履歴書や職務経歴書では測れない価値に気付き、企業文化にマッチする人材を見極める。

「私はとても幸運でした」穏やかな笑みを浮かべ、サムはコンサルタントとしての半生を振り返った。自分が成功できたのは、素晴らしい上司や仲間に恵まれたからです、と謙虚に話す一方、その目には自信が宿り、佇まいからはトップコンサルタントの風格がにじみ出ている。イギリス出身の彼が人材ビジネスと出会ってトップコンサルタントに上りつめ、マレーシア拠点の責任者になるまでのストーリーと、今後のビジョンについて語った。

コンサルタント1年目にして年間リクルーター賞を獲得

大学時代、化学工学を専攻していたサムは、卒業後に建設会社の土木部門に就職し、4年間道路建設、工場関係のプロジェクトリーダーを担当した。その後、イギリスに拠点を構え、国内トップ3に入る建設業界に特化した人材会社に転職。サムのコンサルタントとしてのキャリアは、ここからスタートした。上司から教えられたのは、「クライアント・キャンディデートの両方と、人脈を構築しなさい」ということ。その言葉通り、信頼関係を構築するために多くの時間を費やし、クライアントがどのような問題を抱えているのか、何を望んでいるのかを理解することに努め、最適だと思う人材を紹介していった。元々競争心が強く、好奇心も旺盛なサムはたちまち成果を出し、1年目にして年間リクルーター賞を受賞した。

4年ほど経った後、ヘッドハンティングによって、石油・ガス・エネルギー関連に特化した人材会社に転職した。石油・ガス業種を中心に担当し、プロジェクトマネージャー、化学エンジニア、プロセスエンジニアなど、上層部の紹介に従事。同社が検査・検証の大手企業に買収された後は、石油・ガス、石油化学に関連した化学エンジニアを専門とする新部署を開設するため、1991年に中東へ。その後もイギリス、タイと世界を駆けまわって活躍した。

マンパワーグループと出会ったのは1998年の終わり頃だった。シンガポールにIT部門の設立をするための人材を探していた同社からアプローチを受け、1999年1月に転職。シンガポールでITデリバリーとケイパビリティを確立し、わずか6ヶ月足らずでエリアマネージャーを任されることになった。現在はマレーシアの経営責任者であり、マンパワーグループのアジア太平洋及び中東地域のソリューションビジネスの責任者であり、インドネシアでの新規事業設立の責任者でもある。

条件面に合う人材が100人いても、社風に合うのは10人程

コンサルタントが成功するために重要なことは何か。そのストレートな問いに対し、サムは「例えば…」と口を開く。「スキルや経験など、クライアントが求める条件に合うキャンディデートが100人いたとします。しかし、社風や文化にもマッチする人材となると10人程度。そこを見極められるか否かが、成功するための秘訣なのです」

特定の部署のことを知るには、そこのリーダーを知ることが一番の近道。どのような性格で、スタッフに何を求めているのかを知ることが、成約を目指す上で大事になってくるという。それを象徴するようなエピソードがある。サムがエネルギー関連の人材会社にいた頃の話だ。クライアントはイギリスの石油化学業界の大手企業で、募集職種はプロセスエンジニア。スキルなど厳しい基準を設けていたため、見つけるのが非常に困難だったが、相応しいと思えるイスラエル人の男性求職者と出会うことができた。

「彼は非常に根気強く、定期的に連絡をしてきて、私に熱意を伝えました。やり取りしているうちに、彼の性格や彼が成し遂げたいことが、クライアントや配属先のリーダーとマッチしていると確信したのです」

しかし、困難は幾つもあった。まず、キャンディデートが外国人のため、ビザを取得することが非常に難しかった。また、クライアントは化学・石油化学の経歴を希望していたが、彼の経歴は石油関係だった。しかしサムは、ぜひインタビューをするようクライアントを説得した。

「クライアントが求人票に記載し求めていたスキル・経験と、彼の履歴書だけを見比べると、90%すらマッチしていませんでした。しかし私は、彼には履歴書や職務経歴書では測れない価値があることを確信していました。彼を採用することが正しい選択だということを理解してもらうために、一生懸命クライアントを説得したのです」

