一人ひとりの〝納得いく意思決定〟にこだわり続けて4年連続MVP獲得

シンガポールの日系人材紹介会社であるリーラコーエン シンガポールに、2019年の入社時から4年連続MVPを獲得した優秀なCA(キャリアアドバイザー)がいる。同社のジャパンデスクリージョナルマネージャー、飯田洋平氏だ。どのような手法でMVPを獲得し続けているのか。シンガポールの人材事情と合わせて、飯田氏に詳しく聞いた。

人材業界へ進むきっかけはインド留学

飯田氏は、生まれ育った岐阜県で高校生までを過ごし、大学進学を機に上京した。学業だけでなく大学野球にも精を出し、全国大会出場を果たした。将来は海外で働くと決めていた飯田氏は、大学を卒業するとともに、海外赴任が見込める自動車メーカーへ入社、営業職として4年半勤務した。飯田氏が海外を視野に入れた理由は、自身の留学経験にあるという。

「学生時代にインドへ留学したことがあります。リキシャという三輪タクシーに乗り込み、ふとドライバーを見ると、自分と同じくらいの年齢の男性が運転していました。私がなんとなく『どうしてドライバーになったのですか?』と聞くと、彼は『大学に行くお金がほしいから』と答えました。私は、親の支援で学校へ行き留学までさせてもらっている。一方で、彼のように自分で稼いだお金で学校へ行こうとする人もいる。この現実を、生まれて初めて直視しました。このとき私は、生まれた国や育った環境は人それぞれでも、どんな人にも自由な人生設計ができる世界であってほしいと思い、この日を境に、いつか国内外で人のキャリアに関わる仕事をしたいと思うようになりました」

それにはまず「世界を知ろう」という思いから自動車メーカーへ入社した飯田氏だったが、キャリア支援への思いは日増しに募り、4年半目に人材サービス会社へと転職した。同社でCA(キャリアアドバイザー)としてキャリアを構築していくこと1年半。かねてから交際していたシンガポール在住の日本人女性との結婚が決まったことを機に、シンガポールへ移住。シンガポールの人材紹介会社であるリーラコーエン シンガポールへ転職した。2019年のことだった。

シンガポールといえば、長きにわたり経済成長を続け、IMD(国際経営開発研究所)が2023年6月20日に発表した「世界競争力ランキング2023」ではアジア1位、世界でも4位となっている。となれば当然、日本から進出した同業他社も多数存在する。その中から、なぜ飯田氏はリーラコーエンシンガポールを選んだのか。その理由は明確だった。

「若いうちに早く成長したい思いがあったので、その環境があり、ある程度の裁量を任せてもらえそうな企業を探し、当社に巡り合いました」

目の前の一人ひとりと向き合い4年連続MVP。数字より質の向上にこだわった

リーラコーエン シンガポールに入社してみると、キャリアに関係なく仕事の成果で評価される、期待通りの環境だったと飯田氏はいう。最初はRA(リクルーティングアドバイザー)としてスタートするも、自他評価からCA向きだと判断し、半年後にCAにシフトした。自身の適正を活かせる環境にやりがいを感じた飯田氏は、これまでの経験と新しく得たノウハウを融合させながらシンガポールでの実績を積み上げ、なんと初年度から4年連続で社のMVPに選ばれた。1度の獲得でも簡単ではないMVP受賞を、どうすれば4年も連続できたのか。その問いに、飯田氏はこう答えた。

「一つめは数字目標だけを追わず、アドバイスの質にこだわり続けたからだと思います。たとえ採用が決まったからといって、必ず入社したほうがいいとは限りません。数字を追っていると、その判断ができなくなってしまいます。私は、数字のためにサービスを提供するのではなく、お客様の〝納得いく意思決定〟ができるためのお手伝いをし、その結果が数字であり、目標達成だと考えています。

二つめは、自分自身も常に変化することです。入社後一年経たずでコロナ禍になり、マーケットが大きく変化し、企業様からの採用ニーズや候補者様の期待値も変化してきました。

その中で、根本となる考え方は変わりませんが、今までの方法だけでなく、状況に合わせて対応や提供する情報、伝え方、などを変えることで、よりお客様の希望に合わせてのご支援を心がけてきました」

飯田氏は、一人ひとりと丁寧に向き合い、良質な情報を提供し、最後まで寄り添い続けることに注力する。応募、面談、採用など、すべてのKPIに対し等しく全力なのだ。そもそも海外へ働きに来る日本人は、仕事だけでなく生活環境も一新するため、ただでさえ不安要素が多い。リーラコーエン シンガポールでは、就労ビザ取得から生活情報の共有、住宅探しまで、海外で働くための環境整備を細かく支援している。

