地場企業の採用テーマは「意識改革」

近年、労働力人口の減少に加え、後継者不足による廃業も増加傾向にある。国レベルで対策するには、首都圏外の産業と人材の活性が欠かせない。今回は、北陸エリアで人材紹介事業をおこなうカラフルカンパニーのコンサルティング紹介部長、勝本健太郎氏に、北陸を中心とした地域の人材活性事業について聞いた。

地場産業別に異なる北陸の求人事情

――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

カラフルカンパニーは、北陸(富山県、石川県、福井県、新潟県)および長野県の法人および個人に向けた情報サービス提供会社で、本社は石川県金沢市にあります。主な事業は、メディア、ポスティング、人材紹介の3本柱です。設立時は出版社だったことから、現在も地域の情報誌を手掛けており、「金沢情報」の場合、毎週22万世帯にフリーペーパーをポスティングしています。約40年にわたりポスティングを続けていますので、親子2代でご覧いただいている家庭もあります。

誌面には、タウン情報、不動産情報、求人情報などのコーナーがあります。求人は、地元企業のアルバイトやパート、医療福祉関連が多く、求人広告専門の営業部隊が、地元商店や企業のオフィスへ営業しています。地元の上場企業やトップシェア企業など、規模が大きな会社は紹介事業が担当します。

――求人広告と人材紹介の求職者属性の違いはありますか?

求人広告を見て応募をする方は、ミドル世代や高齢者世代、性別でいうと女性が多く、人材紹介は比較的年収の高い仕事や技術職、男性に多い傾向があり、ココカラ転職という自社運営サイトを中心に利用者を集めています。

――北信越エリアの地場産業にはどのような企業がありますか。

各県でそれぞれ主要産業が異なります。石川県は鉄工や工作機械関係、富山県は医薬品、長野県は半導体や精密機器、新潟は食品メーカーやエネルギー関係が多いです。創業から100年近く続く企業もあり、地場の強みを活かした、国内トップシェアを誇るサービスを提供する全国区の企業が多数あります。

――北信越エリアの求人の動きはどうでしょうか。

石川県、富山県は、大手メーカーの工場の新設、増設に伴い増員がかかっています。新潟県は食品の地場産業が多く、内需がメインになりますので、一部を除いて巨額な設備投資で生産能力を高めるような動きが少なく、欠員に対する募集が多くみられます。

求人の伸びで言いますと、特に富山県は顕著で、大手メーカーの新設工場や、半導体関連の外資企業の進出などが影響しています。

また、ここ5年ほどで、工場のオペレーターや加工技術者の採用にエージェントを活用する企業が増えました。当社が事業展開するこれらの地域でも人材紹介会社を活用する裾野が広がっていると感じます。

『JAPAN HEADHUNTER AWARDS』複数回受賞の理由

――御社の人材紹介事業部は、ビズリーチが主催する優秀なヘッドハンターを表彰する『JAPAN HEADHUNTER AWARDS』で何度も受賞されています。受賞理由をどのように分析していますか?

ありがとうございます。理由としては、数あるエージェントの中で、転職できた時の満足感や面談後の決定率、支援中の情報提供量など、意思決定までの伴走のクオリティを評価していただいたと考えています。

――どのように同業他社と差別化していますか?

我々地域特化のエージェントの強みは、地場の企業の理解の深さだと思っています。例えば、求人をお預かりする企業の工場を必ず事前にコンサルタントが見学することを徹底するなど、地道できめ細やかな業務の積み上げを徹底しています。工場の雰囲気から空調の良好度、においまでも自分たちで感じ、スカウト文にも記載しています。会社の規模に限らず、必ず1度は足を運び、求職者が働く現場を見て、基本情報だけでは分からない血の通った情報を提供しています。情報は、いい話ばかりではなく、辞めた人の退職理由や覚悟してほしい点なども伝え、入社後に「聞いていた話と違った」とならないよう努めていることで満足度や、入社後活躍につながっていると思います。

採用できる企業とできない企業の違いとは

――北陸エリアは有効求人倍率が高い地域ですが、求職者の傾向はありますか。

厚生労働省の調査(*1)では、都道府県別の有効求人倍率(季節調整値)の就業地別で、福井県がトップの1.86倍です。転職や就職の傾向としては、金沢市は隣の市や隣接する県も含めて車で1時間圏内に栄えた場所が集中しているため、他のエリアに比べて転職しやすいと思います。また、金沢大学や金沢工業大学などが理系の人材を育てて輩出していますし、優秀な学生を地元で採用ができますので人材不足の中において、有利な面は多い印象です。

*1 厚生労働省 一般職業紹介状況(令和7年5月分)

――UIターンも多いですか?