結局、半年以上に渡る長期案件となったが、見事に成約に至ったという。その求職者とは今でも連絡を取り合う仲なんです、とサムは感慨深げに振り返った。

違いを多様性に変えるのは、密なコミュニケーション

サムはマレーシア拠点の責任者として、部下の指導や育成にも携わっている。取り組みの一つが、毎月行っているコーヒーチャットだ。毎月、会社の外にあるコーヒーショップで、サムのアシスタントが社内からランダムに選んだ10人と会う。対象となるのはコンサルタントだけでなく、財務や人事、総務、受付も含まれる。そして1~1時間半をかけて、会社の好きな点や嫌いな点、今までと違う方法でできる仕事などについて話し合っているのだ。また、会社のトップマネージメントチームとは毎週、それに次ぐシニアマネージメントチームとは2週間ごと、全てのマネージャーと月に一度、そして会社全員と3か月に一度顔を合わせている。

「これによって、会社の文化や、起きていること、直面している問題は何なのか、予算達成に向けてどうなっているのか、などについて知ることができ、会社をさらに良い環境にするためのフィードバックを得ることができます」

また、マンパワーマレーシアには20か国以上からなる従業員がおり、4分の1はマレーシア以外の国籍だ。そのため、多様な考え方や異なる言語、文化、性別、年齢の中で自分たちの考えを伝える必要がある。そんなときに、コミュニケーションが役立つのだ。一方で、とサム。「多くの時間を、様々な人や異なる文化の中で過ごせるので、とても楽しいです。私が情熱を持っているトピックは、そのように年齢、性別、人種などの多様性を引き込むことができるかどうかということです」とどこまでもポジティブだ。

企業や経済の成長を駆り立てる一番のものは才能です。
そこを間違わなければ有意な機会があるでしょう

トップコンサルになるには、どのゴールに、どうやって向かうか

クライアントの種類、業界、スキルセット。サムが人材紹介ビジネスを行う上で、ベースにしているのがこれら3つの要素だ。クライアントのニーズは、どの国のどんな業種であっても、この3つで組み立てられている。中でも焦点を置いているのは、少しの業界知識とスキルセットだという。

「スキルは業界を横断して伝達することが可能です。業界の知識があるのも良いことですが、必ずしもスキルほど大事ではありません。例えば銀行の財務担当役員は、製造業や石油・ガス業界など、異業種の財務担当役員に求められるのと同じスキルセットを持っており、移転可能となる。業界の知識は、その仕事の動態をさらに分かるようにするだけのものです」

また、成功するには何が必要で、どのように実現するかを知ることも重要だ。トップコンサルタントになるためであれば、X軸の売上とY軸の成約数が必要となる。そこにはどうやってたどり着くか、最適なルートを知ることがスタート地点になるとサム。「私の場合、気配りを40%クライアントに、60%にキャンディデートに向けています」。その理由は、優秀なキャンディデートがいた方が、斡旋をしやすいと感じたからだと話す。これらのノウハウを活用して、今後チャレンジを考えているのはインドネシアへの進出だ。世界で4番目に人気のある駐在地で、ASEANで最も人口が多い国だが、優秀な人材の入手および移動性に大きな問題がある、というのがサムの分析。

「企業や経済の成長を駆り立てる一番のものは才能です。そこを間違わなければ有意な機会があるでしょう。インドネシアの場合、どのように市場にアプローチするのかはマレーシアと少し異なりますが、市場でどの様な人材が不足しているのかなどのギャップを見つけ、埋めることは私たちが成功を目指す上で非常に重要です。また、ひとつ共通しているのは人です。どのように人にやる気を起こさせるのか、どのように彼らの気を引くのか、どのように育成するのかは私たちのビジネスにとってとても決定的なことなのです」

私は勝つことが好きです、とサムは笑顔を見せる。例えば、創造的な方法を用いて、競争相手が不安に思って手を出さないようなプロジェクトを手掛けることへのチャレンジ。現状を打破することや、既存のやり方に異議を唱えること。クライアントのニーズが複雑であっても、自分たちたちがどれだけ優秀なのか披露する機会が多くなるため、楽しみに感じるという。「これは経営の観点からだけでなく、業界のリーダシップの一部でもあると思っています」とサム。彼が見据えている未来は、自分自身が、そしてマンパワーグループがトップであること。同時に、人材ビジネス業界全体の発展も願い続けている。