データに勝るコンサルティングで「生涯エンジニア」を可能に

労働力人口の減少が進むいま、業界特化型の人材サービス企業はどのようにマッチングや成約の精度を高めているのか。エンジニアに特化した職業紹介サービスを展開する株式会社メイテックネクストの代表取締役社長である山田英二氏に、エンジニア領域の採用事情や同社の戦略などについて詳しく聞いた。

技術があれば70歳でも活躍できるエンジニア職

最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

メイテックネクストは、エンジニアリングソリューションサービスを展開するメイテックグループのエンジニア紹介事業として、2006年に設立しました。主な取引先は製造業で、求職者は30代前半がボリュームゾーンです。求職者の職種は、ほぼ100%がエンジニアとその関連職になります。これまで、のべ23万人を超えるエンジニアの転職を支援し、1万社を超える企業の採用活動を支援しました。26年に創業20周年を迎えますが、今日まで一貫して「エンジニアからの支持No.1を得る企業」になるべく取り組み続けてきました。

メイテックグループ自体は50年の歴史があり、エンジニア社員数はグループ全体で1万人を超えています。長く当社グループで働いてこられたエンジニアの中には、定年後も働き続ける人が少なくありません。最高齢では、70歳の現役エンジニアも在籍しています。技術があれば年齢に関係なく、生涯エンジニアとして働けるプラットフォームを用意していますので、100歳の現役エンジニアが誕生する日が来るかもしれません。

山田様は設立時の立ち上げメンバーのお一人と聞きました。どのような経緯で立ち上げに関わられたのでしょうか。ご経歴を含めてお聞かせください。

私は新卒で金融業界に進みました。日本社会の発展に貢献したい思いを形にするためには、金融業界が適していると判断したからでした。日々の仕事は充実していましたが、いつしか「もっと直接的にお客様と関わり、手ごたえを感じたい」という思いが強くなり、大手人材会社へ転職しました。大手人材会社は、求職者、採用企業ともに圧倒的な数を保有し、領域も幅広く展開しています。数の多さが生み出すメリットはあるものの、私は一人ひとりの求職者と丁寧に向き合い、よりよい生涯キャリア設計をお手伝いするコンサルタントでありたいと思うようになりました。そんななか、自分の思い描く人材サービスをモットーにしていた当社の(当時の)社長と出会い、設立に関わることを決めました。24年1月に、私が代表取締役社長に就任しました。

AIが導き出せない求職者の意向を引きだすことがコンサルタントの介在価値

設立時から現在までの転職市場にどのような変化がありましたか?

転職方法の選択肢が多様になった点は大きな変化だと思います。設立時は「非公開求人」を求めて転職支援会社に登録・転職をしていましたが、現在はダイレクトリクルーティングが増えてきています。ダイレクトリクルーティングの比率は、今後も高くなっていくでしょう。その中で、いかに高精度のマッチングをしていくか、求職者にとってベストのキャリアは何かを考え提案していくことに、転職支援サービスの介在価値があると考えています。

日々AIが進化し、条件ベースのマッチングに関しては、人間がAIに勝てなくなってきました。コンサルタントは、求職者が何のために転職するのか、条件の裏に隠れた求職者の本当の思いや希望を引き出すことで、AIと共存しながらも、人間だからこそできる役割を担っていく必要があると思います。

求職者はときに、転職することが目的になってしまい、転職によって何を得たいのか、どんな未来にしたいかまでを描いていないことがあり、テンプレートに入力された条件からは、その点は見えてきません。この状態のまま、条件の一致だけで転職をしてしまうとミスマッチにつながる可能性もあります。当社では、面談の時間と工数をかけて、求職者が転職を希望する理由、転職の先に描く未来などを確認してから、具体的な案件紹介を行います。

エンジニア領域ならではの成功事例があれば教えてください。

丁寧な面談を行うことで、求職者の新たなフィールドへのチャレンジにつながることがあります。例えば、自動車メーカーのガソリンエンジン開発技術者が、宇宙輸送領域で活躍するという事例がありました。ロケットを製造する際、太陽熱に耐え得る素材の開発が必要になりますが、ガソリンエンジンを開発する過程でも、同じく熱の知識と技術を要します。求職者の経験を詳しくヒアリングしていたことで両者がつながり、自動車メーカーから宇宙輸送領域の開発者にキャリアチェンジしました。これは、当社がエンジニアに特化しており、求職者と採用企業両方の業務を理解しているからできるコーディネートでもあります。採用企業にも、同業界出身にこだわらず、採用目的に合った同種の技術者を視野に入れていただくようお話しています。

