新体制で「日本のものづくり」の未来を切り開く

パーソルエクセルHRパートナーズ株式会社の代表取締役社長が2025年4月1日付で交代し、新しい代表取締役社長に伊藤卓郎氏が就任した。新社長の伊藤氏に、派遣事業の現状と課題、今後の取り組みなどについて聞いた。

フルタイムで働けない人も活躍できる仕事づくりに注力

――社長ご就任おめでとうございます。最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

ありがとうございます。パーソルエクセルHRパートナーズは、パナソニック株式会社100%出資の人材派遣会社として、「エクセルスタッフ」の名称で1989年に設立しました。2015年にパーソルグループへ加わり、現在は事務・技術者派遣事業、紹介事業、受託事業を中心に展開しています。売上の約80%は派遣事業です。派遣、受託ともに、職種は事務系が約60%です。

――伊藤様は新卒でテンプスタッフ(現パーソルテンプスタッフ)へ入社され、これまでもグループ内の複数企業の代表を経験してこられたそうですね。

はい。私は1997年にテンプスタッフへ入社し、2015年からグループ会社の代表取締役を務めました。その後、一度グループから離れエンジニア派遣・受託の経営に従事し、24年9月にパーソルホールディングスに戻り、25年4月から当社代表に就任となりました。これまでの経営やエンジニア派遣・受託領域の経験を活かしていきたいと考えています。

――現在、特に注力している事業は何でしょうか。

事務・技術系を合わせた受託事業の構成比は現在12%ですが、2030年までに20%まで引き上げる目標を立てています。人材不足が加速する昨今、フルタイムでは働けない方に受託事業の場で活躍していただきたい思いがあり、注力事業の1つとしました。また、当社の派遣スタッフの平均年齢が40歳後半になりますが、この方々が10年先も活躍できる場を増やすためにも取り組みを強化しています。

――続けて、技術系派遣の業務内容を教えてください。

主に、モノづくりのソフトウェア、ハードウェア開発もパナソニック関連を中心に新製品の開発やテスト業務はもちろん、生産中止になった部品で必要とされているものを当社が代わりに設計する業務などです。

――受託業務は、客先常駐で行うのですか?

ハードウェアは、お客様企業の敷地外へ持ち出すことは難しいので、客先に常駐するケースが多くなります。ソフトウェア開発や、事務系の受託業務は当社へお預かりして対応するケースもあります。大阪を中心に主要都市にも複数拠点を設けているのは、当社受託事業の強みでもあります。

――ちょうど9月に本社オフィスを移転されましたね。

この大阪堂島浜タワーに9月1日に移転しました。ここはスタッフや求職者の方が立ち寄りやすい立地であり、社内のコミュニケーションエリアや執務エリアなどを備え、社員がより積極的にコミュニケーションすることで新しいシナジーを生み出したいと考えています。

ベトナムに新設した100%子会社の役割

――エンジニアの確保はどうしていますか?

当社の前身がパナソニックの子会社であることから、ハードウェアのエンジニアはパナソニックグループでの経験がある人材が中心になっています。また、多くの製造メーカーでは社員の定年が65歳ですので、当社で65歳を超える人材を派遣社員として採用し、これまでと同様の職場で、働いていただいています。70歳代の派遣社員も多数活躍しています。

加えて、正社員転換や、新卒採用にも注力しており、2025年度は技術職の新卒社員を100人採用しました。現在、社員は1,700人在籍しており、うち3分の2が技術職、3分の1が営業職やバックオフィス職になります。また派遣社員の方は約1万4千人が就業しています。

――昨年設立されたベトナムの新拠点も、エンジニア採用が目的でしょうか。

おっしゃる通りです。ソフトウェア開発の優秀なベトナム人材に現地で活躍いただくのはもちろん、日本で働く機会も増やしています。合わせて、日本で一定期間働いてベトナムへ帰国した後も、引き続き活躍できる環境づくりが大切だと考えますので、現在その流れを作っています。

昨年11月、ベトナムのハノイ市に、オフショア開発拠点として、システム・アプリケーション開発、技術人材育成、技術コンサルティングを展開するための100%子会社を設立しました。28年までにエンジニア採用を倍増し、50人体制を目指します。

――クライアントの業界拡大は考えていますか?

