アスリートの心身に宿る力が
企業や社会の課題を解決する
活躍の舞台を、スポーツ界からビジネス界へ―。アスリート経験者の採用コンサルティングを行い、その活躍を支援しているのが株式会社memeだ。ビジネス現場でも重宝される、アスリート経験者の強みとは。また採用企業にどのようなメリットをもたらすのか。元陸上選手・為末大氏と同社を共同創業した、代表の山浦氏に聞いた。
アスリート採用を希望する企業は多い
御社はアスリートを対象とした人材紹介を主に行っています。ビジネスの詳細を教えてください。
誤解されやすいのですが、アスリートに特化しているエージェントではありません。弊社の登録者には、現役続行をしたい方、引退した方、体育会系の学生など、確かにスポーツの経験者が多くいます。事業としてアスリートのセカンドキャリアの最適化を行っていますが、「アスリートを支援する」という視点はありません。 あくまで弊社の目線は企業や社会です。まず企業の経営課題や社会の課題があり、それらを解決するために、競技経験を通じて培われたスキルやマインドが最大活用され、課題が解決されること、それが弊社の理想です。別の言い方をすれば、アスリートに固執はせず、経営課題の解決のために競技経験者以外のビジネスマンをご紹介することもあります。
元アスリートの方は、ビジネス現場においてどのようや能力を発揮できるのでしょうか。
アスリートはグリット(やり遂げる力)が高いと世間的に言われています。しかしながら、それらを定量的・統計学的に証明したデータはありませんでした。弊社では、グリットをはじめとするアスリートの心理特性を定量化していく研究を行っており、データからその高さは証明されつつあります。一方で、営業マンとしては優秀でも、複合的な素養が求められるリーダーになると急に足が止まってしまう、といった声もあります。弊社の研究では、ほかにも神経質傾向など、アスリートのネガティブな傾向もみられます。私たちは、元アスリートだから優秀、といったエビデンスのない、かつ大雑把な既成概念に一切とらわれません。彼ら彼女らの心理特性の全体傾向はとらえつつも、個人の特性・志向を見極め、あくまでこの企業の経営課題に対して、この方が最適なのでは、という「個対個」の考えで進めています。
アスリート採用を行う企業は増加傾向にあるのでしょうか。また、採用することで、どのようなメリットがあるのでしょう。
現役のアスリート採用においては、オリンピック・パラリンピックというビッグイベントに向けて、アスリート採用の注目度は高まっています。しかし、過去の実業団のような、「支援」の姿勢で採用をおこなう企業は減り、費用対効果と照らし合わせながら、あくまで合理的に判断していると感じますし、私も企業には同様の内容を推奨しています。その中で近年採用需要が高いのはパラリンピックのアスリートです。地方在住のアスリートも多く、企業の見つけ方が分からず、所属企業が定まらないトップ選手もいます。2020年に向けたイメージアップ、法定雇用率の引き上げ、ダイバーシティ経営推進などのCSRなどの情勢を踏まえ、企業の採用需要も高まっており、アスリートと企業の間に我々が入ることで、最適なマッチングを図っています。PRやCSRに直接的に寄与しますが、特にスポーツによるイメージアップはBtoCメインの企業には特に好評です。また、対外的だけではなく、社内のダイバーシティの醸成にもつながります。ある企業が耳の不自由なアスリートを採用したのですが、周囲の社員で積極的に手話を勉強する人が増えるようになった事例などもあります。また、、現役のアスリート採用において、原則として出社しない契約を推奨せず、できるだけ社内の業務をアサインいただくように企業にはお願いしています。キャリア構築や社内の応援する姿勢など、長い目で見ると双方にメリットがあるからです。
為末大さんと共同設立したきっかけ
御社のパートナーとして、元陸上選手の為末大さんの名前があります。どのようなきっかけで参画されたのでしょう。
為末さんとは、会社設立前から繋がりがありました。彼はアスリートのキャリアに問題意識を持ち、強い発信力で問題意識の醸成をスポーツ界全体に促していますが、具体的な個別の転職支援を行っているわけではありませんでした。課題解決のためにはより具体的なキャリア支援を行い、事業として成立させていく必要性はどこかで感じていたと思いますが、実務として経験はありません。一方、私も為末さんと同じような問題意識を持っており、採用コンサルタントとしての実務経験はありますが、発信力はない。そういった話を二人でしていたとき、一緒にやれば補完関係になるよね、と共同で会社を始めたのです。