エンジニアの求職者は比較的、次にやってみたい、自分の技術を活かしたい分野が明確であることが多いですが、同業界で長く技術者として従事してこられたがゆえに、他業界の情報量が少ない傾向にあります。その点でも、エンジニアに特化しており、エンジニア出身のコンサルタントが多い当社が介在すれば、求職者の培ってきた技術要素に合わせ幅広い業界を紹介することができます。採用企業に対しても経営における人事課題の解決に向けて、採用ポジションの要素分解を行い、人事担当が気づいていない人材ニーズを引き出すことでより良いマッチングが生まれます。

近年は、環境問題の解決に取り組むスタートアップ企業など、新たな領域が増えています。求職者には、熟練した技術やスキルを時代の変化に合わせて発揮できる場所を見つけていただき、その方のキャリア構築に一生涯関わりつづけていきたいと思っています。

求人・求職者の数よりも成約の精度アップに注力

求職者数を増やすための取り組みを教えてください。

求職者数は多いほうがいいと思いますし、おかげさまで増えています。ですが、やみくもに増やすことは考えていません。求職者、採用企業、それぞれの転職理由や採用募集背景やありたい姿を深く理解するには、丁寧な面談が必要です。そのためには、コンサルタントが適正に対応できる数を維持することがポイントになるので、求人や求職者の数よりもマッチングや成約の精度アップに注力しています。精度を上げるために週1回の研修やトレーニングを実施していますが、なにより成果がでるのは、現場で先輩から学んだ経験だと個人的には思います。また、ランチタイムや休憩時間などの会話で生まれる偶発的なコミュニケーションも大切だと考えています。

どのような手段で求職者を集めていますか?

現在は求人媒体がメインです。今後は、自社サイトでのオーガニック集客を増やしたいと考えています。サイトの情報量を増やして、エンジニアでいる間はサービス登録の有無に関わらず訪れたくなるサイトを目指します。最近では、当サイト内の採用企業を紹介する企画「企業note」を見て転職を決めた求職者もいますので、今後も引き続き注力していきます。

ヘッドハンティング部門については、SNSの活用にも力を入れていきます。SNSを使ったヘッドハンティングは一般的になっているものの、登録者が転職を希望するかどうかは、SNSのアカウント情報では分かりません。求職者を探しだすという使い方よりも、リアルなお付き合いがある方々とつながる場として利用し、求職者や採用企業の情報を交換する場として考えています。

いまは求人媒体自体も直近の転職を目的としない登録者が増えていて、登録者イコール求職者ではない時代です。その中で潜在的な求職者がお客様となり成約につなげるためにも、やみくもに求職者数を増やすのではなく、当社員のスキルを強固にし、マッチングの精度を上げることに力をいれていきます。もちろん、システム投資も実施していきますが、あくまでもコンサルタントの事務作業を軽減する目的でおこない、そのぶんコンサルタントには面談に時間と手間をかけてもらいたいと考えています。

企業側への採用に関するアドバイスがあれば教えてください。

今後、日本の労働力人口はますます減少します。その中で採用を継続するには、働き手の多様性を受け入れる企業の体制づくりが必須になります。徐々に理解が深まってきたと感じますが、まだまだ年齢、国籍、性別にこだわる傾向はみられます。ジョブ型雇用などの働き方も含め、採用の基準をアップデートすることで、より優秀な人材採用につながると思います。

最後に、山田様の今後の展望をお聞かせください。

私が社会人になったときからの夢でもある「日本経済の発展への貢献」を実現させたいです。製造業は、日本のGDPの20%を占め、日本に欠かせない産業の一つとして、発展が望まれます。当社をはじめとする人材業界を通じて、企業も求職者も幸せになり、日本経済が発展することにこだわり、今後も関わっていきたいです。