求職者の意向と性質を徹底的に分析しCAコンテスト優勝者に
毎年定期的に開催される、CAのスキル向上を目的としたロールプレイング型コンテスト『PCACコンテスト』。PCACとは、Professional・Career・Adviser・Contestの略だ。2024年3月に開催された第4回のコンテスト優勝者である株式会社エリメントHRCの青沼智氏に、勝因やコンサルタントとしての心構え、仕事の工夫などについて聞いた。
医療業界への理解の深さに感銘を受けエリメントHRCに入社
求職者を支援するCA(キャリアアドバイザー)の質とスキル向上を目的として2015年に始まった『PCACコンテスト』。PCACとは、Professional・Career・Adviser・Contestの略で、「意向と性質のヒアリング、提案の架け橋」をどれだけ実践できるか、ロールプレイング形式で競う。現在はパーソルキャリアが運営しているが、立ち上げ当初はセールスキャリアエージェントとエリメントHRCが『アルティメットコンサルティングバトル』の名称で運営していた。いずれの会社も、CAの質に課題感を覚え、業界全体のスキル向上の必要性を感じて運営を買って出た。 24年3月に開催された第4回の優勝者は、エリメントHRCの青沼智氏。エリメントHRCでは、同コンテスト出場者を決める社内選抜会の合格基準がかなり厳しく、社の基準に達するだけでもかなりの工夫と訓練を要するという。そんななか、青沼氏が頭一つ抜きんでて優勝した要因は気になるところだ。青沼氏の経歴から追って、紐解いていく。
青沼氏は幼いころから、祖父・祖母が大好きだった。子ども心に「将来は高齢者の役に立つ仕事がしたい」と思い、大学時代の就活では迷わず医療業界を目指した。大学卒業後、医療機器メーカーの営業やMRなど、20代のうちに転職を2回しながらも、一貫して医療業界に従事した。転職先は常に医療業界を探していたため、必然的に医療業界特化の人材サービス会社であるエリメントHRCを知ることになった。当時は医療機器業界での転職を検討する求職者の一人だったが、医療業界や転職をサービスの軸とする転職エージェントの仕事に興味が湧き、異職種への転職を決めた。
「医療業界に特化したエージェントの中でも、医療業界出身のコンサルタントが多く、面談時の情報の多さと深さ、業界の浸透度などに感銘を受けたので、エリメントHRCへの入社を決めました」
青沼氏は大学時代にマーチングバンド部に所属し、メンバーのモチベーションケアの担当を担っていたことからも、転職支援は自分に向いているかもしれないと思ったそうだ。
ストイックな目標設定と徹底的な分析で2年連続MVPに
青沼氏の医療業界への熱い思いと経験、マーチングバンド部で見出したメンタルサポートスキルをもってしても、最初の半年はなかなか結果がでなかった。自分と似たタイプの求職者に対しては共感をもってコンサルティングできるが、それ以外の求職者への寄り添い方に苦心した。また、医療業界経験者といえども、すべての職種を理解しているわけではなく、案件ごとに一から下調べをして臨むことも多かった。
「少しでも多くの知識を得るため、そして求職者の意向に寄り添うために、面談は対面を基本にしました。また、複数の求人をまんべんなく紹介するのではなく一点集中で支援し、対策を定めて洗練していくやり方を積極的に取り入れました」
現在はヘッドハントを主体にしている青沼氏は、目標の立て方がかなりストイックだ。ゴールから逆算して行動計画を立てる際、100%達成を目標にするとあと一歩で届かないことも想定されるため、常に125%達成を見据え、四半期の一つ手前の期で100%達成するよう決めている。その上で、決定までの自身の面談数、レジュメ数、アプライ数を常にウォッチして自分に足りない数字は何かを逆算し、注力すべきポイントを考えて行動計画を立てているという。
ストイックに試行錯誤しながら入社2年目を迎えた青沼氏に、大きなターニングポイントが訪れた。最難関とされる外資系医療機器メーカーの営業職を、立て続けに決定できたのだ。
「大型採用で年収が高い人気企業でしたので応募承諾は取りやすいのですが、面接で見送られる件数も多い企業でした。そこで、過去の見送り理由を徹底的に分析し、面接で何を話せば通過するのか、ポイントを見つけ出しました。次第に合格が出始めると、より効率がよい面接トレーニングができるようになり、実績が積み上がり、実績が積みあがると今度は、『○○社の決定率が高いコンサルタント』として自己ブランディングができ、さらに優秀な求職者が集まるというループに発展しました。結果として、自身の年間売上目標の半分以上を1社で上げられるようになりました。この成功体験が自信になり、他の求人企業でも応用することで飛躍的に売上実績が向上しました」
