シェアフルが日本の人材価値を最大限に引き出すきっかけに
ここ数年、1日数時間単位の仕事をマッチングするスポットワーク市場が成長を続けている。パーソルホールディングスとランサーズの合弁会社として2019年1月に設立したシェアフルも、その一社だ。シェアフルがスポットワーク市場に参入した理由は、短時間・単発労働のニーズに応えるためだけではなく、まだ知られていない才能の原石に光を当て、日本人の労働力を最大限に引き出す目的もあるといい、そのために長期雇用の人材紹介事業も開始した。詳しい話を、シェアフル代表取締役社長の横井聡氏に聞いた。
シェアフルは「働けるのに働く場所がない」人の新たな選択肢
――シェアフルを立ち上げた経緯を教えてください。
2000年代初頭、日雇い派遣という1日単位の働き方が流行しました。労働形態が派遣なので、毎日発生する契約や勤怠管理、給与精算など一連の労務管理は派遣会社が請け負います。採用企業からすると手離れがよく、一気に広がりましたが、12年に労働者派遣法が改正され、日雇い派遣が原則禁止となりました。これにより、一部の職業を除き、1日単位で雇うことや働くことも制限されるようになりました。ですが、法が改正されたからといって、日雇いのニーズがなくなったわけではありません。特に現代は人手不足ですから、1日数時間だけでも働ける人に活躍してもらう必要性は高いと考えます。いま、働けるのに選択肢がない人々にどうやって道を作るか、その答えがスポットワークアプリの提供でした。ただ、マッチングさせるだけの機能では、企業側に労務管理が発生してしまいます。経理担当者は、毎日変わるスタッフの勤怠管理や給与精算と口座開設、振込を延々と続けなければいけません。求職者にも、たった数日、数時間の労働のために、履歴書作成や面接などの手間をかけてしまいますので、シェアフルでは、企業の労務管理や求職者のエントリー工程も一気通貫できるシステムにしました。現在の主な募集業種は、飲食店、倉庫などの軽作業、コンビニエンスストア、介護などが中心となっています。職種によっては資格や経験が必要ですが、未経験でもすぐに就業可能な業務がメインになっています。
スポット雇用ならではの募集・応募ニーズに応えるサービスを提供
――シェアフルを活用する主なメリットを教えてください。
採用側のメリットは、採用コストや雇用機会損失の軽減が期待できます。一般的な求人媒体は、従来の長期雇用を前提として、広告費をかけ、じっくり制作する工程になっています。広告費を出せば掲載できますが、必ずしも応募があるとは限りません。シェアフルは単発・短時間の採用を想定しているため、採用課金型で掲載費がかからず、事業者の好きなタイミングで求人掲載でき、働き手もすぐに集まります。採用した人の中から優秀な人材を長期雇用で採用すれば、ミスマッチの軽減になり、採用コストも抑えられます。
求職者側も、求人媒体で仕事を探すとなると、たとえ短期間のアルバイトでも、大量の募集案件から自分に合う仕事を探して、履歴書を作成して、応募して、面接して、合否の結果を数日~数週間かけて待たなければいけません。それでも採用されないこともあります。正社員でのエントリーであれば必要な工程ですが、1日~数日間のアルバイトにかける工程としては多すぎます。シェアフルを使えば、すぐに採用が決まります。しかも、好きな日時に働いて、給料は最短当日払いです。短期で働きたい求職者にとっては、シェアフルのほうが便利です。
――一方で、長期就業につなげる人材紹介事業を始められた理由は何でしょうか?
単発アルバイトの在り方が大きく変化したことが背景にあります。短期・短時間アルバイトはこれまで、お中元・お歳暮時期の倉庫作業や、セール時のレジスタッフなど、期間限定のスポット業務がメインでした。ところが近年は、恒常的に働き手が不足していて求人媒体を使っても応募がないため、やむを得ずシェアフルで募集する企業や店舗が増えました。また、シェアフルのユーザー調査では、求職者の50%が将来的に長期雇用を希望しているという結果がでました。
これらの変化に応えるため、長期就業支援事業「シェアフルエージェント」を立ち上げました。シェアフルを利用する求職者の多くが、スーツをビシッと着こなしたビジネスパーソンが出演する求人媒体のCMを「自分とは違う世界」だと思っています。シェアフルで働いた人が自分の新たな才能に気付き、働き方の選択肢が広がるよう支援していきます。
日本はいま、労働力不足を補うために外国人採用を促進しています。それはもちろん必要ですが、日本にはまだ、眠っている労働力があります。履歴書の情報だけで判断しているから、人材が足りないと感じるだけです。スポットワークで採用してみると、優秀な人材が多いことが分かります。これまで履歴書の情報だけで判断されて、才能が見出されてこなかった人に光が当たるよう、シェアフルエージェントが支援します。
――単発・短期バイト採用の同業社が増える中、どのように差別化していますか?
