国家資格業界で働く人の人生に希望と選択肢を

2020年8月、国家資格業界特化型の人材支援サービス会社として創業したミツカル。士業・師業に特化した人材支援会社のくくりでは後発組だが、成功報酬型の契約ではなくサブスク型という点は新しい。サブスク型によるユーザーメリットや、ミツカルが目指す士業・師業の未来像について、代表取締役の城之内楊氏に聞いた。

月20万円からのサブスク契約で事務所の採用コストを軽減

――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

ミツカルは、国家資格業界に特化した人材紹介会社として、2020年8月に創業しました。主な取引先は税理士事務所、社労士事務所、動物病院などで、23年度の内定承諾数は438名、1年以内の早期離職は7名でした。同業他社の早期離職率はおそらく11~12%ですが、当社は1.7%程度と、かなり低い点が強みです。

人材業界における当社の特徴は、企業との契約が成功報酬ではなくサブスクリプション(以下、サブスク)という点です。国家資格業は労働集約型で、ほとんどの取引先が通年採用のため、常に採用コストがかかります。例えば、平均年収550万円の税理士事務所が成功報酬型の人材紹介会社を通じて1人採用すると、成功報酬35%の場合で200万円、5人採用で1,000万円かかります。当社は月20万円~50万円のサブスクなので、最高でも年間600万円の費用で、それ以上のキャリア人材を紹介できます。

――早期離職者を7名に抑えられた要因は何でしょうか?

当社は採用手数料が一律なので、CA(キャリアアドバイザー)が手数料の高い事務所(税理士などの事務所。以下、事務所)を優先して紹介することはありません。本当に求職者に合うと思った事務所を紹介し、求職者が自分の意志で決められます。そのため、ミスマッチが起きにくいのだと思います。加えて、毎月1回は事務所と採用ミーティングを実施し、採用市場や求職者の動向をお伝えしたり、採用広報のアドバイスをしたりしています。

また、給与水準が低い事務所には、当社でリスト化した業界の給与比較表を開示して上げていただくこともあります。サブスク契約の中にコンサルティングも入っていますので、長くお付き合いくださる事務所が増えました。総じて、当社の理念「働く人の人生に選択肢を提供する」を実行した結果だと思います。

――国家資格業界に特化した背景を教えてください。

最初は、越境事業にする予定でした。海外企業が日本企業のM&Aを実施する際のサポート業です。それには、紹介する日本の中小企業の情報が必要でした。日本の中小企業の情報を持っているのは税理士だと思い、税理士業の方々に話を聞くうち、彼らが慢性的な人手不足に悩んでいることが分かりました。そこで、自分が税理士紹介事業を展開すれば、税理士さんは顧問先企業を紹介してくれると思ったのです。現在、約500社の税理士事務所と取引しており、一事務所あたり400~500社の顧問事業者があります。

実は、資金調達の際、いずれ越境事業をやるための税理士紹介業だとVC(ベンチャーキャピタル)に話していませんでした。「労働集約型に特化した人材マッチングのサブスク」だけを伝えながら20社ほど商談をしましたが、「前例がなく将来が読めない」という理由で、すべて断られました。ですが、それを聞いた税理士、弁護士、医師の皆さんが個人的に出資してくださり、9,650万円を調整できました。国家資格業界に特化した理由には、出資してくださった先生方に恩返しをする意味もあります。

――士業・師業の知り合いが多い理由は?

起業前に税理士向けのコンサルティング会社に勤務していたからです。私は経営者一家に育ち、幼いころから将来は経営者になると決めていました。会社を経営するためには、自分が会社員を経験する必要があると考え、20代はコンサルティング会社に勤務しました。そこで築いた取引先事務所との関係が、越境事業の相談や資金調達につながりました。僕自身は、税理士試験の簿記論と財務諸表論に2回落ちています。難しすぎて、まったく歯が立ちませんでした。(笑)

営業するより先に良好な関係づくりを大切に

――候補者はどのように集めていますか?

候補者の多くは、ヘッドハンティングで集めます。ホームページを見たり、事務所や個人から紹介してもらったりしながら、地道に候補者リストを作成しています。現在、潜在求職者が約2万人、顕在求職者は約8,600人います。また、取引経験がない事務所へ電話してアプローチすることもあります。最初から採用の話をするのではなく、まずは関係づくりから始めます。事務所に対しては、当社が募集から面接、候補者探しまでの全工程を請け負います。税理士や社労士の事務所は人事部がないケースが多いので、重宝されています。

