iX HEADHUNTER AWARD 2022総合MVP受賞。
「人材業界から日本型雇用を変えたい」

ハイクラス転職サービス「iX転職」(パーソルキャリア主催)が発表した「iX HEADHUNTER AWARD 2022」で、人材紹介会社ソフトソースのシニアコンサルタント、永瀬応輔氏が総合MVPを獲得した。MVPを獲得した理由について永瀬氏を取材したところ、その根源には日本の雇用システムに対する問題提起があった。

人材業界に入るきっかけは「新聞奨学生」

パーソルキャリアが運営するハイクラス転職サービス「iX転職」が、登録する約4,500名のヘッドハンターの中から転職支援人数や転職支援年収などに高い成果を残したヘッドハンターを選出する「iX HEADHUNTER AWARD 2022」が発表された。2022年*の総合MVPは、人材紹介会社ソフトソースのシニアコンサルタント、永瀬応輔氏が受賞した。
*集計期間:2021年7月~2022年6月

ソフトソースは、日本で事業を拡大するシリコンバレー拠点のテクノロジー企業に対し、市場参入やリクルートサービスを提供している。07年の設立以降1000件以上のサーチを達成、そのうち日本のカントリーマネジャーサーチが100件以上という、日本のグローバルテクノロジー企業におけるトップクラスのリクルーティング企業だ。永瀬氏は同社へ21年2月に入社。2年足らずで「iX HEADHUNTER AWARD 2022」の総合MVPを獲得した。受賞に至るまでのキャリアを取材したところ、永瀬氏の学生時代の苦労が今日の栄光の根源になっていることが分かった。

「私は学生時代、学費を捻出するために新聞奨学生(新聞奨学会が学費を立て替え、新聞配達で得た給与から奨学金を差し引かれた金額を受け取るシステム)をしていました。浪人2年と大学4年の合計6年間、新聞奨学生として働くうち、『なぜ日本は学生が稼ぎながら学べる仕組みの選択肢が少ないのだろう』と疑問に思い、それが人材業界に興味を持つきっかけになりました」

永瀬は大学卒業後、人材派遣会社のヒューマンタッチ(現ヒューマンリソシア)に入社し、営業職として2年勤務した。当時はアントレプレナーシップ(新規事業へ果敢に取り組む企業家精神)がもてはやされたこともあり、人材業界で働けば日本の雇用システムに一石を投じられるかもしれないと思った。ところが、人材派遣では主に、人手が足りない時のサポート的な職を扱うことが多く、コアな業務を扱う事ができないことに気づいた。

そのタイミングで取引先の少額短期保険会社からヘッドハンティングされ転職、保険の営業として全国の不動産管理会社へ飛び込み営業を行っていた。しかし、常に人材業界でやり残した事が頭にあったため、いつかは人材業界に戻りたいと思っていた。その頃登録していたリクルートエイブリック(現リクルートキャリア)の担当者から「横浜に支店を立ち上げます。セミナーを開催するので参加しませんか?」と連絡があり、参加したところ即採用。人材紹介ならコアな業務を扱うことができるのではと入社を決めた。

リクルートキャリアでは、横浜、東京、千葉の拠点で製造業とIT領域の法人側営業を担当。正社員紹介でコアな業務の人材を紹介し、また在職中にリーマンショックも経験、景気の良い時、悪い時の人材マーケットの極端な違いも体験し、結果も残していたが、同社では、法人側の営業と個人側の営業が別々の分業制であり、KPIも候補者レジュメの推薦数、面接数を追いかける事に設定されていた。このままでは日本の雇用システムに一石を投じる事に繋がらないと思い、インテリジェンス(現パーソルキャリア)に登録、そこでエンワールドジャパンを紹介されて転職。

英語の壁にぶつかるも3年で克服

エンワールド・ジャパンでは日系企業のハイクラス人材担当となった永瀬。ここでも順風満帆に売り上げを伸ばすが、社内人材の新陳代謝とともに、ある壁にぶつかった。

「エンワールドはグローバル人材紹介会社ですが、私は日系企業を担当していたので、英語力が乏しくても問題はありませんでした。ところが、外資系チームと組む機会が増え、米国人や中国人、韓国人などと仕事をするようになり、英語で話す必要に迫られました」

永瀬は、40歳を過ぎてから一念発起して英会話を習い始めた。今はやりのリスキリングを先取りした訳だが、週2回、英会話教室へ通い、職場でも積極的に英語を使った。自分の英語力が周りにどう思われても気にせず、海外の企業へ電話をかけ英語で営業した。3年後には流ちょうな英語で商談ができるまでになった。その甲斐もあってダイレクタークラスの採用の実現など実績も伴うようになっていた。そんな中、世界を襲った新型コロナ禍によって、永瀬は再びキャリアの帰路に立たされた。