海外で採用に強い企業の特長とは

入社以降、昨年までずっとMVP受賞者として活躍してきた飯田氏は、現在ジャパンデスクリージョナルマネージャーとして、主に海外転職を目指す日本人の転職支援をしている。勤務地はシンガポールを中心に、マレーシア、タイ、ベトナム、フィリピンと多岐にわたり、日ごろから各国の求人情報やマーケット情報などをチェックし、求職者にとってベストと判断すれば、シンガポール以外の国を提案することもある。現状は日系企業の取引先が多いが、今後はローカル企業比率を上げる予定だ。実際に担当する企業の中には、採用に強い企業とそうでない企業があるという。その違いを、飯田氏はこう語る。

「採用に強い企業は、海外の状況を理解した採用戦略、計画、予算を細かく立てて、外国人比率や国籍も決めた中長期的な戦略をとっている傾向があります。シンガポールに限っていうと、政府の取り組みによりシンガポール人の雇用の促進が推奨され、外国人の就労VISAの厳格化が進められるなどの施策があり、他国と比べて、より採用計画が重要になってきている」

リーラコーエン シンガポールでは、スタートアップ企業や初めてシンガポールへ進出する企業のために、シンガポールを中心とした海外情報をブログ、メルマガ、SNS、YouTube、セミナーなどで発信している。とはいえ、日本企業のプレゼンスは低下するばかりで、もはやアジアにとって日本は稼げる国ではなくなった。そんな中でも、日系企業で働きたいというニーズは本当にあるのだろうか。

「日本に限らず、各国がその時々の経済状況で変化しています。日本は変わらず製造業が強いですから、同じく製造業が強いタイやベトナムとの相性はいまも良好です。ただ、給与に関してはたしかに差があります。日本人求職者は語学やコミュニケーションの事情から日系企業を選ぶ傾向があるため、海外の日系企業はさほど給与水準を上げなくても日本人採用をしやすい状況にあります。また、日本にある日系企業の給与はボーナスや手当などを含めない状態で提示するため、総額は諸外国と同じでも、月給ベースで見れば低めです。このようなデメリットはあるかもしれません。一方で、日本から海外へ来る求職者は、ほとんどの転職理由が条件ではなくやりがいです。『残業〇〇時間以内』『給与が〇〇万円以上』などの条件より、『視野を広げられる』『世界に貢献できる』『グローバル基準のスキルを身に付けられる』などのやりがいを求めます」

求職者の意思決定を助けるのがCAの役目

飯田氏のもとへ訪れる求職者は、海外で働くことに理由や目標があり、給与よりもやりがいやキャリアアップを目指す人が多いことが、話の節々からも伝わってきた。それはまるで、飯田氏自身が同じ理由でシンガポールへ来たことを知って集まっているかのようだ。同じ未来図を描くCAに出会った求職者は、安心して自身の人生を飯田氏に相談でき、飯田氏もまた、求職者のよりよい人生のために助言する。この関係の積み重ねが、4年連続MVPという形になって現れたのだろう。

飯田氏が入社した翌年の2020年は、シンガポールも例にもれずコロナ禍だった。そんな中でも飯田氏は、コミュニケーションの機会を絶やさず、求職者、企業ともにメールやメッセージアプリで接点を持ち続けた。同時に、単に企業と求職者の橋渡しで終わらせず、当事者同士が話したりオンライン面談できたりする機会づくりにも奮闘した。

「私たちは仲介役であり、お互いの情報はお互いが会ったり話したりして肌で感じるほうが圧倒的に分かりあえます。私がお互いから見聞きした情報を伝えるより、当事者で感じてもらう機会づくりを増やしたほうがいいと常に考えています」

飯田氏は求職者に対し、いいことも悪いことも等しく伝えるという。例えば「給与は高いが残業が多い」などだ。

「私たちは求職者の人生に関わる仕事をしていますが、最終的な意思決定をするのは求職者です。私は、できるだけ良質で多くの情報、機会の提供をし続けます」

コロナ禍が落ち着き、飯田氏は現在、リモートワークと出社を半々にしている。フルリモートのメンバーもいるため、半年に一度のカンパニーランチデイにしか会わないケースもある。飯田氏は、できるだけメンバーと会って情報交換するために、あえて週の半分は出社している。休日は、シンガポールに来てからしばらくは野球に打ち込んでいたが、23年に子どもが生まれると、生活は一変。仕事以外のすべてが育児になったそうだ。

「仕事が終わったらすぐに子どもを抱っこです。土日は朝から離乳食を作って食べさせ、散歩して……双子なので大変です」