海外進出したこともあり、業界の拡大は検討していますが、我々はパナソニックに育てられた経緯がありますので、ものづくりメーカーの役に立つことは今後も変わらぬ事業軸です。その中で、防衛系や造船系、重工系、航空系など、領域を広げる検討は始めています。

――人材支援の視点から、日本のものづくりを守り育てていかれるのですね。

中国の大量生産と競争してしまえば、日本企業は間違いなく勝てません。日本の産業として強い自動車メーカーや工作機械、半導体の製造装置などは、現在もグローバルに戦える領域ですし、人材支援の立場から支援を強化したいと考えています。

「1企業1営業」体制を導入

――人材派遣企業の中で、御社の強みは何でしょうか。

関西に支店ではなく本社がある点は、地元の人材確保力などにおける大きな強みになっています。また、当社は約33%がパナソニックから資本が入っている一方、経営は独立しているため、パナソニック関連以外の企業との取引実績も多く、柔軟性高く事業展開できる点も強みです。

――クライアント企業の満足度の指標はどのように計測していますか?

当社はパナソニックグループとのお取引が一定数ありますので、パナソニックグループ内における当社の派遣シェアを指標の1つにしています。現在、事務系では当社が80%のシェアをもっていますが、技術職は30%ですので、技術系はもう一歩努力が必要だと感じています。最近は、派遣以外にBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を希望される部署も増えましたので、総合的に人材課題の解決を支援しシェアを拡大していきたいと考えています。

――満足度を高める取り組みを教えてください。

これまでの派遣営業は、拠点を軸に1人当たり数十社、数十人を担当していましたが、アカウント営業を擁立し1社に1人の営業担当が別につき、全国の拠点やサービスを包括的に対応する手法を少しずつ導入し、人員も増やしています。例えば、パナソニックグループの一事業会社に1人のアカウント営業がつき、各地域の営業担当者と連携していくイメージです。現在はパナソニックグループの企業で実施していますが、今後は主要30社を目標にこの体制を展開したいと考えています。クライアント企業の事業をより深く包括的に理解して顧客満足を高め、各企業から全拠点分のご依頼やご相談をいただけるようになることが目標です。

――派遣社員に長く働いてもらうための取り組みも教えてください。

アンケート調査を年に1回実施し、派遣社員の回答をもとに営業やキャリアパートナーがフォローしています。特にパナソニックグループへの派遣社員の平均在籍年数は3年を超えており、無期雇用へ転換する流れが定着しています。一方で、平均在籍年数が1年の企業もありますので、同じく3年に延伸できよう努力が必要だと思います。

――それだけパナソニックグループが働きやすい職場ということでしょうか。

派遣社員を自社の従業員と同様に働かせてくださるので、派遣社員の方は働きやすいと思います。また、パナソニックは松下幸之助の経営哲学である「利他の心」を大事にする会社で、それが従業員に浸透している点も、長く働きたくなる要因だと感じます。

受託事業を5年で軌道に

――現在の課題を教えてください。

受託事業に力を入れていくにあたり、リーダークラスの育成は課題の1つです。これまで派遣事業とは別々に戦略をとってきましたが、今後は両事業の流動性を高め、派遣社員のリーダーを受託社員に転籍することも視野に入れて、リーダー層を厚くしたいと考えています。合わせて、受託事業の取り扱い数を増やすための営業手法も再考する必要があります。派遣と受託では事業の性質やニーズが異なります。企業が業務をアウトソースするには、企業の業務プロセスの洗い出しから改善提案など、これまでの派遣営業にはない、コンサルティング能力が必要になりますので、営業スキルの標準化が急務です。受託事業を担える営業職を増やすと同時に、派遣の営業担当者のキャリアチェンジの機会として、受託事業に異動してもらうなどすることで、人材育成や離職の防止にもつながると考えています。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

私の中の節目として、5年をめどに受託事業を軌道に乗せたいと思っています。そのためには、タレントのバリエーションを増やし、リーダーを含めた人材育成に力を入れ、最終的に私の後継者を作るところまでを、5年間でやり切りたいと考えています。