強烈な「個」を活かす「組織」へ
2大ブランドの統合で生みだすシナジー。

日本の紹介会社で最も古い55年の歴史を持つケンブリッジ・リサーチ研究所。2016年7月、コンサルティング業界に強みを持つ、アクシスコンサルティングと経営統合を行った。それによって、働き方や仕事の進め方、戦略の方針などはどのように変化したのだろう。また、それらの改革を社内に浸透させるための工夫は。ポーターズマガジン創刊号(2009年2月発行)にトップコンサルタント第一号として登場し、今回Web版の経営者インタビュー第一号として、同社の代表に就任した荒木田氏に聞いた。

これまでにない領域を相互補完

御社は昨年7月、アクシスコンサルティング(以下アクシス)のグループになりました。その背景には、どのような狙いや戦略があったのでしょう。

ケンブリッジ・リサーチ研究所(以下ケンブリッジ)は日本で一番歴史のあるエージェント会社で、製造、金融、医療機器、ITのほか、VCやファンドの投資先企業の経営層などに強みを持っています。一方、アクシスの得意な領域はコンサルティング業界。グループ化によって、これまでなかった領域を相互補完できるのです。例えば、候補者がコンサルタントからのキャリアチェンジを希望した場合にも、アクシスとのグループ間での情報連携により、従来の領域に捉われることなく、長期的な視点で事業会社や希望するインダストリーに転職することができる。

また、人材紹介以外の事業でも、ケンブリッジでは営業力を向上させる研修プログラムとして世界的に評価が高い『SPIN』の国内ライセンスを所有しており、研修事業のノウハウを持っている。今後はブランドや多くのチャネルを持つグループ全体と連携することで本格的な普及を目指すなど、打ち手の幅が高まります。

グループ化によって、これまでと大きく変化したことを教えてください。

ケンブリッジはサーチ業務に強みを持つプロ集団で、良くも悪くもサーチに関しては卓越した個の集まりです。ゆえに、これまで“個別最適”のマインドを強く尊重した組織運営が行われてきました。これは、個のパフォーマンスの最大化という観点で重要な役割として機能してきましたが、今回のグループ化をきっかけに、個が集まることでより大きな事業へと発展させていくための“全体最適”のマインドも強めていきます。個人のキャリアコンサルタントの能力だけで仕事をするのではなく、 “個”と“組織”、“グループ”の強さを組み合わせ最適な解決策をお客様に提供することが狙いです。

また人材紹介をする上で、これまでは求職者様寄りであったものを、求人企業様寄りにシフトさせ、マーケティング視点を意識しつつあります。例えば、社内ミーティングひとつをとっても、より求人企業様がどのようなニーズを抱えているのか、そして各キャリアコンサルタントはどの程度お客様の声を聞けているかを言語化してから活動のレポーティングをするように徹底するなど、ベースとなる考え方の共有を大切にしています。

では逆に、グループ化をしても変わらず、それぞれ守り続けていることは何でしょう。

ケンブリッジのDNAとも言える、現会長の橋本も大切にしていた「自由と責任」という行動規範のもと、各自が独立独歩し、それぞれ自分たちのやり方で構わないので成果を残すという哲学は、今後も守り続けていきます。

そもそもケンブリッジとアクシスは、働き方も社員の年齢層も違います。例えば、弊社は専門性を持った社会人経験豊富なプロフェッショナルたちが、それぞれの責任のもとで自由に働いている。言わば、野武士集団のような組織のあり方です。グループ化をしても、個の強さを殺すことがないよう、責任の範囲で自由なプロセスを提供しつつ、組織として進化できるような文化の醸成を行っていきたいと考えています。

また、人材紹介のスタイルについても、アクシスと弊社では棲み分けができていると考えています。具体的には、サーチ業という特性から、弊社にとって難易度が高いのはどちらかというと求人開拓なのですが、アクシスでは業界特化型ですので求人開拓よりも人材開拓の方が大変です。異なる特徴や強み、やり方があるので、そこは変えていません。今後もその領域は守りつつ、私たちはアクシスがしていないこと、もっと言えば反対のことをしていきたいですね。

ベテランの知見・ノウハウをITで可視化

仕事の進め方やマインドの切り替え、新たに導入したITシステムなどを社員に浸透させるため、どのような工夫をしていらっしゃるのでしょう。

ミーティングの中身を変えつつあります。各自が担当している重点企業様の求人をリストアップして、2週間ごとのプランを立ててもらっています。細かいところまでチェックはしていませんが、2週間後には必ず成果を出してくださいと伝えていますね。ここは「自由と責任」のもと、お任せします。よほどの状況ではない限りマイクロマネジメントをするつもりはありません。あと、変化がある中でも、積極的に様々なチャレンジをしてもらっています。あるタスクは○○さんへ、と私も積極的に「自由と責任」を割り振っています。失敗したら、止めたり変更したりすればいいだけのこと。そしてPDCAを回していく、というマインドを繰り返しミーティングで伝えています。

