生涯キャリアに寄りそう事業展開によりサービス提供の価値を拡大する

ファッション・ビューティー特化型の人材サービス会社として業界をリードする株式会社iDAが近年、事業と職種の幅を拡大し、着々と求職者を増やしている。注目すべきは、業界特化型ならではの事業領域を活かし、一人の求職者に幅広い働き方を提案できるよう進化させた点で、結果として母集団の拡大につながっている。一連の事業戦略について、取締役の湯浅博昌氏に詳しく聞いた。

業界で働き続けたい方々のキャリアインフラを整備

最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

iDAは、ワールド・モード・ホールディングスのグループ企業で、全国に26拠点を持つファッション・ビューティー業界特化型の総合人材サービス会社です。人材の派遣と紹介事業を中心に、新卒支援、中途のダイレクトリクルーティングサイト運営、短期バイトサイト運営、プロフェッショナルフリーランスの業務委託紹介、顧問紹介、教育・育成などのサービスを提供し、年間約1,800人の社員転職支援や転籍化を実現しています。合わせて、RPO(採用代行)や、販売やカウンター業務など店舗業務のBPO(業務代行)も行っています。

御社事業はもともと派遣事業が中心でした。紹介を主力事業に加えた理由は何でしょうか。

当社は、ファッション・ビューティー業界の人材インフラを目指しており、働く方々の生涯キャリアに寄り添う会社になることがミッションです。そのためには、派遣以外のさまざまな働き方を支援できる体制の整備やサービスの確立が必要でした。7年前に始めた紹介事業はもちろん、フリーランス支援やコンサルティング顧問契約のサポートなどもその一環です。ダイレクトリクルーティングサイト「MyBRANDS」の運営や、新卒の就職支援サービスも行っています。

この業界で働く方の多くは、ファッションや美容に関わる仕事が大好きです。将来、ライフスタイルが変化して、働く時間帯や場所、職種を変えることになってもファッション・ビューティー業界で働き続けられる環境を当社が用意しておけば、生涯この業界で楽しく働いてもらえると思っています。

御社の紹介事業の特長を教えてください。

事業所が全国26拠点にあり、業界に特化した支援を全国規模で提供できる強い営業力の基盤を持っています。

また、人材紹介だけではない様々な母集団を有している点も特長です。複数の人材サービスを提供しているので、各サービスに対しての利用者の方が全国に多数いらっしゃいます。ライフスタイルの変化や専門スキルでの就業など、社員以外の働き方を希望された場合でも、対応する多様なサービスがあることは人材紹介を強くする要素になっています。さらに、25年間、ファッション業界の派遣サービスを手掛けているので、派遣から入られた多くの方々のセカンドキャリアや転職を支援する機会もあります。これは人材紹介と派遣サービスの両方を手掛ける当社ならの強みです。

DX化が進む中でも人の介在価値は必ずある

御社の紹介事業において、現在もっとも注力していることは何でしょうか。

当社は、25年にわたり蓄積した35万人のデータベースと8万5,000人の就業実績、そして全国26拠点のネットワークを使い、幅広い転職支援を実現しています。一番のボリュームゾーンである販売職採用支援は引き続き注力しますが、23年度から販売職に限らず、人事や総務などのオフィス職、デザイナーのような専門職、EC関連の職種など、業界に必要な幅広い職種に対応する「オール職種」部隊を発足しました。対応する職種の拡大は、販売職として働く方々のセカンドキャリアのサポートにもつながると考えています。ライフスタイルの変化や専門スキルの向上とともに販売以外の仕事にもチャレンジしたいと考える求職者の方に対し、多様な働き方を提案できるようにしてゆきます。

DX化により人材サービスの介在価値が改めて問われています。湯浅様のお考えをお聞かせください。

生成AIによるレジュメやスカウト文面等基本文章の作成や、AIを利用した求人検索といった活用をし始めており、DX化で効率化できる部分は多々あると考えていますが、人と人をつなぐ仕事である以上、最終的には対話が必要です。データやAIが導き出す正解は、基本的に一つしかありません。ですが、求職者が入力した希望条件データの裏には、AIではくみ取れない本音や事情が数多く含まれています。

