2002年の創業時から一貫して「しゅふ」に特化した人材サービス事業を展開するビースタイルホールディングス。「しゅふ」の概念や働き方が多様化する中、同社はどのような戦略で成長と拡大を続けているのか。同社の代表取締役社長、三原邦彦氏に聞いた。

コロナ禍を機にメディア事業が成長

――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

ビースタイルホールディングスは、「社会課題をビジネスで解決する」をミッションに派遣・紹介事業、求人メディア事業、DX事業、障がい者雇用促進事業の4軸で展開しています。メディア事業では、しゅふ(主婦・主夫)採用に特化したメディア『しゅふJOB』を運営しています。売上比率は、2002年の創業時からの祖業である派遣・紹介事業が70%近くを占めますが、近年はメディア事業が営業利益ベース前期比+150.3%と成長しています。

――メディア事業が成長した主な要因はどこにあるのでしょうか?

要因の1つとして、コロナ禍の回復戦略として投資のポートフォリオを「メディア」に大きくシフトした点が挙げられます。人や組織に対してレバレッジをかけて結果を出すビジネスモデルの派遣・紹介事業をコロナ禍において回復させるには、かなりの時間がかかると想定できました。幸い、当社には『しゅふJOB』という求人メディアがありましたから、投資のポートフォリオをメディアにほぼ100%振り切り、その間に派遣・紹介事業を立て直す戦略をとりました。

また、CMによる認知度アップ施策もメディア事業のグロースに大きく影響したと思います。『2024年上半期(*1) CM指名検索スコアランキング』では、1万2,000ブランド中61位となり人材サービス業界では唯一の100位以内のランクインとなりました。また、求職中や求職する可能性がある30歳から59歳の女性を対象とした『求人サービス認知度ランキング(*2)』では6位になったことから、求人媒体としては一定の認知度を得られたのだと考えています。

(*1)指名検索スコア:CM放映前後の数分間に増加した指名検索数をCMの放映量で割り算出されるスコア 出所:ノバセル株式会社「2024年上半期 CM指名検索スコアランキング」 (*2)調査期間:2024年6月 調査企画:ノバセル株式会社 調査協力:株式会社クロス・マーケティング)『パート・アルバイト探しのための求人サービス』と聞いて、思い浮かぶものを3つまで教えてください」との質問に対して回答されたサービス名ランキング 調査対象:子どもと同居かつ育児の負担がある、求職中または求職する可能性のある30~59歳の女性

――24年12月に東証グロースへ新規上場されましたが、本来はコロナ禍より前の上場予定だったそうですね。

20年に上場申請をする予定で準備していたところコロナ禍に入ってしまい、すべて見直しとなりました。世の中、何が起こるか分かりません。この経験から、昨年の上場時は当日までひやひやしていました。現在のオフィスも、コロナ禍前に引っ越しを決めていたので引っ越しましたが、レイアウトはリモートワークやオンラインでのコミュニケーションを想定して急遽大幅に変更しました。今となっては、変更しておいてよかったです。

――せっかくの新オフィスに人がいないのは切なかったですね。

私は公私ともにコミュニケーションを取ることが好きなので、“人と会えない”のはストレスを感じるポイントでした。リモートワークになり、引っ越したばかりのキレイなオフィスに出社しても誰もいない。社員全員が家で仕事をしてくれているのは分かっていても、その姿が見えないことで漠然とした不安を感じました。これがコロナ禍で一番つらかったことです。一方で、「従業員が頑張っている姿を見ることが自らを鼓舞していたのだ」と気付くきっかけになりました。

――コロナ禍が御社に与えた、よい影響は何かありますか。

働き方の概念が代わって、我々が創業時から推進してきた時短勤務や在宅勤務などの多様性が認められる社会になった点はよかったです。当時、準備もできない状態で働き方ががらりと変化したダメージは小さくなかったですが、事業を複数持っておくことの必要性を痛感する機会になりました。

また、働き方の多様性が一般化したことは、競合他社を多く生み出す結果になった点も良い影響として挙げられますね。当社は創業時から社会課題の解決をミッションにしています。同じコンセプトの事業者が誕生するごとに、同じミッションに取り組む仲間が増えます。私たちの取り組みが当たり前になっていく、よい傾向だと捉えています。

コミットメント力で企業の課題を解決

――そして24年、無事に上場されました。おめでとうございます。

ありがとうございます。上場はゴールではなく、次のフェーズのスタートです。登山で言うと、一合目でおにぎりを食べている状態。私は、いまが青春です。120%の気力で仕事をして、ずっとファイティングポーズをしています。

