日本を諦めない!スタートアップとともに成長し未来を明るくする
日本の成長軌道を取り戻す策として、2022年に政府は『スタートアップ創出元年』を宣言した。それほど、日本経済の発展にスタートアップが注目されている。今回は、国内の成長産業支援事業をけん引するフォースタートアップス株式会社の取締役副社長である恒田有希子氏に、日本におけるスタートアップの現状と未来像について聞いた。
スタートアップ企業の成長が著しい理由
――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。
フォースタートアップス株式会社は、スタートアップ企業の人材支援を中核とし、成長産業領域に特化した情報プラットフォーム「STARTUP DB」の運営や、官庁・地方自治体のスタートアップ関連事業の支援など、産・官・学連携による成長産業支援事業を展開しています。2016年にウィルグループから分社化し、株式会社ネットジンザイバンクとして創業、18年に社名をフォースタートアップス株式会社に変更して現在に至ります。
創業時の当社は、代表取締役社長の志水雄一郎がビズリーチ主催の『Headhunter of The Year』を2年連続受賞し、国内初『殿堂入り』ヘッドハンターであることを売りにした、小さな人材紹介会社でした。マンションの1室を借りて、15人ぐらいで仕事をしていました。おかげさまで現在はメンバーが約220人にまで増え、毎月5人以上は新たに入社しています。
――創業時から現在まで、スタートアップのマーケットはどう変化しましたか?
当社が創業する数年前、13年頃のスタートアップの資金調達総額は年間約900億円しかなく、1回で数億円の資金調達をすると、すごい功績だと称えられました。当時のスタートアップ業界には、仲間を集められる人でなければ投資を得にくい現状でしたが、楽天の三木谷浩史氏、サイバーエージェントの藤田晋氏やDeNAの南場智子氏というカリスマ的起業家の存在が大きく、同氏を目指す起業家が増え、18年には5000億規模のマーケットに成長しました。その後も成長を続け、現在は1兆円に到達する勢いです。22年には日本政府が『スタートアップ創出元年』を宣言し、国会で『スタートアップ』という言葉が飛び交うようになりました。
――たしかに、メルカリやスマートニュースなど、誰もが知る急成長スタートアップ企業が、ここ数年で急激に増えた印象があります。
資金調達額が増えたことで、数百人規模を動かせるCxO(Chief x Officer)やグローバル企業のハイレイヤー人材がスタートアップ企業に入ってくるようになった点は、かなり影響していると思います。これは、高い報酬を払える企業しか成長できない時代になったことを意味します。
世界から見た現在の日本は人件費が安く、優秀な日本の人材が続々と海外へ出ています。年間数百人の日本人を採用する海外企業も実在します。以前のように、国内の大企業とスタートアップで人材を取り合うフェーズではないのです。
――海外との給与格差についての見解をお聞かせください。
給与の額面だけで比べると日本は安いですが、物価を加味すると、一概に日本が劣っているとは言えないと思います。例えば、米国で年収3,000万円あっても、衣食住の物価も高いので、豊かな生活ができるとは限りません。年収水準は米国より低くても、家賃や外食、食品などの値段も安いので、かえって豊かに暮らせるともいえます。また、日本は医療保険が手厚く、軽い風邪でも病院へ行けますし、治療費は数百円~数千円で済みます。可処分所得と物価と生活水準のバランスを見て価値を判断することが大切だと、個人的には思います。
ご支援後も追跡して企業への貢献度を確認
――御社の支援事業は、スタートアップ企業の増加に大きく貢献していると思います。
ありがとうございます。当社としても、貢献していると信じています。人材紹介事業というのは、入社時に報酬が発生する成果報酬型なので、採用人数は数値化していても、入社後にどのような成果につながったかまでは追いかけにくいビジネスです。当社では、ご支援した結果、クライアント企業がどの程度成長したかを年単位で追いかけるようにしています。例えば、当社のオウンドメディア『EVANGE(エヴァンジェ)』では、当社がご支援してから、執行役員やCxO、代表取締役などに昇格したケースを記事として取り上げています。現在すでに100名以上の実績を公表しており、未発表リストにも200人以上います。これはもう、スタートアップ企業の発展に当社が寄与できているといっても過言ではないと思います。
――あらかじめ昇格を想定して人選していますか?
