よい人材に出会うためのコツは「能力」と「スタンス」を見ること
中国を中心にグローバル派遣事業を展開し、24年8月で創業20周年を迎える株式会社フェローシップ。同社の事業ポリシーには、後発企業が簡単には追随できない納得の理由があった。創業者であり代表取締役社長の小山剛生氏に詳しく聞いた。
仕事に対する考え方「スタンス」は採用の成功に欠かせない要素
創業20周年、おめでとうございます。改めて御社の事業内容をお聞かせください。
ありがとうございます。フェローシップは、中国をはじめとする海外人材および日本人の人材派遣・紹介事業を展開するグローバル人材サービス会社です。グローバル人材を活かしたエンジニアや翻訳や越境マーケティングや通訳サービス職など、外国語を要する業務の派遣・紹介も行っています。現在、派遣稼働者は約850人、うち300人程度が正社員雇用です。
フェローシップには「仲間」という意味があります。企業と人材を「使う人、使われる人」の関係性ではなく、ともに未来を目指す「仲間」として捉え、誰もが持つ才能や素質、将来性を見つけるお手伝いをしながら輝いて生きる人を増やしたい。そんな思いを込めました。創業以来、派遣と紹介の両事業を展開してきましたが、売上でみると現在は95%が派遣です。近年は、BPO(事業受託)も始めました。さらに、日本法人を持たずに日本でマーケティングをしたい海外企業に対し、当社が代替雇用をする越境採用サービスも始めております。
「仲間」との出会い(採用)にあたり御社が注視するポイントを教えてください。
当社では、「スタンス(仕事に対する取組み姿勢や考え方)」をかなり重視します。成長志向があり、かつチームワークプレイができる人かどうかは企業で働くにおいては重要な指標で、そのために人間性を判断する評価システムを構築したほどです。評価基準の中には、率先タイプか指示待ちタイプか、ルーティンワークが得意か臨機応変な対応が得意か、人と話すことが好きかどうかなどたくさんのパラメーターを設けています。当社は外国人の採用も多いので、日本文化を受け入れる柔軟性も評価対象となります。このシステムは派遣スタッフの稼働後も継続するので、派遣先企業の情報がアップデートされ、より高精度に進化していきます。
当社は、未経験からのキャリアチェンジを志す人材を得意としています。採用時のスキルや経験はもちろん大事な要素ですが、成長志向をもって働き続けてもらうために重視しているのは「能力」と「スタンス」です。離職原因の主が評価や上司や同僚との人間関係であることからも、自ら成長しようと努力することや職場の人を受け入れるなどのスタンスは軽視できません。反対に、スキルは後から身に付きます。当社では、未経験でも成長したい気持ちがある人を積極的に採用し、育て、企業へ送り出しており、これを「育成カルチャーフィット」と呼んでいます。外国人が多い当社では、日本文化とのフィットも項目に入れています。企業側は、育成コストをかけずに自社に合う人材を採用できるメリットがあります。
未経験者をプロ人材に育てるとなると、時間とコストがかかりますね。
おっしゃる通りです。実際、正社員採用の派遣スタッフには2週間から数か月におよぶ座学と演習の研修を実施しています。そして稼働後も定期的にキャリアコーチというキャリアやコーチングの専門的な訓練をうけている社員が様子を確認し育成フォローをしていきます。確かに時間もコストもかかりますが、企業が求める人格・マナー・スキルを併せ持つ人材を育てて送り出すことは、派遣会社の介在価値の一つだと思います。
経験豊富な即戦力がほしい企業も多いと思いますが。
そうですね。企業が派遣を活用する理由は主に、人手不足、育成・マネジメントコストがかからない、人件費を変動費化するためなどがあり、これらを解消するには経験豊富な即戦力に越したことはないでしょうし、当社もできる限り企業に合わせた即戦力人材を送り出しています。ただ、高いスキルの人材でも勤務先の事業に興味がなかったり、コミュニケーションができなかったり、社風に合わなかったりすれば、よい結果にはなりません。一方で、経験は浅くても事業に関心があり、仕事を通じて自分も事業も成長させたい気持ちが強く、かつコミュニケーション能力に長けた人材のほうが先々に活躍するという実例を、私たちはいくつも見てきました。
これからますます労働人口が減少して採用が厳しくなる日本においては、企業もある程度、即戦力にこだわらず社内で育てることも必要だと思います。当社としても、業務に必要なスキルを身に付けた人材を送り出しますが、稼働から1~2カ月は業務に慣れる時間と捉えてもらい、3カ月目あたりから能力を発揮してもらう感覚を持っていただけると、結果として優秀な人材と出会えると思います。事実、当社派遣スタッフの(毎月)約5%が、3年ルール*を待たずに派遣先企業様の社員となっています。
*派遣法では、同一の事業所に対する派遣期間は原則3年までで、それを過ぎる場合は派遣労働者が希望すれば無期雇用にする決まりがある。
