求職者の「働く意義」を明確にして転職後のキャリアまでを共に描く
CA(キャリアアドバイザー)スキル向上を目的としたロールプレイング型コンテスト『PCACコンテスト』が2023年11月に開催された。PCACとは、Professional・Career・Adviser・Contestの略で、今回が三回目の開催となる。第三回の優勝者は、パーソルキャリアの田村春仁氏。田村氏の勝因やCAとしての心掛けなどについて詳しく聞いた。
CAスキル向上を目的とした『PCACコンテスト』で優勝する秘訣
『PCACコンテスト』は、2015年にセールスキャリアエージェント社とエリメントHRC社が『アルティメットコンサルティングバトル』の名称でスタートし、パーソルキャリアが運営を引き継いだプロジェクトで、業界全体のCA(キャリアアドバイザー)のコンサルティングスキル向上を目的としたロールプレイング大会だ。23年11月16日に第三回が開催され、今回が二度目の出場だったパーソルキャリアの田村春仁氏が優勝した。
田村氏は運営会社の社員だが、出場に関する優遇措置があるわけではない。パーソルキャリアには同プロジェクトへの参加意欲の高い社員が多いのだが、今回は特に参加希望者が多かったため、社内予選会で出場者が決められたほどだ。参加希望者の中から抽選で10名が予選へ進み、予選では本選さながらのロールプレイングを実施。上位3名が本選出場権を得た。田村氏も予選から出場、社内優勝をして本選出場権を獲得した。前回惜しくも本選4位で終わったため、今回はどうしても優勝したかったという。
同業多社混合のCAコンテストで優勝する秘訣。それは、PCACの審査基準である「意向と性質のヒアリング、提案の架け橋」をどれだけ実践できているかだ。第一回では実践できているかどうかが判断基準だったが、二回目では出場者のレベルが上がり、実践できていることが前提で、どれだけより核心をつけるかがポイントとなった。そして今回。田村氏は、自身の勝因をこのように語っている。
「単なる希望条件の聞きだしに終始せず、『働く意義』を求職者と共有することに注力した点、そして『働く意義』を軸とした提案をし、なぜその提案なのかを理論立てて説明した点が評価されたのではないかと思います。コンテスト後に開催された交流会では、審査員の方に『質問や提案が核心をついていた』とフィードバックいただきました」
「誰もが自分の仕事を天職だと思える社会」を目指して入社するも一年目で挫折
田村氏は、社内でも四半期MVPや担当チームMVG(most valuable group)を獲得するほどの優秀なプレイヤーだが、入社後ずっと順風満帆だったわけではない。
北海道・新ひだか町出身で北海道の大学を卒業した田村氏は、2019年にパーソルキャリアへ新卒入社してCAとなった。最初は、無形営業職(HR、広告代理店など)を担当した。新人CAが経験豊富な転職者のコンサルティングをするという、なかなか刺激的なスタートだったが、希望して人材業界を選んだ田村氏は、全力で仕事を覚え成績を上げることに注力した。
「私が人材業界を目指した理由は、都心と地方の情報格差をなくしたいと思ったからです。就職活動のとき、地方出身の周囲の友人達は思うように情報が入らず、とても苦労していました。私は運よく人材業界で働く先輩が情報をくださる機会があり、就職活動を通して自分の可能性が広がりました。その間はたった3カ月半でしたが、自分がいかに情報弱者で、物事を何も知らなかったのか思い知らされました。この経験から、自分も先輩と同じ人材業界へ進み、『誰もが等しく情報を得られて、自分の仕事を天職だと思える社会にしたい』と思い始めました」
ところが、日が経つにつれ、優秀な同期との間に成績の差がでるようになった。同期と同じように頑張っているはずなのに、思う様に成績が伸びないのだ。焦れば焦るほど空回りするだけで、何も改善しない日々。悩み落ち込んだ田村氏は、思いきって先輩に相談した。
「いつも私の仕事を見てくれていた先輩からのアドバイスは、『成果だけに目を向けず、求職者の可能性を広げる事に目を向けるべき』というものでした。それはCAの原点に立ち返らせてくれた言葉で、私はハッとしました。その日から私の仕事の考え方が数字だけではなく本質を見る事に変わり、成績も伸び始めました。マインドの変化が日常の行動にも染み出し、お客様にも伝わったのだと思います」
