2027年に中小企業は求職者集客ができなくなる?
AOの吉村氏が考える、AI時代に適した業界改革

大手人材会社のノウハウを集約した経営支援メソッドの考案者、株式会社AO(アオ)の代表取締役社長 吉村直樹氏を取材した。同メソッドは、人材紹介業界を次のフェーズへ進化させるために考案されたもので、社員数5人の企業を3年間で300人規模に成長させるなどの実績を出している。

人材紹介会社が持つ多数のノウハウを基に、スカウトメールの返信率を1%から54%に!

――最初に、御社の事業内容をお聞かせください。

AOは、人材紹介会社特化の経営支援サービス『AOメソッド』や、人材紹介会社向け対話型AIサービス『AOroid(アオロイド)』の提供を通して人材紹介会社を支援する会社です。

AOメソッドは、大手人材紹介会社が持つノウハウを集約し、人材紹介の一連の業務を最適化した伴走型の経営支援サービスです。2024年のサービス提供開始以来、現在まで約30社にご導入いただいています。

このサービスは、13万通り以上の人材紹介ビジネスのバリエーションを基に構築している上に、スクリプトの一言一句まで企業に合わせてカスタムできる仕様であるのが特徴的です。

実際、ご支援した企業様の中には、スカウトメールの返信率を1%から54%にまで増加させることに成功するなど、大きな成果につなげることができています。

そして、そのAOメソッドのノウハウを基にして構築したのが、2025年の初頭に提供開始したAOroidです。本サービスの特徴は、日本初となる、人材業界の業務を一気通貫でAI化させたものです。特に業界特化の対話型AIシステムは、マネージャーの工数を減らす社内ロープレロイドや、候補者との初回面談や案件紹介をAIが行う候補者面談ロイド、そして候補者のマインド・スキル教育までを行う育成ロイドなど様々な機能を持っています。導入企業は必要な機能だけを、各社に必要な場面でカスタマイズしながら利用可能になっており、AOroid導入企業数も毎月右肩上がりで増加しています。

――例えば、スカウト返信率1%から54%までの増加というのは驚異的な数字ですが、ここまでの成果を達成したのには何か秘訣があったんですか?

返信率1%の場合は同じ内容のスカウトメールを数打っただけであるのに対して、54・1%は最適化したメール送信であったのが一番の理由です。

スカウトメールは、いわばトーナメント戦です。1回戦は「開封してもらう」、2回戦は「タイトルや頭出しだけでも読んでもらう」、3回戦は「スクロールしてじっくり読んでもらう」、そして準決勝で「求人に興味を持ってもらい」、決勝戦を勝ち残ってやっと「エントリーしてもらう」のです。

AOメソッドでは、フェーズと求職者に合わせてそれぞれ作戦を立て、最適化した内容とタイミングで送信します。そのため、おのずと返信率が上がるのです。ただし、本質的に紹介会社が考えないといけないのは、2026年中に、自社集客率を50%以上にすることです。そのための方法論をAOメソッド、AOroidで提供しています。

当然エントリー後の面談から応募承諾までの流れも最適化しています。ここでは、話す内容やそれぞれの声のトーン、回答しやすい質問の仕方までも、データを基に導き出し、一言一句のスクリプトにまでして提供しています。

人材紹介事業の成長支援を通して、業界変革を目指す

――人材紹介会社各社のノウハウを、どのようにして型にしたのですか?

私はこれまで、アクセンチュアで経営コンサルティング職に従事した後、レイスグループのスカウト事業責任者、インターワークスの人材紹介事業管掌取締役、スマートエージェンシーの取締役などを歴任してきたのですが、そのつながりの中から人材紹介サービスを最適化するAOメソッドの構想に共感いただき、多くの人材業界の重鎮達がアドバイザーとしてAOメソッドを共に構築してくださいました。

人材紹介業界の経営者の多くが、「既存の業務フロー」や「システム変革」の必要性を強く感じています。それにも関わらず、現時点では最適解を誰も導き出せていないのが現状です。

――誰も最適解を出せていない難題であるにも関わらず、業界課題に取り組もうと考えたのはどのような理由からですか。

この業界に20年以上お世話になってきたので、そこに対して「恩返しをしたい」というのが理由です。

そのため、当社は、この事業で利益を得ることを一番の目的とはしていません。正しい方法で事業を進めれば伸びるはずの人材紹介会社を支援し、成長させることを目指しています。