荒木田さんは、社長に就任されてから、どのような取り組みに力を入れてきたのですか。

一つはITインフラ領域の整備です。アクシスは人材業界の中で、この規模の中ではかなり早くからCRMの概念を導入し、IT投資もしてきました。そのアクシスのITインフラを使わせてもらえる中で、ケンブリッジも高校野球からプロ野球にステップアップする程度に、ITインフラが進化できましたね。またさらに、この秋から冬にかけて進化していく予定です。このあたりは本当にグループ化のメリットを強く感じるところです。

社内での情報共有も加速的に進みました。弊社のコンサルタントは、担当領域に深い専門性を持っており、求人票を見れば、求める人材がどの企業のどの部署にいるかすぐ分かります。そういった知見やノウハウを可視化し、共有するために、IT化は非常に役立ちました。求人管理も含めて、組織としての仕組み化が構築されつつあります。今後もアクシスと連動しながら、インフラ整備を進めていきます。

二つめは、サーチ機能の強化です。企業秘密でお伝えできませんが、ケンブリッジには業界問わず、「こういう人を見つけてほしい」という人間を見つけてご紹介する力があります。現在の人材紹介会社で、このサーチ機能を有するところは少なく、おかげさまでメーカー様中心にプロジェクト契約にて活動しております。この機能を徹底的に伸ばす投資を行っています。

今後、両社でどのようなシナジーを生み出していくのか、考えていることがあれば教えてください。

ケンブリッジは研修サービス「SPIN」(※英国の行動心理学者であるニール・ラッカム氏により開発・体系化されたセールス技法)の、日本における販売ライセンスを持っています。

しかし、SPIN事業部は少数精鋭で行ってきており、お声掛けいただいた企業様に対する研修の実施で手一杯、新規顧客の開拓ができていませんでした。そこで、アクシスと連携し、グループの顧客へのご提案機会の拡大、更なるサービスクオリティの向上に取組み、SPIN事業を加速させていきます。

また、通常人材紹介事業は企業様の人事部との接点がほとんどですが、SPINで経営者や現場とのコンタクト機会が増えます。人材紹介会社として、このパイプは非常に重要だとみており、今後経営者や現場からの人材採用ニーズを引出し、人材紹介の成長にもつなげていきたいと思います。

売上げよりも人間性を重視

今後、コンサルタントの採用は積極的に行っていくのですか。

はい。現在、コンサルタントは12名です。今後も年に3~4名ずつ積極的に増やしていく予定です。業界経験は問わず、30代を中心に増やしていきたいですね。

当然、人材紹介経験者は来ていただきたいですけれども、人材紹介ビジネスでこうすればある程度の成果が出せるようになる、というものは私自身が教えられます。

プロ集団とのことですが、御社が考える“プロフェッショナル”とは、具体的にどのような定義なのでしょうか。

私たちは、売上げよりも人間性を大事にできるコンサルタントのことを、プロフェッショナルと呼んでいます。人間性が大きく欠けていると、売上げが上がっていたとしても、それ以上にその人間が理由で失っているものが大きいはずです。売上げや専門性があるだけでは、単なる「スペシャリスト」や「エキスパート」です。人間性、そして仕事への姿勢や向き合い方を重視できるコンサルタントこそ、プロフェッショナルだと考えています。

ありがとうございました。最後に今後のビジョンを教えてください。

優秀なキャリアコンサルタントは求人企業様に「御社には今、こういう人材が必要なのでは」と提案し、求職者様に「貴方の今後のキャリアに、こういう経験が必要なのでは」と提案できる方、と言われます。それはそのとおりですが、この歴史あるケンブリッジが持つ、様々なキーパーソンとの関係をしっかりと再構築して、どの人材紹介会社でもできないような、「人間臭い関係」の中でご縁を作れるサービスを展開していきます。それができるのが弊社の強みですし、今後も延ばしていきたいです。それと、ケンブリッジは設立して55年です。45年後には、日本のエージェント企業の中で、どこよりも早く100周年を迎えます。私はそのときにいるか分かりませんが(笑)、少なくとも私が担当している時代に、「ケンブリッジは強くなりましたね」と言われるようにしたいです。