求職者の方の転職理由を突き詰めると、そこには現状から何かを変えたいという想いがあります。例えば、表面(データ)上は「人気ブランドで働きたい」など、ポジティブな理由が書かれている場合でも、CA(キャリアアドバイザー)が介在して求職者の方と接することで、本当にポジティブな理由だけか、真の課題は何か、その課題は人気ブランドへの転職で解決するか、実はもっと適した答えがあるのではないか、などを判断できます。この点をなおざりにして、求職者の方が書いたデータ上の情報だけでマッチングを実行するとミスマッチが起き、「こんなはずじゃなかった」と早期離職する場合があります。特に当社の場合、社員の約8割がアパレル出身者のため、自らの経験を踏まえて、より求職者の方に寄り添った対話と提案ができます。

採用企業に対しても同様です。企業の採用案件に対してヒアリングをし、課題を深掘りしてゆくと、実は既存の従業員の方への教育により解決する人材課題であるなど、採用だけが企業の課題解決のすべてではありません。市場の不確実性や複雑性が増す中で、このようなケースが増えていると感じています。そこに対して我々は、教育やマーケティングなどグループが有する多様な専門領域の知見やノウハウを活用し、採用サービスを含む複合的なソリューションを提供できる。これは他社にはない強みであり、顧客の本質的な課題解決に繫がると考えています。

求人媒体のDX化で求職者にも変化が現れましたか?

ここ数年で、若年層を中心にエージェント活用の利用登録者が増えました。ほんの数年前までは、求職者の方が自ら検索をして仕事を探していましたが、いまは企業やエージェント側からオファーが続々届き、手厚い支援を受けられるからでしょう。だからこそ求職者の方は、無機質に届けられるメールやWebの情報よりも、信頼できる専門家から直接聞く情報に価値があると感じていると思います。

さらなる業界発展のカギは「柔軟性」と「協働」

御社独自の集客方法があれば教えてください。

当社のサービスを利用される方々の6割はホームページからの流入です。25年の実績の中で多くの有名ブランド様と信頼関係を築かせていただき、募集掲載やロゴマーク掲出をさせていただけていることが、求職者の方からの信頼獲得につながっています。また、かつて転職支援した方々が企業の採用担当者になっていたりその逆があったりと、支援した方々とのつながりが継続していることが、母集団形成の一助になっています。さらに、企業にご協力いただき、合同での採用イベントや選考会の実施にも力を入れています。

一方で、課題もあります。紹介の場合、最初は情報収集をしているという転職潜在層も多く、当社のサービスを理解し活用いただけるよう、プロフィールに合わせた情報発信をするコンテンツマーケティングに注力しています。

最後に、業界を取り巻く現状と今後の変化、それに対する御社の対応についてお聞かせください。

近年は販売チャネルが増え、EC比率が高まり、デジタルを駆使すれば越境も可能なため、求められる人材が多様化しています。販売力の定義には、SNSなどの発信力も加わりました。また、この業界は外資系企業が多く、世界情勢に影響を受けやすい傾向があるため、経済や政治の世界動向を注視しながら、柔軟な方針変更をし、複数の答えを持ってチャレンジし続けることが大切だと考えています。

将来の展望や予測の答えは一つではありませんし、既存の成功モデルが正解とは限りません。ときに、トライアンドエラーを繰り返して我々の最適解を探し続けることが必要です。また、自社にとどまらず、様々な専門性を持つ外部パートナーや、時には同業他社と、協業することもあります。かつては同業他社や関連業界とスキルを共有するなんてあり得ませんでしたが、現在は協働して業界を進化させる時代です。それぞれの企業の得意分野を活かし、ともにファッション・ビューティー業界と人材業界の発展に貢献していきたいと思っています。