アスリートの転職支援という事業を通して、どのような社会的意義に挑戦しているとお考えですか。
ここは為末さんと私で視点が少し異なるのですが、為末さんはアスリート目線。アスリート一人ひとりのキャリアをよりいいものにしたい、という思いが強いです。私は社会や企業の目線に立ち、引退後に活躍しているアスリートがまだまだ少ないことが、経済全体として見たときに改善余地があると考えています。出発点は少し変わっていても、最終的に見ているゴールは同じだと思っています。「価値があるものの最大化」であり、「価値が無いものを何とかする」というニュアンスでも使われる、「アスリート支援」という言葉は好きではありません。
また、元アスリートが社会で活躍し、所得ややりがいが増えることで、憧れの対象としてそれを目指す子供たちにも良い影響、良い循環が生まれる、と思っています。
御社はJPA(一般社団法人 日本パラ陸上競技連盟)の公認パートナーでもあります。どういうきっかけで提携されるようになったのでしょう。
元々は為末さんからの繋がりから提携させていただききました。先ほども申したように、障がい者のアスリートを採用したい企業は増えています。しかしアスリート側は、どのように企業と接点を持てばいいのか分からない。また引退後などを見据え、長期的視点を踏まえた条件面の交渉などができる選手は多くありません。そこで、弊社が提携させていただくことで企業との接点づくり、条件交渉などをおこなっています。JPAは障がい者競技の連盟としては最も大きい組織ですが、大半の連盟は、たとえばろう学校、盲学校の教員などが勤務の合間に運営しており、JPA以上にキャリア支援に手が回っていません。そういったところともぜひ提携していきたいですね。
属人的な業務を組織として展開したい
学生向けには、具体的にどのような活動をしているのですか。
個別に会ってキャリア面談を行うことも多いですが、主には大学の部室に直接行って、部活単位で就活指南を行っています。情報戦ともいえる就職活動において体育会学生は、トレーニングや遠征などにより情報収集時間が限定的です。チームという限られたコミュニティ中で社会が完結しており、一般社会との接点もつくりにくい。社会との接点となりうるインターンなどの活動も非常に参加しにくい。彼ら彼女らは、自分でもそのことを潜在的に分かっています。それに対して、社会とはこういうものだよ、こういった世界があるよ、と伝えていますね。部室に企業の人事担当を連れていくこともあります。
体育会学生を対象とした就活マッチングイベントがたくさんありますが、イベントの多くは私は逆効果だと思っています。「シーズン前に内定決めて、部活に集中しよう」というメッセージは、早く内定を決めることが目的で、考える機会を減らしているのです。就職活動の「短期化」ではなく「効率化」をおこなうべきです。実際に就職後、「もっとちゃんと考えて決めればよかった」と転職相談に来る体育会出身の若手社会人は多いです。「短期化」を優先させるあまり、エージェント主導で内定承諾に至るケースも散見されますが、自分の意志で進路を決めた意識が弱く、後悔しやすく内定辞退、早期退職のもとになる。私は、考え方や選択肢を増やすことは手伝う、でも最終的には行く企業は自分の意志で決めなさい、と必ず強調して伝えています。
求人開拓はどのように行っているのでしょう。
実はほとんど行っておらず、これまでのお付き合いが中心です。弊社のビジネスのメッセージが伝わり、お問い合わせをいただいたり、企業の人事担当の横のつながりからご紹介いただいたりすることもあります。また、最初は障がい者のアスリート採用の提案をして、そのあとに新卒やハイクラス採用といった風に、一つの企業でさまざまな採用支援を行うこともあります。企業の経営課題にフォーカスを当てているので、同一企業の中で求人が増えていくことは、自然の流れだと思います。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
弊社では提携している外部パートナーが5名ほどいるのですが、「クライアントの採用課題を解決するチーム」として存在しており、アスリートたちと積極的に接点を持つエージェントは基本的に私一人です。アスリートとの接点や信頼関係、その他の「共通言語」がベースに必要となるこのビジネスは、人材ビジネスの中でも特に属人性が高いです。この属人性がネックにある中で、いかに組織立てていくか、が課題ですね。求めているエージェントは、スポーツ経験者でありつつ、アスリートに寄り添いつつも、あくまで法人ビジネスとして客観視し、問題解決していく意識と実行力のある方です。そういった方はぜひご連絡ください。