やみくもにハイスペックな人を企業に送り込むのではなく、その企業に合った優秀人材を育てて送り出す、それが御社の魅力であり介在価値なのですね。
ありがとうございます。これらの考え方は、創業時からのポリシーです。一般的に、大手企業には安定志向の人を、成長企業には成長志向の人を引き合わせる傾向がありますが、当社は創業以来ずっと後者の人材を支援しています。
御社は近年中国の人材を得意としてきました。昨今の中国は発展し、日本より給料が高い職業も増えています。日本のプレゼンス低下が叫ばれるいま、どうやって中国人に日本をアピールしていますか。
IT系ホワイトカラーで話しますと、日本で働きたい中国人や韓国人は、年々増えています。SNSなどで日本の文化やアニメを知った中国や韓国の若者たちの中には、日本で暮らしたいと思って来日する人が大勢います。確かに、エンジニア系など一部の職業の給料は、日本より中国のほうが1・5倍ほど高いですが、中国には35歳を超えるとリストラ対象になり代わりに若手が雇用される「35歳の壁」があるため、35歳以上の優秀な人材がたくさん求職しています。日本で35歳といえば、キャリアと経験、スキルを備えた人材です。日本語が話せない人については代替採用人員になっていただくなどしながら、中国人の採用は拡大し続けています。
販売職から事務職にシフトした人材が重宝される!その理由は…
いま注力している事業を教えてください。
一つは、高度人材の外国人派遣と紹介です。当社ではグロキャリ(グローバルキャリアワーカーズ)と呼んでいます。日本で働きたい優秀な人材が、海外にはたくさんいます。日本での就業経験が無い方々をインバウンド産業の通訳販売職として採用し免税店やブランドショップやホテルに送り出したり、就業経験者なら翻訳や生産管理や越境マーケティングなどができるように育てて働いてもらったり、エンジニア経験者はそのまま即戦力として日本企業に送り出したりしています。2020年3月には、中国語人材専門の求人プラットフォーム「TENJee」を始めました。今やその分野では最大級の登録者数をほこります。
もう一つ、スーパーアシスタントの育成に注力しています。スーパーアシスタントとは、与えられた作業のみをこなすのではなく、働く同僚や上司のニーズを察知し、機転を利かせ、自分の強みを活かした仕事をする人材のことです。DX化が進み人の事務作業が減り続けるいまこそ、ニーズを察知して半歩先の動きができるという、人間にしかできないスキルが重宝されます。
例えば、販売職から事務職に移りたい求職者は昔から多いですが、その採用確率は極めて低いです。人手不足の今でこそ採用率は上がりましたが、多くが人手不足の穴埋めというネガティブな受け入れです。ですが、販売職経験者はコミュニケーション力や察知能力が高く、秘書やマネジメントの素質があります。この方々を育成して事務スキルを身に付けてもらえば、それはもう頼りになるアシスタントになります。私自身、半歩先を見越して気を利かせられるアシスタントが欲しいと思ったことも、スーパーアシスタントに注力し始めた理由の一つです。販売職からスーパーアシスタントになって、いずれエンジニアというキャリアシフトも可能です。当社は求職者と一緒になってキャリアを考えています。派遣スタッフがキャリア予測を立てることは、派遣で働き続けるためには重要です。派遣の働き方をいつまで続けたいのか、半年後なのか、三年なのか、定年までなのか。それによって紐づける仕事や取るべき資格が変わってくるからです。私たちは、ここに時間を割いて求職者と向き合っています。
採用成功のコツは賃上げ。即戦力重視からの脱却
外国人の求人媒体以外の集客方法がありましたら教えてください。
海外に対しては弊社上海法人での集客やSNSに力を入れています。SNSとオウンドメディア「TENJee」を通じて毎月1,000人の相談があります。今は毎月約40人以上(うち海外からの採用は20人)が当社に入社しています。
企業がよりよい採用を実現するためのコツはありますか?
いま必要な要素は賃上げ、グローバル基準の賃金にすることです。もしくは成長を要望し成長に応じて賃金をあげていくことです。次に、即戦力にこだわりすぎず、ある程度は社内で育てる余裕を持つことで、社風に合った人材を採用できます。コロナ禍以降は、テレワークを打ち出さないと人が集まらないという理由でテレワークをOKにする企業が増えました。今もテレワークの有無で採用の難易度がかなり違うのも現実です。ただ弊社が得意とする成長志向人材はテレワークよりも成長環境が大事だと思っています。
最後に、現在の課題と直近の展望をお聞かせください。
当社の「育てて送り出す」派遣を続けるためにはそれなりのコストがかかるので、コストを抑えながら同等以上のサービスを展開し続けるシステムの構築や対策が、今後の課題です。一方で、スーパーアシスタントや日本で働きたい海外のホワイトワーカー数をさらに増やしたいと考えています。人数を増やしてもサービスの質を保ち、かつコスト減に努める。高いハードルですが、実現を目指します。