「コロナ禍になったとたん、担当の製造部門の求人がピタリと止まりました。一方で、同社のテック部署には変わらず求人がある状態でした」

今となっては当たり前かもしれないが、テレワークとの親和性でテック部署では求人が他部門程減ることがなかった訳だ。

ここに注力することで日本型の雇用慣行に一石を投じることができると直感し、社内異動するか、転職するかを考え始めた。

総合MVP受賞の要因は「目の付け所」

そこで永瀬は、かねてからLinkedInで親交があったリサーチャーに相談することにした。そのとき、テック系で永瀬に合いそうだと紹介されたのが、ソフトソースだった。入社後の永瀬の活躍は、「iX HEADHUNTER AWARD 2022」の総合MVP受賞により、火を見るよりも明らかになった。受賞の要因を永瀬本人はこう分析している。

「売上や支援人数だけなら、おそらく私より上位の人がいると思います。当社内だけをみても、例えば当社代表のケビン・クインは、おそらく日本で最もカントリーマネジャーを決めている一人です。私が選ばれた理由を挙げるとするなら『スカウトの目の付け所』ではなないでしょうか」

永瀬は、外資系勤務の経験がない日系企業のハイクラス人材をメインにスカウトしているという。理由は単純だ。外資系と日系では、同じ職種や業務内容でも給料が2割以上、多いときは倍違うため、外資系企業へ転職したほうが同じ仕事で所得が増えるからだ。一般的に、外資系企業は日系の人材を取りたがらない傾向があるが、その中でも柔軟性のある外資系企業にフォーカスし、該当する候補者に声をかけているという。

「例えば、米国本社のGoogleの非管理職エンジニアで給料が最も高い人は1億円です。なぜ、そんなに年収が高いのでしょうか?答えは簡単で、それだけGoogleが儲かっていて給料が払えるからです。日本の労働力人口が約6822万人、世界で英語でビジネスをしている人口が約15億人。およそ22倍の差があります。ITのプロダクトを国内と世界のどちら向けにローンチしたら儲かるかは、言うまでもありません。この点を説明すると、これまで外資系企業を視野に入れていなかった人も、検討するようになります。年収が上がるのはもちろん、自身のスキルや経験をより広いマーケットで発揮してほしいという想いをお伝えしています」

LinkedInをもっと使うべき

今回、「iX転職」の総合MVPを受賞した永瀬だが、LinkedInも同じくらい活用している。

「現在、4000人ぐらいの人とLinkedInでつながっています。英語の勉強も兼ねて、世界中の『HR×日本』に当てはまる人にメッセージを送りました。LinkedInはキャンディデートの母数が大きいですから、使わない手はないです。Linkedinは日本ではまだまだ普及していませんが、海外の特にエグゼクティブ層は殆どの方が自分のアカウントを持っています。LinkedinはビジネスSNSとして機能をしており、リファレンスチェックやセカンドオピニオンとしての機能もあります。現在、ジョブ型の雇用が広がりつつある中で、日本でも人事が主導してLinkedInをもっと使うようにすると良いと思います」

前職のときから自分でサーチしスカウトしてきた点も、高い決定率につながっている。だが、スカウト人数はけっして多くなく、欲しい人材に何度もアプローチをかけるケースが多い。今回のMVP受賞をきっかけに返信をくれたキャンディデートもいた。「MVPを受賞したヘッドハンターからの誘いなら、話を聞いてみたい」と思ってくれたようだ。

人材業界の力で日本型雇用を変えたい

すべてが順調に見える永瀬だが、現在ある課題に直面している。IT領域特有のマーケットの流動性だ。つい数カ月前まで、IT業界は求職者が足りない状態だったが、先般のTwitterやMeta(旧Facebook)、Amazonなどの大量人員削減以降、求人数が急激に減少したのだ。また、FRB(連邦準備銀行)の利上げによりIPO(新規上場、新規公開株式)企業が減少し代謝が鈍くなったことも、求人数減少の要因になっている。半面、日本国内はまだ米国ほど大きな影響は出ておらず、求職者の意欲も変わっていない。永瀬は早めに次の一手を打つことを考えている。

「これまではSaaS(Software as a Service/サービスとしてのソフトウェア)を強く推してきましたが、いまの市場はインフラのほうが合っているのではないかと思います。マーケットの流れに合わせてスマートに対応することが、今後のブラシュアップ課題です」

ところで、永瀬が人材業界を目指すきっかけになった「日本の雇用への問題提起」について、現在どのように考えているのだろうか。最後に聞いた。

「大学生のときに感じた日本の雇用への疑問は今もあり、とかく終身雇用・年功序列をやめるべきだと思っています。労働マーケットで私たちが活動し、人材流動が活性化して給料が上がれば、納められる税金も増えます。また、企業の新陳代謝が促進し、産業構造も変わるでしょう。今後、減少し続ける労働力不足に対し、一人一人の生産性を高くしていくことは、日本企業の課題です。年齢や学歴ではなく、能力に合わせた賃金を提示する社会になれば、日系と外資の賃金差も減らせると思います」 

ジョブ型雇用の広がり、リスキリングと徐々にではあるが変わり始めた日本の雇用慣行。ヘッドハンターの活躍がその触媒となり、変化を促進させることことが日本が失われた30年を取り返すきっかけになると永瀬は話した。