いま人材紹介会社に求められる事業変革とは
企業の経営支援事業を展開する、きざしデザインの代表でNational Search FundのCo-Founderでもある月原直哉氏に、人材紹介会社に求められる事業変革について聞いた。
人材会社は未来軸の企業支援を
――最初に、月原様のご経歴をお聞かせください。
私は、リクルート子会社にて人材派遣・アウトソーシング事業の立ち上げを3度経験し、続けてリクルート事業統括室にて分社化に向けた担当カンパニーの収益、KPIモニタリングなどの経営支援に携わりました。その後、ソフトバンク、Kaizen Platform、エフ・コードを経て独立し、2016年から個人事業でおこなっていた事業を2020年にきざしデザイン合同会社として法人化、2022年にNational Search Fund株式会社を創業しました。2023年からは、情報経営イノベーション専門職大学客員教員およびエグゼクティブコーチを務めています。
――続けて、『きざしデザイン』の事業内容をお聞かせください。
『きざしデザイン』は、事業や個人の“きざし”を見出し、はじめの一歩を踏み出すまで手を差し伸べ、挑み始めるまでを支援する会社です。提供するサービスは、未来創造と変革のチェンジエージェント、成果創出を後押しするグロースエージェント、そして、戦略を実行可能にする組織づくりと経営および幹部候補採用支援です。チェンジエージェントの支援対象はチェンジメーカーたる経営者(CEO)で、“出来ない”を“出来る”に変える人です。“出来る”を最大化して成果を創出するのが最高責任者(COO)。この二者のパフォーマンスを最大化できるような支援をしています。
――企業を支援する中で、人材不足やアンマッチングなどの採用課題と解決策について、どのように感じていますか?
大前提として、採用は手段であり、目的ではありません。企業の存在意義、目的は永続です。ゆえに、言われた人材要件を鵜呑みにして人を探すのではなく、その会社の存在意義や可能性、本質価値を問う事でそもそもの戦略が変わり、必要人材が変わる事もよくあります。問いを立て、問い直す事で経営者の視座が上がり、目指すべき姿が更新され、結果必要人材が変わるイメージです。そうすることで求職者にとって魅力的な仕事になる、この様な支援こそが今後の人材業界の役割だと考えます。未来創造を一緒におこなう感じです。地方を中心に、すでに実施している会社もありますね。
当社が支援した、九州の食品会社を例に挙げます。同社は創業300年の歴史があり、素晴らしい調味料を作っています。現在の社長は15代目で、就任後から旧態依然の経営を見直し、海外展開やツーリズムを視野に入れ始めました。グローバル化となると、生産ラインや必要な人材が大きく変わりますが、それがキャンディデート(求職者)には“未来に向かう魅力的な会社”に映り、入社希望者が増えそうです。
また、「高いと売れない」という従来の通説で製品価格を据え置いていましたが、アンケート調査を実施したところ、多くが「味が素晴らしいから値上がりしても買い続ける」と回答しました。むしろ顧客のほうが、現代における同社の製品価値を分かっています。自社の強みや存在価値を再定義して発信し続けることで、人材が集まり、活性化します。
人材紹介会社は企業に対し、縦でも横でもない、斜めから支援することに意味があります。縦は経営者と従業員、横は業界、競合や関連企業ですが、これだけでは発展に限界があるので、人材紹介会社が斜めから入り、未来軸で問いを立て直し、新しいムーブメントを生み出す。これは、CHRO(Chief Human Resource Officer/最高人事責任者)と同じ役割です。CHROは、経営者のディスカッションパートナーであり、幹部の支援者です。
――未来軸で動き始めた先に、人材の流動化があるということですね。
おっしゃる通りです。世の中には、能力があるのに今いる場所で輝けない人材が一定数います。新たな取り組みにチャレンジする企業が増え、それを応援する人材紹介会社が増えることで、そこで輝ける人がでてくるはずです。もちろん、未来軸での問い直しに対し、どの企業も賛同するわけではありませんが、その場合は、無理に支援しなくていいと思います。まずは変わりたい10%の企業を変えていきましょう。マジョリティー化すれば、全体が動き出します。
人材会社自らが問いを立てる
――伝統の承継と経営改革の両立は難しそうです。
伝統を守ることは素晴らしいですが、昔のままでは時代にそぐわなくなり、いつか無理が生じます。その姿は、若手には魅力的に映らず、採用できなくなり、経営が成り立たなくなります。
歴史ある織物会社のA社とB社があるとしましょう。A社は、着物やのれんなど、昔から作ってきた製品にこだわり続け、自社サイトも昔ながらのデザインです。B社も以前は着物などを作る会社でしたが、現在は織りの技術を活かし、高級車の内装やグローバルブランドの外壁などを手掛けています。また、従業員のユニフォームを人気ブランド製にするなど、働きたくなる環境を作りだしています。自社サイトのトップページだけ見ると、織物企業とはわからないようなデザインとなっています。そんな両社に採用状況を聞くと、A社は「広告コストをかけているが、求人を出しても人がこない」と言い、B社は「インターンシップ希望者が殺到しているから採用には困っていない」と言います。これが現実です。
私は人材流動化で日本を元気にしたいと思い、3年前にサーチファンドを立ち上げました。その背景は、100年後も豊かな日本であってほしいという想いからです。製造業を中心に世界で戦える技術を有し、文化面でも工芸、食、自然あふれる体験が可能なツーリズムなど魅力的な企業、コンテンツは数多あります。
この素晴らしき日本の強みをアップデートさせながら承継していくのはやはり人です。
人を扱うプロの人材会社は、人材のポテンシャルがもっと活かされる環境を提供していくべきであり、その対象は関わる採用企業支援にも広がっていくと思います。
理由は、採用企業も人材紹介会社も、従来のやり方の延長線上では未来が不安定だからです。企業がパーパスをしっかり掲げ、何をやろうとしているかを発信していくことで人材は集まりますし、それを支援するのが人材紹介会社だと思います。そのためには、人材紹介会社が顧客に「何屋でいたいか」を問い直す前に、自社に対する問い直し作業が必要です。現代はもう、単純に右から左でマッチングして儲かる時代ではありません。マッチングはコモディティ化(普及が一巡して汎用し、差別化が難しくなった状態)しています。人材サービスのアップデートが必要であり、人材会社自体も、どこからきてどこに向かっていくのかを問い続けビジョンを掲げていくことで、顧客の成長とともに自社の拡大ができるのではないかと思います。