日々の努力の積み重ねは功を奏し、青沼氏は2年連続で社内のMVPを受賞した。
コンテストを通じ真のコンサルタントのあるべき姿が見えた
そして迎えた『PCACコンテスト』での優勝。コンテストの求職者役は医療業界経験者とは限らない。しかも、求職者のペルソナが伝えられるのはコンテストの数日前だ。青沼氏はどう対策をとったのか。
「求職者役はやはり医療業界ではなかったため、いつもの『業界情報の量と質で勝負!』が通用しない点は苦心しました。『医療業界とは――』から話し始めて応募承諾までを20分で済ませないといけないので、高いハードルでした。求職者がどんな転職理由であっても、どんな意向と性質でも医療業界を勧める思いで、ストーリーをあらかじめ複数パターン用意していました。冒頭は探り探りでしたが、最後は「ロングタームで病院ごとの個別戦略を考え、多くのステークホルダーを取りまとめる業務を行うMRIやCTといった大型診断医療機器の営業職を提案する」という着地点が見え、なんとか時間内に収まりました。コンテストを通じて改めて、求職者の意向と性質、そしてライフキャリアを考えながら、市況観を伝え、ときに厳しい話や希望と異なる提案をすることが真のコンサルタントの姿だと感じました」
求職者側から見ても、自分一人では思いつかない方向性を提案してくれる、業界に精通したCAの存在は頼もしいに違いない。実際に青沼氏が担当したMRの転職支援事例が、それを物語っている。東京から地方に転勤したMR(Medical Representative/医薬情報担当者)の女性が、東京に戻りたくて転職相談に来たときの話だ。女性はすでに複数のエージェントと面談をした後で、東京からの転勤がない医療系コンサル企業やIT企業を紹介されていた。ところが青沼氏は、女性がなぜMRになったのか、仕事のやりがいや不満を深掘っていき、もっと医師や患者と近いところで医療にダイレクトに関わる仕事が向いていると感じ、外科治療系の医療機器メーカーの営業職を提案した。メーカーの営業は将来的に転勤する可能性が高いが、女性は仕事内容に魅力を感じ、青沼氏が提案した医療機器メーカーの営業職に入社した。
「希望条件を言葉通り受け取らず、転職したい気持ちに至った背景や、本当にその条件が最優先事項なのかを確認するように心がけています。AIが台頭してくる時代ではなおさら、ただの条件マッチングの対応にならないことが大切だと思います」
人材のレベルアップに寄与することが医療業界への恩返し
青沼氏は、人材紹介業をフロービジネスではなくストックビジネスだと考えている。過去に支援した求職者からリファーラルをもらったり、再転職の際に相談されたりすることで、少しずつ求職者開拓が容易になっていくロジックだ。そのために、祝勝会を開催したり、継続的に交流関係を構築したりしているという。
「私はまだ経験がありませんが、入社支援した求職者が企業の採用責任者となり、求人を依頼されるケースもあります。担当した求職者が支援した企業で活躍され、採用側となって私を頼ってくださる日のためにも、転職満足度の高さを意識し、意向と性質がしっかり合う企業で、ミスマッチのない紹介を心掛けていきます。そして、医療業界人材のレベルアップに寄与できることが、自身が医療業界で育てていただいた恩返しになると考えています」
青沼氏は今後、エリメントHRCのブランドを医療業界の圧倒的No.1エージェントにすることを目指している。同社はコロナ禍で多くのメンバーが入れ替わり、ふたたび戦力を上げていかなければいけない状況だ。だからこそ社員育成に関わりたいと思った青沼氏は、エデュケーションメンバーに立候補した。新人研修の中で「製薬業界」パートの研修担当を担ったり、社内YouTubeにて成功パターンと失敗パターンの面談を作成して社員の面談力向上につながる活動を実施したりしている。これからは自身の数字でけん引するだけでなく、若いメンバー育成にも力を入れていくという。
このように医療業界と人材サービス業への熱い思いが伝わる青沼氏も、プライベートでは2歳の娘と、まもなく生まれる息子の父だ。休みの日のほとんどは、近所の公園で遊んだり、ショッピングモールでお買い物をしたりするなど、家族との時間を過ごしている。