ヘッドハンターアワードMVP受賞のカギは
「商社への転職を成功に導く3つの対策」
ビズリーチが2021年に活躍したヘッドハンターを表彰する「JAPAN HEADHUNTER AWARDS 2022」が発表された。その商社部門でMVPを獲得したKCGキャリア商社事業部長の黒田茂氏に、受賞理由の自己分析や人材紹介におけるモットーなどについて詳しく聞いた。
商社のキャリア人材ニーズを知り尽くした3つの対策でミスマッチを防止
ビズリーチが2011年から開催している「JAPAN HEADHUNTER AWARDS」の22年分(評価スコア算出期間:21年4月~22年3月)が発表された。ビズリーチに登録する5,100名のヘッドハンターのうち、返信からの決定率・決定数・決定年収・面談満足度・面談実施率・プラチナスカウト返信率・通常スカウト返信率の7項目で優秀な結果を残したヘッドハンター10名に賞が贈られる。金融・ITなど業界別MVPの中で、商社部門に選ばれたのがKCGキャリアの商社事業部長、黒田茂氏だ。
KCGキャリアは京都に本社がある。日本初のコンピュータ教育機関「京都コンピュータ学院」や日本初のIT専門職大学院「京都情報大学院大学」が母体という珍しい成り立ちの企業だ。学生の就職支援をする中で、年月とともにOB・OGが転職相談をしてくるようになり、転職や再就職を支援するうち「ビジネス化できるのではないか」という発想に至りKCGキャリアが誕生したという。後に、黒田氏が入社して東京支社・商社事業部を立ち上げた。黒田氏は、今回の商社部門MVP受賞の理由をこう分析している。
「商社転職ならではのフォローの質を評価していただけたと思っています。商社の業界特性と企業の課題をしっかり伝え、課題可決できる人材としてアピールするための対策を応募者と共に考えています。入社後のミスマッチが起きないよう蜜なコミュニケーションと対策を徹底するため、面談から応募まで3週間かかることもあります」
商社という事業形態は一般的だが、総合商社は日本独自の発展を遂げた独特な業界だ。例えば、企業を支援する金融業界から運営する側の商社へ転職すれば、立場も役割も異なる。このため、まずは商社ならではの業界の本質を理解してもらうことから始めるという。応募者には商社の本質を理解して貰って初めて、面談は次のステップへ進む。
「転職することでどのような自己実現をしたいのか、現時点での強みや持ち味は何か、現職での実績を整理して自分の強みを自己認識してもらい、転職するべきなのか、商社で自己実現ができるのかを徹底的に話合います。この軸固めを端折ると、入社後にミスマッチが起きてしまいます」
軸固めができたら、キャリア分析、職務経歴書の作成が始まる。商社の面接では、応募者のキャリアに基づく強みを深堀する傾向があるため、自己分析、キャリアの棚卸し、あらゆる質問に簡潔且つロジカルな回答ができるよう対策しておくそうだ。
「商社の面接は、パーソナルな部分をかなり深堀します。例えば、面接官が『強みは何ですか?』と質問し応募者が『チームワーク力』と答えたとします。続けて、どの場面で発揮したかを尋ねられ『学生時代の野球部でピッチャーをやっていた』と答えます。ここから面接官はさらに『どのような役割を果たし、それがどのように自信に繋がったのか』を聞きます。このように、独特な深堀が幾度となく繰り返され、さらに簡潔且つロジカルな受け答えができるかどうかも見られますので、軸固めが採用の肝になります」
商社は「ラーメンからロケットまで(取り扱う)」と言われるほど、あらゆる業態に手を手掛けているため、幅広い業界と大口取引ができる経営力・組織運営力そして発想力が求められる。その能力を秘めた人材かどうかを見極めるためには深堀が必要ということだろう。商社の本質を知り尽くし、「業界の理解」「軸固め」「レジュメ作成」という3つの対策を実施できるのは、黒田氏が長らく商社に関わってきたからに他ならない。
「子どもを入社させるつもりで支援しろ」上司の言葉で意識が変わった
黒田氏は、三菱商事や伊藤忠商事系列の人材紹介会社でコンサルタントとして勤めた後、フジキャリアデザインで商社チームを立ち上げ、その後パーソルキャリアのエグゼクティブ部門で総合商社・専門商社を担当するなど、商社に特化した転職支援を担ってきた。商社で働くゼネラリストの特殊性を理解し適正や相性を見抜くのに、黒田氏のキャリアが生かされていることは想像に難くない。しかし、これだけのキャリアがあれば、自身の転職先の選択肢は数多あっただろう。数ある企業の中から、なぜKCGキャリアを選んだのか。
