新ブランドが目指す“専門性”の追及
その戦略の軸に迫る

アデコグループの本気度、熱量がひしひしと伝わってくるようだった。今年1月、全世界で人材紹介のブランドを「Spring Professional」に変更。日本でも5月から新しいブランドのもとで事業を展開している。アデコジャパンでは、2015年にスタートした新体制や業務スタイルが確立されつつある。ブランドチェンジとともに加速する組織規模やシェア拡大のための取り組みを、紹介事業の責任者である板倉氏に聞いた。

ブランドチェンジに伴う2つの刷新

御社では今年5月から、日本における人材紹介のブランドを「Spring Professional」に変更しました。新ブランドの詳細についてお聞かせください。

アデコグループは全世界で6つの戦略的プライオリティを掲げているのですが、そのひとつが人財紹介事業の拡大です。これまではグループ内に複数の人財紹介事業のブランドがあったのですが、この戦略をより迅速かつ確実に実行するため、今回のブランド変更が実施されました。

日本でも、2015年にローンチした中期経営計画の中で、人財紹介はもっとも注力する事業のひとつに位置付けられています。体制も大きく変わりました。ひとつは、組織を職種別の部門に分け、さらに産業別の専門チームを編成したこと。もうひとつはコンサルタントと営業担当による分業制から360度式に変更したことです。これは大きなチャレンジでしたが、現在では非常に大きな成果を生んでいます。

2つの刷新の詳細と、どのような狙いに基づいて行ったのかを教えていただけますか。

まず人財紹介事業本部を「HR&ファイナンス」「セールス&マーケティング」「IT&エンジニアリング」の3部門に分けました。そこへ、昨年は、新卒紹介を専門に行う「キャンパスエージェント」、今年は「ライフサイエンス&メディカル」が加わりました。今後も職種別の専門部門を追加していきます。また、各部門の中で、業界別にチームを構成しています。これは、それぞれの職種・業界に特化した専門部隊を構築することが目的です。

日系企業、特に大手は若手をポテンシャル採用し、さまざまな職種を経験させて、出世コースを歩ませてきました。しかし近年は、職種の専門性が強くなっています。だからこそ、転職のアドバイスをするとき、コンサルタントに専門性がないと単なる情報提供になってしまう。特化型のチームにすることで、毎月30~40名の候補者と会い、企業も回るので、たくさんの生きた情報が入ってきます。自然と専門性が磨かれて、自信もついてくるのです。

専門性を高めることが戦略の中心

分業制から360度へ変更したのは、どのような理由なのでしょう。

こちらもコンサルタントの専門性を高めることが目的です。分業制だと、企業担当と人財担当が会話をするとき、伝言になってしまいますよね。360度にすることで、一人のコンサルタントが、クライアントあるいは候補者との会話内容や印象をしっかり説明できるのです。現在は売り手市場です。特に人気のある候補者は、たくさんのエージェントから声を掛けられています。求人票や企業案内などのデータだけ見せても、なかなか転職の判断材料にはならないでしょう。360度だからこそ、企業の経営者・管理者に直接会って、働き方や考え方、ビジョン、研修やキャリアパスなどを聞き、自分の意見も交えて候補者に伝えることができます。

御社の人材紹介において、専門性を高めることが重要なキーワードとお考えなのでしょうか。

はい。日本のエージェント業界では、先行している大手がたくさんあり、大量のデータや情報を活用してサービス展開しています。同じことをしていては勝負できない、私たちは一人ひとりのコンサルタントが専門性を持つことを戦略の中心に置いています。さらに、チームとしてまとまりを持つことで、専門性を高めると同時に拡大も目指しています。一人のコンサルタントが月30名の候補者に会えば、例えば3名のチームでは90名。ポジションをオファーする機会も9倍になるのです。

KPIはどのように設定しているのか教えてください。

実績や独自のネットワークがあるベテランコンサルタントは、自己責任の上で自由に働いてもらっていますが、基本的にはかなり細かく、ち密にKPIを設定しています。お客様への提案件数、ミーティング件数、候補者へのヒアリング回数、1~2次面談の通過数、最終オファーの件数など、全コンサルタントにリストを作り、マネージャーが管理しています。というのも、弊社は2020年までに、現在の200名から500名にコンサルタントを増やす計画があります。未経験採用も行っているので、まずは基本であるKPIをもとに紹介サービスを進めてもらっていますね。

デジタルマーケで企業・求職者の潜在ニーズにリーチ

コンサルタントの育成や定着のために、どのような研修や制度を用意しているのでしょう。

グローバルレベルで行っているものと、日本独自のものをミックスして研修を行っています。日本の人材紹介は独特で、デジタル化が進んでいます。それをベースに、海外のターゲットオペレーションマニュアルのエッセンスを取り入れています。ロープレ研修もあれば、マネジメントやコミュニケーションの研修もあります。バイリンガルで将来性があるコンサルタントは、国外で行われている研修に参加できるプログラムもあります。

制度では、売上に対して明確な計算方式で、インセンティブを支給しています。公平感があり、非常にうまくいっていますね。ボーナスの査定にも、アデコグループの本社で開発された、シンプルで分かりやすいシステムを取り入れています。

規模拡大に向けて、ITインフラの重要性がさらに高まると思いますが、どのような期待をしていますか。

私たちのビジネスは極めてアナログで、人が介在する領域が多くあります。そのため、生産性を向上したり、やるべきことに集中するためのITインフラは絶対に必要です。また、私たちもエグゼクティヴ層に特化した部門である「Spring Executive」の専用サイトを用意するなどして、キャンディデートの層を広くカバーしていますが、転職に消極的な層へのリーチには限界があります。同様に、採用で悩んでいる企業もたくさんあるでしょう。そういったパッシブな候補者や企業へも、新しいデジタルマーケティングの手法を活用し、我々のサービスを届けていきます。

ありがとうございました。最後に御社の紹介事業において、これから注力していくポイントを教えてください。

弊社はダイバーシティにも力を入れていきます。ダイバーシティと言うと、外国人採用など異文化を取り入れることにフォーカスが当たりがちですが、これまで外部人財の採用を行ってこなかった企業に対し、専門職としてのスキルを磨いてきた方の採用を提案するのもひとつのダイバーシティです。専門性を持った方が適切なポジションにつき、活躍するため、企業と求職者のお手伝いをしていきたいですね。