「埼玉県で働きたい」インサイトをつかみ唯一無二の人材サービス企業に

埼玉県で働く若手人材と企業に特化した採用サービス会社、株式会社シンミドウ。就職ナビサイト「埼玉新卒・転職ナビ」の運営を始め、地元テレビ局での就活生向けのテレビ番組や大学での就活講義など、新卒採用に関わる幅広い事業を展開しているが、埼玉県特化の姿勢はぶれない。独自の経営戦略について、シンミドウの代表取締役である笹田知弘氏に聞いた。

ありそうでなかった埼玉県特化型の就職ナビ

――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

株式会社シンミドウは、埼玉県で働きたい新卒および若手人材と、埼玉県の採用企業を支援する人材サービス会社として、2008年1月に設立しました(創業は01年、有限会社笹田経営)。取引先企業は、本社所在地が埼玉県にある会社をはじめ、支社や支店、工場が埼玉県にある会社、一部、東京・多摩地区や北関東の会社も含み、9割以上が毎年お取引を継続してくださるお得意様です。求職者の集客窓口は、自社で運営する「埼玉新卒・転職ナビ」を中心に、各学校からのご紹介などになります。

――創業時は、東京23区を商圏とする人材サービス会社だったそうですね。なぜ今は埼玉県に特化しているのでしょうか。

東京・池袋で当社を設立した08年当時、すでに大手ナビや人材サービス会社が多数あり、我々が入り込む余地はほとんどありませんでした。経営戦略に苦慮していたある日、取引先企業の担当者様が「埼玉県に特化した採用支援って、なかなかないよね」とおっしゃったとき、「これだ!」と思いました。たしかに、埼玉県の採用情報は東京都に比べると少なく、多くの県内企業が大手ナビでは探しきれない実情があります。そのため、就活生は「本当は、スピード感がある東京より、馴染みのある埼玉で働きたい」と思っていても、大手ナビの多くの情報が東京だったり、友人がみな東京で就職先を探したりするため、なんとなく「就職は東京でするもの」と思っているふしがあります。加えて、埼玉県北部や群馬県、栃木県の就活生には、「東京までは通勤時間がかかり過ぎるから埼玉で働きたい」という気持ちもあります。

――創業時から付き合いがある取引先から、都内23区の依頼もあるのでは?

その場合は、23区を対象とする同業他社へおつなぎしています。反対に、同業他社から埼玉県の案件を紹介いただくこともあります。

――徹底して埼玉県にこだわっていらっしゃるのですね。

執着しているわけではないのですが、大手人材サービス企業と競争するよりも、競合が少ない現在の事業スタイルを徹底したほうが、経営メリットは大きいと考えています。また、自社スタッフも埼玉県や北関東在住の新卒採用が多く、「生まれ育った場所の近くで、地域貢献をしながら働きたい」という人が多く、同じモチベーションのお客様の気持ちに寄り添える点も、理由の一つです。おかげさまで、自社スタッフの90%が新卒から在籍しており、創業年から働く社員もいます。スタッフが流動しなければ、お客様の担当者が変わらないので、お客様から「担当者が頻繁に変わらないから助かる」とお褒めの言葉をいただきます。

ネット上に出てこない埼玉の会社は多数。認知されれば新卒採用も可能に

――「埼玉新卒・転職ナビ」に掲載する企業も埼玉県に特化しているのでしょうか。

はい。正確には「勤務地が埼玉県であること」が条件です。本社が埼玉県でも、勤務地が他県の場合や転勤がある採用は、基本的には掲載しません。反対に、本社が他の都道府県でも、勤務地が埼玉県であれば掲載します。ここまで徹底する理由は二つあります。一つは、求職者が埼玉県で働く前提で利用している点。もう一つは、当ナビでは「転勤なし」を掲げているからです。

一般的な大手ナビは、大手企業や東京都で探すときにはたいへん便利ですが、埼玉県で検索すると、埼玉県に本社はあるが全国展開していたり、転勤があったりすることが多く、埼玉県内で完結する企業情報は意外と少ないです。当社は「埼玉県が勤務地の企業のみ掲載」とすることで、差別化とエリア一強を狙っています。

――同ナビが開設された21年はコロナ禍でした。コロナの影響はありましたか?