対外的なPRとしては、全国の事務所や士業・師業のインタビュー動画をYouTubeに投稿しています。現在、YouTubeのチャンネル登録者数は1,300人います。

――御社メンバーの採用基準を教えてください。

人材業界未経験者を積極的に採用します。当社は既存にないサービスを提供する会社なので、業界経験がないほうが発想に自由が生まれます。例えば、CA経験者の感覚では、月に6人の採用が決まれば優秀で、10人決めたら超級だと思います。未経験者には業界の固定観念がないので、毎月8人は内定承諾するものだと言えば、「つまり週に2人だけでいいのですね」という発想になります。

――社内カルチャーの特徴をお聞かせください。

基本的に、すべてをオープンにしています。事業損益はもちろん、経費の使い道、役員報酬やメンバーの給与まで、本当にすべてです。給与額は四半期ごとの評価で上下します。社歴は関係なく、新卒1年目の人が2カ月で10万円アップすることもあります。予め納得して入社しているので、それで妬んだり職場の空気が悪くなったりしたことはないです。

指導面では、ひたすら長所を褒めて伸ばす方針をとっています。短所を直すのは時間がかかり過ぎるので、それぞれが長所を活かしたやり方で成長できる環境にしています。これらは、経営陣が日ごろからメンバーと会話や飲み会をして、メンタルケアをしている前提です。オフィスも、メンバーの中心に社長がいるレイアウトにしており、いつでも誰でも私に話しかけやすい雰囲気を作っています。心理的安全性と企業理念の共有があれば、一致団結した職場は作れると思います。

――その方針や雰囲気が合わずに辞めてしまう人もいそうです。

合わなかった場合は、こちらの採用ミスなので申し訳ないですが、本人も無理して居続けるのはつらいですし、当社も同じカルチャーの中で高め合うメンバーだけを残して強い組織にしたいので、悪い結果ではないと思います。

――御社が顧客に選ばれる理由は何だと思いますか?

ずばり「人」です。相手を知るためには手間と時間を惜しまず、お客様のために本気で取り組み伴走する当社のメンバーに、信頼を寄せてくださるのだと思います。また、同業者の給与額一覧などを当社で作成して顧客に開示している点も、重宝されていると感じます。ありがたいことに、取引をした多くの事務所や個人から、知り合いを紹介していただいています。新規で動物病院の人材紹介を始めた経緯も、求職者からの相談がきっかけでした。その人は動物看護師で、千葉県での入職を希望していました。当時、当社は千葉県の動物病院に取引先がなかったため、希望エリア内の動物病院に片っ端から連絡して、求職者とつなぎました。そこまで求職者のために動く姿を見て、信頼を寄せてくださるのだと思います。

5年・10年先の魅力的な国家資格業界を目指す

――今後の目標や事業展開についてお聞かせください。

数値目標としては、2030年までに売上10兆円を達成します。採用サブスクは、国家資格業界に限らず、通年複数採用にマッチしますので、次は営業職の人材紹介を予定しています。当社で例えても、営業職の採用には月1,000万円単位でコストがかかりますので、サブスクのほうがコストを抑えられる企業は多いはずです。他に、新卒やエンジニア業界も視野に入れています。

とはいえ、5年・10年先の国家資格業界を魅力的にするための努力も続けます。国家資格の仕事をもっと魅力的にしていかなければ、士業・師業の労働人口は減り続けます。実際に、税理士資格を取ったのに企業の経理職に就く人が増えています。もしも代表者だけが高給で裕福な暮らしをし、従業員は賃金が低水準の事務所があれば、当社がスカウトする。それほどの覚悟をもって取り組みます。

あわせて、会計事務所の職員に特化した会計事務所甲子園を実施したいと考えています。業界の上位ランクになれば、個人の市場価値は高くなります。令和の虎*の税理士事務所バージョンも面白いですね。

個人的には、経営者の子どもに特化したビジネスアカデミーを開きたいと考えています。幼少期から経営、マーケティング、ファイナンスを学ばせ、小学生で事業計画を作れるようにします。いまはまだ「城之内さんから学びたい」と思ってもらえる経営者になるために自己研鑽する段階ですが、20年後、僕が60歳になる頃には、1,000社の創業に関わっていたいです。

*2018年からYouTubeで配信されているビジネス番組。起業志願者が投資家に事業をプレゼンし、出資を獲得するリアリティーショー。

――特徴的なロゴマークに、城之内さんのビジネスへのこだわりが詰まっているそうですね。

「虫眼鏡で太陽を見ると失明する」と昔から言われているので、誰もやらないですよね。「人材紹介は成功報酬」と昔から決まっているから、業界全体が疑いもせずに成功報酬型にすることと同じです。別の見方として、太陽光を虫眼鏡に通して焦点を定めると、その場所が燃える発見は革命です。このように、当社がタブーをぶち壊して革命を起こす、誰もやらないことをやり続ける、そんな思いをロゴマークに込めています。