企業に併走し、未経験者を育て日本のITエンジニア不足を解消する

未経験スタートに特化したITエンジニア派遣会社、リクルートスタッフィング情報サービス。なぜ、育成のひと手間が必要な未経験者にあえて特化しているのか。代表取締役社長の岩佐知紀氏に聞いたところ、そこには「日本のITエンジニア不足解消に貢献したい」という志があった。

ITエンジニアを目指す未経験者を採用し、共に成長する

――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

リクルートスタッフィング情報サービスは、無期雇用に特化したITエンジニア人材の派遣事業を展開しており、IT未経験者を当社の無期雇用社員として採用し、育成して企業へ送り出しています。現在、IT人材は年間60万人規模で不足しています。当社では、IT業界で働きたい未経験者にスキルや資格、経験を得る機会を提供し、ともに成長しながら日本の人材不足を解消したいと考えています。

現在、毎月80名前後が入社しています。在籍数は約1,900名、取引先企業は約180社です。この10年で10倍くらいの在籍人数になりましたが、今後も増員・拡大していきます。営業エリアは、東京を含む1都3県や、大阪、京都、兵庫なども含みます。採用人数が増えましたので、今後は取引企業数もさらに増やしたいと考えています。

――未経験からのスタートということは、仕事はある程度マニュアル化された業務に限られるのでしょうか。

たしかに、最初はIT業界での一歩を踏み出せる業務からのスタートですが、踏み出したら終わりではなく、成長し続けられる仕組みを構築しています。エンジニアの業務スキルを4つのゾーンに分け、それぞれのゾーンに合わせた業務へアサインするシステムです。ゾーン1は電話受付や監視などマニュアルに沿って行う定型業務、ゾーン2は保守運用業務、ゾーン3は構築業務、ゾーン4は企画設計業務…とフェーズを分けています。職種毎にゾーンを設定する事で未経験からキャリアを歩むイメージを持てるよう段階的なキャリアアップを意識しています。

――リクルートスタッフィング様との事業の違いは?

リクルートスタッフィングのITサービスには、登録型派遣があります。登録型派遣は、数ある求人の中からご本人が希望する案件を選ぶ形式で、個々のスキルを活かしながら本人希望の条件で働くことを叶えるサービスです。派遣先も、必要なポジションに迅速に対応できる即戦力の人材を希望する傾向があります。

当社の場合は、IT未経験者を当社で採用し、派遣先企業と併走して新たなIT人材を育てる、中長期的な育成を実施しています。ほとんどのIT企業も業界内の人手不足は実感していて、新規育成の必要性を感じていますが、自社の人手も足りない状態で、育成に時間を割ける人がいない現状があります。その点を当社がサポートし、新たな人材をともに育成しています。また、一つの部署に数十人から数百人単位が働く現場では、派遣チームのリーダーが必要になりますので、リーダー育成も企業に合わせて実施し、派遣の勤怠管理やシフト作成などの労務管理はチームリーダーが担当することで派遣先担当者の工数巻き取りを目指します。

――育てた人材を、派遣先企業が正社員として引き抜くケースもあると思いますが、織り込み済みですか?

直接雇用化をご相談いただくこと自体は問題ありません。ただ、当社スタッフは全員、無期雇用の社員であることなども含め、直接雇用化の事例はさほど多くありません。

未経験者特化だからこそ「育成の三原則」を徹底する

――未経験からIT業界を目指す人の特徴はありますか?

理系より文系出身者が多く、直近まで接客サービスや軽作業に従事していたなど、これまでITエンジニアとは無縁だった人が多い点が特徴です。男女比は6対4で、女性比率は増加傾向にあります。

――未経験者を育成する際に意識していることは何でしょうか。

3点の徹底ポイントがあります。1点目は、派遣スタッフが安心して働けるサービス作りです。採用時は、中長期的に安心して活躍できる無期雇用社員にこだわっています。また、未経験者をサポートするため、営業担当者の他に、研修担当者、キャリア担当者の3名体制にしています。営業担当者は、担当企業と就業するエンジニアをフォローし、研修担当者は、入社時や年次研修などの定期的な研修と、資格取得を支援します。資格は、例えばCCNA(Cisco Certified Network Associate/シスコシステムズ社のネットワークエンジニア技能認定試験)などが挙げられます。エンジニアのゾーンアップを考えて、もう一段階レベルの高いスキルを要する職種に移行するところまでの計画を立て、三者でフォローすることもあります。これらに加え、キャリアパートナーやジョブコーディネーターなどのリソースをHRBP(戦略人事パートナー)で管理しています。

