英知とテクノロジーを活かしたマッチングで次世代の可能性を広げる
日本の若者人口が減少する中、新卒採用に注力してきた人材サービス会社は今後どのような戦略をとっていくのか。また、これからの人材サービス会社の介在価値をどう考えているのか。会員数40万人を超える就職情報サイトを運営するポート株式会社の執行役員就職領域COOで、就活会議株式会社の代表取締役社長でもある赤塩勇太氏に聞いた。
目指すは「就活生を対象にした先人の体験情報や知識が集まるキャリアプラットフォーム」
――最初に、御社の沿革と事業内容をお聞かせください。
ポート株式会社は、ソーシャルリクルーティングサービス企業として2011年に創業しました。今でこそSNSを活用した就職活動(以下、就活)は当たり前になりましたが、当時はTwitter(現X)やFacebookが誕生して5~6年目で、普及が進んでいる最中でした。そのため、若い世代はすでに使いこなしているのに、採用企業側が対応できていませんでした。そこで当社が、SNSを活用した採用活動を提案する事業を始めました。その後、14年に仕事・キャリア選択のノウハウサイト『キャリアパーク!』の運用を開始し、20年には就活口コミ情報サイト『就活会議』を子会社化するなどして、現在に至ります。
『キャリアパーク!』や『就活会議』を運用し始めた理由の一つに、各SNSの仕様に左右されない、自社ポータル構築の必要性がありました。SNSを使った事業は、プラットフォーマーの方針やシステム変更にビジネスが左右されてしまいます。彼らがページの仕様やアルゴリズムを変えるたび、当社も対応を余儀なくされました。自社ユーザーにとって快適なプラットフォームにしなければ、最適なマッチングはいつまでも実現しない、そう考えて『キャリアパーク!』を作りました。
――『キャリアパーク!』がスタートした14年は、すでに大手の就職ナビサイトが存在していたと思います。どのように差別化しましたか?
既存のナビサイトに足りない部分を補うプラットフォームを意識しました。採用活動に慣れた企業が打ち出すブラッシュアップされた情報と、初めての就活をする新卒や一生に一度かもしれない転職活動をする求職者がほしい情報には、乖離があります。このボタンの掛け違いを解消するコンテンツを作り、初めての就活や転職の人も、経験者並みの情報が得られるノウハウサイトにしました。その上で、経験値の蓄積がより重要だと気付き、 後に『就活会議』や、就活生のための選考口コミサイト『みん就』の運営を始めました。
『キャリアパーク』『就活会議』『みん就』は就活生の参考書
――求職者の集客方法を教えてください。
『キャリアパーク』『就活会議』『みん就』からの集客がメインです。現時点で、いずれも認知度が高く、就活生であれば1つのサービスは知っていると思います。今後も認知拡大していき、彼らが就職後に就活経験を思い出すとき、当社のプラットフォームを第一に想起してくれることを目指します。
求職者が就活を始める際、情報を探して、対策をして、企業を選択して、選考に進んで意思決定をするまでの一連の流れがあります。就活を始めるとき、多くの学生は業界、企業、面談ノウハウなどを研究します。いきなり企業に出向く人はほとんどいないでしょう。当社のサービスすべては、そんな就活生の参考書でありたいと思っています。「当社のサイトやSNSへ行けば就活対策は安心」と思ってもらいたいのです。その意味も込めて、『キャリアパーク』では人材会社と提携して、就活イベントやスカウト、人材紹介など、求職者に必要なサービスを提供しています。求職者が満足してくだされば、先輩から後輩へ、口コミが脈々と受け継がれます。
テクノロジー活用で成約率20~30%アップ
――CA(キャリアアドバイザー)教育について、御社独自のプログラムがあればお聞かせください。
入社後、すぐに現場には出さず、2ヶ月は教育期間としています。現場に出ると成果目標を追うことになるので、スキルを身に付ける教育よりも、売上を上げるためのノウハウ指導になりがちだからです。まずは2ヶ月間、CAとしての知識やスキルを身に付け、社内基準を満たして初めて、現場にでることができる制度にしています。ただ、実際に紹介業務を行うには、企業や業界のインプットがなければ、適正な提案が難しい現実があります。この点は、AIや過去のデータなどを活かして、若手CAが適切な提案をできるよう、システム設計しています。
――御社ホームページでも、テクノロジーの活用を特長として挙げていらっしゃいます。独自の活用方法はありますか?
