同業他社からのフィードバックが自己成長を促す

パーソルキャリア運営の人材業界横断プロジェクト『PCAC(Professional Career Adviser Contest)』が、2024年7月に5回目を迎えた。同プロジェクトは、CAのコンサルティングスキル向上を目的とした、ロールプレイング型のコンテストだ。今回の優勝者は、株式会社マイナビの和田楓氏と、パーソルキャリア株式会社の村田啓生氏。両氏に、コンテストに向けての取り組みや勝因、参加経験を実務にどう活かしているかなどについて聞いた。

転職して人材業界へ転身。理由は…

――この度は優勝おめでとうございます。お二人の経歴を教えてください。

村田啓生氏(以下、村田) ありがとうございます。私は、新卒で鉄鋼メーカーへ入社し、営業職を3年ほど経験しました。とてもやりがいある仕事でしたが、もう少し人に深く関わる仕事をしてみたい願望が強くなり、2022年にパーソルキャリアに入社しました。現在は、CA(キャリアアドバイザー)として年間400人以上のカウンセリングを担当しており、おかげさまで月間、四半期、半期で社内表彰されました。
 人に深く関わる仕事がしたいと思った背景には、学生時代のアメフト部の経験があります。私は、部員からよく相談されるタイプで、ともに困難を乗り越える方法を考えるのが好きでした。ただ、大学時代は、まだそのインサイトに気付けていませんでした。実際に社会人として仕事をするようになったことで、自分の仕事のテーマは「人や組織のポテンシャルを開放すること」だと感じ、転職を決意しました。


――現在、どのようなときに「人と深く関っている」と実感しますか?

村田 人材サービスには正解がなく、だからこそ、人と深く関わる必要性があり、そこに人材業界の介在価値があると考えます。同じ転職希望者や企業でも、CA・RAによってマッチング先や、そのロジックが変わります。一つの正解がない中で、お客様と一緒に正解をオーダーメイドしていくことが、人と深く関わることだと思います。


――続けて、和田さんのご経歴を教えてください。

和田楓氏(以下、和田) 私の初めての就職は、公務員でした。大学時代はテニスに打ち込み、プロの道を視野に入れていたので、正直なところ、就活には真剣に取り組んでおらず、親しい先輩がいる市役所で働くことにしました。年功序列で将来安泰の職場でしたが、頑張った成果を数字で明確にしたい気持ちが強くなり、1年8カ月で退職し、スタートアップの人材サービス会社へ転職しました。スタートアップですから、私の希望通り、やればやるだけ数字や給料に反映される、とてもやりがいがある環境でした。入社から半年で主任となり、さらなる高みを目指すため、23年にマイナビへ入社しました。CAとして20~30代の営業・事務・管理職全般の転職支援を担当し、10月からはRA(リクルーティングアドバイザー)になりました。

PCACのテーマ「意向と性質の架け橋」を実践し稼働率最大80%に

――今回、PCACに参加された経緯をお聞かせください。

村田 実は、私は過去に1度参加しています。入社1年目の年でした。そのころは成長実感が持てなくなっていましたが、参加して、面談が自己流になっていることに気付かされました。当社の同期である田村春仁(※PORTERS MAGAZINE Agent vol.36に掲載)と一緒に参加して、私は、いい経験として終わらせていましたが、その後、田村は再チャレンジして優勝しました。その姿を見て、「負けていられない」と思い、再チャレンジしました。

和田 私の参加理由は、上長の敵討ちです。(笑)上長が以前参加して、いい結果を得られず、私に「敵を取ってくれ」と。コンテストの内容を聞いたとき、自身の業界での市場価値を知ることができる上、他社のノウハウを見られるいいチャンスだと思ったので、参加を決めました。また、つねづね上長から、「足りない部分を見つけることで成長できる」と指導を受けていましたので、それを知るためにも出ようと思いました。


――パーソルキャリアさんは、社内予選があるそうですね。

村田 はい。私は正直、「予選は問題なく突破できる」と思っていました。前回の学びを日々の業務に活かしてきたので、特別な訓練はせずに予選に挑みました。

和田 私は、経験者の上長からレクチャーを受けながら方向性を決めました。ロールプレイングやカウンタートークの練習もチームメンバーに協力してもらいました。


――本番の手ごたえはいかがでしたか?

村田 想定問答をしっかり準備して臨んだので、ほぼ想定通りにいきました。また、PCAC立ち上げメンバーである、エリメントHRCの代表取締役、狩野洋輔氏の著書『誇れる仕事』に書かれた「意向と性質」の説明を読み込み、考え方やロジックを頭に叩き込んでいました。審査員のお一人から「これが正解。最高の出来です」と評価いただき、うれしかったです。一点、求職者役から鋭い突っ込みを入れられたときのカウンタートークだけは想定外でしたので、それが吉と出るか凶と出るかの不安はありました。

和田 結果は吉だったんですね?