――三原様が思う、人材サービスにおける現時点での社会課題は何でしょうか。

やはり、若年の労働人口が減り続けている点です。一方で、女性の労働参加率が上がってM字カーブ(*3)は浅くなりました。加えて60歳以上の労働参加率も上がりました。今後はこの層の方々の活躍の支援に加えて、DXの推進支援をすることも、事業として欠かせないポイントです。また、企業が副業に対する柔軟性をもつことも、働き手不足の解消につながると考えます。

(*3)女性の15歳以上人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合は、結婚・出産期に当たる年代に一旦低下した後、育児が落ち着いた時期に再び上昇するというM字カーブを描く。

――まさに『しゅふJOB』が社会課題解決の一助になりますね。

ありがとうございます。フルタイムを採用条件とする企業のうち、本当にフルタイムの必要がある職種は一部で、多くはスキルのほうが重要条件です。新卒採用においても、現代は初任給も上がっており、採用手法によっては1人につき約100万円の経費がかかっています。そのため、それでも本当に新卒採用の必要があるか、本当にその人数の新卒が必要かは検討が必要です。我々が課題の本質に沿って条件の順番を整理することは、介在価値の一つでもあります。

――他に、介在価値を高める具体策はありますか?

社員がどれだけ顧客と接点を持ち、課題解決にコミットできるか。すべてはここにかかっています。取引先企業の中で、採用課題が一つもない会社はありません。顧客接点の中で聞き出した課題をすべて解決するつもりでサービスを提供しなければ、単価アップどころか顧客満足にもつながりません。事実、課題解決にコミットできる営業であればあるほど、ビジネスはうまくいっています。

課題にコミットできる人を会社のカルチャーとして育てあげられるかどうかは、これからますます重要になります。どうしたら企業の採用を成功させられるのかへの強いコミットメントが必要です。

そのために、例えば、弊社では企業へ時給アップの提案をするようにしています。というのも、企業によっては、数年前に設定した時給のまま今日まできて、標準の時給額よりかなり低いことに気付いていない事例も見受けられます。その場合は、目的は時給アップではなく事業の成長のための採用である点の認識を共有した上で、現状をデータで提示して説明しながら時給アップを提案します。

最近は、私も営業メンバーと一緒に取引先様へ訪問して、社員に背中を見せるように心がけています。私が背中を見せられる最後の20年だと感じているので、今しかできない青春を謳歌しています。

――まだスポットバイトや主婦採用の概念がなかった時代に、ハイスキル主婦層のスポットタイム派遣を推し進めた三原様らしいお言葉です。

あの頃はもう、「各家庭の中に、すごく優秀な人材がいるんです!」とひたすら啓蒙していました。ハイスキルながら育児や介護を機に離職した人材が、家庭と仕事を両立できる場所をつくれたら、しゅふの活躍の場が増え、企業はコストを抑えてハイスキル人材を採用できる。この信念ひとつで営業していました。

新規事業とクロスセル強化でプライム市場を目指す

――中長期の成長戦略について詳しく教えてください。

まず、『しゅふJOB』の中で採用が得意な業種・職種を派遣・紹介事業へ送客し、クロスセルを強化します。また、ハイスキル人材向け時短派遣・紹介サービス『スマートキャリア』の30~40代の女性に対する派遣・紹介を強化し、「働きやすさ」に加え「働きがい」のある支援を実施します。

さらに、2024年4月から設立した新部門ビースタイルビジネス開発研究室も成長戦略の取り組みです。この研究室は新規事業を開発する部門で、ハイスキル副業人材の短時間業務請負サービス『パケットタレント』はすでに数十社の企業にモニター協力を依頼しています。他に、介護業界への外国人人材紹介や未経験者の教育、派遣にも着手し始めています。また、DX事業として、エンジニアに生成AIのリスキリング教育を実施し、今後加速する企業の人材不足の課題に対して、人材供給だけでなく、生産性向上のご支援をしてまいります。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

メディア事業、新規事業開発、DX事業の成長戦略を実施し、自社の時価総額を上げます。現在、当社の時価総額は約19億円です。100億円を突破してプライム市場を目指します。それが、我々のミッションである「社会課題をビジネスで解決する」ということが実現に近づいている証になると思うからです。

もう一つ、社会課題である少子化対策に貢献したいと思っています。現代の若者の恋愛や結婚に対する消極的な空気を明るくしたいと本気で考えています。恋愛が持つエネルギーってすごいと思うんです。好きな人とのデートが決まれば、デート代を稼ぐために仕事を頑張れますよね。タイパが注目される時代ですが、目的があってこそ人は効率を追い求めます。一見非効率と思われがちなことから生まれる感動は、体験しなければ分かりません。いろいろな経験をして、喜怒哀楽のある生活をするから人生が楽しくなるのだと思います。このテーマは、実際にCSR(*4)として具体的に動けないか検討しているところです。

(*4) 企業が事業活動を通じて社会に貢献していくこと。