メソッド導入で属人化を防ぎ誰もが活躍できるチームをつくる

――AOメソッドを導入した企業の成功事例を教えてください。

たとえば、20代・30代ハイエンド層向けキャリア支援事業を展開する株式会社アサインは、従業員5人から、わずか3年間で300人を超えました。小規模事業者が300人を集めるには、業界未経験者の採用と教育体制が欠かせません。未経験者でも即戦力として活躍できるようにするためAOメソッドを導入され、ターゲットリストやスカウト文の作成、KPI設計、初回面談のスクリプト設計など50項目以上の業務プロセスを最適化したことで、一部の優秀な人材だけでなく、誰もが成果を出せる組織となり、事業成長しました。

中途採用市場では業界経験者が好まれ、人材紹介業界も類に漏れず経験者を希望しがちですが、人材紹介会社の場合は、どの会社も業務内容があまり変わらないこともあり、本当に優秀なプレーヤーは安易に転職しません。それにもかかわらず経験者にこだわると、優秀な人材は一向に採用できず、業績が伸び悩む結果になります。反対に、伸びる会社は未経験者を採用して育てています。

当社は、このようなキャリア構築を支援するためにサービスを提供し始めました。AOメソッドにより即戦力人材が業界に増えれば、生産性を重視した機械的なマッチングだけの世界を変えられると思いますし、それで利益は伸ばせるということを、AOメソッドを通じて伝えていきたいです。

――このAOメソッドを実践すると、業界未経験者が成果を出し始めるまでの期間を短縮することも可能ですか?

可能ですね。成果の定義を“月1件の成約継続”として考えたとき、通常であれば業界未経験者が月1件の成約を継続的に出し始めるまでに1年くらいかかることが多いです。しかし、AOメソッドを導入した企業では、半年前後から可能になります。

また、50代の年配の経験者でも、AOメソッドで伴走支援を行ったところ、年間2000万円の売上だったコンサルタントが次年度の受注額を8000万円にまで伸長させることに成功した事例もあります。

2027年に人材業界で起こる変革、その要因とは?

――今後、人材紹介業界はどう変化するとお考えでしょうか。

2026年後半から2027年頃に、業界の大変革が起きると考えています。

現在の集客プラットフォームが中小エージェントとの新規連携をストップし出すなど、兆候はすでに見られ始めています。既存エージェントのスカウト返信率も各社低下しています。そして、人材紹介の手数料についても大きな変化が起き始める。この動きが顕著化するのが、27年辺りだと予測しています。

この動きの背景には、大手企業のAIマッチングシステムの劇的な進化があります。大手1社が何社分もの案件を提案できるようになり、マッチングしやすい人材は大手に抑えられてしまうのです。これに加えて、今後は求人メディアに紹介会社のAIコンサルタントがつくような時代になり、変化に追いつけない企業は淘汰されていくでしょう。

一方で、これは業界を変えるチャンスでもあります。先述のAOroidでは、過去候補者の掘り起こし連絡、AI面談、面接対策などをAIで人間よりも詳しく丁寧に、しかも24時間365日対応できるため、まさに今後の紹介会社に有用なツールと言えるでしょう。

――日常生活でもAIが一般的に活用されるようになった今、ニーズはかなりありそうですね。

エントリーシートの添削、面接対策、就職先の相談をAIにしている人は多くなっており、特に若い世代には文化として根付き始めています。

こんな状況だからこそ、人材紹介会社は間違った選択をしないシステムを構築したり、診断AIを作ったりすることでも、差別化できると思います。

――とはいえ、紹介業務内での生成AI活用を積極的に進めてしまうと、CA(キャリアアドバイザー)・RA(リクルーティングアドバイザー)がスキルアップできなくなってしまうのではないでしょうか?

そうならないよう現在当社では面談の様子からCA・RAの能力を点数評価したり、合格点に達するまでコーチングしたりできるようなシステムを開発しました。

この考え方は、候補者育成にも応用できます。これまで候補者に仕事を提案する際には現時点でのスキルを基におこなっていました。しかし、AIでスキルの点数化が可能になれば、スキルが特定の点数に届けば希望の会社へ推薦できるといったアプローチが可能になるため、これまで以上に幅広い求職者に対しての求人提案がおこなえます。

候補者を幸せにするためには、新しいビジネスモデルの構築が急務

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

現在、業界には2つの課題があります。1つ目は、ほとんどの紹介会社が大手紹介会社の業務プロセスしか知らないため、「新しいビジネスモデルが生まれてこないこと」。2つ目は、「業界全体のAIへの対応が遅すぎること」です。

今後業界がさらに発展していくためには、求人広告事業や人材紹介事業とは異なる、候補者が本質的に幸せになるための新しいビジネスモデルの構築が必要です。また、就職する前段階の教育課程で、就職・転職活動に必要な情報を提供する仕組みや、AIコンサルタントの適切な構築が行われない限り、就職や転職の機会を提供し続けること自体が難しくなってしまいます。

このような業界の課題を解決するためにも当社では、既存のサービスだけで満足せず、新たなサービスを生み続けていきたいと思います。