「当社代表の吉村に初めて会ったとき、子どもを入社させるつもりで支援するような高いホスピタリティを持ち商社に特化した事業部を創りたいと話したところ、『東京に商社事業部を立ち上げ、そこでやってみないか』と背中を押してくれたので、転職を決めました。『子どもを入社させるつもりで支援しろ』というのは、三菱商事系人材紹介会社の上司の言葉です。それまでの私は数値目標を達成することに必死で、心のどこかで『ホスピタリティだけで売上が伸びるわけがない』と思っていました。ところが、その上司はホスピタリティ重視で高い売上目標を達成していました。私は強い刺激を受け、いつしか『ホスピタリティに優れた組織を作りたい』と思うようになっていました」
直接スカウトの時代だからこそ人材紹介業の役割が重要になる
黒田氏が専門とする商社は企業間取引を「つなげる」仕事が基本だが、最近は「つくる」ことにも注力するようになってきたという。
「DXの進化もあり、新ビジネスを生み出すクリエイティブ面に積極的な企業が増えています。そうなると、既存の社員では分からないことが出てきます。総合商社は、ただでさえ多くの投資先を抱え、組織運営ができる人材を常に必要としていますが、加えて新ビジネスを創出できる人材も求められるようになりました。総合商社は他業界からの転職に積極的で、政府系機関、投資銀行、戦略系コンサル、企業弁護士、海外税務に詳しい方などが求められます。一方の専門商社はトレーディングへの理解がより強く求められ、同業界からの転職が多い傾向にあります」
商社に限らずだが、最近は企業が直接スカウトするケースも増えた。人材紹介業として直接スカウトをどのように見ているかを聞いたところ、直接スカウトの時代だからこそ、人材紹介業の役割が重要になるという。
「採用する側とされる側、双方に必要な情報や対策を熟知している我々だからこその役割は、直接スカウトの時代になっても変わらないと思います。企業と応募者の直接のやりとりも良いですが、課題もあります。企業側には、なぜ商社への転職を希望しているか不明な応募者がいたり、スカウトされる側は、自分のどこに興味を持ったか疑問が残るスカウトを受けたりしています。徐々に改善されてはいますが、このボタンを掛け違ってしまうとミスマッチが起きてしまいます。我々は、このミスマッチが起きないようにするために存在しています。企業はスカウトしても、当然ながらその方の強み・持ち味を特定し認識させるなどのアドバイスはしません。そこで我々は、応募者に商社業界を理解してもらい、なぜ転職したいか整理して自分の軸を固め、レジュメにする作業を常に提案しています。加えて、クライアントにとって将来必要になりそうな人材を予測しながらのリサーチやスカウトも実施しています」
KCGキャリアは、入社後のフォローも徹底している。優れた人材でも、すんなり転職先に溶け込める人ばかりではなく、1年位は悩みながら働いているケースがあるからだ。商社という独特な業界であれば、なおさらだろう。例えば、前述した金融から商社への転職の場合は商取引の立場が真逆になるため、自分のイメージ通りにならないこともある。そんな時に黒田氏に相談があると、過去に同じ悩みを抱え解決した人の経験談を話したり、打開策を提案したりしながら、安心して働けるようサポートしているそうだ。この点も、直接スカウトにはない価値だといえるだろう。
これらスカウト時から入社後までの長きにわたるフォローを、必要な人全てに丁寧におこなっている黒田氏。クライアントとの打ち合わせも考えると、1日24時間では足りなさそうだ。
「本当に1日中誰かと話しています。面談だけでも1日3~4人はあります。商社業界への転職を考えている方は日中忙しい場合が多く、深夜に連絡がくることもあります。酷くお疲れの夜などに話すと、『明日の面接、大丈夫だろうか?』と心配になることもありますが、そこはさすがハイクラスの方々。前夜の疲れた人は別人だったかのような立ち姿と簡潔且つロジカルな会話術に、尊敬の念を深めることもあります」
現在、商社事業部はコンサルタントが5名、リサーチャー1名、アシスタント1名と少数だ。それでも1件1件を丁寧に進めていくことだけは徹底しているという。
丁寧な仕事が信頼を生み、信頼が次のビジネスを運んでくる
高いホスピタリティを提供している商社事業部だが、一方で予算は達成しなければならないはずだ。数字的な目標はどのように設定しているのだろうか。
「クライアントに、どのキャリアから何人採用したかなどをヒアリングして、その中の自社や商社のパーセンテージや平均単価の目標を設定します。個人成績を競うことはしません。それをやってしまうと部署の全員がライバルになってしまい、情報共有をしなかったり無理なクロージングをしたりして、結果として誰も幸せにならないからです。無理をすると必ず問題が生じます。例え採用に至らずとも、丁寧に、丁寧に、誠実な対応を続けることで信頼につながり、信頼が次のビジネスを運んできてくれます」