データやテクノロジーを活用し
人とテクノロジーの共進化を図っていく

人材業界で「リクナビ」や「リクナビNEXT」に代表される求人広告事業や、日本最大規模の人材紹介サービス「リクルートエージェント」、適性検査「SPI」などを展開するリクルートキャリア。
蓄積された膨大なデータと最新のテクノロジーを活用し、人とテクノロジーの共進化を図り、さらに質の高いサービス提供に力を入れている。
労働人口の減少が避けられない今、労働参加率や生産性の向上を目指して同社が行っている取り組みは、業界の枠を超えて日本の未来をも見据えている。

リクルートキャリアがもつ膨大なデータを活用し入社後の活躍を支援

人材ビジネスにおいて、御社が注力している現在のポイントと戦略を教えてください。

我々が戦略を立てる上のキーワードは2つ。「労働人口の減少」と「テクノロジーの進化」です。労働人口の減少という避けられない事実を、テクノロジーで補完すればいいという単純な話ではありません。一歩間違えば社会がゆがみ、経済発展が損なわれます。このような状況下で、どのように労働参加率を上げ、生産性の向上についてサポートするか。ひとつは女性やシニア、若者の活躍を推進していくことです。そのために、決められた時間と空間での労働というこれまでのスタイルではなく、在宅勤務や副業、クラウドソーシングなど、さまざまな働き方や雇用形態を社会が受け入れていくことが求められます。

では、このような外部環境の中で、弊社は人材サービス会社としてどのように貢献していくのか。私たちは入社後の活躍まで視野に入れた採用支援を行っています。エージェント事業は、労働参加率の向上と共に、入社後の活躍による生産性向上にも寄与すると確信しています。採用は目的ではなく、あくまで手段。私たちが入社を支援した人材の早期離職をなくすのはもちろん、入社後に活躍していただかないと意味はありません。

入社後の活躍を支援するために、具体的にどのような提案を行っているのでしょう。

私たちは膨大な顧客データを保有しています。過去どのような方を採用していたのか、どんな方が顧客企業内で活躍されているのかなど、ビックデータで分析して提案しています。そこで、認識しておかなければならないのは、データに基づいた最適解としての結果からだけでは、ベストマッチングが完了するということは、決してないということです。データに基づいた分析は、客観的で合理的な最適解なのかもしれません。しかし、そのマッチングを、気持ちよく受け止めて最大のパフォーマンスを発揮できるかどうかは、最後はその個人の気持ちにかかっており、それは時期により環境により揺れ動くものです。私たちが志向するのは最適解を超えた納得解です。対話によって人から納得を引き出せるのは、人です。リクルートエージェントではキャリアアドバイザーが一人ひとりの求職者に寄り添い、納得のいく転職活動ができるようサポートをさせていただいています。

成長産業への労働移動を実現するパイオニアでありたい

データとテクノロジーを活用することで、採用だけでなくその先も見据えた転職、採用のサポートをされているのですね。

はい。私たちは人の可能性を極限まで信じており、例えばA社で活躍できなかった方も、適切な場と機会があれば必ずできる、という考えがベースにあります。私たちのミッションに「かけがえのない持ち味を何より尊重し、共に探し続けます」とありますが、まさに「持ち味マッチング」で成功させてきた事例がたくさんあります。一件の求人と人材をマッチングする際だけなら、ビッグデータもAIも不要で、知見を基にマッチングを行うのが一番早いでしょう。しかし多くの方の転職成功、多くの企業の採用成功のご要望にお応えしていくには、テクノロジーを活用し、ビッグデータを利活用していくことが重要になってきます。2016年にビックデータと機械学習を利用した「CAST」というサービスをリリースしました。「CAST」は私たちがもつ膨大なデータから求人企業へ採用成功の可能性の高い人材を、求職者へ転職できる可能性が高い企業をご提案するもので、多くのお客様がご利用され、決定も多数生まれています。引き続きシステム投資を積極的に行い、「CAST」を含め今私たちが保有しているツールを進化させることにチャレンジしています。

入社後活躍の定義については、どのように捉えているのか教えてください。

企業によって異なりますが、共通しているのは早期離職を減らせるような提案に努めることです。また多くの場合は1~3年で、入社前に期待したミッションを、一定レベルでクリアした比率ですね。あと、私たちが考える「入社後活躍」というキーワードには、業界や職種変更、異業界や異職種からの転職決定が多く含まれており、それも我々にしかできないマーケットへの価値提供だと思います。

異業界や異職種からのキャリアチェンジ支援は、どのような価値に結びついているのでしょうか。

私たちは一人ひとりの働く個人の活躍を通じて、日本経済の活性化を支援していきたいという意思が根底にあります。そのためには、適切な外部労働市場活用のための仕組形成が必要です。停滞や縮小・撤退を余儀無くされてしまった企業や産業から、成長産業への労働移動を円滑に行っていきたいと考えています。しかしながら異業界や異職種への転職というのは求職者にとっても、受け入れる企業にとってもハードルが高く思えるものです。それをリードできるのも、人材業界で我々しかないと思っています。具体的な事例として、十数年前にテレマーケティング会社がコールセンターを立ち上げたことがありました。各社がコールセンターの経験者を取り合い、人材獲得競争は熾烈を極めました。そんな中、我々は外食産業の店長やSVを、コールセンターのセンター長としてご紹介したのです。異業界異職種への移動です。それはなぜか。コールセンターのセンター長やSVの業務は、スタッフのマネジメントやシフト管理、クオリティコントロール、クレーム対応など。要素分析したとき、外食産業の店長と同じことに気付いたのです。私たちがそこに人材の流れを作りました。一社単位で見るとミクロですが、生産性向上という意味では、入社後活躍や外部労働市場の形成などに貢献できたと自負しています。

テクノロジーが進化しても人を介した人材紹介のニーズはなくならない

テクノロジーが人材ビジネスに与える影響をどのように捉えていますか。

テクノロジーが進化することで、私たちの仕事がどこまで代替できるか、サービスクオリティがどこまで上がるかは、まだ分かりません。ただ、人が介在しなくてはいけない部分は、必ず残るでしょう。テクノロジーか人かという議論は不毛のようにも思えます。我々も求職者も企業も、実生活を営んでいるのは人ですから、全てテクノロジーに置き換わることはありません。成功している会社の特徴は、人とテクノロジーをうまく融合してサービス提供しています。オーダーメイドで人が対応しているように見えて、実は裏でテクノロジーが走っている。我々もそれが理想ですね。

テクノロジーが強調される昨今だからこそ、人材の価値がより鮮明になってきています。リクルートキャリアの法人営業担当者やキャリアアドバイザーが顧客の抑圧された本心の洞察や、本人だけでは決して描けないゴールセットや、顧客も怯む新天地、新たな挑戦への提案し、対話によって求職者や求人企業にご納得いただき行動につながるのはよくある話です。これはAIではできないことです。

それぞれの得意分野を活かして共進化を図っていきたいと思います。

最後に、今後の人材ビジネス業界の動向を、どのように見られているのか教えてください。

人材マーケットは活況が続いており、エージェントも各社好調です。リーマンショックのような大不況はいつ訪れるか分かりませんが、景気が下がる気配は見えません。小さな上下がありながらも、右肩上がりの状態です。一方で景気の影響以上に、構造的な人材不足が続いています。特に今は、各社が残業を減らしたため、人手不足に拍車がかかっており、何百人単位で追加オーダーが来ています。それにどう対処していくか、またいつか景気が落ちたときにどうするかが、エージェント各社の課題となるでしょう。