2018年にスポットワークサービスが始まってからの6年は市場拡大期で、競合他社とは同調しながら事業展開で成長してきましたが、事業思想はそれぞれ異なります。当社では、「誰もの『はたらく』をひろげ、新しい『はたらく』をつくる」をビジョンに掲げており、スポットワークはビジョン実現に向けた働き方の一つです。スポットワークを継続利用する求職者の多くは、可処分所得が低く、物価高の中で日々の生活に危機感を持っています。そのため、給料の即払いやポイント付与などのサービスが、生活を支える一助になります。シェアフルでは、歩いただけでポイントがもらえる機能を付けるなどして、個人の生活に寄り添っています。
採用側の視点で考えても、スポットワークは雇用の選択肢の一つですので、我々が自社の発展のために「スポットワークを活用しましょう」と勧めると、理(ことわり)を歪めてしまいます。まずは理想のシフトをレギュラースタッフで埋めることがベスト。埋まらなければ、スタッフ内で調整する。それでも埋まらなければ、シェアフルを活用くださればいいのです。当社では、スタッフのシフト希望収集、シフト作成、複数店舗間のヘルプ調整までオールインワンに管理できるSaaS型シフト管理システム「シェアフルシフト」を企業に利用していただき、雇用の最適化をお手伝いしています。ただし、延々とスポットワークで埋める状態にならないために、スポットワークで働く人を長期採用する提案もしています。
「本当に日本の労働人材は枯渇していますか?」日本人活用への挑戦
――求職者のキャリア形成にもなりますね。将来的には育成も考えていますか?
現時点では、リスキリングや育成はそこまで考えていません。その前に、個々人が持っている価値に対する光の当て方を変え、まだ活用しきれていない素質や才能を見出すことが先です。既存の就活は、経験や資格で人材を選ぶ傾向が強く、それに合わせてスキルを磨いたり資格を取得したりします。スポットワークでは、学歴や年齢、経験などに関係なく、新たな仕事に出合えます。未経験の職場で働くことは、まだ使っていなかった才能を開花させるチャンスになります。新たな才能が見つかれば、これまで違う世界だと思っていた職業に就ける可能性が広がります。当社では、社会に合わせてスキルを身に付けてもらうのではなく、いまある価値を最大限に活かして働けるお手伝いをしています。
実は当社にも、オフィスワークのスポットワークを経験してから社員になった、もと居酒屋の店長がいます。コミュニケーション能力に長けているため、お客様ともすぐ打ち解けます。店長経験者なのでリーダーシップがとれますし、店舗運営も一通り理解しています。履歴書を見ただけでは伝わらない魅力があると実感しました。他に、元気で頭の回転が速いシニア人材がたくさん働いています。77歳で月20回ほど、毎日違うコンビニで働くシニアもいます。
――最後に、今後の注力する取り組みをお聞かせください。
当社の人員が全国展開を目指せる人数になってきましたので、テンプスタッフの全国44拠点と連携し、スポットワークを全国に広げていく取り組みを始めました。テンプスタッフが各地のお客様と作り上げてきた信頼関係をベースに、新たな採用支援を提供します。また、今後はデータ入力やテレフォンオペレーターなどのオフィスワーク分野にも支援を広げたいと考えており、すでに当社のオフィスワークではスポットワーク採用を始めました。
今後は、短時間労働のニーズをシェアフルで応える軸はそのままに、縦の軸を増やしていきます。一例として、スポットワークの求職者は働く先のお客様でもあることが多いので、働いた先のクーポンがもらえるサービスを始めました。働いた印象がよかった店に客として行くときに使うイメージです。
――採用企業の認知拡大やPRにもつながっているのですね。
おっしゃる通りです。これを活用しない手はありません。実際に働いた印象がよかったとなれば、企業価値が向上し、採用につながります。悪い評価は、改善材料になります。採用企業にとって、スポットワークがCSRにもつながることを期待しています。