登用を望んでいないケースも多くあると感じます。今後、働く期間や時間、場所を自由に選べる派遣の働き方を好んで選ぶ人は増えていくでしょう。

当社も、長きにわたり「派遣なのに正社員に近い働き方ができる」ことを提供価値と捉えてきましたが、この考え方そのものが、時代に合わなくなりました。かつての派遣は、正社員の補助的な立場とみなされ、いつまで働けるか分からない中で仕事をしていたため、多くの人が正社員や無期雇用による安心、安定に価値を感じていました。いまは、派遣という働き方そのものに魅力を感じている人が増えています。希望の時間帯だけ働きたい人、生まれ育った町で時間内だけ働きたい人、短期間にたくさんの企業で働いてみたい人がたくさんいます。私たちはいつしか、無期雇用の提供こそがすべての技術職社員のためになると思い込んでいた。あるときこれに気付き、現在は正社員登用や無期雇用にこだわらず、派遣の働き方の幅を広げる方針で事業展開を進めています。