いい意味で、ありました。当時の国内は、「県をまたぐ移動はコロナ感染につながる」という雰囲気に包まれていました。埼玉県と東京都内を結ぶ通勤電車の混み具合を思えば、なおさらです。就活生やご家族は、よりナーバスになります。結果、居住地である埼玉県内の企業へ就職したいというニーズが増え、当ナビ運営の背中が押される格好になりました。

――埼玉は東京への通勤が便利で、東京には大手企業の本社が多数あるため、学生の多くは埼玉より東京の会社に就職したいのではないかと想像しますが。

実際、多くがそうだと思います。ただ、20%くらいの学生は、「東京の競争社会でガツガツするより、埼玉の会社で、自分のペースを大切にしながら長く働きたい」と思っています。当社は、その20%の求職者をターゲットにしています。

――採用企業側は、ガツガツ働く即戦力がほしいのではないでしょうか。

優秀な即戦力がほしいのは、どの企業にも言えます。しかしながら、いい人材はどの企業もほしがりますから、それなりの報酬や諸条件を提供しなければなりません。一方、いい人材の定義は企業によって異なり、深くヒアリングしてみると、実は「長く働いてくれる人」「素直に話を聞ける人」など、ハイスキル人材でなくてもいい場合があります。これなら、スキルが高い優秀人材を採用する必要はありませんし、条件を満たせる新卒が多数います。

しかしながら、中小企業の多くが「新卒採用は大手企業がやるもの」「中小企業は中途採用しかできない」と思っていますので、当社では、新卒採用のノウハウを企業へ提供し、新卒採用を促進しています。お客様とは会社の所在地が近く、いつでも会えるので、話がスムーズに進められる点も評価いただいております。

東京基準の条件が出せない埼玉企業にも必殺技がある

――埼玉県の採用企業側の課題はありますか?

埼玉県で就職先を探す求職者の多くは、東京都内の企業と比較しますので、給与、休日数、福利厚生などの条件を東京の基準に合わせる必要性はあります。半面、転勤がなかったり、勤務地が自宅から近かったり、SDGsに取り組んでいたりすれば、給料が多少下がっても埼玉県の会社がいいという求職者もいますので、その点をメッセージとして打ち出すようアドバイスしています。例えば、当社所在地であるさいたま市大宮区に住んでいる人が同区に通勤した場合、通勤時間はドアツードアで短ければ数分、長くて30分程度ですが、都心に通えば1時間強です。この往復にかかる時間差を自分の時間に充てられる点をアピールすることで、通勤時間が短い勤務地として候補に入る可能性が高まります。

――大阪支社は、埼玉採用とは別事業ですか?

埼玉で働きたい関西圏の学生や、第二新卒などのために設けた支店です。埼玉出身で関西圏の大学へ進学し、就職時に埼玉に戻ってきたいという思いを持つ学生は、毎年一定数います。また、関西圏で就職したり、転勤で関西圏に来たりしたけれど埼玉に戻りたい人にも対応します。これらの人材を採用したい埼玉の企業を「埼玉新卒・転職ナビ」で募り、当社が初期の面接を大阪支店で代行します。これにより、就活生も企業も移動の費用と時間を削減できます。

――埼玉には大手ナビには出てこない企業がたくさんあることや、細く長く働けるなら埼玉の企業でもいいという本心は、学生自身ではなかなか気付かないと思います。気付きを与える場や機会を設けていますか?

埼玉県の地元テレビ局であるテレビ埼玉さんで「彩の国 就活天国!!」という就活生向けのテレビ番組を毎週放映しています。当社の若手スタッフが、企業訪問取材や番組MCを行いながら、埼玉県内の企業を映像で分かりやすく伝える機会を持っています。今の学生はなかなかテレビをリアルタイムで見ませんので、過去の放映をアーカイブ動画にしてみてもらえるようにしています。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

数年前からジョブ型雇用がもてはやされていますが、世界のトレンドすべてが日本にも合うわけではないと思います。日本には日本のよさがあり、海外のマネをするほど、よさは薄れてしまいます。多様な選択肢の中からベストを見極めて、企業や求職者に伝えていきたいと考えています。

また、いずれは育児や介護などの事情でいちど企業から離れた人材の再就職支援にも、注力していきたいと考えています。育児や介護で離職した人は、復帰後も育児や介護が続くケースが多いため、自宅の近くだったり、長時間労働ではない職場を選んだりする傾向があります。この希望は、まさに当社の得意分野です。年齢に関係なく、復職したい人の背中を押すサービス提供を、近い将来、現実にしたいと思います。