ハイキャリア担当初日、「担当を変えてくれ」と求職者に言われ…
成果を出せるようになった田村氏に、部署異動の話が舞い込んだ。3年目からの担当は、年収600万円~1,000万円のハイキャリアクラスのITセールスだ。これまでとは異なる属性の求職者にどう対応していけばいいのか。ハイクラスに提案できる知識とスキルが自分にあるのか――。その不安は、初面談で的中した。
「実は、初めて担当したハイキャリアの求職者様に、担当変更を言い渡されました。その求職者様は日本のトップクラス企業で働く優秀な方で、話し方こそ気を遣ってくださいましたが、内容は『全力で転職に取り組みたいので、申し訳ないですが担当を変えてください』でした」
ショックと同時に、自分の知識と能力不足を痛感した田村氏。この日を境に、時間さえあれば本を読んだり、RA(リクルーティングアドバイザー)の商談に同行したり、業界経営層のSNSをチェックしたり、交流会に参加したりするなどして、現場視点の1次情報とマーケット全体を俯瞰した知識を蓄えることに努めた。
「最低でも求職者と同じレベルで業界を語れるようにならないといけないと思いました。そうする事で、解像度の高い的確な提案となり、お客様にとって魅力的な選択肢が広がります」
こうして徐々に知識と情報の引き出しを増やし、実績を積み上げてきた田村氏。入社時の『誰もが自分の仕事を天職だと思える社会にしたい』思いはそのままに、よりブラッシュアップをしている。実際に、自身のコンサルティングにより、キャリアアップを諦めていた求職者が転職と年収アップを実現した例があるという。
「以前、出産を機に正社員から契約社員になった営業職の女性から『正社員で事務職に転職したい』という相談がありました。その女性が在籍していた会社は、営業職が育児をしながらキャリアアップすることは難しく、子育て中の女性が働きやすい環境ではありませんでした。女性は営業の仕事が大好きでしたが、育児中の女性が正社員で営業職を続けることは難しいと思い、事務職を希望されました。ですが、育児中でも関係なく活躍できる営業職の仕事は多数あります。私は女性の『働く意義』をヒアリングして希望の会社を提案、結果として女性は営業職として転職ができ、年収もアップしました。このとき私は、情報を知り活かすことの大切さを再認識しました」
キャリア相談が士業への相談と同等の価値を持つ社会にしたい
田村氏は今後、CAの仕事を通じてキャリアオーナーシップを持つ人材を増やしたいとも考えている。これは、パーソルキャリアのミッション「人々に『はたらく』を自分のもにする力を」が目指す姿でもある。そのためにも、初回面談で『働く意義』を明確にすることにこれからも注力する。
「初回面談では『転職の軸を決める』作業をしますが、これが転職先の条件決めになってはいけないと思っています。どんな企業を選ぶかではなく、自分がこの先働く意義は何かを明確にすることが大切だと、私は思います。『働く意義』は会社が変わっても簡単にはブレません。転職は入社したら終わりではなく、その先もキャリアが続くので、長期に渡り働く姿を描ける提案をするように心掛けています」
転職後も長く働く姿が描けると、求職者も自信を持って転職活動に取り組め、キャリアオーナーシップの精神も育つ。田村氏の『働く意義』を明確にする面談方法は求職者にも好評で、田村氏の二回目面談に進む確率は、社内平均の約2倍だという。さらに田村氏は、アクティブな求職者に対しては週に一回以上の対話時間を設け、意思の疎通を図っている。
そんな田村氏には、二つの大きな目標がある。一つは、自身のマネジメント力を高めて組織をけん引し、社として提供できるキャリア相談の質を上げること。もう一つは、業界全体のサービスの質を向上する取り組みを自ら始め、キャリア相談の価値を士業への相談と同等に磨くことだ。さっそくPCACで出会った同業、同職の人とも、人材業界をよりよくする取り組みを始めようと動き出したそうだ。
「将来、キャリア相談が士業への相談のような国家資格レベルの価値があると評価される社会にしたいです」