ケースバイケースです。企業からの条件には入っていなくても、深掘りするうちに「その事業にはこういう人が必要ではないでしょうか」とポジションメイクをしていくケースが多々あります。スタートアップ企業は急成長しているので、日々、事業や業務が細胞分裂のように増え、進化しています。最初は、創業者が営業、経理、採用などのすべての業務を1人でこなしますが、徐々に一つずつ切り離して、任せていきます。変化スピードは速く、四半期ごとに条件が変わることも多々あります。このスピードに息を合わせ、半歩先を見据えた支援をしていく柔軟性の高い組織力が当社には求められます。
また、我々は年間200回もの、スタートアップの経営者をお呼びした、社内勉強会を実施しており、経営者から直接経営課題や求める人材像を聞けるインプットのシャワーをメンバーに提供することで、成長産業や企業の事業を深く理解し、良いご支援に繋がっていると思います。
――具体的な成果事例を教えてください。
日本最大級のスキルマーケット『ココナラ』を運営するココナラの代表取締役社長CEOである鈴木歩氏、クラウド人事労務ソフトを提供するSmartHRの取締役COO 倉橋隆文氏、スキマバイトサービス『タイミー』を運営するタイミー取締役CFO 八木智昭氏などは、当社がご支援しました。八木氏に関しては、彼がいたから、ベンチャーキャピタルからではなく銀行からの資金調達を成功させたと言ってもいいでしょう。タイミーは、ワーカーの給与を先出ししなければいけないため、運転資金をどう集めるかが課題でした。銀行から借りることで担保され、急成長することができました。八木さんがいたからこそ、タイミーの急成長や上場を成し得たのだと思います。
――スタートアップ支援に関する今後の展望をお聞かせください。
スタートアップは、まだまだ日本の経済全体には大きな影響を与える存在になれていません。将来的には、当社が支援したスタートアップ企業がTOPIX 500に数社は入っている状態にしたいです。時価総額1兆円規模のグローバル企業が増えることは夢物語ではなく、この流れを作ることが、当社のミッションの一つです。
日本では、16年間も勉強した若者が年間数10万人規模で社会人になるのに、多くが希望の仕事に就けません。理由は、日本の大企業が新卒採用する枠をもっておらず、若手が入る隙がないからです。日本のために働きたいのに、努力をぶつけられる場所が少なく、働ける範囲内でファーストキャリアを始めてしまう。もしも、ユニコーン企業(企業価値が10億ドルを超える非上場企業)がたくさん存在すれば、未来を考える若者は能力を発揮できます。米国が新規雇用を生み出せる要因は、まさに新興産業への投資が活発で、成長しているからです。当社の支援によって成長企業を数多く生み出せば、若手人材が希望の仕事に就き、日本の未来のためにがんばってくれます。これが、当社が成し遂げたい世界です。
日本の未来を形成していく人が集まる場所をつくりたい
――恒田さんの想いは、貴社の社内の熱量に繋がっている気がします。
私の経営者としての使命の一つに、長く働きたい組織を作ることがあります。当社でしかできない仕事や、ここにしかない人のつながりがあるかどうか、その場所を作れるかどうかが、経営者の腕の見せどころです。当社のように、多くの起業家に会えたり、日本の未来を真剣に考えて全員が熱量高く学び続けたりできる環境は、なかなかないと思います。
私は、人と仲良くなるために働いている感覚があります。もちろん、起業家と電話で気軽に相談したりできる仲になるためには、相当の努力は必要です。名刺を交換しただけで関係ができたと思わずに、会うたびに名刺を渡し続けるような熱量は必要だと思います。最初の1カ月で深い関係性を築ければ、長く続きます。以前、尊敬する経営者にアプローチして、相手の興味を引くネタを提供しながら3カ月で23回お会いした経験もあります。人間は基本的に、人とつながりたいはずです。一方で、きっかけがないとつながれません。そのきっかけの一つが、仕事です。
――最後に、今後、成長産業領域において、貴社はどのような取り組みを考えていますか。
実は、ともに日本の未来について語る仲間が集まる場所として、当社を置きたくて、麻布台ヒルズへ移転しました。ここに、プライム上場企業の方々にも集っていただき、スタートアップとの化学変化が起きる光景を想像すると、ワクワクします!どういった人が麻布台ヒルズに集まれば、日本の未来を変えられるか、日々考えています。上場企業のリーダー、ベンチャーキャピタリストなどエコシステムビルダー、政府関係者、政治家、教育機関など。そして、スタートアップが、ともに進化の中心へ、解像度高く語りあうコミュニティを作りたいです。そのためには、エンパワーメントしなければいけません。メンバー1人が100人のお友達を連れてくるとして、メンバーが500人いれば5万人です。この、すごく熱量高い5万人が集合する場所を、日本の未来を諦めていない人たちが語り合える状態を、 10年かけて実現します。
――10年もかからないのでは?
無理やり集めればかからないと思いますが、それでは意味はありません。本当に高い熱量の同志が自然に集まるようにするには、10年くらいかかると思います。