育児をきっかけにUIターンを決める方は多い印象です。北陸地域は共働き率が高く、特に妻側の実家がある場合は、両親に育児を手伝ってもらうことができる点も理由の一つです。最近では「嫁ターン」という言葉が使われるほどです。ちなみに、共働き率では福井県が全国1位(*2)です。

自治体も積極的に、UIターンや移住政策に取り組んでいます。例えば、都市部のインターンシップの学生に能登半島へ就業体験に来てもらって移住を促進する『UIターン促進事業』は、石川県からの依頼で当社が実施していました。(能登半島地震発生により、復興を優先するため中断)

また、近年は40代以上の募集が増えています。かつては45歳を超える求職者の支援は難しかったのですが、最近は45歳前後の求人や、50代の管理職を採用したいという声が多くなりました。とはいえ、総合的に見ると、まだまだ人材は不足しています。

*2 e-stat令和4年就業構造基本調査

――人手不足に対し、どのように対策していますか?

採用企業の面接に同席して質問の仕方やホスピタリティーを拝見し、ときにアドバイスをさせていただくなどの対策をしています。この対策の背景には、今なお“会社と働き手は主従関係”という認識で現代のコンプライアンスに追いついていない企業が少なくない、という現状があります。未だに、段階を踏まずに退職勧告する会社も存在します。面接の一つひとつで、考え方や言い方を変えていただくようにしたり、地元大手企業の最新採用手法の実例を出すなどして、ご理解いただいています。またいただいた求人に対しても、見えていない企業の魅力を追記する提案をしたり、求める人材の角度を変えるアドバイスをすることによって、今までにない採用提案もできていると考えます。

――具体的な大手の採用手法例を教えていただけますか?

北陸にあるグローバルに展開するメーカーを例にあげると、給与や待遇がよいため、地元の採用では横綱相撲がとれる会社ですが、全国では負けることがあるため、応募者には「当社のような地方企業に応募してくださってありがとうございます」という姿勢で対応されています。

一方で、社員が10人の会社で面接官が遅れて来る、途中で退出する、敬語を使わずに面接をするような状態の会社は太刀打ちできません。ただ、そのような会社も、採用が上手な他社の面接を見て比較する機会がないだけですので、大手の実例や現代の採用事情をお伝えしてご理解いただければ、アップデートしてくださいます。

面接だけではありません。しっかり採用対策しているのに内定通知を出しても入社してもらえない場合は、必ず理由があります。待遇や勤務時間など物理的な条件はもちろん、それ以上に「ここで働きたい」「歓迎されている」「活躍できそう」という感情面は内定承諾だけではなく、その後の活躍にも大きく作用します。なので私たちエージェントは、組織自体をしっかりと変革していくための支援をさらに強化していきたいと考えています。

その企業がどこへ向かうのか、に伴走する

――続けて、事業承継事業について教えてください。

近年、経営の世代交代が増えています。30代のうちに承継する経営者もおられます。多くの若手新社長は、新規事業や、海外で勝負したいといった願望があり、人事を強くしたいという希望がありますが、先代時代から在籍する役員とコンセンサスがとれない現状があるようです。例えば新社長の要望に合わせた経験者を紹介しても、先代社長の文化を受け継ぐ役員が担当する部署に配属されてしまい上手くいかないといった実例もありました。

――どのような提案していますか?

我々エージェントの役割は、その企業がどこへ向かうのかということに伴走することだと思います。企業の変革意欲を的確にとらえながら、現場の文化的なギャップを丁寧に埋めていき、「未来の変革を担う人材を迎える」という視点で提案するという支援が、地域全体の産業のグロースにつながっていくと考えています。

事業を承継した経営者が、この先をどう描くのかというプロセスから対話を重ね、経営方針の浸透具合を確認しつつ、先輩役員の思いも聞きながら、少しずつ向かうべき方向に変えていくことが大切です。採用面では、新社長の思いに賛同する人材を採用し続けながら、徐々に新しい社風へ変えていくなどの粘り強い対策が必要です。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

当社は、『地元の暮らしをカラフルに』をビジョンにしています。人材紹介においては、求職者が納得して選べることが大事だと思っています。人材紹介会社の担当者が「ここしかない」と言うのではなく、幅広い企業から選べたり、他社を知ることで現職に魅力があることに気付いたりできるような情報網を築きたいです。また、情報を隠さず伝えられる環境づくりも目指します。仮に、極端な体育会系だったりする社風でも、隠さずに伝え、それでもチャレンジしたい仕事があると納得して入社してもらうことで、印象はかなり変わるはずですし、その企業のカルチャーにフィットする確率も上がると思います。あわせて、各社の人事担当者が集まって採用の困りごとや失敗談、成功事例などを共有し、採用をグレードアップさせる対談会の開催も検討しています。こういった活動をこれからも継続していきたいと思います。