ランスタッドの新CEOが異業界から来た―― ⼈材業界にまったくルーツを持たない代表の就任は、業界内で話題になった。噂の新CEOとなった道上淳之介⽒に、就任の背景や今後の事業展開について、異業界からのCEO就任ならではの視点で語ってもらった。

異業界からのオファー。理由は?

――代表取締役会⻑およびCEO就任、おめでとうございます。道上様は⼈材業界でのご経験がないところから代表に就任されたので、業界内で話題になりました。これまでのご経歴を教えてください。

ありがとうございます。私は新卒でNIロジスティクス(現・双⽇ロジスティクス)に⼊社し、⽇本と海外で貿易業務や営業に携わりました。2001年以降は、⽶国やオランダなど 複数のグローバル物流会社の営業マネジメントや業務マネジメント及び⽇本法⼈社⻑を務めました。2020年にAmazonジャパンのラストマイル事業(商品が消費者に届くまでの最後の区間)に参画し、配送ネットワークの拡⼤や配送キャパシティーの構築、新しいサービスの導⼊、タレントの採⽤、パートナー会社との折衝などの業務に取り組み、事業の拡⼤に貢献しました。「この経験値をもって、新たなチャレンジをしたい」という思いが⾼まっていたところ、ランスタッドのお話をいただきました。

――業界未経験で⼈材サービス会社のトップになることへの不安はありませんでしたか?

もちろんありましたが、ランスタッド側も出来ると⾒込んでのオファーでしたし、なにより⼈を⼤切にする、各国に裁量権を持たせるランスタッドの経営姿勢に共感したので、25年5⽉1⽇付に代表取締役会⻑兼CEOとして⼊社しました。

――どのような期待感を持たれてのオファーだったか聞かれましたか?

当社は現在、DXを軸にした顧客サービスや社内業務の変⾰期にあり、事業や戦略の⾒直しと拡充に注⼒しています。私は⻑く他社の⽇本法⼈でのマネジメントや、ビジネスディベロップメント(事業開発)に関わってきましたし、過去に企業統合を通じて、チェンジマネジメント(組織の変⾰推進⼿法)の経験があります。また、⻑くマトリックスストラクチャー(縦軸の事業部と横軸のプロジェクトを組み合わせた組織)の体制で仕事をしてきました。これらがオファーのポイントだったと聞いています。

――Amazonでのご経歴も加味されたのでは?

そうですね。Amazonのようなデータとプロセス重視の仕事の進め⽅をランスタッドでも取り⼊れるにあたり、そのカルチャー醸成や導⼊⽅法を経験したことは強みだと思います。

事業のDX化において、データで可視化できる部分以外の、データにならない細かなプロセスの変化や改善点は、現場で働く⼈にしか分かりません。現場の声なくして⼤改⾰は成しえないことを、これまでの経験で⾝をもって感じました。ですから、現在は⽀店を巡って、現場の意⾒や改善点をヒアリングしています。最近はほとんど東京にいませんでした。

――DXのゴールはどこに定められていますか?

数年以内に、すべての業務プロセスにDXを導⼊しグローバルで統⼀することがゴールです。お客様に直接関わるフロントオフィス業務、フロントオフィスをフォローするミドルオフィス業務、⼈事や財務などのバックオフィス業務、これらすべてに適した各国共通の業務システムを導⼊します。そのためのマインドセットの変⾰も実施する予定です。⼈の⼿でやる必要のない業務はデジタルに移⾏し、⼈にしかできないサービスは残します。

領域ごとの専⾨性強化に注⼒

――御社は勤続年数が⻑い従業員も多いと思います。DX化は既存のやり⽅を変える必要に迫られますが、どのように伝えていらっしゃいますか?

これまでに培った仕事のやり⽅をデジタル化に対応させていく作業は⼤変だと思いますし、活かしてきた個性や信念は今後も⼤切にしてほしいと思います。⼀⽅で、DX化を受け⼊れることで、必ず違う世界が⾒えると考えております。1⼈ひとりが新しい経験を始めれば会社も成⻑します。

DX化が進めば、業務プロセスの標準化が可能になります。これまで部署ごとに異なる運⽤だった業務を標準化させることで、危機的状況や急成⻑のフェーズに⼊った時も、全社統⼀の対応ができるようになります。