2点目は、入社前から「ITの勉強をしたい」というスキル向上に積極的な方も多く、そのニーズに答えるために、希望により自由に参加できる研修プログラムを自社で制作しました。すき間時間を使って勉強したり、資格試験を受験したりできるように自社オリジナル制作のオンライン研修環境を用意しています。中には、内定時には全くの未経験者だったのに、入社時には有資格者になっているケースもあります。

3点目は、派遣先企業と育成のパートナーシップを結び、一緒にエンジニアを育てていくことです。エンジニアの業務理解度や習熟度を点数化し、共有していくことでスキル獲得までの理想との差分を把握し、早期育成と段階的な賃金アップを促進しています。また、派遣スタッフごとのスキルに合う部署へ配置、習熟したら次のステップへ上がれるよう、クライアント担当者と一緒に習熟シナリオを作っています。これを実施することで、企業が求めるスキルと派遣スタッフの実力との間のギャップが生まれにくくなります。

――未経験でも、入社前に勉強した人としていない人で、スタート時点の知識が異なると思います。研修時に何か対策をしていますか?

ご指摘の通りで、内定から入社までは、平均2.5カ月間あり、その間に自発的に勉強したり資格を取得したりする人もいますが、何も勉強出来ないまま入社する人もいますので、個々のレベルに応じて併走します。例えば、スキル向上への意欲が高い人がいた場合、さらに高いスキルや資格の取得を目指せるようフォローアップします。そのため、学習状況やスキルアップの進捗は細かくチェックしています。また、担当者がテスト受験者数の目標を持ち、しっかりサポートして、合格者を増やしていくことで、月々に受注できる現場数の見通しが立ちます。これらの管理には細かい運用項目とこまめなアップデートを要するので、当社では昨年から学習プラットフォームを自社で構築、運営しています。

数値をリアルタイム可視化し、意志決定を強化

――複数の担当者の間で、どのように派遣スタッフの情報を共有していますか?

オペレーションを徹底的に磨き込み、リアルタイムで可視化できる仕組みを作りました。決定に至るまでのプロセスはもちろん、社内リソースやマッチング単価、出勤率、面談状況、交通費の管理など多岐にわたります。正直、無期雇用ビジネスは待機コストが経営課題の一つです。エンジニア側は待機となっても当社の無期雇用社員のため給与は支払われますが、不安にさせないためにも、エンジニアのステータス確認とフォローは徹底しています。基本的には、人によるフォローを心掛けますが、1,900人超のエンジニアを人だけで時差なくフォローし続けることは難しいため、システム上でも、心のコンディションやスキルアップの意思の確認などができるようにしています。この約2年、オペレーションの可視化を推し進めてきましたので、おかげさまで案件獲得数が2倍になり、就業開始までの日数が半減しました。また、大幅に増加した案件数によって、未経験人材であっても、スタート単価が向上出来たことが収穫ポイントでした。

――社内で情報共有されていると、採用企業もエンジニアも安心ですね。直近で対策を検討している課題があれば教えてください。

多々ありますが、直近で改善を検討しているのは、社員としての帰属意識が持ちにくい派遣スタッフのフォロー強化です。当社の無期雇用社員として雇用した以上、育成して配置するだけではなく、自社の社員としての役割を担っていただくような流れを作る必要性を感じています。エンジニアとしてのスキル獲得だけでなく、現場でのマネジメント項目を評価・役割に加えるなど、社員として成長できる裾野を拡大していくことが帰属意識の醸成や、働き甲斐に繋がると考えています。

安心・安全なサービス提供を続けることが人材派遣の価値向上につながる

――近年はダイレクトリクルーティングの増加やマッチングのAI化などにより、人材サービス会社の介在価値が問われています。あらためて、求職者が人材派遣会社を活用するメリットを教えてください。

最新の技術やニーズの高いサービスなど幅広い知識が必要なエンジニアにとって、派遣の働き方はとても有意義だと思います。もちろん、無期雇用社員で働くメリットは多々ありますが、一つの会社で働くと、技術職と関係ない部署に配属されるなど、思うようなキャリア形成ができなくなるリスクもあります。派遣の仕組みを活用して、さまざまな企業のプロジェクトに従事できる点は、エンジニアにとって大きなメリットであり、キャリアアップのスピードを早めることにもつながります。さらに、当社は無期雇用ですので、社員同様、資格取得支援や合格祝い金の制度などを受けられます。

当社のエンジニアは未経験スタートであり、キャリアを積むために段階的な教育と現場経験を積んで一人前を目指します。また、派遣先企業はそれを理解して受け入れてくださいます。三者が日本の人手不足を解消するパートナーであり続けるために、当社には安心・安全なサービスを提供する義務があり、それこそが人材派遣サービス全体の価値向上につながると考えています。