例えば、求職者とCAのマッチングは、他に実施している企業は少ないと思います。一般的に、担当CAは人材会社の出勤状況や順番などで決まり、求職者がCAを選ぶケースは多くありません。求職者も、選択する必要性をあまり感じていないと思います。しかし、人生を決める就職や転職を相談する相手が、くじ引きのように決められていいのでしょうか。この点に課題を感じ、当社ではデータを活用して、求職者に合うCAを選出する仕組みを構築しているところです。
また、数多ある情報から、求職者ごとに必要な情報を選定して提供するためにも、テクノロジーを役立てています。さらに今後は、職種や勤務地、年収などの条件面とは別に、人生や働き方のテーマに合わせた、新たな視点からの提案ができるようにブラッシュアップしていきます。
――テクノロジーの活用によって創出された成功事例を教えてください。
CAの事務作業時間が1日30分削減できました。1ヶ月20営業日で計算すると600分、10時間の事務作業時間がなくなり、そのぶんをお客様との接触機会に充てたところ、成約率が前年比で20~30%アップしました。
――目に見える成果ですね。どのような接触機会が増えましたか?
求職者との二次面談設定率が1.5倍になりました。CAも人間ですから、求職者を支援すればするほど事務作業が増える点には、ストレスを感じます。作業時間の削減は、単に労働時間の効率化だけでなく、CAのストレス軽減にもなります。それにより、もっと丁寧に、たくさん接点を持とうというモチベーションになります。2次面談は、求職者の就活体験をより深くする効果もあり、当社を一次想起の会社にしていただく機会にもなっています。
新卒紹介事業における雇用創出数、満足度ともに国内ナンバーワンを目指す
――人材業界の課題や御社の取り組みについて、お考えをお聞かせください。
新卒などの若年採用領域には、二つの課題があります。一つは、新卒の価値に対する実際の費用が安価な点です。価格は価値に比例するはずですが、割安で採用できてしまうと、市場自体の価値が上がりにくくなってしまいます。さらに、新卒は将来性が未知数のため、一律の価格で採用される傾向にあります。もしも単価が上がれば、入社後の育成や適正な配属までを考えた投資に変わっていきますし、これから社会に出る人材も、入社後に配属等のミスマッチで苦しまなくてすみます。この点は、当社が適正な価値、単価での採用風土を作っていきたいと考えています。
ミスマッチという点では、採用企業は優秀な人材を採用するために長所や優位性だけをPRしがちですが、良い部分だけを見せて採用すると、入社後にお互いが苦労することになります。仕事には大変な面もあり、乗り越える覚悟を持つ必要性について、ともに伝えていくよう心がけています。
もう一つの課題は、構造的により単価が高いほうに優先しやすい業界構造になっています。求職者にとっては成約単価の大小ではなく、自身にとって最適なキャリア選択がどういった会社を選ぶことなのかがもっとも重要です。これでは、ユーザーファーストとは言えません。当社は、CAに単価を開示せず、売上ではなく雇用創出人数で成績を評価する制度にしています。これにより、単価で人のキャリアを決める必要がなくなり、CAも良心の呵責に苛まれずに仕事ができます。
――続けて、労働人口減少に対する御社のお考えを教えていただけますか。
人口減少に伴い、労働力の確保が難しくなっていきます。不足する労働力を、マイナスからゼロにするのか、1を2にするのかのかじ取り役が、人材ビジネスに求められる役割の一つと考えます。
例えば、当社の向き合う若年層採用、正規雇用では、企業から戦力と認識される人材の提供を、人材サービス会社が担っていく必要があります。大量採用をしてたまたま良い人材に出会えるのではなく、適正なマッチングを通じて、より計画的で効率的な採用の支援を追求していきます。その過程で、当社の事業は拡大していくと想定しますが、事業規模が大きくなっても、当社の強みである「意思決定のスピード感」は保っていきます。そのために、代表の春日を始めとする経営陣が、社内事業の動きを日々把握して共有する習慣を今後も継続し、創業時と変わらぬ意思決定のスピード感を維持します。
――他に、これから注力する取り組みがあれば教えてください。
たくさんありますが、総じて、新卒紹介事業における雇用創出数、満足度ともに国内ナンバーワンのサービスを作りたいと考えています。実際に、カウンセリング終了後には必ず、サービスや企業を周囲に推奨したいと思う度合いをスコア化するNPS®(Net Promoter Score/米国のベイン・アンドカンパニー社による顧客ロイヤルティスコア)を取得し、業界平均を超えることを目標にしています。
また、「大学(学習)と社会(仕事)の接続」にも注力していきます。大学では勉強をしていたのに、卒業した翌月からはビジネスパーソンになる現在の構造では、学生が将来の自分像を描けなくて当然です。社会人になって何年目か経ってから「学生のとき、もっとちゃんと勉強しておけばよかった」と思うこと、ありますよね。そうではなく、大学に入った時点で、学びが社会人になったときにどう役立つのかを伝える機会を作れば、新卒の質と価値は上がると思います。併せて企業も、「新人は下積みが当然」の考えをアップデートして、生産性を高めつつ、若手が楽しく早く成長できる環境づくりをする必要があると思います。