――事業の在り⽅や体制に関する新たな取り組みがあれば教えてください。

各事業部の専門性を高めるため、事業領域を4つのセクションに分けました。1つ目は、主に製造・物流・コールセンター等の領域のOTS(オペレーショナルタレントソリューション)、2つ目はオフィス業務やセールス業務、更には人事、経理、総務といったバックオフィス業務など企業経営に欠かせない専門領域のPTS(プロフェッショナルタレントソリューション)、3つ目はIT領域のDTS(デジタルタレントソリューション)、4つ目は人材の採用から開発、更には組織の再編に伴うキャリア転換まで、企業の人事機能そのものをサポートするETS(エンタープライズタレントソリューション)です。今後は、それぞれに合わせた成長戦略と投資を強化していきます。

特に近年のDTSへの需要は⾼く、当社では2024年よりランテク生(ランスタッドテクノロジー⽣)育成プログラムをスタートしました。同プログラムは、まったくIT関連のお仕事の経験がない⼈に2週間ほどのトレーニングを⾏い、データ⼊⼒や計測などの⽐較的初級スキルで出来る業務に就いて頂くものです。「初級スキルでかまわないから百⼈単位でほしい」という企業は多く、おかげさまで好評を得ています。もちろん、ハイスキルIT⼈材への投資も重要視しています。

4つの事業とは別に、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)にも注⼒するなどし、従来の派遣事業から裾野を広げていく予定です。

――外国⼈採⽤についてはどのようにお考えでしょうか。

⽇本における外国⼈採⽤⽐率は、まだまだ少ないと感じています。当社はグローバル企業でありますので、今後より多くの外国籍の⼈材に活躍して頂ける体制を整えつつあります。⼀⽅で、企業、求職者ともにニーズは⾼まっています。少し前の時代ですと、⾔葉の壁を理由に外国⼈を採⽤しない企業も多かったですが、現在は外国⼈が働くことへの抵抗が少なくなり、受け⼊れられやすい環境になりつつあります。受け⼊れる企業が増えれば、外国籍⼈材の活躍の場はどんどん広がるでしょう。

先⽇、新潟の⻑岡にある⽇本語学校へ⾏ったところ、さまざまな国から留学⽣が来ていました。多くの⽣徒が介護の専⾨学校に⾏くために⽇本語を勉強しているそうです。今後は留学⽣が職種を選択できるような社会の受け⼊れ態勢の充実が求められていくと思います。

⽬標は業界売上ランキング上位

――市場に対する事業課題や、それに対する取り組みを教えてください。

スキルやキャリアが多様化する中で、いかに専⾨性を追求しながらスピード感をもったマッチングができるかが課題であり、取り組みとなっていくでしょう。例えば、IT業界で働きたいIT未経験者は年々増加しています。特に物流や製造業界で働く⼈は、⾃動化にともなって仕事が減少しているため、成⻑市場のIT業界など他職種へ移る傾向があります。このような市場の変化は今後さらに加速していくでしょうから、IT業界に限らず対応していく予定です。

――集客への課題があれば教えてください。

当社は、まだ⽇本での知名度が低いという現状があります。今後、知名度を上げていく取り組みとしてもDXの活⽤を考えています。例えば、Z世代の求職者はできるだけ⼈と関わらずに⾯接から⼊社までを完結させたいという⼈が多いため、AIなどを駆使して満⾜度を⾼めたいと考えています。

また、当社はかねてよりEDI&B(エクイティ・ダイバーシティ・インクルージョン&ビロンギング)に注⼒しており、ブランドイメージでは強みとなっています。今後も引き続きさまざまな背景を持つ⼈材に活躍していただける場所を作ったり、EDI&Bの取り組み⽅に苦慮している企業へのアドバイスをしたりしながら、より多くの求職者に認知、活⽤いただける企業になっていきたいと思います。

当社は1960年の創業から65年の⻑い年⽉をかけてお客様と求職者の信頼を築き上げてきた企業ですので、今後も丁寧に地道に信頼を得ていくほうがいいのではないかと思っています。また、その信頼の歴史と⽂化は積極的にメディアを通してアピールしていきたいです。

――最後に、今後の⽬標をお聞かせください。

2030年までに売上げを倍にして、国内⼈材派遣業界の売上ランキング上位に⼊ることを⽬標にしています。そのような会社規模及び事業規模となれば、⾃ずとこれまでとは違う視座でビジネス展開できると考えています。そのためには採⽤も必要ですが、デジタル化される業務を担っていた⼈材に新たな仕事をお任せして、⽣産性や成⻑のスピードを⾼める取り組みも強化していきます。