営業・販売職の新たな雇用を創造し働き方の選択肢を増やす

コロナ禍前後で急変した購買消費行動と働き方のニーズ、インバウンド需要など企業活動を支えるセールスの現場では深刻な人手不足と採用難に。多様な人材の多様な働き方を支援し、顧客のセールスプロセス課題の解決をサポートするパーソルマーケティング株式会社の代表取締役社長の鈴木博之氏に聞いた。

対面・非対面、仮想空間を組み合わせた営業販売支援

最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

パーソルマーケティングは、1987年に消費財メーカーの販売促進を目的にピーアンドピーの社名で設立し、2015年にパーソルグループの一員となりました。現在は、パーソルグループにおける営業・販売系の専門人材会社として、顧客のあらゆるセールスプロセスに対し、フィールドセールス(対面営業)、インサイドセールス(非対面営業)、メタバース(仮想空間)などを組み合わせた人材サービスを提供しています。

事業の柱は何でしょうか。

セールスプロセス支援と営業・販売のアウトソーシングが事業の柱で、対応職種は営業・販売・周辺業務の3カテゴリーがあります。これまでは販売職に注力していましたが、最近は営業職のニーズも高まっており、インサイドセールスとフィールドセールスの両方からソリューションを提供しています。

インサイドとフィールドの両方を提案した場合の、企業側のメリットは何でしょうか。

コロナ禍によって非対面の営業・販売にシフトしましたが、同時に対面の大切さも感じられた企業が多いと思います。最近では購買・消費における顧客体験価値を重視し、対面への揺り戻しが出てきていますが、消費者ニーズは多様でコロナ禍前のような対面に戻るのではなく、顧客ニーズや環境に応じて対面・非対面のバランスをとっていくようになっています。そうするとインサイドとフィールドの両方からのアプローチが必要となり、合わせて、インサイドとフィールドを一気通貫で対応できたほうが、結果にたどり着くまでの流れがスムーズでコンセンサスを取りやすくなるので、よりよい成果につながります。このようなセールスプロセス設計を、当社ではセールスデザインと呼んでいます。セールスデザインは完成したら終わりではなく、常にブラッシュアップし続けなくてはいけません。当社が両方を把握していれば、全体を見渡した改善策を提案し続けることができます。

業務を内製と外注で切り分けて人手不足を解消

人材確保の面で企業へ提案していることがあれば教えてください。

例えば営業職・販売職に関わらずですが、企業の社員の方と同じ労働時間で外部人材を活用したいという企業が多く、フルタイム出勤が条件になることがあります。これに対し、労働時間ではなく成果やプロセスにコミットして、時短勤務でも成果を出せる人材を積極的に活用していく提案などをしています。他に、出勤しなくても対応できる業務をリモートワーク可に切り替えるなど、セールスの在り方や働き方の設計方法から支援しています。今後は、労働人口の減少により営業・販売職の採用はますます難しくなります。企業は、内製でやるべき業務とアウトソーシングできる業務を切り分ける発想が必要になるでしょう。

業務を切り分けるコツはありますか?

まず、自社の社員でなくても問題がない業務は切り分けて派遣やアウトソーシングを活用してもいいと思います。切り分け軸は、マネジメントと業務の二つに分かれます。マネジメント軸は、例えば、ミドルマネジメント層の業務切り分けが挙げられます。ミドルマネジメント層は、プレイヤーでありながら部署の運営管理もし、他に部下の育成なども任されます。常に業務過多な状態です。これでは、管理職になりたくない人が増えるのも仕方ありません。業務を切り分けて育成業務をアウトソーシングすれば、ミドルマネジャーはマネジメントに集中できます。いきなり会社の業務をアウトソーシングするのはハードルが高い場合は、派遣活用から徐々に移行することも可能です。一方、業務軸では、セールスプロセスのアプローチとクロージングを切り分けたり、顧客を維持する部分だけを請け負う既存客インサイドセールスだけを切り分けたりするケースもあります。

業務の切り分けにより生産性が向上し、リモートが可能になれば、時間制約がある方々への就業機会が増え、労働力不足を解消するという点でも重要だと感じています。

御社独自の人材確保法はございますか?

人材不足の中、求職者の働き方が多様化し求職者優位になっているため、今後求人広告媒体だけでは人材確保はますます難しくなっていくと考えています。

最近では、求職者がスキマ時間でも気軽に働くことができるよう働くハードルを下げお試しで短期・単発で業務経験を積んでもらい、企業と求職者双方の合意があればアルバイトや契約社員として活躍いただくといったケースも増えており、フルタイムや長期就業だけをターゲットにした求人広告では集まらなかった層の人材確保ができてきています。

また求職者のリスキリングも重要な要素だと考えています。営業・販売の業務経験が豊富な方でも、体力的な面や家庭の事情などさまざまな理由からキャリアを断念せざるを得ないといったご相談は以前からありました。現在ではECオペレーター研修やメタバース環境研修などを受講し、これまでの経験を生かしてご活躍いただける機会が増えています。

メタバースが事業にもたらすメリットとは

御社が注力しているメタバースの現状をお聞かせください。

2022年の参入以降、メタバース(仮想空間)を使ったサービスを展開し、メタバースプラットフォーム「Virbela」の特約販売店としてサービスを提供しています。メタバースを使えば、例えば、九州に住む方がアバター(空間の中で動く自分の分身)として東京本社の企業に就業したり、販売スキルが高い定年世代の方がアバターになって若者向けブランドで働いたりすることもできます。すでに、BtoCでは展示会や商談会をメタバースで開催しています。他に、内定者のオンボーディング(受け入れ支援)をメタバースで行い、全国の内定者が瞬時に集合しコミュニケーションをとることができます。このように、メタバース活用で雇用の創造をすることが、我々の新たな使命の一つと考えています。人材採用という軸とは離れますが、自治体などの婚活事業でもメタバースを活用いただいています。アバター同志でコミュニケーションすることで、性格や価値観の相性で相手を選ぶことができます。

オンラインとメタバースの違いは?

例えば、オンラインミーティングでは、大人数が参加しても一人ずつしか発言できません。メタバースは、複数人が重なって話せますし、同じ画面の別々の場所で会話できるので、より現実空間に近く感じられます。また、メタバースはアバターを使うので、匿名で参加しても他のアバターと対面で話せます。匿名性が高ければ、アンケートやディスカッション、オンボーディング、社員のカウンセリングなどで本音を聞き出しやすくなります。

ただ、すべてメタバースにすればいいかというと、そうではありません。販売場所一つとっても、実店舗は必要です。買うブランドが決まっている食品や日用品はネット購入が便利ですが、誕生日プレゼントや季節に合わせたファッションなど、街に出かけて買い物をしたり、実物を自分の手で触ったりする体験そのものに価値がある商品に対しては実店舗が必要ですし、その需要は今後もなくならないと思います。

メタバースが広がる社会、楽しみです。最後に、今後の展望をお聞かせください。

労働人口の減少により、各企業は採用が難しくなっていきます。今後は、多様化する働き方に合わせ、アウトソーシング事業に力を入れていきたいと考えています。事業成長を担うご担当者様のお困りごとの解決伴走者となり、労働市場の変化に順応しながら、業務のデザイン、人材確保、労務・事務管理等を行い、各企業は自社のコア業務に集中していただき、各企業の事業成長に寄与していきたいと思います。