村田 おかげさまで、うまく切り返していたと評価いただきました。この大会は、同業他社の経営層から自身の面談についてフィードバックがもらえる点がすばらしいと思います。もらったフィードバックは、その後の業務に活きています。

和田 私も、自分のベストは出せました。審査員からも「全体的にとても良かった! 改善点についてはあまり言うことはない」と評価いただきましたが、その上で、「提案の架け橋に必要な質問は、もっと直接的でいい」とアドバイスがありました。核心を突く直接的な質問を避けて回りくどく聞くクセに気付かされ、大きな収穫となりました。


――PCACでの気付きや学びをどう活かしていますか?

村田 PCACのテーマである「意向と性質のヒアリング、提案の架け橋」を紐解き、理論でつなぐ感性を磨くようになりました。私が携わる人事領域は、スキルマッチングで済ませてしまう傾向が強くあります。そこをあえて、求職者の意向、やりたいこと、価値観や性格の3軸について、背景を紐解いています。結果、面談から応募につながる確率が、高いときは60~80%になりました。

和田 「意向と性質の架け橋」は、私も前職で新卒領域を担当したときから痛感しています。新卒は、社会や企業をまだ理解しておらず、自分軸が定まっていないため、内定辞退が多発します。改善するには、決定軸を持たせる必要があり、ここに意向と性質の架け橋が必要でした。求職者側も、自分軸が分かれば、明確な意思決定ができます。

村田 人事領域の場合は、1名のみを採用するケースが多いため、タイミングを見逃せません。人事の仕事は長期戦略のため、組織に馴染むか否かが離職を防ぐ大事なポイントになります。そのため私は、条件に加え、性質、性格、価値観のマッチングを強く意識するようになりました。

目標は100%ではなく160%達成を目指す

――CAの介在価値について、ご意見をお聞かせください。

村田 我々の介在価値は、常に企業と求職者の1歩先を見て支援できることです。人事領域は、ほとんどの求人枠が1名です。条件が合っていても、少しでも上をいくライバルが現れると採用につながりません。私は、意向と性質とスキルが合う会社を、1社だけでなく複数見つけて、確実に採用につなげて求職者の人生を変えられるよう尽力しています。

和田 私が思う介在価値は、求職者が明確な意思決定軸を持って転職先を決められるよう支援できる点です。


――目標の立て方や、達成に向けての策を教えてください。

和田 私は、常に目標の160%を達成するプランを立て、160%に向かって仕事を進めています。特に、求人紹介や書類選考などの母数をどれだけ担保できるかのKPIは重視しています。母数の担保方法は、例えば、既決や途中で離れてしまった求職者のリストを見直して、近況をうかがうメール配信をするなどです。反応があれば、すぐに面談につなげます。また、紹介数を少しでも増やすため、ダイレクトスカウトもしています。

村田 私は、入社して2年半の中で、目標への向き合い方が変わりました。入社した年は、与えられたKPIの全項目を200%達成させることに快感を覚えていました。とにかく、自分の天井を決めずにキャパシティーを増やしたかった。現在はユニットリーダーになり、メンバーのKPIを管理する立場ですので、自分の目標を達成するフェーズから、チーム目標の達成を目指すフェーズに変わりました。チームの数字を管理しつつ、自分の目標も追いますので、自身の仕事に割ける時間は以前よりも減ります。そのため、OpenAIを活用して作業を効率化しています。
 リーダーになった当初は、メンバーにも自分と同じ行動量を求めてしまっていました。しかし、自分とメンバーは経験もバックグラウンドも違うので、その考え方は間違いだと気付き、チームの共通課題を高解像度に分析して、課題に紐づくチームのKPIを設定しました。ただ、最終的にチーム予算は個々の成績の集まりですので、個別にも目が行き届くよう注意しています。


――最後に、今後の展望を教えてください。

村田 良質なCAは、転職の必要がなければ「転職しないでいいよ」と言える人だと思います。転職は、人生をよくする手段に過ぎません。ときに転職しないほうがいい場合もあるはずです。私自身が人間として成長し、求職者や企業にとって「転職しないでいい」も含めたベストの選択を提示できるになりたいと考えています。

和田 求職者に対しては、ミスマッチを減らし、生き生きと働けて、転職してよかったと思ってもらいたい。企業へは、採用の精度を上げ、早期離職を防ぎ、定着につなげる。その結果として、当社の顧客満足度を向上させて、よりよい評価を得る。この3軸を実現できる努力し続けます。また、10月からRA(リクルーティングアドバイザー)になったので、RAでもプレイヤー賞を取りたいと思います。